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第138話 目撃しました

「私の名前はティアと申します。没落した田舎貴族の出で、今は冒険者として日々生き延びております。……こうでしょうか?」


 ティアが簡単に自己紹介をする。


「え、えええぇ、そっ、それぐらいでよろしいかと思います」


 ティアに応対しているのは緊張で全身ガチガチのミスティだった。


「ミスティ様、そんなに緊張なさらないでもよろしいんですよ? ミスティ様は私の『先生』なのですから」


「ひ、ひえぇぇぇっ! そんな! 国王陛下から先生と呼ばれるなど畏れ多いことでござりますれば!」


 グレイン達の作った意味不明な自己紹介文を全否定したミスティは、『ミスティちゃんだってもっとまともな自己紹介を考えつくよ!』と言い放ち、その流れでティアに自己紹介を教える事になっていた。


「……っていうか、そこで傍観してるおにーさん、あんただってこれぐらい考えつくでしょ〜?」


 ミスティが恨めしげな目でトーラスを見る。


「いやぁ、僕はこのドタバタ騒ぎを傍観しているのが性に合っているからね。わざわざ参加なんてしないよ」


「卑怯者め……」


「先生、一つ伺ってもいいですか?」


 トーラスを見て頬を膨らませていたミスティは、ティアから呼びかけられ、慌てて振り返る。


「は、はいぃぃ! な、何なりとお申し付けを!」


「先生は先ほどまで王都に行かれてたのですよね? ……王宮の様子は見られましたか?」


 途端にミスティの表情が固くなる。


「……やっぱりそういう話になりますよね…………」


 ミスティはそう言うと黙りこくってしまう。


「ミスティ、どうかしたのか?」


 ミスティの異変に気付いたグレインが、彼女に問い掛ける。


「……ミスティちゃんは、前国王陛下が殺される現場を、目撃しました……」


 一同は目を見合わせる。


「……なんだって? 犯人はどんな奴だった? 闇ギルドがどうしたとか言ってたか?」


 ミスティは無言で、目の前に魔力の鏡を生み出す。

 ミスティの背丈ほどもある鏡は、静かにグレイン達の姿を映し出している。


「ティア様に見せるのはどうかとも思うの。自分の親が……ね。だから、先に意思を確認しておきたいです。……どう、されますか?」


 ティアはミスティの問い掛けに対し、鏡に一歩近付いて答える。


「いえ、見ます。……今の国王として、娘として、前国王陛下が、父が、どのような最期を遂げたかは見ておかなければなりません」


 両の拳を力一杯に握り締め、ティアはそう告げた。


「……ウチにもその様子を見せてもらえないかな。犯人が本当に闇ギルドの人間か確認させてほしいの。……もう、嘘はつかないよ」


 檻の中でアウロラがナタリアに頼む。


「……分かったわ。じゃあミスティ、鏡をこっちに向けてもらえる?」


 そして、ミスティの鏡面魔法による上映会が始まった。



********************


 鏡には、日の光によって輝く豪華な噴水と、その水飛沫の奥に聳え立つ重厚な石造りの建物が映し出される。


「これは……王の間に隣接する、中庭の噴水ですね」


 ティアの言葉通り、王の間では国王と王妃が長閑に中庭の噴水を眺めている。

 ミスティの視界を映し出していると思われる鏡の映像は、咄嗟に噴水の影に姿を隠す。


「なぁミスティ、これってお前が王宮の、しかもかなり奥の方にいたって事だよな? なんでこんなところにいたんだ?」


「あちこちでアウロラさんの居場所を聞いてたら王宮に迷い込んじゃって……」


「いや、それにしたって王宮だぞ? 普通は門番とか衛兵とかいるだろ」


「いや、それがもぬけの殻で何処にもいなくて、探してるうちにこんなところまで来ちゃったんだよ〜。でも、見つかると怒られるかと思ってとっさに隠れちゃったんだよね……。あ、ほらほら、犯人はこいつだよ!」


 ミスティが指を差し示す場所、王の間の入り口付近には、黒尽くめの装束に見を包んだ、一人の男が立っている。その男は普通に扉を開け、正面から堂々と王の間に入って来たようだ。


「そなたは何者であるか! ここは王の間であるぞ!」


 国王が侵入者に気付き後ろを振り返り、はっきりとした、よく通る声で問い質す。

 その男は何も答えなかったが、ミスティの位置からは男が笑みを浮かべていたのがはっきりと見て取れた。

 次の瞬間、男の右手に持つショートソードは、国王の胸を貫いていた。


 グレインはそのシーンが流れた瞬間、心配になってティアを見たが、彼女の両脇にはナタリアとハルナが肩を抱くように寄り添っており、彼女の手を握っていた。

 ティアは微動だにせず、食い入るように鏡を覗き込んでいたが、その目からは止めどなく涙が流れていた。


 国王の胸から引き抜かれた血塗れの凶刃は、そのまま王妃に向けられる。


「キャァァァァァッ! 誰か! 誰かいませんか!」


 王妃は必死に助けを呼ぶが、誰も助けに来る様子がない。


「ううっ……! ……お母さま! 近衛兵たちは何をしているの!」


 鏡を見ているティアは思わずそう叫ぶ。

 そして、鏡の中では、国王の血に塗れた刃が王妃を切り裂いてゆく。

 その直後、アドニアスと近衛兵が王の間へとなだれ込む。

 侵入者の男はそれを見て、より一層はっきりとした笑みを浮かべ、高らかに叫ぶ。


「闇ギルド万歳! アウロラ様に栄光あれ!」


 近衛兵が侵入者を取り囲む。


「曲者を捕らえよ!」


 アドニアスの言葉で一斉に飛びかかる近衛兵によって、侵入者は捕らえられるが、その男は未だに笑みを浮かべている。


「おぉぉっ! 王よ! 王妃よ! 何たることか!! 断じて……断じて許すわけにはいかぬ! お前達、道を開けよ!」


 そう言ってアドニアスは侵入者に歩み寄り、自らの剣を抜く。

 そこで初めて、侵入者の顔が絶望に染まる。


「ちょ、ちょっと待て! 話がちが──」


「問答無用!!」


 そう叫ぶアドニアスの刃が、男の首を刎ねたのであった。


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