7話:ステータスって面倒
2019 1/28 登場人物の『乱数のスペード』→『乱数のクラブ』に訂正
『ごめんなさい』
『力になれない』
『AWはやってない』
なんやかんやとありつつもアンズに連絡を取ってみたけど、返ってきたのはこんな文面だった。意外や意外、アンズはゲーマーなのに今をときめくAWはやっていないらしい。
不思議だけど、仕方がない。
気にしないでと返信していると、画面を覗き込んだスズがガッツポーズをする。
「ったー!二人きりぞっこー!」
そんなはしゃがなくてもいいのに……あ。
「あ、でも、『あやさんがやってるなら私もやる』って」
「なにおう!?ことわれー!」
「楽しみにしてるって送っといた」
「ぐはー!」
「まあしばらくは二人だから」
「んにゃ」
ばたりとベッドに倒れるスズを慰めつつもちもちしていると、アンズから『注文した。明後日には届く』との連絡が入った。しばらくというか、今日明日しか二人きりじゃなくなったみたいだ。
うーん、明日からまた仕事だから今日を逃すのはもったいないし、なんとか方針を決めなきゃいけない。いや決めなきゃいけないというか、落ち着いて考えてみればもう決まり切ったようなものなんだけど。
……まあ、それはそれとしてお昼ご飯を食べよう。
「シャワー浴びてお昼にしよう」
「ハンバーグ食べたい!」
「残念チャーハンだ」
「うおー!あやのチャーハンだー!」
■
「こんにちは、決めたよ」
『あは♪良かったぁ♡』
「あ、可愛い」
『うむ。そうだろう』
むふんと胸を張るクラブさん。やっぱりどっちも可愛い。
『思っていたよりは早かったが、まあお前ならば己が最善を見いだしたことだろう』
「いや、まあ、消去法みたいな感じだけどね」
『ふむ。言っておくが、今回は取り返しがつかんぞ?』
「分かってるよ、大丈夫」
『そうか』
ならばよい、と微笑んで、それからクラブさんはウィンドウを呼び出す。
ステータスからアバターまで、設定途中のそれが眼前に並ぶ。
『改めて説明すべきか?』
「大丈夫」
『ならばよい。まあ、なんでも質問してくれ』
「分かった」
頷いて、まずはアビリティから決めていく。
とはいえ一番の目玉はもう決めてあるから、迷わずに。
こういう時はソート機能が便利だ。魔法関係のアビリティ……ああ、あった。
『S:領域魔法の心得』(EXP:600)
・魔法分類解放
『領域』
・魔法習得
『領域』―『領域指定』―『円環』
『領域』―『領域構築』―『安らぎの地』
『領域』―『領域構築』―『決戦場』
『領域』―『領域守護』―『巡回する魔球』
これで残りEXPは400ポイント。まあ後はそんなにいいアビリティも……うん、わざわざステータスをないがしろにするほどじゃないから、残りはステータスにつぎ込むとしよう。どうせ動かないし耐久力もいらないから、とりあえずINTとMINに半々ずつでいいかな……ああでも、MPがほしいから最初はMINだけにしよう。
400ポイントで……22上がった。微妙な数値なのは、10毎に必要なEXPが上がったからだ。1~10までが10ポイント、11~20が20ポイント、そこからは50と大きく上がって、合計22。最後の100ポイントはINTに振ってもいいかなと思ったけど、MIN2ポイントというのはつまりMPにして20ポイントだからとりあえず振っておいた。これでまあ、多少は領域魔法を使いやすくなると思う。
初期装備は、今着ている町娘風装備がそもそも魔法使いを意識したセットだからこのままで、適当に武器を選んだら、まあ終わりかな。
最終的にステータスはこんな感じになった。
NAME:ユア
EXP:0
LP:100
MP:320
STR:0
VIT:0
INT:0(8)
MIN:22(26)
AGI:0
DEX:0
LUC:0
【アビリティ】
『S:領域魔法の心得』
【称号】
『わたしのおきに』
【装備】
『木の長杖』(INT+5)
『黒のリボン』(MIN+1)
『銅の首飾り』(INT+1、MIN+1)
『布のドレス』(INT+2、MIN+2)
『革の靴』
ちなみに装備に関してはステータスの項目以外にも効果があったりする。
たとえば、『重量』『耐久』『ATK』『DEF』の項目なんかがそうだ。
『重量』……文字通り、重さ。別にSTRがこの数値ないと持てなくなる、みたいなこともないけど、まあ普通に重い物は重い。たとえば私の杖は3、金属鎚なんかは15とかある。
『耐久』……最大が100%で、0%になると『破損』状態になって修理するまで使えなくなる。物や使い方によって下がりやすさが違うけど、まあだいたい普通のイメージ通りだと思う。
『ATK』……アタック。攻撃力。その武器がどの程度の威力なのかを表す。たとえば私の杖は5で、両手鎚なんかは30もある。
『DEF』……ディフェンス。守備力。その防具がどの程度の防御性能なのかを表す。たとえば私のドレスは5で、金属の鎧だと20とか。これは装備している部位ごとの数値で、鎧だけ堅ければ足はむき出しでいいなんてことはないらしい。
こういう装備のステータスみたいな数値系と、後は杖についてる『魔法威力+5%』とか装備のアビリティみたいなやつ。まあ私の場合はステータスが貧弱でもいいから、積極的にいい効果がついているものを狙っていけばいい。
ともかく、これでステータスは決まったから、最後に一度確認してから『終了』ボタンを押す。
「終わったよ」
『うむ。なかなか面白い選択だ。よいではないか』
「ありがと」
にっこり笑顔を向けられると、なんとなく気恥ずかしいものがある。
「時間かけてごめんね」
『いやなに、構わんよ。そもそも私から言ったことだ』
「うん、ありがと」
『うむ。では再度……今度こそ、世界を満喫してくるといい』
「そうする」
『と、その前に、だ』
クラブさんはにやりと笑うと、それから私の目と鼻の先に飛んできて、額にその指先が触れる。
『スペードだけというのも癪だからな』
そんな言葉と共に、額がぽんわりと暖かくなる。
【『クラブのお気に入り』の称号を取得しました。……クーちゃんってばてれてるぅーう!】
「……なんかすっちんが割り込んで、クラブさん照れてるとか笑ってるよ」
『そうか……報告感謝する。では、またな』
「うん。また」
【あっ、ちょっ、ユアっちまさかつげぐちしたでしょー!?クーちゃんちょーおこって、うわ、や、まっ―――
うん、いいことをするのは気持ちがいい。
■
「『領域指定』―『円環』」
「おー!」
「『領域構築』―『安らぎの地』」
「おおー!」
「『領域守護』―『巡回する魔球』」
「おおおー!」
ぱちぱちと拍手されるけど、まあデモンストレーションとして100MPで展開してるから半径1mくらいしかないし、とても実用性はないものだ。
「それで、ここに入ると色々効果があって、この光の球は体当たりする」
「おおー!入る入るー!」
ここぞとばかりにぎゅうと抱きついてくるスズだけど、そもそもなにも減ってないから意味なかった。にもかかわらずスズはご満悦といった表情ですりすりと顔をこすりつけてくる。
「あうー、癒やされるぅー。ユアのまほーふにふにできもーちーよー」
「それ魔法じゃないから」
「えー」
領域を解除しながらスズを引き剥がす。
わざわざさっさとステータスを決めたんだから、こんな風に絡んでるだけじゃもったいない。それなら別にリアルでもいい訳で、にも関わらずここにいるならゲームを楽しむべきだ。
なんてまあ言うまでもなくて、スズはすぐに気を取り直すとレベル上げだー!と意気込んで駆け出す。ウサギ狩りは色々よくないから少し離れて他のモンスターを探すことにしているんだけど、索敵にしては速すぎないだろうか。こちとらステータスの貧弱さで言えばゲーム中最強の一角を担うだろうから、少しは手加減してくれないとどうにもならないんだけど。
などと思っていると、スズが唐突に反転して戻ってきた。
「そーいえばユアおっそいよね!」
「うん」
「じゃー抱っこしたげる!」
「え」
言うが早いか、スズは私をぐるんと回すようにして横抱きに……お姫様だっこの体勢にして、バランスを保つように腕をもぞもぞする。
ゲームの中とはいえ、お姫様だっこなんて久々だ。スズが半ば引きこもりだから、現実でそんなことすれば潰れちゃうし。
「よーし!行くぞー!」
「あんまゆらさ」
「いえっさー!」
あ、全然聞いてない。すっごい揺れる……。
うん、流石に喋ると噛みそうだから黙っているとしよう。
そんな訳で静かに揺られ進むことしばらく。
周囲のモンスターも随分と様変わりして、醜悪な小人が闊歩し若草色のゼリーみたいなのが蠢く、なんというか、うん、ちょっと怖いところに来た。来たというか、相変わらず草原は草原なんだけど。
「あんまり動かない方がいいんだよね」
そんなことを言いつつ、私を下ろしたスズは、道中引っかけた小人を背中の大剣で薙ぎ払う。それだけで小人達は吹き飛んでポリゴンと散った。
「まあ、そうだけど、ここだとスズが楽しくなさそう」
「ユアと一緒ならどこでも楽しいよ!」
それはなんというか、違う気がする。
うむむと唸る私に、スズは困ったように笑いながらウィンドウを差し出してくる。
「それに、私に合わせるとユアも大変そうだし」
「うわ……」
それは、スズのステータスだった。
ただ、なんというか、うわあ……。
NAME:リーン
EXP:38
LP:640
MP:100
STR:42(52)
VIT:34(42)
INT:0
MIN:0
AGI:25(20)
DEX:20
LUC:18
【アビリティ】
『S:大剣使い』『S:重戦士』『S:ウェポンガード』『S:プロボーク』『F:自然治癒』
【称号】
【装備】
『鋼鉄の大剣』
『鋼鉄のサークレット』
『鋼鉄の鎧』
『鋼鉄の籠手』
『鋼鉄の膝当て』
『鋼鉄のグリーブ』
「あれ、一日でこれ……?」
「……さみしかったんだもん」
いやもんって……まあいいけど。
「でも確かに、これじゃ私完全に足手まといだね」
「やってる時間が違うから当たり前だよ!だから鍛えるのだー!」
まあ、確かにこれで別々になったら意味ないし、最初は迷惑をかけることになるのも仕方ない、か。
「とゆーわけでユア!まほー発動だ!」
「え?」
「手加減むよー!あ、でもそこそこ維持できる感じで!」
「分かった」
手加減なしで、維持できる感じ……とりあえずMPは最大だから、200くらいの広さにするとしよう。
「『領域指定』―『円環』」
領域を展開……おお、半径2mくらいはありそう。面積比じゃなくてよかった。
次は、まあ使ったことない方にしようかな。
「『領域構築』―『決戦場』」
なんやかんやとあってできたのは、領域を四分する十字の図形。うっすらと紅く染まったそれは、ぱちぱちと火花のようなスパークを散らしている。
消費はまあ1秒に1ポイントくらいかな。じりじりとMPを表すゲージが減っている。
早めにいこう。
「『領域守護』―『巡回する魔球』」
形を成したのは、スパーク散らす光の球。ヒーリングスペースのときよりなんとなく強そうだし、どうやら領域に合わせて変わるみたいだ。
「おーっし!じゃーいっくよー……『かかってこいやあああああああ―――!』」
「うわ」
びっくりした。
けど突然声を張り上げたスズになにごとかと訊ねる前に、異変に気がつく。周囲の、私たちに気がつかない程度の距離にいたモンスター達が一斉にこっちを向いていた。そして納得するよりも前に、大体十体くらいのモンスター達は雄叫びを上げて押し寄せてくる。
「とりあえずこれ繰り返そー!」
「便利だね。アビリティ?」
「まーねー!敵が襲ってくるの!」
なるほど。
なんなら私がとってもいいかもしれないくらいにおあつらえ向きなアビリティだ。
そんなことを思っていると、記念すべき一体目の小人が領域に足を踏み入れ―――
「ぐぎゃっ!?」
即座に突っ込んだ球に吹き飛ばされて、後ろの数体を巻き込んで地面に転がった。
流石に一撃とはいかないらしいけど、いい威力だ。
「おー!なかなか強いね!」
「そうだね」
などと会話しつつ、マジックボールが敵に体当たりするのを眺める。時折対処しきれないモンスターをスズが転ばしたり転がしたりしてるけど、おおむね好調にモンスターを仕留めていっているんじゃないだろうか。というか、転んだやつを潰してトドメを刺すのから学習したのかヘタに吹き飛ばさないように側面とか顔面を狙うようになったのは、感心すればいいのか呆れればいいのか……便利だからいいけど。
しばらくして。
会話だけには飽き足らずそこら辺に散らばる戦利品を手の届く範囲で集めていたら、いつの間にか襲ってくるモンスターは絶滅していた。
とそこで、領域が勝手に消滅する。見ればMPが完全になくなっていたけど、さっきからなんとなく怠いような気がするのは多分このせいなんだろう。
「MPなくなっちゃった?」
「うん」
「はやい……」
「まあ、あの広さにするだけで200くらい使ったから」
「うわー、意外ときついねー」
「ごめんね」
「伸びしろだよ!」
にっこり笑ってぐっ!とサムズアップするスズ。
伸びしろ……自分で選んどいてなんだけど、割と不安だ。
まあとりあえず少しでもMPを増やそうとステータスを確認……あれ。
「ねえリーン、EXPが33しか増えてない」
「それでも多い方だよ!」
なにかのバグじゃないかとすら思ったけど、スズは当然のようにそんなことを言う。
「多分魔法の経験値の方が大きーんだね」
「魔法の経験値?」
MPの自然回復待ちがてら、話を聞いてみた。
話を聞くに、EXPというのはモンスターとの戦闘だけじゃなくてアビリティの習熟とかでももらえるらしい。またなにかをすれば決まってこれだけもらえるみたいなことでもなくて、戦闘の場合はその激戦具合、アビリティの場合はそれに対応した行動やその使用回数、使用する状況とかで決まるらしい。
そして今の戦闘の結果は、EXPにして33……。
「リーンって、ゲーム廃人ってやつなんだね」
「違うよ!もっと強いところで頑張ったからだよ!名誉毀損はやめろー!」
「褒めたつもりなんだけど」
「廃人は褒め言葉じゃないよ!」
「そうなんだ」
まあ確かに、廃人って凄い字面だなとは思ってたけど。
にしても、そうか、となるとこれはなかなか道のりが大変そうだ。
そんな思いが伝わったのか、スズはにんまりと笑う。
「まー、でも、じゃーもうちょっとスパルタでいこっか」
「そうだね。早くリーンと楽しみたいし」
「私はユアが一緒ならそれで楽しーよ!」
……まあそれを言うなら私も似たようなものだけど、折角ゲームするならゲームの方を楽しみたいとも思わなくもない訳で。いや楽しんでほしいと、思う訳で。
なんだか難儀な選択をしてしまったかもしれないと、少し後悔した。
大人しく直接攻撃になれる方針でいけばよかった。
■
《登場人物》
『柊綾』
・直接攻撃したくないから攻撃する味方を召喚して貢献すればおんぶに抱っこじゃないという謎思考で選んだ割にすぐ後悔しちゃう系ゲーム不得意二十三歳。お前バッファーの重要性なめんなよマジで。基本的に頭は悪くないがゲーム経験がなさ過ぎるので、ゲーム的セオリーとかをしばしば無視してしまう。そも領域魔法の時点でかなり地雷だろうに。スズがいること前提なら、まあ分からなくもないかも?ちなみに抱きしめられる度にLPが削られていたりするが、二人きりなら仕方ない。
『柳瀬鈴』
・寂しさのあまり総計EXP7160(初期含む)のステータスにまでなっちゃう系二十三歳。このゲームにおいてそもそもただの戦闘だけでEXPを稼ぐのは非効率の極みだったりするが、そんなことは知ったこっちゃないらしい。ちなみに装備はNPCのお店で買ったもので、戦闘で拾ったアイテムの尽くを売り払ったらしい。今後スズのステータスが開示されることはない。
『乱数のクラブ』
・あやに与える『お気に入り』の内容を色々考えていたのに確認すらされなかった不憫系サイバーカール。でも初めてのお気に入りなのでとっても幸せ。前提として二つの面を両方知らなければいけないのだから仕方ない。ちなみに今度は普通の照れ隠しなので、スペードは全然無事だ。
ステータスに関してはアビリティ以外は舞台裏でどうこうする可能性が高いです。面倒すぎて。
アビリティもそんなに詳しく記述しません。面倒すぎて。
つまりまあ、そこまで見なくていいです。面倒すぎて。




