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71話:そろそろ終わりが見えてきた気配

お待たせしました。

「死ぬかと思ったっすよ!?なにしてくれてんっす!?」

「ごめん……」

「いや、まあ、別に生きてるからいいんっすけど……」

「うん……」

「えっ、と」


 詰め寄ってみたもののスズがやけに消沈してるものだから、きらりんは戸惑ったように私に視線を向けてくる。


「ど、どうしたんっす?」

「んー、きらりんは気にしなくていいよ」

「あ、うっす」


 にっこり。

 笑えば、きらりんは顔を引き攣らせて哀れみの視線をスズへと向ける。

 優しいなあきらりんは。


「そんなことより、きらりん」

「は、はいっす?」


 びくっと反応するきらりんにときめきつつ、両手を広げる。

 目をぱちくりさせて、それからおずおず近付いてきたきらりんを抱き寄せて、よしよしと撫でる。


「お疲れ、いっぱい頑張ってくれたね」

「ぁ、い、ぃや!?ぜ、ぜんぜぜぜふつっすひょ!」

「そんなことないよ。いいこいいこ」

「あ、あふ、ぅ、」


 んー、きらりんの撫で心地がどんどんよくなっている気がする。

 これはいい傾向だ。それだけ、私に身を差し出してるってことだし。


「そ、それよりドラゴ……ってぼっこぼこっす!?」


 逃げるみたいに抱擁から抜け出したきらりんが、振り向いて驚愕する。

 その視線の先では、鎖戦士とアンズが地に落ちた双竜に一方的に攻撃を仕掛けている。

 まあ、そりゃあそうだよなあっていう。チャンスだし。でもきらりんはちょっと休憩しててもいいんだよ?頑張ってくれたし。というかこの機に甘やかさせてくれないかなあとか。


 思ってたんだけど。


「こ、こうしちゃいられないっす!」


 そう言って、きらりんは行ってしまった。

 残念。

 まあでも、終始私を意識してくれてたから、許してあげよう。


 ところで。


「リーン、立てないの?」

「ぅ、あい……身体ちょー重い……」

「ふーん」


 さっきからずっとうつ伏せで突っ伏したまま起き上がる気配がないのには、どうやら理由があるらしい。……ソフィ、耳元で「いいきみですわね」とか言わない。ナツキさんもそんな視線向けない。


 思い当たるのはやっぱりさっきの謎オーラだけど、そもそもあれはなんなんだろう。


「さっきのはアビリティ?」

「んー、多分……?」

「多分?」

「まだ確認してない……通知とか気づかなかったんだよねー……」

「なるほど」


 少なくとも、自分でとったやつじゃない……そりゃそうか。

 でも、とするともしかして私のあれみたいな感じで、まさかユニーク的な……?


 ユニークってそんなポンポン出るものなんだろうか……それとも、別にユニークに限らずそうやって勝手に取得できる?

 どのみちスズが確認しないことには分からない、か。


「鎧とか脱いでも起きれないの?」

「あー……」


 ぴくぴくと、指先が動く。

 しゅわん、と鎧が消える。

 するとスズは、ゆっくりと立ち上がった。


「あー……きっつー……」

「そんなに?」

「全身痺れてるかんじー……」

「うわあ」


 それはまた、可哀想に。

 まったく。


「ほらリーン、おいで」

「うぅ……」


 よろよろと、寄ってくるスズ。

 そして倒れ込むように抱き着いてくるのを、抱き返す。


「守ってくれてありがとね」

「んゃ、それがわたしの役目だから」

「そっか」


 よしよしと、頭を撫でる。

 少しでも楽になるようにと、全身を撫でる。

 顔を歪めながらぴくぴくと反応するスズが可愛くて、笑みがこぼれる。


 まあ。


「おしおきはおしおきだけどね」

「………………ぁい」


 それはそれ、これはこれ。

 まあ甘んじて受けてもらおう。


 そんなことより、さっきから見てるのにほんと双竜が動き出さない。

 なんやかんやあって人形軍団のときほど削れてはいないと思うんだけど、それでも次に移るんだろうか。いまいちその条件も分からないんだよね。でも、見た感じ攻撃はやっぱり全然通らないみたいだし、まだあれは竜のままっぽい―――


 と、そんな所で。

 みしり、と軋む音。


「うごくっす!」


 きらりんの警告の声、と同時にピシピシと鎖にヒビが入ってゆく。

 声をかけるまでもなくみんなは動き出していて、すぐに私の周りを固めた。


 ゴリゴリと岩の擦れる音と共に変貌してゆく。

 岩の小山が、徐々に縮んでゆく。

 見つめる先で、そしてじきにその変化は途切れる。


 地に伏す竜が、ゆるりと立ち上がる。


 四肢が地を踏み、二枚一対の翼が広がる。

 その勢いで砕けた鎖が散る中で、四つの目が私たちを睥睨し、重なるように上下に開いた二つの(あぎと)が獲物を求めてガチガチと鳴る。

 二本の尾が地面を叩き、そして竜は(いなな)いた。


「「――――――ッッッ!」」


 咆哮あげるは異形の竜。

 いやもっと簡単に言えばそれは。


「が、合体……?」


 そう、合体。

 飛竜と地竜が、その躰をひとつにしてしまった。

 にも関わらず、その身体は竜一体ほどのサイズしかない。

 見ればその身体を構成するロックドットはその一つ一つが今までよりも小さく、密集している。それはつまり画素数が向上したようなもので、だからその竜は、ただでさえ迫力のあったさっきの双竜とは比べものにならないほどにリアルで。

 その脈動すらをも感じられる程に、生きている。


「うおー!かっけー!」

「分かってるっすねぇ!」

「ありがち」

「もやしがいがありそうですの」

「そうきましたか」


 もっとこう、危機感的なものはないんだろうかと思わないでもない。

 思わないでもないけど、まあどうせやることは変わらないし、それでも油断とかそういうのとは無縁なんだろうけども。


「「―――!!」」


 そしてそんな私たちへと、竜が猛りを上げて突進してくる。

 迫る地響きと土煙、その勢いはあの地竜よりもなお激しく。


 だから私は告げる。


「回避―!」

「へ、へるーぷ!はしれなーい!」

「まじっす!?いやおっけっす掴まるっす!」

「ありがとぅー!」


 スズがあまり動けなくてきらりんに運ばれるというちょっとしたアクシデントはありつつ、方向転換なんてことを微塵も考えていないらしい竜の疾走を回避、って尻尾危な!?今めっちゃ真後ろ通過したんだけど……まあナツキさんがそんな初歩的なミスをする訳もないけども。


 いやうん、そりゃあ、回避一択だ。

 アンズなんかはしれっと魔法を叩き込んでるけど、やっぱり効果は薄いらしい、破片すら飛ばない。そんな相手を、スズが本調子じゃない上にヒリスペじゃない状態で迎え撃つとか、絶対無理だし。というか地竜でギリギリだったのにさすがにこれはスズ一人じゃ荷が重すぎる。

 かといって、アンズの攻撃を見る限り多分さっきの双竜以上の硬度を持ってるだろうミチミチドラゴンに攻撃を通そうと思ったらやっぱり鎖戦士は必須だし、さてどうしたものか。


「どれくらいでいけそうっす?!」

「わ、分かんない!」

「まじすか……」


 とりあえずスズがいないときついというのは共通認識なんだろう、だけどスズの復帰はいまいちいつになるか分からないらしい。

 またしばらく逃げっぱなしかな……え。


「うわぁ」


 視線の先で、竜が飛ぶ。

 走行の勢いをそのまま乗せてテイクオフからの戦闘機もかくやというアクロバット飛行、宙返りと横回転によって真逆を向いた竜が、そして私たちへと狙いをつけて急降下。

 その間の減速は一切なし、なんなら降りるときだけ重力加速度を味方につけることで最終的には加速してるっていう。


 物理法則ガン無視(あんなところ)まで受け継がれてるよ……。


「避けてー!」


 悲鳴じみた絶叫を上げてしまうけど、さすがのみんなは今更その程度でどうこうなる訳もなく、降下する竜の方へと敢えて方向転換することでその真下を通過、自由意志を持ってるのかってくらい自律して襲いかかってくる尻尾を回避することで、見事にすれ違ってみせる。


 かと思えば。


「ひぇっ」


 竜、まさかの再反転。

 だんだん強く(クレッシェンド)を描くくらいの鋭角な切り返し、振り回された尻尾が地面を抉って、なんなら背中が地面を摩って土埃を上げながらも衰えることのない速度で逆さ向きの竜が迫る。


「馬鹿じゃねえっすか!?」


 さすがにきらりんも悲鳴を上げるくらいの暴挙、とはいえ諦める訳もなく、各々がそのステータスとプレイヤースキルを全力で行使して回避のために動く。


 くんっ、と視界が下がって。


 とっ。


 ナツキさんが、跳ぶ。


「わ」


 走っていた勢いをそのまま逆転させるみたいな背面跳び。

 その初速度はかなりのもので、だけどそれを感じさせない程に軽やかに、穏やかに。

 跳躍角45度くらい、高さよりはむしろ移動距離を意識したその跳躍によって、なんとも無茶なことに竜の上をゆく。


 ふわりと浮遊感の中、みんなの様子を見下ろす。

 竜の頭を足場に駆け上がってそのまま逆さのお腹の上を駆けるきらりんと、米俵みたいに抱えられるスズ、あとそんなスズに鎖でひっつく鎖戦士。迎撃するみたいに襲い来る四肢をひいこらいいつつ避けてるきらりんの一方で、スズはめっちゃ楽しそう。というか鎖戦士まで抱えてるとか、きらりんすごいなぁ。あとで労う分を増量しよう。

 アンズはといえば、ステータス的な問題もあるんだろう、翼の付け根辺りの隙間を、杖を活用しつつ器用にくぐり抜けている。正直一番やってることが理解できないけど、多分やれるという確固たる自信に基づいてやってるんだろう。


 みんな無茶するなあとか思っていると、浮遊感が反転した頃に、私たちの方にも襲いくる尻尾。

 分かっていてもナツキさんにきゅっとしがみついてしまうけど、ナツキさんはそんな私に微笑みを向けながら、その尻尾をむしろ足場に加速、そのまま空中で一回転するとしゅたっと地面に着地する。


 一番乗りはナツキさん。


「すごっ」

「これくらいはしてもらわなきゃこまりますの」

「不本意ながら、お嬢様の言葉の通りです」


 いや、不本意とか言わないでね。一応勤め先の一人娘なんだから。


「どらっしゃああああっすぅ!」

「おおおー!」


 二番手は、今まさに竜の身体から飛び出すきらりんと歓声を上げるスズ、あと鎖戦士。


 そっちにも即座に襲い来る尻尾だけど、ここでまさかの鎖戦士のアシスト。

 先んじて地面に突き立てられていた鎖を巻き戻すようにして自身の身体諸共に引っ張ることで、その射程圏外へと辛うじて離脱する。


「ナイス!っすけどこれやばぁ!?」


 後押しによって空中でバランスを崩すというまさかのミスに、きらりんの悲鳴が上がる。

 それでもなんとかきらりんはまるで新体操みたいに飛んだり跳ねたりして勢いを殺しきって、なんとかかんとか着地。


「し、死ぬかと思ったっす……」

「あはははは!おつかれー!」 


 一人で大爆笑するスズだけど、多分スズの身体を鎖が固定してなかったら多分酷いことになってたと思うよ?よくあれでそんな喜べるねほんと。

 というか鎖戦士優秀すぎかな……?


 そして三番目はアンズ、目を離した瞬間はもちろんないけど、それでも拍子抜けするくらい呆気なく通過して傍に寄り添っていた。


 とはいえそこで一息をつく間もなく地を滑る竜は再度反転、ついでに尻尾の先を飛ばしてくるという抜け目のなさを見せつけてくる。

 これはちょっと、きつい。

 攻撃の機会はなくはないんだけど、有効打を与えられるタイミングがなさすぎる。


「ちょっと作戦思いついたんっすけど、いいっす?」


 悩ましく思っていると、尻尾ミサイルを回避しながらきらりんがそんなことを言った。


「もちろん。どんな作戦?」

「えっとっすね、やっぱ鎖がないとアレなんで、あいつに鎖を絡ませたい訳っすよね?」

「そうだね」


 ワクワクしつつ頷けば、きらりんは若干気圧されたみたいな様子を出しながらも続ける。


「なら、私がやるっすよ。鎖」


 さらっと告げて、きらりんは竜を向く。


「つって、さっきやったんっすけどね」


 きらりんの思惑は、とても分かりやすくて。


「よっしゃー!がんばれー!」

「……リーンがいなかったら難易度激減するんっすけどねっ」


 いや、別にそんな無理しなくてもいいよ……?


 ■


 《登場人物》

(ひいらぎ)(あや)

・ほんと最近お荷物が板についてきた気のする二十三歳。抱えられてることへの申し訳なさとかそういうのが欠片も無くなってるような。本体より付属パーツの方が強いという状況が改善することはありえないとして、もう少しこう、自立できる力がほしい所。まあ、こいつが自分で立つ機会とか今後減る一方なんですけどね。


柳瀬(やなせ)(すず)

・お荷物第二号となった二十三歳。付属パーツがないという点においてほんとただのお荷物。なんなら無駄に空気読めないハイテンションのせいでたまにイラッとくることも。けど、あやが音を上げたきらりんに担がれても余裕とかそれはそれですごい気もする。というかあの謎オーラの正体明かされずってマジですか?戦闘終了までお預け?うせやろ……。


島田(しまだ)輝里(きらり)

・運ぶならあやがよかったなあとか思う余裕すらない二十一歳。そんなだからほかの恋人連中から格下扱いされるんやで。まあこの竜討伐にあたって一番頑張るのは多分君やからね、頑張りや。まああや視点な時点でその頑張りはそこまで長々描写されないという哀れな結末は確定しているんだけども。大丈夫、それでもあやはちゃんと分かってるから。めいっぱいよくしてもらえるよ、きっと。いや、残念ながらえちぃのはなしですけど。


小野寺(おのでら)(あんず)

・火力不足に悩まされる十九歳。言っとくけどてめぇのそれで火力足りてねぇとか正気じゃねえからな?同レベル帯の魔法使いの中では総合火力断トツだかんな?まあそれでも、その上で火力不足を補う魔法をそろそろ覚えれるから待っとり。というか、今回の竜ももうちょっと火力集中させれば結構削れるんだぜ?あと物理的損傷とダメージは結構別物だかんな?そこんところ忘れてない?


沢口(さわぐち)ソフィア(そふぃあ)

・筆者が運用下手すぎて空気感滲む十一歳。ヤンロリビアンとか最高だしもうちょっとソフィをグイグイ出していきたいんだけど、ゲームの中だとこいつただの放火魔だからなあ……。まあおんぶされながらずぅぅぅぅぅっとあやのことをガン見してますけど、そんなん全く大したことないですし。リアル編でもデートしたし……あれ?こいつ実はめっちゃ使いづらいのでは……?


如月(きさらぎ)那月(なつき)

・困った時の(ryな二十四歳。また頭おかしいことしてる。AGIとSTRの両立ゆえですね。ゲーム的法則と物理法則が一緒に存在して都合よく解釈されてる世界なので、AGIによって初速度は増加しても重力加速度は一切変わらないという現象が発生して結果STRゴリ押しよりAGIありの方が遥かに跳べます。まあ、それでも色々システム的に色々制限はあるんですけど。


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