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第131話 女王陛下よ!?

「トーラスさま……」


「……兄様……」


 セシルとリリーに見つめられながら、トーラスは檻の中のアウロラを静かに見つめている。

 トーラスは無表情で佇んでおり、グレイン達も彼の表情からは一切の感情を読み取る事ができなかった。


「アウロラさん……。このような事になって、非常に残念です。僕は……貴女を信じていました」


「……」


 アウロラは俯いたまま、微動だにしない。


「僕は……あなたの事を……今でも──」


「言わないでっ! ……分かってるから……。でも、今それを聞いてしまったら……ウチは全力であなたと一緒に、ここから逃げ出して生き延びようとしちゃう! ……周りの人全員殺してでも……ね」


 突如顔を上げてトーラスの言葉を押し留めたアウロラであったが、周囲の者達は彼女の言葉を聞き、背筋にぞくりとするものを感じる。

 だがトーラスは静かに言葉を返す。


「ならその前に……僕が貴女を殺してあげるよ」


 氷のように冷たい一言がアウロラに浴びせられる。

 再び一同は、今度はトーラスを見て背筋に冷たいものが走る。


 そして訪れる暫しの静寂。

 微かに小屋の外から、レン達の掛け声が聞こえていた。

 そんな中、トーラスとアウロラは静かに見つめ合っている。

 しかしそれは恋人同士のような甘いものではなく、お互いに決して感情を表に出さない、能面のような表情であった。


「この空気……息が詰まるよな……」


 グレインが耐え切れずに声を上げる。

 その時だった。


「ナタリア暫定マスター! 王都から飛竜に乗って、王宮騎士団が来られました!」


 ギルド職員が息を切らしながら小屋に駆け込んできた。


「えぇっ!? さっき通信魔法で、『到着は明日』って言ってたのに!? 偽物じゃないの……?」


「いえ、それが……。正確には王宮騎士団の護衛で、宰相アドニアス様が来訪されました! 正式に身柄を引き取るのは明日だということですが、アドニアス様は容疑者の一部と顔見知りだということで、面通しの為に事前に来訪されたそうです。今、こちらにご案内していますのでもう少ししたら来られるかと思います」


 アドニアスの名前を聞いて、アウロラとミゴールは一気に緊張感を帯びる。

 そんな二人の様子を見て、グレインがティアに訊く。


「……なぁ、ティア。アドニアスとは面識があるのか?」


「面識がある……というほどではありませんが……。彼は私の顔を知っていると思います。ただ、直接お話したことはありません」


 グレインは、ミゴールの言葉が気に掛かっていた。


「なぁ爺さん、さっきの言葉に嘘はないか? ……アドニアスに気を付けろって話だ。大罪人の話を鵜呑みにするつもりはないが……ちょっと気になってな」


 グレインは他の檻の寝藁を搔き集めて山を作りながらミゴールに訊く。


「あぁ……その事だけは間違いない。そもそも奴がこの国の宰相になるまでにも、裏で何かコソコソやっていたようじゃが、奴が何を企んでいるのか、儂らにも皆目見当がつかんのじゃ」


「アウロラといいアドニアスといい……。この国には表裏のない奴らはいないのかよ……」


 寝藁を集めて大きな山を作ったところで、グレインは溜息を吐く。


「それよりあんた……何してんのよ? そんな藁集めてどうする気? 敷き直すのあたしなんだけど」


 ナタリアはグレインを睨みつける。


「そうなのか? これもサブマスターの仕事なのかよ……」


「とにかくこのギルドは人手が足りないのよ」


「サブマスターが牢屋の寝藁を敷いて、酒場で店員やって、受付嬢までこなすのか……。ここのギルドはどんだけ貧乏なんだ」


「それでも毎月大赤字でねー」


「アーちゃん、あんたは黙ってなさい」


 ナタリアがぴしゃりとアウロラを叱りつける。

 グレインは藁で汚れた衣服を大雑把に叩き払うと、ティアに手を差し伸べる。


「ティア、念のためだ。悪いがここに隠れていてくれないか」


「はぁぁぁぁぁぁっ!? こちらにおわすのは仮にも女王陛下よ!? 牢屋の寝藁の山に入れって……そんな事させられる訳がないでしょうがぁぁぁっ! あんた馬鹿? 馬鹿なの? 今すぐ殺してや──」


「はい、承知しました」


 ティアはナタリアの怒声を遮るようにそう言うと、自ら藁の山へと歩み寄る。

 そうすると近衛隊がざわつき始める。


「ティグリス様……それはおやめになられた方がよろしいかと存じます」

「そうです! ティグリス様の方が御立場は上なのです! たとえアドニアスが来ようとも、堂々としていればよろしいのです!」


 ティアは近衛隊を見回し、首を左右に振る。


「あなた達も、全員その鎧を脱ぎなさい。この藁の陰に隠しましょう。……現在の情勢では、誰が敵で味方なのかがはっきりしていません。私は、出来る限り慎重に敵味方を見分けたいのです」


 そう言い残してティアは藁の中に潜っていく。


 近衛騎士達も、互いを見合わせながら渋々と鎧を脱ぎ、脱いだ鎧を藁の陰に隠していく。


「我々は人相が知られていませんので、ギルド職員という体でお願いします」


「なるほど……。もしかしてあんた達近衛隊だけは、ずっと鎧兜を着込んで王族にくっついてるから、アドニアスに顔バレしてないってことか?」


 笑顔で頷く五人。


「一応、壁でも磨いて背を向けていてくれるか? まぁ、宰相ってぐらいだから味方だとは思うんだが」


 五人にそう告げたグレインは、リリー、セシル、トーラスとともに並び立ち、アドニアスを待つ事にした。


「こちらです、アドニアス様」


 ギルド職員の案内で、口髭を生やした細身の男が小屋に入ってくる。

 彼の前後には二名ずつ騎士がついている。

 護衛の騎士達は近衛隊とは違い、比較的軽装に見え、兜も装備していない。


「(やばい! そういえば騎士団の護衛がいるんだった! 近衛隊の奴ら、流石にバレるだろ!)」


「(はぁ!? 考えてなかったの? 近衛隊だってバレたら、王族関係者が近くにいるって騒ぎになるわよ!)」


 小声で話し、焦るグレインとナタリア。

 アドニアスの護衛騎士が、入り口付近の牢の壁を拭いている近衛隊の男に声を掛ける。


「おい、もっと気合入れて磨けよ。この牢屋はなんか臭うぞ」


「へ、へえ、すんませんですだ。あ、あっしはぼ、冒険者だった頃のケガで、み、右手が自由に動かせねーもんで」


 護衛騎士は舌打ちをして、鼻をつまみながら通る。


「(な、何なのよ……随分な役者じゃないの。全く気付かずに素通りしてるわよ……。焦って損したわ)」


「(だ、だろう? ……俺も相当焦った)」


 胸をなでおろす二人を他所に、アドニアスはアウロラの檻までやって来る。


「間違いない、この女が闇ギルドの総裁、アウロラだ。クーデターの主犯であり、国王殺しの容疑者だ」


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