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第121話 痛みも苦しみもなく

「随分丁寧に説明してくれるな……。殺すから関係ない……って事か」


 グレインがそうアウロラに言うと、彼女は再び右手の上に火の玉を浮かべる。


「まぁね。……とは言っても、痛みも苦しみもなく、一瞬で消し去ってあげるから大丈夫だよー」


 アウロラはグレイン達の命を奪う行為について何も感じないかのように、あっけらかんと答える。

 グレインはその様子に呆れつつ、傍らでアウロラに剣を向けているセイモアを見る。


「セイモアさんは……アウロラと戦ったことがあるんですか?」


「あぁ……。数年前……アウロラさんがまだ冒険者をやっていた頃の話だがね。その頃は全く相手にならなかったよ。剣で斬りつけようと突撃したんだが、遠くから魔法が雨のように降ってきて……全身にそれを受けてあっという間にダウンさ」


「……戦闘スタイルが全く合っていないのでは……。セイモアさんは近接攻撃なのに、アウロラは遠くから魔法を撃ってくるんですよね?」


「おぉっ、グレイン、君はなかなか鋭いじゃないか! 私もね、その敗北から数年かかって、ようやくそこに気が付いたよ。突撃の最中は、遠距離からの魔法攻撃に対して無防備になってしまうって事にね」


「「数年」」


「その弱点を克服した今の私なら……もしかしたら彼女に一太刀ぐらいは浴びせられるかも知れない。君達は……ナタリアさんを頼むぞ」


 静かにセイモアを見て頷くグレイン。

 次の瞬間、セイモアは注意を引くため大声を上げながら盾を構えてアウロラに斬りかかり、グレインは一足飛びでミレーヌの懐へ飛び込む。

 しかしミレーヌはセイモアには目もくれず、グレインの動きだけを追っている事に気が付き、グレインはやむを得ず足を止める。


「……変な真似をすると、ナタリアさんの首が飛びますよ?」


 そう告げた声は、確かにミレーヌのものであるのだが、その冷たい口調はグレインが今まで聞いたことのある、誰のものにも似ていなかった。


「あんた……本当にあの受付嬢か? ……とは言え、こっちが本当の顔みたいだけどな」


「そうですね。私はアウロラ様の忠実な下僕。『暗殺者』ミレーヌです」


「やっぱりあんたが関係者だったか。……薄々そんな気はしていた」


 ミレーヌがナイフを持つ手がぴくりと震える。


「強がっても無駄ですよ。私の演技は完璧でした。気の弱い受付嬢を完璧に演じていたはずですから」


 強気のミレーヌを前に、余裕の笑みを浮かべるグレイン。


「いや、あんたは一度だけ、ミスを犯した。……ナタリアが殺されかけたあの時だ。『ナタリアが応接室に呼んでる』と言ってアウロラを呼びに来たじゃないか。その時、おそらくナタリアは血まみれで、あの会議室は血の海だったはずだ。でも騒ぎ一つ起こらなかっただろ」


「私が呼ばれたときは、まだ惨劇は起こってなかった可能性だってありますよ」


「その場合でも、ナタリアがお前を呼びつけてアウロラを呼びに行かせたって事は、お前は、ドアのすぐ傍にいた事になる。アウロラが会議室に入ったあとも、同じように控えているはずだ。そうすると、事を終えたアウロラが会議室から出てくる所を見るだろ? ……どっちにしろ、ミレーヌは会議室の惨劇を目撃する筈なんだ」


「ふぅん……。まぁそんな事は、この際どうでもいいです。ナタリアさん、私怨はないですが、アウロラ様のために死んでくだ──」


「『精神充填(マインド・フィリング)』」


 サブリナの詠唱によって、ミレーヌは恍惚とした表情でナイフを取り落とす。

 その隙にナタリアをひったくるように奪い去るグレイン。

 ミレーヌはその衝撃に抗うことなく、そのまま床に倒れ込む。


「この女、アウロラの指示を待たずに殺そうとしたのでな……つい……」


「いや、いい判断だったよ。ありがとう、サブリナ」


「グレイン……こ……わ……かった……うぅぅ……」


 ミレーヌから距離を取るグレインに抱きかかえられたまま、その胸の中で泣きじゃくるナタリア。


「ナタリアが……なんでこんな目に合わなきゃいけないんだ!」


 グレインは、怒りに満ちた瞳でアウロラを睨みつける。


「それはねー……。グレイン、君のせいだよ? 君がナーちゃんの前からいなくなってくれれば、ナーちゃんも死なずに済んだのに」


 アウロラの前には、斬りかかっていったセイモアが倒れている。

 アウロラは無傷であり、セイモアの剣がアウロラの身体を捉える事は無かったのだった。


「アウロラ、お前は狂ってる……。何故……親友を殺してまでこの国を潰したいんだ?」


「さっきこの男から聞いたでしょー? ウチの口から話したい事なんて……無い!」


 そう言うと同時に、アウロラはグレインに向けて手を翳し、無数の氷の刃が殺到する。


「危ないのじゃ!」


 ナタリアを抱えて身動きの取れないグレインの前に、サブリナが会議室の机を突き飛ばす。

 氷の刃は机を粉々に切り裂いていくが、そのお陰で軌道が変わり、グレイン達への直撃は免れる。


「アーちゃん……あたしたちの事……本気で……」


「あぁ、殺しにきてるな」


「……ハァ……ハァ……無事……だったようじゃな」


 グレインとナタリアは、慌ててサブリナを見る。

 サブリナは、軌道の変わった氷の刃で身体のあちこちが切り裂かれていた。


「「サブリナっ!」」


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