表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
141/351

第141話 『今まで通り』

「こ、国外とは……どちらへ?」


 ティアが、檻の鍵を開けるグレインと、その檻の中から出てくるミゴールに問い掛ける。


「ここからだと……このまま東へ抜けてローム公国に行くのが自然な流れじゃな」


 『ローム公国』というキーワードに、ティアが顔を顰める。


「あぁ、そうだな。俺もそれしかないと思ってた。……ナタリア、そういえば騎士団の連中はアドニアスみたいに飛竜で来ないのか?」


 グレインはナタリアに聞く。


「そんな事、あたしが知る訳ないじゃないの。『騎士団はもうサランに向かったみたいよ!』って言われただけなんだから……。まあ最悪、飛竜で来てるならもうそろそろ着くはずよ! だからとにかく早く逃げましょ!」


 そう言って、ナタリアはアウロラとミレーヌの牢の鍵を次々と解錠していく。


「その点でしたら、おそらくは心配いりませんよ。騎士団の中に飛竜を自在に操れるドラゴンライダーはそれほど多くありませんので。たしか十数名しかいなかった筈です」


 ティアが溜息をつきながらグレインに答える。


「裏を返せば、飛竜で運べる人数以上の兵力がやって来るってことか……?」


「まぁ、王宮騎士団の飛竜部隊は、元々王国全土のパトロールもしていますから、こういう突発的な騒動で飛竜部隊を派遣する時には、さらに人数は少なくなりますよ」


「そうか……。兵士が大量に押し寄せて、街の連中に迷惑が掛からなきゃいいんだが……。何せこの街は小さいからな」


「とにかく、早く逃げましょ! 街の心配より、まずは自分達の心配よ!」


 落ち着いた様子で話をするティアとグレインであったが、ナタリアに急かされてアウロラ達と共に小屋を飛び出す。

 全員を小屋から追い出して、最後にナタリアが小屋の外に出ると、訓練場には冒険者たちが集まっていた。


「ど、どうしたのよ、あんた達」


 戸惑うナタリアに、冒険者たちの中からセイモアがナタリアの前に進み出る。


「ナタリアさん、俺達みんな事情を聞いてしまってな。あんたの事は俺達が一番よく知っている。だから、あんたが反逆者だなんて認めないぞ! 俺達も一緒に騎士団と戦うんだ! 絶対にあんたを騎士団には渡さない。なぁ、みんな!!」


「「「「おぉぉぉ!」」」」


 セイモアの問い掛けに、冒険者達は一斉に声を上げる。


「みんな……ありがとう。でもそんな事したら、この街ごと国家反逆罪になっちゃうわよ?」


「そんな事はもとより承知の上だよ。何ならここに、闇ギルドみたいに独立国家を作るかい?」


 そう言って、セイモアはガハハと笑い出す。


「みんなに、一つだけお願いを聞いて欲しいんだけど……」


 ナタリアはその場の冒険者達を一人ずつ見回しながら、笑顔で言う。


「みんなには、『今まで通り』冒険者として生活して欲しいの。……あたしは、このサランって街が大好き。都会ではないけれど、いつも長閑で、みんなの笑顔が溢れてるから。だから、街全体で国に楯突いて、この街がなくなったりして欲しくないの。この街には、ずっと変わらずこのままでいて欲しいのよ」


 冒険者達は皆、俯いて静まり返る。

 ナタリアは最後に正面のセイモアを見て、頭を下げる。


「セイモアさん、勝手なお願いで申し訳ないけれど、次のギルマスが決まるまでの間、暫定ギルマスとしてあなたに、この街に集う新人冒険者達をまとめてもらえないかしら」


「俺が……暫定マスター……」


 セイモアもまた、ナタリアの言葉を受けて周囲の冒険者達を見回すと、彼らは皆、セイモアを見て頷く。


「……分かった……。暫定マスターを引き受けよう。……それで、ナタリアさん達はこれからどうするつもりなんだ?」


「このまま東に向かって、ローム公国に亡命するつもりよ」


「そうか。……俺達には旅の無事を祈る事しかできないが、せめて追っ手の足止めぐらいは引き受けよう。王宮騎士団の連中はこの街から一歩も出さないぞ!」


「「「「おぉぉぉ!」」」」


 冒険者達が右手を挙げ、セイモアの呼び掛けに呼応する。


「みんな……ありがとう。……それじゃ、そろそろ行くわね」


 そう言ってナタリア達は、訓練場を後にする。


「この街は、いつまでもお前達の事を待ってるからな! ……また会う日まで!!」


 ナタリア達の背中にそう呼び掛けたセイモアも、呼び掛けられたナタリアやグレインも、皆涙を流していたのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ