75話:ようやくやっと新魔法
書きたいものがありすぎるしPC作っちゃったしeso面白いし書きたいものがありすぎるし中山可穂さん何回読んでも面白いし書きたいものがありすぎる。
ちょっと真面目に沢山書くぞー!
『用件は以上よ!?私はさっさと次を造るわ!』
と、なんともせかせかしてるπちゃんに追い出されるように山を下る。
エースさんとπちゃんが二人きりというシチュエーションに色々思わないでもないけど、どうやらエースさんは専ら素材集めに山を駆け巡っているらしいからまあ我慢してあげようっていう気分にもなる。
だからまあ、山から離れるっていう選択肢も、特に否定するでもなく受け入れた。アイテムでの稼ぎはついついπちゃんに貢いじゃうからやっぱり大人しく依頼を受けてお金を稼ぐ方針でいく方がいいよねっていう流れになっちゃったし、さすがに二回もわがままを言うのはなんだかなあっていう感じだ。まあ考えてみれば、別に探掘メインのつもりだったとしても山の依頼も受けれるんだよなあとか意味深に呟いてみたりしてみつつ、なにはともあれはじまりの街に戻る。
その道中、今回は特に急ぐ理由もないからと、色々試してみることに。色々っていうのも、もちろんナツキさんの新装備もそうだけどそれだけじゃなくて、ロックドッツ戦では後衛陣みんながなにかしら新しく習得していたりするから、そっちもお試しだ。
ただ、なんかソフィは平地で試してみたいらしいから、とりあえず山道はアンズとナツキさんが試し撃ちしつつもさっさと下ることにする。二人とも、戦闘スタイル的にそんな腰を据えてやる必要もないしね。
さて、そんな訳でアンズとナツキさんの新戦力を紹介してみることにする。
とはいえナツキさんの方は、まあ、πちゃんの解説がほとんど全てかなっていう感じだった。
白く機械的な大弓を構えて、そのサイズに見た目負けしない白銀の矢を番えるナツキさんのその姿はもうなんかきゅんきゅんきてしまう。まったく凄まじい破壊力だった。ポスターとかにして飾っておきたい……いやそれとも、ナツキさん本人にずっとそのポーズのまま飾られてもらうのもいいかもしれないなあ。言ったらやってくれるかなあ。
矢の威力はと言えば、まあ、なんというか、敵があんまり強くないロックドットだっていうのもあるから具体的なことは分からないけど、少なくともえげつないということは分かった。
なんだろう、こう、手を離した瞬間にはもう標的のロックドットの身体に穴が空いていて、同時にばびゅんって風を切る音が耳に届く感じ。ほとんど残像しか追えなくて、まるで光線が貫いたみたいだった。
そして飛んで行った白矢は、ロックドットの向こう側、山肌に全身が埋まってようやく止まっていた。
うん。
なんというか、矢とかいう概念は当然に超越してるよねあれ。というかあのサイズと長さでそこまで刺さるってそれ下手な銃とかよりよっぽどすごいんじゃないだろうか……いや、別に弾痕にそんな詳しい訳でもないんだけども、一回見たことある拳銃なんかよりはよっぽどすごいと思う。
正直わざわざ白矢を使わなきゃいけないレベルの敵とかそうそういないと思うから、基本は普通の矢をメインに使っていくことにするらしい。一応近接のためとか言って何本か白矢を仕込んだみたいだけど、さて日の目を見ることは……ああ、なんだろ、結構ありそう。
ともあれそんな訳でナツキさん、順当と言えば順当だけど大幅に火力が上がったことで補助役寄りだったのが主火力としてと十分にいけるようになった感じかな。いやほんと、単純に火力が上がっただけでパーティの戦力が段違いになったと思う。
さすがπちゃん、欲している全てを与えてくれるなあ。
あーあ、πちゃんに全てを捧げたいなあ。
さておき。
一方、アンズの新魔法。
今回はどうやら、ついに『連結魔法』の方で新しい魔法を習得したらしい。しかも、連結できる魔法の数がひとつからふたつにグレードアップしたらしい。同じ魔法の重ねがけとかできないみたいだけど、まあ単純に嬉しい強化だ。
散々使ってきた割には結構遅かったけど、ステータス的な影響だろうか。領域魔法の方は結構ちょくちょく新しいの出るのになあ。
まあそれはいいとして。
アンズの新魔法は二つ、『拡大』と『縮小』。
共通点としては、これまでの連結魔法とはちょっと違って、連結元の魔法の消費を増やすんじゃなくてそのものでMPを消費するらしいけど、まあそこら辺はアンズの運用に関する話だから別にいいとして。
それぞれの効果は、その名前からしてそりゃそうだっていう感じだけど、対照的なものとなっている。
『拡大』の方は魔法の拡大。威力をそのままに規模だけを大きくする感じ。
実際組み合わせて使ってみると、魔法陣の前に二倍くらい大きな魔法陣が重なって、そこを通った光槍の大きさがほんとそのまま二倍くらいになって飛んでいった。それだけならすごいんだけど威力が変わらないっていうのがくせ者で、威力据え置きで拡大された分なんか破壊力が落ちてるっぽいんだよねあれ。見た目は派手ですごい強そうなのに。まあ、飛距離も伸びるっぽいし使いどころはなくもないかも?
一方の『縮小』、こっちはマクロの逆で、威力をそのままに規模を半分くらいにする。魔法陣の前に半分くらいのサイズの魔法陣が重なるっていう演出はまあマクロの逆で、そして放たれた光槍の破壊力が目に見えて上がっていた。その分大きさとか飛距離とかも半減だから、拡散と組み合わせたら実質近接攻撃みたいなものだったけど、まあアンズに関してはそんな大した問題じゃないかな。アンズ、近接系魔法使いとかいう意味の分からない戦闘スタイルだし。
つまりアンズの方も、まあ多少トリッキーではあるけど基本は火力の上昇が見込めるかなあっていう感じ。特に拡散ミクロの組み合わせがいい感じっぽい。これがあったらロックドッツでも削れたって、ちょっと悔しそうにしてた。
そんなこんなで、ナツキさんとアンズの新魔法を色々試しつつ、無事に下山。
平地に出たところで、今度はソフィの魔法をお披露目してもらうことに。
思えば初めての新魔法な気がするんだけど、詠唱魔法が遅いのかソフィがINT一極集中なんていうピーキーなことしてるからなのか。
まあそれはいいとして、新魔法。
曰く『ゾフィごのみのまほうですの♪』らしいそれ、まあつまりは結構えぐいんだろうなあと思いつつ、わざわざオーバードスペルまで使うらしいソフィの詠唱に耳を傾ける。
「では、いきますの♪」
光に包まれながら、ソフィはゆっくりと本を開いた。
目を閉じ、熱に浮かれるように、詠う。
「『たけりうつろうれっかのごとく、いのりうたうはわがたましい―――」
惹かれるように、周囲のモンスターの視線が集まる。
小鬼たちが、私たちを見て牙をむく。
だけど気にせず、気づいてもいないんだろう、ソフィはただ、言葉を紡ぐ。
「―――おおいなるものよ、きこえたか。ちをやきこがすわがいのり。それこそわがねつわがほのお。さらばいまこそねがいをそらへ、はるかなるてんへととどけよう―――」
火炎が集う、それは既にみたことのある光景。
だけど今までとは違って、火球はソフィの正面ではなく頭上に形成されてゆく。
その矛先は、きっと天へと向いている。
「―――わがおんてきよ、さあほろべ』」
火球が煮立つ。
今まさに爆ぜてしまいそうなほどの炎が、そこには内包されている。
その大きさはこれまでの火球よりも二回りくらい大きいだろうか、それだけでも十分にその恐ろしさは伝わってくる。
だけど、もちろんそれは終わりなんかじゃない。
「『過剰詠唱』」
過剰な魔力が注がれて、火球が白熱する。
まるで太陽のようですらあるそれに、気がつけば周囲にいた小鬼のようなモンスターたちは皆一様に腰を抜かしていた。
逃げることすら許されない、圧倒的な輝きがそこにはあった。
「『降り注ぐ滅火』、ですの♡」
そして火球は、放たれる。
天へと登り、やがて爆ぜる。
大きな火球はいくつもの小さな火球となって、等しく地上へ降り注ぐ。
降り注いで。
そして顕現したのは、正しく滅びとしか形容できない圧倒的な破壊だった。
墜落した火球はその場で爆ぜ、クレーターを作り散ってゆく。
巻き込まれたモンスターは等しく消し炭になって、残ったドロップアイテムすらも次々と降り注ぐ破壊に呑まれて消えてゆく。
ほんの数秒。
ほんの数秒で、私たちを中心とした半径数十メートル以内は、滅び去った。
クレーターと焼け残ったアイテムだけが、そこには残っていた。
……。
「……えっぐ」
「すてきなまほうですの……♡」
まあ確かに、ソフィ基準だと素敵も素敵なんだろうけども。
なんともえぐいというか、ああでも、こんな光景を作り出せるソフィはなんだか神々しくて、こんな中でにこにこ笑えるその狂気にはちょっとゾクゾクきてしまうけど、それはそれとして。
ここにきて、パーティ初の広範囲殲滅的な感じの魔法かあ。
実用性的な意味ではソフィが覚えるには最高の魔法なんだろうなあと思うけど、これ以上ソフィが破壊の喜びに目覚めるのはノーセンキューかなあとか。
まあそれはそれとして、ほめてほめてと視線で訴えてくるソフィをめいっぱい可愛がる。力に酔っているのかぽわぽわしてて、なで心地が一味違うのがちょっと面白い。
なでなで。
しつつ、さっさと始まりの街へ帰還する。
帰還したら、例によって例のごとく喫茶店でしっかりと英気とセレムちゃん分を補給してから、冒険者組合で依頼を物色してみることに。
効率のいい依頼を求めて、目を皿にして依頼書を漁る。
そしたら気づいたんだけど、あの塔とか遺跡とか変化する西エリアの依頼が比較的儲けがいいっぽい。特にあのミラさんイチオシな迷界、多分あそこに出てくるっぽい感じのモンスターがかなり美味しいらしい。あそこは今のところ拾える素材があんまりいいのないからちょっとそれが残念だけど、迷界にもしかしたら凄いものがあるかもとも考えられるし、その点でもまあいいかなあ。
ちなみに、山は依頼数がダントツで少なかった上に対象がほぼロックドッツかあのストーンリキッドで固定されてて、まあそれはむしろいいんだけどちょっと討伐数に対しての報酬がひどいっていうね。他のと比べて半分くらい。正直πちゃんが居る以外の魅力がほぼない上に素材がエースさんと被る可能性が高いからπちゃんも嬉しくないと思うし、まあ、残念だけどメインの狩場にはならないよね……うん……。
そんなこんなで、特に誰かの行きたいところも、まあ、うん、ない……ない……と、いうことにして、今度は西エリアで稼いでみることに。
依頼はできるだけ迷界っぽいのをセレクトしてみたけど、いくつかはそうじゃないのも混ざってるからミラさんのところに行く前にでも終わらせておきたいところ。というか、そもそもそんな自由に顔出せる感じでもない気がするんだよねえ、ミラさんのところ。なんか意味深なことを言っていた気がするけど、はてさて無事に辿り着けるんだろうか。
そんな心配を抱きつつ、西へ。
着いてみれば、どうやら西エリアは今遺跡になっているようだった。
ずぅっ、と伸びる外壁にところどころ見受けられるアーチ状の入口の向こうには、見覚えのある廃墟が広がっている。この前来たときは夜だったからまたちょっと趣が違って、なんだろう、ちょっと観光気分があったりなかったり。
まあ、一応ここまでの移動の段階でもう領域は展開してあるし、ほんと私にできることとか全然ないんだけど。
ちなみに領域、今は『決戦場』にボールふたつと紅戦士、あともちろん動かせるようにセントラルも出してるっていう今後メジャーになりそうな組み合わせだ。バトルフィールドは東の街以来だったっけ、領域の内縁をくるくる周回するボールもそうだし、両手にメイスを携えた二本角の戦士も敵を求めるように視線を巡らせて、やる気十分みたい。今後は結構出番が増えそうだし、いい活躍をしてもらいたいところだ。
ともあれそんな布陣で、いざ西エリアを探索開始。
朝というだけあって夜とまた違うモンスターが出るのかなあとかちょっと期待して周囲を警戒していると、曲がり角から蛇がでた。
蛇……それもめちゃくちゃ大きい、外国に行ったら首に掛ける体験とかありそうなやつなんだけど……うん?
「待って」
違和感を覚えた瞬間に声を上げれば、今まさに矢を放とうとしていたナツキさんと飛び出そうとしていた紅戦士が動きを止める。
即座に観察の目を発動、蛇を見つめると、ステータスはあっさり表示された。
『ダンジョンウォーカー』
LV:6
耐性:火炎
弱点:水冷
んー、多分これは違うなあと目を凝らす。
するとこっちもあっさり、蛇がぱくりと縦に割れた。その中身はつるんつるんで真っ白。どことなく無機質で陶磁器みたいな、でも奇妙なくらいに光沢のないその白が、裏返るみたいにして変形する。
そして蛇は、なんだろ、紙粘土を細く伸ばしたみたいな細長い白いものになって、でもそのままうぞうぞ蠢いて近寄ってくる。
『ダンジョンウォーカー』
LV:6
耐性:なし
弱点:なし
「やっぱり変身してたみたい」
「そのようですね」
ひゅばん、と射抜かれてダンジョンウォーカーは死ぬ。
すると『擬態系モンスター』とやらの討伐数がカウントされた。どうやらあれはここの討伐モンスターである『不明系モンスター』とか『不定系モンスター』とか『影系モンスター』とかとはまた別種らしい。影系はともかく結構不明で不定だと思うんだけど、区別はなんなんだろう。ちなみにロックドットは『鉱石系モンスター』に分類されるみたいだから擬態とはまた違う。そこら辺はもうさじ加減だよね正直。
さておき、そして死体が光に消えたあとのドロップアイテムなんだけど。
あー、うん、そういうやつね。
「チェスの駒、っす?」
「ポーンですね」
そう、そこに残ったのはなぜか黒のポーンだった。
宝箱的な残念さを感じさせるドロップアイテム、せっかくなら盤と他の駒も揃えてみたいところだけど、そう上手くはいかないんだろうなあ。
なんて思いつつ、探索を続行してみる。
どうやら朝は主にダンジョンウォーカーが出没するらしい。都度都度全然違う姿をしてるけど等しく一撃の元に葬り去られて、そして落としていくドロップアイテムは控えめに言ってゴミというなかなか残念な仕様。ポーンが白黒ひとつずつしかないのにキングが白のみ六つあるし、チェス関係なくなんかポケットティッシュとかマグカップとかなんか普通に使えちゃう拡声器とか落とすし、まあ、ゴミ。一応全部拾っとくけども。
「宝箱とかないね」
「もっと奥に行かなきゃっすかねー?」
いいものもミラさんの所への道もない道中、まあおかげで順調に依頼は進んでくれているけど、それもあとダンジョンウォーカー数匹分だ。あんまり無駄にうろちょろし続けるのは面白くないし、どっちかっていうと先にミラさんの所にいって迷界探索したいところなんだけど、やっぱりそう上手くはいかない。
「もっと気軽に行けるようになりたいよねー」
「行き方も分からない」
「ユアさん補正でも無理っすか」
いやそんな補正ないから……あれ?
「あ、宝箱」
ふと見れば、建物の片隅に黒っぽい宝箱が落ちていた。
見つけた途端、きらりんが表情を輝かせる。
「ユアさんパワーっすね!」
「いやいや」
そんな都合よくいく訳ないでしょと苦笑しながらも、なにが飛び出してもいいようにと警戒しつつ、代表してきらりんが宝箱を開く。
ぱかっ、と開いたその中には。
「ユアさんパワーっすねっ!」
「……いやいや」
宝箱の中は、真っ白だった。
光っている訳じゃなく、影を飲み込むほど真っ白すぎてもう白々しいくらいだった。
多分きっと、普通の箱じゃない。
底があるのかないのか、一応宝箱をひっくり返したりしてみるけど、そこには穴もないし地面に埋まってすらいない。もちろん、中身が転がり出てきたりもしない。
「よし、じゃあ飛び降りで」
即決、まあ最悪でも死にはしないだろうと思い込むことにして、宝箱に飛び込むことに。
即決と言っても、みんなを説得するのにまた少し時間がかかったことは言うまでもないけど。
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《登場人物》
『柊綾』
・狩場が山から移ってしょんぼりな二十三歳。あわよくばπチャンスっていうのがなくなったことでちょっとテンション下がってたけど、なでなでと喫茶店でのイチャイチャにより完全回復した模様。
『柳瀬鈴』
・新魔法とか新装備に憧れの目を向けてる二十三歳。なかなか新しいものとか得にくいからなあ。とかいってロックドッツ戦でとんでもないものを得てるけど、それはそれ、ついに新装備ってなるとやっぱりそわそわするよね。
『島田輝里』
・西エリアリベンジに燃える二十一歳。一人だけ新装備も新しいアビリティとかもなにもなくて密かに疎外感を覚えていたりするけれど、もちろん綾には見抜かれていて道中のなでなでに若干の贔屓が見受けられた模様。言葉にも出されないそれに、だけど今のきらりんなら多分気づいたんだろうなあ。裏では着々ときらりんの侵食が進んでいる。
『小野寺杏』
・さらに近距離に強くなった十九歳。拡散ミクロにより至近の相手に4倍近くの威力で魔法を叩き込めるらしいよ。これがあったらロックドッツ削れたなあとか、今更思ったところで遅いけど。密かにまだ隠された機能が残っているという予定だけど、それを正式に採用するかは悩みどころ。
『沢口ソフィア』
・破壊の喜びに目覚めている十一歳。まあ手遅れだよ。さすがのあやもちょっと心配しちゃうくらい。とはいえまあ、例えばこれで二人きりとかなら破壊が降り注ぐ中でらぶらぶとか全然余裕でするんだけど。ちなみに『降り注ぐ滅火』を習得したことによって明確に火炎属性特化で方針が確定したよ。こいつほんと一直線に火力を目指していきやがる。ただ、とすると次辺りでMPが足りねえのよな。
『如月那月』
・新装備を手にしてちょっぴり浮かれ気味な二十四歳。十分な威力を得たことでフラストレーション溜まらなくなった。早く強敵と遭遇したくてうずうずしてるけど、まあそれを表に出すのは所詮三流、きちんと隠しております。なおあやにはバッチリ見抜かれてるけど放置プレイ食らってる模様。珍しく楽しそうだね、みたいな凍った視線をたまに頂戴する。おかげで矢を放つ度に昂っちゃうよね。とりあえず病院行け。




