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第147話 なによこの茶番

「お、おやめになって、グレインさん! トーラスさま!」


 セシルはそう言って、目をギラギラと光らせて躙り寄るグレインとトーラスから後退りするが、背中に大木の幹を感じ、その場にへたり込む。

 今のセシルはナタリアの服を着ていてサイズが合わないため、だぶついた裾のスリットから真白な太腿が露わになる。


「……い、いい身体してんなー。これからたくさんいじめてやるぞー。か、覚悟しとけよ」


 グレインは事前に打ち合わせた台詞を棒読みする。


「あぁっ! なんと神々しい御御足なのだ! 大丈夫……怖がることはないよ。全部お兄さんに任せてくれればいいんだ。さぁ、こっちへおいで。僕がその邪魔な服を優しく脱がせてあげよう」


「あれ……打ち合わせには無い台詞だぞ?」


 首を傾げるグレインを尻目に、トーラスはじりじりとセシルに近寄っていく。


「はぁ……。なによこの茶番……。ほんとにこんな事であの聖獣が飛んでくるのかしら?」


 ナタリアは三人を呆れた様子で眺めていた。


「以前はセシルちゃんがお姉ちゃんを誂って、お姉ちゃんに追いかけられて命の危険を感じた時に来てくれたので、きっと大丈夫ですっ!」


 ハルナはそう言って胸の前で握り拳を作るも、ナタリアに睨まれていることに気が付き、そっと手を下ろす。

 二人がそんな会話をしている間も、茶番劇は淡々と続いている。


「さぁ、僕の手を取って。二人だけでいい事しようじゃないか。あっはっははははは!」


「「「うわぁ……」」」


 周囲の者たちはおろか、隣のグレインでさえも、トーラスに軽蔑の眼差しを向けていた。


「兄様……気持ち悪い……。これ以上は……もう見てられない……」


 リリーはそう言うが早いか、両手で腰のナイフを抜き、トーラスの背後に忍び寄る。

 次の瞬間、セシルの眼前でトーラスの首筋が切り裂かれ、鮮血が吹き出す。


「ぐ、あぁっ! う、ぐ……ゔぉ……」


 獣のような呻き声をあげ、トーラスはセシルの足元に崩れ落ちる。


「ひっ……」


 セシルは全身にトーラスの血を浴びた状態で、地面に座り込んだまま静かにリリーを見上げる。


「り、リリーちゃん、助けてくれて──」


「兄様を……誘うような格好をしてる……あなたにも……責任がある」


 鋭い眼差しをセシルに向け、手に持ったナイフの血振りをするリリー。


「え? リリー……ちゃん?」


「あなたも……一緒に殺してあげる。……大人しく……死になさい」


 リリーはそう言うとナイフを逆手に持ち、振りかざす。


「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「危ない!!」


 リリーがナイフを振り下ろしたその瞬間、グレインが叫びながら二人の間に割り込み、リリーにタックルするような形で、彼女を抱きかかえてその場から跳ぶ。

 グレイン達が跳ぶと同時に轟音が鳴り響き、辺りは砂煙に包まれる。


「ポップ!」


「プップゥ〜。プルプルプル……」


 砂煙が晴れると、セシルの目の前には紛れもなくポップが立っており、リリーのいた場所は地面が大きく抉れていた。


「ぐ、グレイン……さん……。ごめん……なさい……」


 リリーは、自らの手に握っているナイフがグレインの背に深々と突き刺さっているのを見て、涙を流す。


「うっ……いや、……リリーが助かって……良かった……ゴホッ……ゴボッ……」


「グレインさん! ……死んじゃやだ!!」


 珍しく声を張り上げたリリーの様子に、ハルナ達が駆け寄る。


「グレインさま! いま治癒剣術を……!」


「俺も手伝うぜ」


 ハルナが魔法真剣を取り出し、刀身を生み出すと、レンも自らの剣を抜く。

 リリーはナイフを手放し、グレインから遠ざかる。


「かなりの重傷だが……二人でなら治せそうだ。やるぞ、ハルナ!」


 レンはそう言うと、ハルナとともにグレインの背に剣を突き立てる。


「いや、リリーちゃんが殺したんなら、生き返らせることができるんでしょ? それなら一度死んでから蘇生すればいいじゃないのよ」


 ナタリアは、一歩引いて治療の様子を見ていたリリーに話し掛ける。


「一度使うと……一週間眠り続けるけど……。それでもいい?」


「えっ! い、一週間も!?」


 リリーは静かに頷く。


「グレインさんの強化があれば……大丈夫だけど……。死んだら……強化してくれないから……。……でも……それだけじゃなく……グレインさんには死んでほしくない……うぅ……ぐすっ……」


「じゃあリリーちゃんが誰かを殺すのって、あまり冗談で使っていいネタじゃないのね……」


 ナタリアはリリーの頭を撫でながら、そんな当たり前の事を呟くのであった。


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