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第129話 うわぁ……

「身動き……がっ! それに何も見えん! くっ……おのれ……」


 トーラスはミゴールを黒霧で拘束し、同時にキレたセシルの光線を吸収する魔法障壁を発動する。


「ついでに視界も塞がせてもらったよ。あなたは目だけでも何かできそうだからね」


 その言葉通り、ミゴールの顔には黒霧がまとわりついている。


「トーラス様! 何故わたくしの魔法を……何をなさるのです! あいつを……わたくしをババァ呼ばわりしたあいつを殺さなくては!」


 セシルはトーラスを睨みつける。


「セシルちゃん、君には人殺しになって欲しくないんだ。せめてセシルちゃんだけは、いつまでもその汚れない、可憐な少女でいて欲しいんだ。……妹はもうたくさんの血にまみれてしまっ──」


 トーラスの首筋にチクリと痛みが走る。


「……その話……私……関係ある……?」


 リリーが冷たい目でトーラスの首筋にナイフの先端を少しだけ刺していた。

 首筋からは血が滲み、ナイフに伝っている。


「と、とにかくセシルちゃんには一点の汚れもない少女でいて欲しい、って事だけさ」


 リリーが溜息をつきながらナイフを仕舞う。

 セシルはいつの間にか、トーラスに釘付けになっている。


「トーラスさま……。わたくし、目が醒めましたわ! トーラスさまの為に、彼を殺すのはやめますわ!」


「おぉ! すごいぞトーラス! やっぱりお前の言葉ならセシルに通じるじゃないか」


 思わず拍手するグレイン。

 するとトーラスはいい気になったのか、ドヤ顔で宣言する。


「ふふっ、まぁね。僕は幼女と少女専門だからね」


 トーラスの言葉を聞き、その場の空気が凍り付く。


「「うわぁ……」」


 ドン引きするグレインとリリー。

 しかし、セシルだけは表情を強張らせる。


「……トーラスさま……まさか私の他にも少女を囲ってらっしゃるのですか……?」


「そそそんな、まさか! 確かに僕は少女好きだが、そうは言ってもリリーとセシルちゃんだけだよ! それに……リリーは妹だし……そういう事には……」


 トーラスはリリーの方をちらりと見るが、リリーはグレインの陰に隠れる。


「……兄様……ただの変態……」


「こいつ王宮騎士団に引き渡そうか……」


 呆れるグレインであった。


「貴様等、儂のことを忘れてはおらぬか……?」


「「「「あっ」」」」


「そういえば爺さんまだ生きてたのか。……ハルナ! お父さんは──」


 そこでハルナの方を向いたグレインが目にしたものは、横たわる多数の冒険者達の中に立っているレンと、その右手の剣に胸を貫かれ、身体からぐったりと手足をぶらさげるハルナの姿であった。


「ハ……ルナ……? ああああああぁぁぁ! ハルナぁぁぁァァァ!」


 グレインは咄嗟に剣を抜いてレンに斬りかかる。


「てめえっ! よくも……よくもハルナを!!」


 しかし、レンにとってグレインの振るう剣は遅く、全く通用しない。

 レンはハルナを串刺しにしたままの右手の剣を一切動かさず、打ち合うこともしないで一喝する。


「フンッ!」


 レンの気合いだけでグレインは吹き飛ばされる。


「貴様……また『お父さん』と言ったな? 俺はハルナの父親だ! 貴様のような下劣な男なぞ知らんわ!」


「お父さん、やめてよっ!」


 レンにそう声を掛けたのは、レンの剣に胸を貫かれているハルナであった。


「ハルナ……? 生きて……いるのか?」


 グレインは吹き飛ばされたが怪我はないので、すぐに起き上がりレンとハルナのもとへ駆け寄る。


「あぁ……はい! ご心配をおかけしました! 師匠の剣も……治癒剣術なので」


「えっ?」


 グレインはレンを見る。


「貴様は馬鹿か!? 俺がかわいい娘に手を上げるわけがなかろう! ちょっとばかり剣術の指南をしただけだ」


「いや、胸を剣で貫いてるじゃないか……」


「貴様ァッ! そんな汚らわしい目で娘の胸元を見るんじゃない!」


 再び気合で吹き飛ばされるグレイン。


「もう……この親子は放っておこう……」


 グレインはトーラス達のところへと、とぼとぼと歩く。



「では、容疑者を一旦サランギルドに移送しましょう」


 グレインがトーラスの所へ戻ると、ちょうどティアが一同にそう告げているところであった。


「闇ギルドの総裁も捕縛したのですよね? こうして最大戦力の幹部達も捕まれば、あとは騎士団の力だけでも闇ギルドを解体できるかも知れません! ヘルディム包囲網計画は一旦保留としましょう」


 ティアは一点の曇りもない笑顔でグレイン達に言った。


「姫様……儂はどうせ死刑になるんじゃ、最期に一つだけ。宰相アドニアス……あの男には気を付けなされ」


 身体の自由と視界を奪われたミゴールが、力無く掠れた声で言う。


「それもただの虚言じゃないのか?」


 グレインが訝しむような目でミゴールを見るが、黒霧に覆われているため彼の表情を窺い知ることはできない。


「元・王宮魔術師団長じゃ」


「ん? 誰が? 俺か?」


 グレインは自分を指差す。


「今の話の流れで、何で貴様だと思った!? 馬鹿なのか? 儂じゃ儂! 先々代の王には世話になったでな……その恩を少しでも返せればと……」


「……さっきティアのことも殺そうとしてたよな?」


「あれは手違いじゃ……。近衛隊の姫様に対する恨みが、儂の想定を上回っておった」


「えっ……」


 絶句しながらビルたち近衛隊の方を見るティアなのであった。

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