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第127話 厄介な術

 ティアとミゴールが近衛隊を介した押し問答を繰り広げている最中、ハルナはレイピアを構え、レンと対峙していた。


「どうしても通さぬつもりか……」


「はい! トーラスさんもティアちゃんもセシルちゃんも……私にとっては大切な仲間ですからっ!」


「隙が無い……いい構えだ。成長したな、ハルナ」


 レンは、娘に対して剣を構えながら微笑む。


「それにその剣……。なんの変哲も無い、普通のレイピアではないか。その剣で治癒剣術が使えるようになったという事は、もう俺が教える事は無いはずだ。あとは自分の力で、治癒剣術を極めてみせよ!」


「あっ? えっ? こ、この剣? ……あはは……そうだね。前のパーティではメンバーにボコボコにされて、このパーティでも殺されたりして、たくさん苦労したから……かな」


 その瞬間、レンの様子が変わる。


「ボコ……ボコ……? 殺され……た!? ハルナ、どういう事だ! ちゃんと父さんに事情を話しなさい!」


 そう言ってレンは剣を納め、どっかりと地面に腰掛ける。

 ハルナもレンの目の前に座り、自身が父と別れてから、今に至るまでの経緯を語り始める。



********************


「サービス残業ばっかりじゃ!」


「シフト勤務を厳格にします!」


「ボーナス増やせ!」


「検討します!」


「ハァ、ハァ……、おっと! く……小娘め、なかなかやるのう」


 近衛隊を挟んでティアと言い合いになっていたミゴールが息切れを起こしたところで、騎士の斬撃が彼の身体を掠める。


「ハァ……ハァ……れ、レン殿は一体何を……」


 ミゴールの目に、ハルナと膝を突き合わせて話し込むレンの姿が映る。


「レン殿ォーーー!! 何故……何故今そんなことをしておるのじゃ! その娘子はトーラスを殺してから連れて行く予定なのじゃから、娘子と話したかったら、後で幾らでも時間があるじゃろ!」


 ミゴールの必死の叫び声を聞き、レンは重い腰を上げる。


「相分かった。加勢に参る」


 しかし、レンの前には再びハルナが立ちはだかる。


「行かせません! トーラスさんも、ティアさんも、誰一人死なせません!」


「ハルナ! これ以上邪魔をするなら──」


 その時であった。


「こっちだ! いたぞぉ!!」


 林の中に居るハルナ達を見つけて声を上げたのは、ハルナ達の知らない男であった。


「何奴!?」

「え……? だ、誰……?」


 きょとんとするハルナ達の前に、続々と男たちが現れる。

 すると男たちの一人が口を開く。


「グレインの仲間はどいつだ?」


「あ……はい、私ですっ」


 半ば反射的に手を上げるハルナであったが、グレインの名を聞いて安心したのか、その顔は綻んでいた。


「あんたか。俺達はサランギルドの冒険者だ。グレインに頼まれてあんた達を迎えに来た。……『敵襲があるかも』って言われたが、まさか本当に襲われてるとはな」


 冒険者の男は、レンに対してレイピアを構えるハルナを見ながらそう言った。


「グレインに……冒険者ギルドだと!? アウロラさんは……どうなったのだ!」


 レンは慌てた様子で冒険者に食ってかかる。


「あぁ? あの裏切り者の元ギルマスか? グレインにやられて拘束されてるよ」


「なんと……。やはり我らも帯同すべきだったのだ!! こうしてはいられない! ミゴール、サランギルドへ──」


 レンがミゴールの方を見ると、彼の首には二本のナイフが突き付けられていた。

 ダラスとリリーが、ティアとの口論に精一杯になっているミゴールに忍び寄っていたのだ。


「……ふぅ……。あなた達は待機してください」


 ティアは大きく息を吐き、近衛隊に命令する。

 ミゴールに迫っていた近衛隊は動きを止め、ダラスとリリーを見守っている。


「ニビリムで散々な目に遭わされたからね……。お返しよ!」


 木陰に隠れていたラミアが姿を現し、詠唱を始めると、ミゴールの足元に魔法陣が浮かび上がる。


「おのれェッ!」


 レンはハルナを含め、自分を取り囲む冒険者たちと剣戟を始める。


「お嬢様の危機だというのにッ!」」


 ミゴールは思い通りに事が進まないもどかしさと怒りからか、全身をわなわなと震わせる。


「レン殿ォッ! その娘子だけは抑えておれ! 『万能防壁呪(マルチ・ウォール)』!」


 ミゴールを中心に魔力の突風が巻き起こる。

 しかし、その風でダメージを受けた者は誰もいなかった。


「何を……した……?」


 ようやく起き上がる事ができたトーラスが、ミゴールを睨む。


「さて、何じゃろな? 儂はこれから貴様等を始末して、すぐお嬢様の元へ加勢に向かう。……さぁ止められるものなら止めてみい」


 最初に異変を感じたのはラミアであった。


「詠唱が……できない! 何でなの!?」


 ラミアの異変に気付いたダラスとリリーがナイフを握る手に力を込めるも、ミゴールの首筋に添えられたナイフはぴくりとも動かない。


「……なに……これ……。手が……動かない」

「ぐっ……。何をした!?」


「なに……単なる呪いじゃよ。『儂に危害を加えられない』というだけのな」


 ミゴールは飄々とした様子で呟く。


「あぁ、正確に言うと、儂と、『儂の眷属』じゃったわ……」


 ミゴールが両手を掲げると、彼の周囲から十数体の骸骨兵士が現れる。


「さて、それじゃあ無抵抗な諸君の身体は、これから骸骨兵士の訓練に使わせてもらおうかの。ヒェッヒェッヒェッ……」


 ミゴールが人差し指を動かすと、骸骨兵士の一体がダラスに斬りかかる。

 ダラスは短剣で受け止めようとするが、剣を持つ手が動かない。

 ダラスは仕方なく左腕で骸骨剣士の斬撃を受け止める。 その一撃は重く、ダラスの小手を貫通し、腕まで到達する。


「くっ! 厄介な術だ……」


「ダラス! 腕から血が!」


 不気味な笑みを浮かべるミゴールが、次に標的にしたのはリリーであった。


 今度は二体の骸骨剣士がリリーに斬りかかる。


「ナイフがっ……持てない……!」


「リリー殿、受け止めずに躱すのだ! 今出来る事はそれしかない! とにかく……生き延びるんだ……」


 ダラスが骸骨剣士に戦慄くリリーに声を掛ける。

 彼自身も、一体の骸骨剣士からの斬撃を必死に躱し続けていた。

 リリーはダラスの方をちらりと見て、短く頷く。


「そうじゃそうじゃ、躱すしか無いのじゃ! さぁーて、何回躱せるかな!? 褒美に、百回躱すごとに兵士を一体ずつ増やしてやろうか」


 そう言って、嫌らしい笑みを浮かべるミゴール。


「やっぱこの爺さん、ろくな性格じゃねぇな。おいジジイ! ……うちの主力を玩具にしてんじゃねぇぞ!」


ミゴールの背後から、グレインが現れた。


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