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第148話 普通だけど、普通じゃない

「ポップ、驚かせてしまってごめんなさい。わたくし達には、あなたの力が必要だったの。……だけど、あなたを呼ぶ方法が分からなくて。本当にごめんなさい」


 セシルはそう言いながらポップの首筋を撫でる。


「プルプルプル……ププゥ」


「そう……許してくれるのですね。あとはグレインさんと……トーラスさまが蘇れば旅を続けられそうですわ。そのときは力を貸して下さいね」


「プッププゥ!」


 セシルはそう言うと再び地面に座り直し、自らの膝にトーラスの頭を乗せる。



「……リリーは……、リリーは……大丈夫……か?」


 ハルナとレンの治療を受けているグレインが、目を閉じたまま、うわ言のようにそう漏らす。

 リリーはナタリアの傍からグレインに駆け寄り、大声を張り上げてグレインに呼び掛ける。

 それは普段のリリーからは想像もつかない姿であった。


「グレインさん! ……リリーです! ありがとうございます! 私は元気です……あなたのお陰で無傷です!」


 その言葉を聞き、ふとグレインの口もとが緩むのをリリーは見逃さなかった。


「聞こえた……みたい……」


 そう言って、リリーも微笑を浮かべながら、再び元いた場所へと戻る。


「なんだかんだで足止め食ってしまってるわね……」


「えぇ。……仕方がないとはいえ、相手は王宮騎士団。追っ手が来るのは時間の問題でしょうから、一刻も早く動き出したいところではありますね……。先ほど、近衛隊には周囲の様子を偵察するよう命じました」


「近衛隊の方達は、みんな本当に頼もしいわね……。あーあ、こっちにもああいう頼れる男がいれば良かったのに……」


 リリーがナタリアの傍へ戻ると、ナタリアはティアとそんな会話をしていた。

 女友達と話すようにフランクに接して欲しい、というティアの頼みもあり、ナタリアはティアに対してもいつも通りの口調で話し掛けている。


「あららら? そう言うナタリアさんにはグレインさんがいらっしゃるじゃないですか」


「ぐ、グレイン!? あいつってば全然頼りにならないし! トーラスも魔法は使えるけど幼女趣味の変態野郎だし……。ギルド側の男は役立たずしかいなくて、ホント申し訳ないわ」


 リリーは二人が話しているすぐ傍の木の上で、静かに座って瞑想している、忘れられた男を見上げる。

 その男──ダラスは、真下で繰り広げられている会話も聞こえていたようで、自分を見上げているリリーに気が付くと苦笑を浮かべながら人差し指を立て、唇に当てていた。


「あら、グレインさんって意外と女性に慕われてるようですよ? あの魔族の方とも、あそこで治療されてるハルナさんとも『いい関係』みたいですし。うふふっ」


「それはただの誤解よ……」


「あら……本当にそうかしら? 隙あらばベタベタイチャイチャとくっついて……。ナタリアさんは彼の事、どう思ってるのです?」


「ベタベタ……イチャイチャ……」


 ティアは自らの発言で、ナタリアの周囲の空気が張り詰めていくのを感じる。


「あ、ナタリア……さん? 今のは冗談で……私恋バナとか……ガールズトークに憧れて……」


「……そ、そうよね。それに、あたしは別にあの男の事なんて──」


「グレインさまっ!」


 ハルナがそう叫んだ途端、ナタリアはティアの前から姿を消すような勢いで、グレインの元へと駆け出していった。


「ナタリアさんったら……素直じゃないんだから。……ふふっ」


「ナタリアさんは……ただ恥ずかしがり屋……と思う……」


 目を覚ましたグレインの顔を覗き込み、あれこれと声を掛けるナタリアの様子を遠目で見ながら、リリーがティアの独り言に答える。


「……そっかぁ。……私も、ナタリアさんみたいに普通の女の子として自由に生きてみたかったなぁ」


「どう考えても……ギルマスは……『普通』じゃない……と思う……」


「うーん……。普通だけど、普通じゃない、って感じかな。私から見るとね、みんなは王族じゃない、いち国民、一般市民、私からすると憧れの存在だったの」


「王様なのに……一般市民に憧れるの?」


 首を傾げるリリーに、ティアは優しく微笑み、頷く。


「いつも思ってた。なんで王族に生まれたんだろうって。ごくごく普通の家庭で死ぬまで平凡に暮らしたかったの。金持ちでも貧乏でもなくて、暇でも忙しくもなくて、そんな平凡な人生。でも……今はちょっと考えが変わってきたかな。平凡な人でも、人生山あり谷ありで、どこまでも真っ平らな人生を送る人はいないんだろうなぁって。みんなと一緒に過ごしてみて、そう思ったの」


「……このパーティは……相当特殊だと思う……。ヒーラーだけだし、ギルマスも国王も一緒に行動してるし、……国を追われて亡命の旅してる最中だし」


「……リリーちゃんは、このパーティで不満?」


 ティアの問い掛けに、リリーは何も言わず笑顔で首を左右に振って答えるのであった。


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