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第110話 勃発

「サブリナ、アウロラには何をやったんだ?」


 グレインは、未だ起き上がることのできないアウロラを目の前にして、サブリナに問い掛ける。


「妾のヒールは、治癒対象の者から傷を引き受ける代わりに、相手を癒すのじゃ。それともう一つ、引き受けた傷を与えて、相手を傷付けることも出来るのじゃ」


 そう言いながら、胸を張って得意げな顔をするサブリナ。

 そこへトーラスが会話に参加する。


「それは見ていてなんとなく分かったな。さっきリーナスに『リリーに与えた痛みを思い知れ』って掛けた術だよね?」


「そうなのじゃ。そして、アウロラにも同じ事をしただけじゃ」


「ん? でも、サブリナは別に傷を負ってなかった……あ、あの騎士団員達か!?」


 サブリナはグレインにウインクしながら答える。


「さすがダーリン、正解じゃ。あの騎士どもは、妾のヒールで『心』を癒したのじゃ。人間の満たされない欲望や不満、不安など、様々な負の感情を全て妾が引き受ける。代わりに、心が満たされた騎士達は、誰かの命令で行動することもままならなくなり、妾達を襲ってくることもなくなったのじゃ。……その時引き受けた、十数名の騎士達の負の感情を、全てアウロラに返してやっただけじゃ。……ま、並の人間には到底耐えられぬほどの負の感情が渦巻いている筈じゃ」


「な、なるほど……、精神攻撃か……なかなかえげつない……。てっきり魔族お得意の『契約』とか『誘惑』とかそういう手段に出るもんだと思ってたよ」


 グレインはサブリナに微笑みかける。


「それは困るのじゃ! 『契約』はそれなりの代償が必要になるし、『誘惑』は……妾に変な虫がついてもダーリンが困るじゃろ? デメリットがありすぎるのじゃ」


「はぁー……。なんか色々と考えてるんだなぁ……。とりあえず助かったよ、サブリナ。ありがとう」


 グレインはサブリナの頭を撫でる。


「ひゃあっ! きゅ、急に頭を撫でるでない! ……驚いたではないか」


「あぁ、ごめん。嫌だったか」


「い、嫌とは言うておらんわ……。ただびっくりしただけで」


 さっきまで真っ青だった顔が、一気に赤くなったサブリナであった。


「さて、アウロラはここで捕縛しよう」


 トーラスがアウロラを拘束しようと闇魔術を発動すると、どこからともなく流れてきた白い霧によって、黒い霧が対消滅していく。


「この霧は……まさか!」


「困りますねぇ……。我らが『総裁』に手出しをされるのは」


 どこからともなく老魔導士が現れ、渡り廊下から中庭に歩いてくる。

 その手からはトーラスの闇魔術を打ち消した白い霧が発せられていた。


「あなたの魔力には……その悪意には覚えがあるよ。『初めまして』と言うべきかな? ……ミゴール。今日は替え玉じゃなく本人の登場かい?」


 トーラスが老魔導士を見据えて、腰の剣を抜く。


「ほうほうほう! 私の正体を見破るとは、相当優秀な魔術士のようですな」


 その老魔導士、ミゴールは、そう言うと静かにアウロラに向けて魔法の詠唱を始める。


「あ、あれは何か回復をしようと……でも、そうはさせませんっ!」


 ハルナがミゴールに斬りかかる。

 しかし、彼女の刺突は、同じ刺突によって真正面から弾き飛ばされる。


「っ! 何奴! …………えっ……」


 ミゴールの傍らに、初老の剣士が現れ、ハルナの刺突に刺突をぶつけて跳ね返したのだった。


「おとう……さん……?」


 ハルナの言葉に、目の前の剣士はにやりと口元を歪め、短く言い放つ。


「『師匠』と呼べ、と教えたであろう? ……ハルナ」


「おと……師匠!」


 ハルナは、その剣士に抱きついて涙を流している。


「……いきなり姿を消して、済まなかった……」


「師匠! 生きてたんだっ! 良かったっ!」


 グレイン達が呆気にとられている間に、ミゴールの詠唱が完成し、白い光がアウロラを包む。


「お嬢様、大丈夫ですかなぁ?」


「……うーん……、気分は最悪だよ」


 アウロラがよろよろと立ち上がる。


「それでは、私めが代わりに……。我々闇ギルド幹部の要求を手短に伝える。トーラス、グレインの命を差し出し、ハルナを解放し、リリーを引き渡して欲しい」


 ミゴールがグレイン達に要件を伝える。


「いやいやいや、命を差し出せってどういう事だよ……」


「何もせずそこに立っておれば、レン殿が楽にしてくれますぞ? のう?」


「あぁ、そうだな。治癒剣術の極意で、痛みを一切感じぬまま楽にしてやれるぞ」


 ハルナを抱き締めていた剣士、レンが慈愛に満ちた目でグレインを見つめながら言った。


「お父さん……何……言ってるの……?」


 静かにハルナがレンから離れ、グレインの元へと歩み寄り、両手を広げながらレンに振り返る。


「この人は私の大事な人なんです。だから……そんなことさせません!」


 その途端、レンが両膝を地について涙を流す。


「は、ハルナァァァーー! そ、そんなつまらん男に引っ掛かりおって! おのれグレイン……嫁入り前の娘を傷物にした罪……地獄で思い知れェェェッ!!」


 レンが剣を構えて立ち上がる。


「グレインさまはつまらない男じゃないもん! お父さんがグレインさまの何を知ってるって言うのっ!」


「おのれおのれおのれェェェ!!」


「……なぁハルナ……。その言い回し、ものすごく誤解を招いてると思うぞ……?」


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