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第119話 失礼

「えーっと……とりあえずこちらの方は?」


 グレインとサブリナは、ナタリアと話をするため、ギルドの会議室にいる。

 会議室のテーブルには、グレインとサブリナが隣り合って座り、向かい合う形でナタリアとミレーヌが座っている。

 ただしそこにもう一人、体格の良い見知らぬ中年の男が中立的な位置に着席していたのであった。


「こちらはサランを拠点にしている冒険者の中で、数少ないAランク冒険者のセイモアさんです」


 ミレーヌがそう説明すると、セイモアが軽く座礼をして話し始める。


「君達とナタリアさんが密室で一緒になると、どう考えても密室殺人事件が起こるシチュエーションだろう? 仮にミレーヌさんがいたって、人数的には二対二の同数で、男性は君だけだから、圧倒的に君達が有利だ。それを危惧した冒険者たちの代表として、私が同席してナタリアさん達を守ることにしたんだ」


「密室殺人確定みたいに言わないでくれますかね……。それと……ここで話す内容は内密にお願いしたいんですが」


 セイモアは大きく頷く。


「それなら大丈夫だ。秘密をペラペラ喋るようではAランク冒険者など務まらんからね」


「それじゃあ……まずは、俺達が全世界に指名手配された件からだな……」


「指名手配!? ……何よそれ? あたし聞いてないわよ?」


 ナタリアが責めるような視線をミレーヌに向ける。


「たまたま、ナタリアさんが居ない時に王都の冒険者ギルドから緊急の通信が入りまして……。本人がショックを受けるから、命を狙われてる事は伏せて、警護を厳重にしてほしいとの要望でした」


「(わざとナタリアがいないタイミングに通信入れたんじゃないか? ……常時監視できるアウロラなら可能だと思うが)」


「(アウロラはこのギルドの様子が把握できるんじゃったな? そうすると……当然、今も妾達の姿も見られているのではないか?)」


「(あぁ、だから危険を伴うんだ)」


「君達、二人でなにか相談しているのかい? 口裏合わせの相談なら事前にしておくべきじゃないのかな?」


 グレインとサブリナのひそひそ話をセイモアが咎める。


「失礼、その通信が罠じゃないかと思ったんでな。……とりあえず指名手配はされたが、その原因となった、王都であった出来事を、『事実だけ』述べるぞ」


 そしてグレインは、王都で起こった出来事を、順を追って説明する。


「アーちゃんが……? 闇ギルドのトップ……?」


「間違いないだろ。ギリアムだって本人も認めてたし。この国にはどうしても許せない人がいるから、この国を潰したいと言っていたな」


「なるほど……それなら心当たりがある。許せない人というのは、アウロラさんの叔父上の事だろうね」


 セイモアが手で顎髭を弄りながら言う。


「アウロラの叔父?」


「アウロラさんの叔父上は、この国の宰相、アドニアス様だ。彼は……アウロラの実父から宰相の座を奪い取ったと言われている」


「セイモアさん……すごい事情通だな。そんな話聞いたこともないぞ」


 只々目を丸くして驚くグレイン。

 見ればナタリア達も口をぽかんと開けている。


「なんだ? もしかしてナタリアも知らなかったのか? 幼馴染じゃなかったのか?」


「小さいときからよく一緒に遊んでたけど……まさかそんな偉い人だとは……。確かに今冷静に考えるとおかしいわね。敷地の端から端が見えないほど、どこまでも続く広い庭、盛大な噴水がついたプール、お屋敷には遊びに行くたびに違うお部屋に案内されて、トイレもいくつかある筈なのに、お屋敷の中は迷路のようで行くのにも一苦労……一度、トイレに辿り着けなくて廊下で漏らし……って何言わせんのよっ!」


 ナタリアがグレインを睨みつける。


「お前が勝手に言ったんだろ……俺は知らないぞ……。って言うか、そんなお屋敷、普通じゃないってすぐ気付けよ!」


「夕飯もご馳走になったときはレストランのように広い食堂だったわね……。そういえば服を汚したら新品の洋服をくれたりもしたな……。当時はあれが普通だと思ってたわ」


「「「「絶対普通じゃない」」」」


「とりあえずアウロラの動機はその男にあるのかな……。最終的に向こうからの要望をまとめると、リリーは闇魔術奥義の研究に寄越せ、ハルナは父親の元に返せ、それと……俺とトーラスだけは『死ね』と言われてる」


「あんた達……アーちゃんの恨みでも買った? 痴漢とか覗きとかしたんじゃないの?」


 ナタリアが苦笑混じりにグレインを睨む。


「んなことするか! ……俺とトーラスは『女神の使徒』だから、面倒にならないうちに殺すんだってさ」


 グレインがそう言った瞬間、セイモアの態度が急変する。


「『女神の使徒』……だって?」


「お、セイモアさん、何かご存知で?」


 グレインが誂い気味にセイモアへ水を向ける。


「以前、どこかのダンジョンに潜ったときに、そういう言い伝えを聞いたことがあった気がしてな……。でも何処だったか……言い伝えがどういう内容だったか……詳細が思い出せんな」


「歳のせいですかねぇ」


 突然失礼なことを言い出すグレイン。


「何だと! 失礼な奴め! ナタリアさん達に襲いかかっておれば、遠慮なくこの剣で貴様を真っ二つにしてやれたものを……!」


 セイモアは顔を真っ赤にして怒り出し、身体を震わせている。

 一方、グレインはその様子に動じることなく、セイモアを具に観察している。


「……失礼。セイモアさん、あなたは信頼できる人のようだ」


 突然頭を下げるグレイン。


「なっ……」


 セイモアは呆気にとられている。


「あんた、一体どういうつもりなのよ?」


 ナタリアがグレインの下げた頭に、ゲンコツを軽く振り下ろしながら訊く。

 ゲンコツの当たる鈍い音とともに、グレインが頭を上げる。


「いや、人間怒らせると素が出やすいかと思ってさ。少しだけ失礼なことを言ってみましたごめんなさい」


「何考えてんのよっ!」


 再びゲンコツがグレインの頭にクリーンヒットする。


「いってぇぇぇぇ……。最初から俺とサブリナを殺す為に用意された人材なら、怒らせたら斬りかかってくるなり口を滑らせるなり、何らかのボロが出るかと……」


「そういう手が通用するのはランクの低い冒険者だけじゃないかな。……高ランクの冒険者は、何事にも動じない心を備えているものだよ」


 セイモアが落ち着き払った声でそう言った。


「「「「でもさっきめっちゃ怒ってた」」」」


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