表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

小さな自殺

 粉雪が舞い降りる日の夜。俺は誰もいなくなった古いマンションの屋上に立っていた。


 誰もいない屋上を吹き抜ける風はどこかとても冷たかった。


 暖かい人体と、冷たい外気。それによって明確になる私という存在とそれ以外との境界。


 なんだか自分という存在が肯定されているような錯覚を覚え、何とも言えない快感を覚える。


 俺はポケットから新品のたばこを取り出し、恐る恐る一本吸ってみる。


 すると世界がぐるぐるするような感覚に、俺は思わずへたり込んだ。


 健康に悪い?健康を害すために吸っているのだ。


 俺はこの一本でどれだけの人生が消費されたのだろうか、などと思いふける。


 小さな自殺。


 それが俺がこの閉塞感に見出した答えであった。


 意味がある程度で頭が良いわけではなかった。


 しかし、悪いわけではないと思っている。


 そしてそれが見出す私の人生の展望は暗いとは言わないまでも灰色であった。


 どうしようもない人生になる。


 それは見えている。でも死ぬほど苦しくなるように見えるほどではない。


 だから自殺に踏ん切りがつかないのだ。


 小さな自殺。


 私はこの言葉に何か特別な魔力に取りつかれてしまった。


 もう一度その快楽に溺れる。


 私は愚かである。


 どれだけ愚かかといえば、愚かなのをわかっていながら治すことができないほどに愚かなのだ。


 それどころか周りから愚かであるといわれることに慣れていることをある種誇りに思っている節がある。


 自分自身を自嘲することで自分の精神のバランスを保っている、これより愚かなことがあるだろうか。


 フッと笑うと、まるで肯定するようにビュッと風が頬をかすめていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ