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第118話 根回ししてあったか

「それにしても……一人で行くと言っていたのに、やけにあっさりと妾の同行を認めてくれたものじゃの……」


 サブリナは、グレインと共に小走りでサランの街へ向かう最中、そんなことを呟いた。


「サブリナの目を見たときにさ、『これは何言っても聞かないな』って思ったんだ。だから、了承したんだ。……危機の回避については、自分の判断で頼むぞ?」


 グレインは苦笑しながらそう答える。


「分かっておる。それにしてもさすがはダーリン、妾の事をそこまで理解しておるとは……。魔族一の頑固者、一度決めたら梃子でも動かない、我儘を言い出したら止めどなくエスカレート、それが妾じゃ」


「それはいかがなものかと……」


「……何か言ったかの?」


「……何でもない」


 そんな話をしながら、二人はサランの街に到着する。

 気を張って街へ乗り込んだ二人だが、街中は拍子抜けするほどいつも通りの、長閑な雰囲気であった。


「なんだ……考え過ぎか?」


「念のため、冒険者ギルドへ急ぐのじゃ」


 二人は足早に冒険者ギルドへ向かうが、道行く人も、通りに店を構える露店も、グレイン達に注目する者は誰もいなかった。


「よし……入るぞ……」


 グレイン達はギルドのドアを開けるが、やはり変わったところはない。

 強いて挙げれば、いつも閑散としていたギルド併設の酒場が満員になっている事ぐらいである。


 グレインはカウンターへ進み、眼鏡の受付嬢、ミレーヌに話し掛ける。


「ナタリアはいるか? それと……アウロラってもう戻って来てるか?」


「……お久しぶりですね、グレインさん。私に会うのも久し振りなのに、無視していきなりナタリアさんですかぁ? ギルマスは……戻ってきてないですけど、ナタリアさんはいます。ここで少々お待ちくださいねっ!」


 ミレーヌは少し膨れ面を見せて、カウンターの裏へと消えていく。

 それを合図にしたかのように、騒がしかった酒場が一斉に静まり返る。


「(ダーリン、どうも様子が変じゃ)」


「(あぁ。……やっぱり根回ししてあったか?)」


 すると、酒場の客が一斉に立ち上がり、カウンターの前にいるグレインを取り囲む。


「ようグレイン、お前よくギルドに顔出せたもんだな? 自首しに来たのか? ……なんてなっ、ハハハッ!」


 グレインを取り囲む男の一人がそう言って笑った。


「自首? 何のことだ?」


「おいおい、惚けんなよ。田舎だから情報が遅いとでも思ってんのか? 王都で王宮騎士団を皆殺しにした上、たまたま出張してて加勢したうちのギルマスのアウロラさんにまで襲いかかって、今アウロラさんは生死の境を彷徨ってるって言うじゃねえか! 冒険者ギルドの通信魔法で、お前は全世界のギルドに緊急指名手配されてんだよ!」


「なんとも……本当に手を回すのが早いのう……」


 サブリナはこの状況でも感心しているようだ。


「しかし、アウロラはあの爆発で瀕死になったのかのう?」


「いや、王都近くの洞窟に転移したとき、爆発したような音はしなかっただろ? そんな大爆発だったらあそこでも聞こえるはずだ。それに、あいつが生死の境を彷徨ってる訳無いだろ……。どうせただの嘘だろうさ」


 グレインを取り囲んでいる男達が一斉に得物を抜き、口々に声を上げる。


「動機はギルマスとサブマスターを廃してこのギルドを乗っ取る事で、次は当然サブマスターを襲いに来るって情報があってな。サランを拠点にしてる冒険者みんなでギルドを守ってたんだよ! ……酒飲みながらな……」

「田舎ギルドだからって簡単に乗っ取れると思ったら大間違いだぞ!」

「ワインもう一本くれー!」

「みんなでギルマスの仇を取るぞ! 」

「悪い、ちょっと飲み過ぎた!」

「ナタリアさんを守れぇ!!」

「雪景色サラダおかわりぃ!」

「みんなでこいつを叩きのめしてやろうぜ!」


「……ちょいちょい変な声が混ざってた気がするが」


「サラダをおかわりするあたりは健康的じゃの……」


「いや、確か雪景色サラダは、雪景色のようにもっさりとチーズが盛られてるサラダのはずだから、そんなに健康的じゃなさそうだぞ?」


「グダグダ言うんじゃねえ! そのもっさもさチーズが美味いんだろうが……ってそうじゃねえ! ここでてめえらはお終いだ! いくぞぉ!」


 そう言って、グレインとサブリナを取り囲んでいる冒険者達が得物を持つ手に力を込めた時、一際通る声で怒声が響く。


「やめなさい!! あんた達何考えてるのよ!?」


 その声の主は、カウンターの奥から出てきたナタリアだった。


「ナタリアさん! こいつはあんたを狙ってるんだ! 危ないから下がっていてくれ!」

「俺達があんたを守ってみせる!」

「サラン冒険者の名にかけて!」


「は……はぁ? グレインがあたしを……狙う? ……ぐ、グレインはあたしの……こ、婚約者なんだから、狙うも何もないわよ! それよりも、ギルド内で騒ぎを起こすんじゃない! グレインに手出ししたらあたしが許さないわよ!」


 ナタリアは顔を赤らめ、少し吃りながら冒険者達を怒鳴りつける。


「(婚約……正式にはしてないはずなんだが)」


「(面白そうじゃし、黙って話を合わせた方がよさそうじゃ)」


 そんなナタリアの様子を見ながら、グレインとサブリナは小声で話す。


 ナタリアは更に顔を赤くして、冒険者達に聞く。


「あんた達の方こそ、あたしを守るって……もしかして……あたしに気があるの……?」


「「「「全く無いです」」」」


 この後、ギルドの中に嵐が吹き荒れた事は言うまでもなかった。


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