第223話 斉藤家vs危機
「えー。」休みの日、まったりとみんながリビングでくつろいでいる時、いきなり美姫さんが話し始めた。
「昨今、個人的なやり取りが情報として洩れるという事案を目にいたしました。」と美姫さん。
どうやら、どっかの芸能ニュースでも目にしたのであろう。
「危機管理能力の高い私としてはですね。」美姫さんは続ける。いやいや、防災カバンの中身の食糧を「お腹が空いているのはピンチだ!」と言いながら食べている人から『危機管理能力が高い』なんて言われたくないけど。
「これは斉藤家の一大事だと思いまして、これから個人的なやり取りの暗号化を決めたいと思います。」と美姫さん。
『決めたいと思います』ってうちは独裁国家か。まぁ、独裁国家といえば独裁国家だよな。と僕は心の中で笑う。
「はい。」とお兄ちゃんが手を挙げる。
「ユウくん。どうぞ」美姫さんが言う。
「暗号化ってどうするんですか?」とお兄ちゃん。
質問があった事が美姫さんは嬉しそうだ。
「例えば、【1】は《了解しました。》の意味にします。私がユウに『今から帰ります』とメールを打ったらユウが私に『1』と返せば会話が成立します。」と美姫さん。
ツッコミどころ満載の例えだな。
「おぉっ。」お兄ちゃんが目を丸くする。
美姫さんは、満面の笑みだ。
「父さん、スゴイいい案じゃない?」とお兄ちゃん。
「そうだね。」と愛想笑いのお父さん。
「ショウも賛成だろう。」とお兄ちゃんは僕にも話をふってきた。
「いいんじゃない。」と僕。心の中で舌をだす。だって、僕は携帯も持ってないしメールアドレスも持ってない。
僕には関係の無い話だ。
暗号を決めるための話し合いをする。
そして決まった。
1→はい、わかりました
2→了解です
3→大丈夫です
4→頑張って
5→NGです
6→急ぎます
7→遅れます
8→ありがとう
9→微妙かも
10→そうだね
不具合が出たら言葉を追加していくと言う事で、とりあえずの10個が決まった。
それから1ヵ月後、どんな感じなのか僕はみんなのメールを確認した。
そこにはビックリするような事実があった。
美姫さんはメールをめんどくさいと消去してメールアドレスを持っておらず、お兄ちゃんはメールをする人がいないからと元々メールアドレスを持ってなかった。お父さんのメールにはダイレクトメールばかり。
snsに至っては、誰もやっていなかった。
何のための話し合いだったんだろう。
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