67話:感情的なあれこれを戦闘後に後回し
短めですが。
なにはともあれ、私が望んだ以上みんなにとってそれは最優先事項となってしまう訳で。
少なくとも今このとき、私が進んでロールプレイをしようと意気込んでる現状において、なんならこれからもそういう方針でゲームに参加しようとそんなことを決意してしまった以上、このゲーム内でなら絶対女王政を敷くことなんてそんなに難しいことでもない。
私はただ命じればいい。
「じゃあ手始めに、『あの軍勢を迎え撃つところから始めるよ』」
なんとこれでも命令判定は通るらしい、独特の感覚とみんなへのバフエフェクトが発生してくれる。
それがひとつ私が譲るつもりはないという証に見えたんだろうか、体勢を立て直したり立て直せなかったりしつつ結構近くまで進軍してきていた岩の人形たちを迎え撃つために、みんなで固まる。
「この領域の中は敵のSTRとVITが下がるから」
言いつつ、これ大人しくヒリスペでよかったんじゃないかという気にもなっていたけど、まあ、うん、ね。運用限界ギリギリを狙った領域は、今となっては結構範囲もあるし多分大丈夫……鎖戦士がどんな性能か分からないのがちょっと不安だけど。
ともあれ、ひとまず準備はそんなもの、仕切り直しからの戦端を開くのはやっぱりきらりん。
「んじゃお先っす!」
そう言って、わざわざスズの身体を足場に岩の軍勢へと跳んでゆくきらりん。
空中、仰ぎ見るように身体を逸らす人形たちのただ中へと落下しながら足を振り、その勢いによって身体を回転、同時に手の中から解放した玄武の鞭先を投げ飛ばすように振るう。
ばぎゃぁっ!どざっ!
その一撃は一体の人形の腕を肩の辺りから砕き落とし、さらに周囲の人形の頭の部分を抉り抜く。
きらりんはそのまま人形の上に着地、そして愉快そうに口角を上げて人形を見回す。
「言っとくっすけど、わたしアダマンタイト砕いたことあるっすからね?」
なにその武勇伝。
その言葉に対して、ザワりと人形たちがざわめいた……気がする。
なんだろう、岩だからこそ通じる脅し文句みたいな感じだろうか。というかまずそもそもこのゲームの中でアダマンタイトって通じるんだろうか。謎だ。
「『よっしゃぁぁあああああ!こいやぁぁぁぁぁあああああああああああ―――!!』」
次いで、敵のヘイトがきらりんに向かったところで、それを横からかっさらうようにスズが叫ぶ。そもそも耳はあるんだろうかと疑問符を浮かべていると、奥にいる岩の巨人が応えるように声なき咆哮を上げる。
途端、きらりんに引っ張られていた意識がスズ、ひいては私たちの方へと向いて。
「よゆうっすねー」
言ってるきらりんの方が余裕の口ぶりで、ちょっかいをかけるように身体の一部を砕かれた人形がきらりんへとヘイトを向ける。おかげで再度進軍する流れともたついて隊列がグダグダになるっていう学習能力のなさに笑えてくるけど、まあ私たちからすれば儲けものだ。狙い通り思惑通り、ここからの展開もそうなってくれると嬉しいなあ。
そんなことを思っていると、そろそろ隊列がアンズの有効射程に入りそうになる。
つまり拡散をまとめて叩き込める程度の距離ということで、領域からは少し外なんだけど、圧迫感が結構ある。
一瞬気圧されそうになりながらも前を見据えて、アンズに応援の声でもかけようかと思った瞬間。
鎧戦士が、動く。
その見た目や雰囲気とは裏腹に結構機敏な動作で両手を広げる。
すると鎖がジャラジャラと音を立てて、ただ振るわれたからじゃない、まるで宙を這う蛇のような動きで岩の人形へと飛来する。
そして人形歩みとは比べ物にならない速度で飛来した幾条もの鎖が、避ける間もなく人形たちにまとわりつく。どうやら鎖は霊戦士の身体から生えでているらしい、ジャリジャリジャリ!と音を立てながらどんどん引き出されていっては、次々に人形の身体に巻きついてゆく。
あっという間に、最寄りの十数体ばかりの人形に巻きついた鎖たち。
どうやらあれが鎖戦士の能力らしい。
ぎちぎちと音を立てる程度には強い拘束、例えば私なんかだったら一本でも事足りるんだろうけど、相手は岩の塊だ。その巨躯を動かすだけの力は当然に持っている訳で、関節に巻きついたりしている鎖が酷く邪魔そうではあるけど、それでも歩みは止まらない。
これだけか、あるいは―――
「■■■■」
連射される闇の槍。
拡散ではなく多分『強力』を付与しているんだろう、なんとなく闇が深まった気がするそれは刹那の間に彼我の距離を食い破って、そしていとも容易くその身体を砕き穿つ。
更に続けて、何本もの矢が追従するように飛来する。
一体あたり三本程、片足の関節部に深々と突き刺さることでそれを破壊、自重に耐えきれず何体もの人形が地に伏すこととなる。
「ん、柔らかくなってる」
「そのようですね」
その光景に、どことなく機嫌が良さそうに頷くアンズと、淡々と矢を連射しながらもちょっと楽しげなナツキさん。
破壊された部分のロックドットが次々光に召されてゆくのを眺めるのは結構爽快で、多分さっきの獣形態のときに溜まったフラストレーションとか結構解消できてるんだろう。矢とか、通らなかったもんなあ。通ってもやっぱり威力は結構減ってたし。
よし、じゃあ、そうだなあ。
「鎖さん、それって数が多いほど効果高くなったりする?」
「―――」
んー、多分肯定、かな。
なるほど。
「じゃあ鎖さん、標的を少なくする代わりにその分鎖の数を増やして、あと拘束時間は攻撃が当たるまででいい、とか、できる?」
「―――」
ああ、これはやっぱり肯定だ。
凄いなあこれ、普通に意思の疎通できるんだ。
「じゃあそれで。『鎖さんは全力で弱体化させて、リコットとなっちはそこで仕留めて』」
「―――!」
「了解。■■―――」
「かしこまりました」
命令は即座に受諾されて、私の指示通りに動き出す。
鎖の拘束は密度を増して、その代わり魔法と矢が殺到するなり即座に解放して次の獲物へ。後に残るのは身体を欠損してその場に崩れ落ち、ロックドットに戻る岩人形。放置してると岩人形の隙間を縫って後退していくっぽいけど、それを追撃とかはしない。少なくとも立ち上る光を見る限り結構な数のロックドットを処理できてる訳で、そこまで欲張る必要はないだろう。
「えげつないっすねー!」
向こうで部隊を撹乱しながら平然とよそ見をしていたきらりんが、なんとも楽しそうに笑う。獣形態のときとは打って変わって目に見えて減っていくのが嬉しいんだろう。ちょくちょく地面に向けて鞭を振り下ろしてるのを見るとどうやら敗残兵の処理までやっているらしいから、後でめいっぱい労ってあげよう。
と。
鎖戦士が存外に優秀すぎたものだから結構余裕がでてきたこっち陣営に対して、未だに全然削れてないっぽいとはいえみるみる数を減らしてゆくあっち陣営は結構危機感を抱いているらしい。
その怒りを示すように、またしても巨人が声なき絶叫を響かせる。
そして手近にあった人形をむんずと引っ掴むと、その人形はみるみる形を変える。
ごりごりごりと岩のこすれる音を立てながら、腕が纏まり、足が纏まり、細長く、だけど先端は鋭く……あー、うん。
そして完成した岩の槍を、巨人は大きく振りかぶって、そして。
ぶん投げた。
「ぅ、わ」
それはもう、槍投げ世界記録っていうくらいの豪速球……いや球じゃないけど、ともかくそのサイズと速度はもはや槍っていうかミサイルで、一瞬呆気に取られてる間にも距離の半分ほどを貫いて。
「う、『撃ち落として!』」
「■■■!」
言うまでもなくタイミングを見定めていたアンズの攻撃に、命令が間に合う。
逸らそうとする訳でもなく、真正面から衝突する闇の槍と岩の槍。
ばぎょあ!
凄絶な音とともに先端が砕け散り、なんなら穂先は完全に空中分解して、だけどそれでも止まらない―――
いや。
止まらないけど、速度はかなり減衰した。
それは本来の落下点である私たちの場所には絶対に届かない程度のもので、だから、ということは……あ。
「は、え、はぁ!?まじっすぅ!?」
きらりんの悲鳴。
そりゃあ、私たちに届かないっていうことは岩人形の隊列のど真ん中に落ちる訳で、そして偶然にもきらりんは丁度その真正面にいて。
「シャレにならないっすよこれぇ!?」
そんなことを叫びながらも、全速力でその場から離脱するきらりん。
そして岩の槍が、岩人形の群れへと突き刺さる。
どごぎゃがぁ!!
と、槍もそこにいた岩人形も、その尽くが落下の衝撃によって砕け散る。
立ち上る土煙と光の粒子がその被害の甚大さを示していて、なんというか、敵ながらすごい哀れだなあとか、砂埃にまみれながらそんなことを思った。
ちなみにきらりんはちゃんと完全に退避できて、破片もきちんと避けきったみたいだけど、破砕音の向こうですごい抗議の声を上げてるのが見える。あとでほんと、めいっぱい労ってあげよう……。
って。
え、いや、性懲りもなく第二投……?
「リコット!」
「ん。余裕」
はたしてアンズの言葉通りに、学習能力がないのかそれとも連射したらいけると思ったのか、放たれた二投目はさっきの二の舞になって墜落する。微妙に位置が違うおかげでまた結構な数の岩人形が犠牲になって。
そして、まさかの第三投。
「えぇ……」
「パターン入った」
当然のことながらアンズに嬉々として撃ち落とされて、三の舞。
さっきから破砕音の向こうで微かに聞こえてはまた掻き消えるきらりんの悲鳴がほんともう、なんか、哀れ。きっと岩人形たちも悲鳴を上げたいだろうに……。
そんなことを思っていると、さすがに四の舞とまではいかないらしい、まるでなにごともなかったかのように巨人は再度進撃する。心なし足が早い気がするのは気の所為なんだろうか、いや気のせいじゃないっぽい、岩人形を掻き分けてきている。埒が明かないと判断したんだろう、物量プラス質量で押し切るつもりといったところか。
ここからが正念場かな。
あの巨人対策、考えてるか考えてないかでいえば考えてないんだけど、なんとなく、こう、自然と結論は決まっていた。いや、もちろんみんなの中で色々考えはあると思うんだけど、少なくとも私の中では。
「っしゃー!かかってこいやこのぼくねんじーん!」
……やっぱちょっと真面目に考えようかなこれ。
なんだろう、頼れる背中のはずなのにそこはかとなく頼りないっていうね。
いや、任せっきりにするつもりはないし、ちょっと話し合いはするんだけど、それでも私の中で中心に据えてたのはスズなんだけど……大丈夫かな……朴念仁って、意味分かって使ってないじゃん絶対……。
「今からでもヒリスペに……?」
なんて呟くと、鎖戦士が振り向く。
「―――」
……なんとなく、こう、そんな殺生な!?みたいな感じのことを言いたそうな雰囲気を醸し出している。なんだろう、表情とかいう概念もないはずなのに感情豊かすぎやしないだろうか。
いや、まあMP足りないし足りててもそんなことしないから安心してね。
まあ、うん。
とりあえず、鎖と力を合わせたらなんとかなる……かな……?
■
《登場人物》
『柊綾』
・思えば自分の足で立って戦闘してるのすごい久々な気がする二十三歳。領域使ってても結構座ってたりする気が……記憶にないだけかもしれない。まあ今後もそういう感じのスタンス。少なくともアグレッシブに動いたりとか絶対ありえない。でもあや……というか霊戦士って総じて優秀なやつ多いから結構いると助かる。特に今回の鎖戦士、絶対値じゃなくて割合でSTRとVIT下げるから硬い相手にはめっぽう強い。ただ、効果量も鎖の硬度もあやのINT依存だからあんま強敵すぎると効かないしすぐ砕かれる。獣相手だと絶対無理。巨人は微妙。ところで新魔法ですが、考えてみたらどうせMPが少ないので確認は多分戦闘終了までお預けになりそうです。まあどうせ使えないし使う意味もそんなないんですけど。
『柳瀬鈴』
・今回出番皆無な二十三歳。セリフを用意しなかったのは最後のあたりで『あ、お前いたんだ』みたいな感じを出したかったからだけど別になんら意味はない。というか、まあ、どうせいつも通りわーぎゃー言ってるだけだからいいかなって。しかしながら次の回では結構働けそう。そして展開によっては……?いや、まだ時期尚早か……。あと久々にプロボーグ(名前これだったか……?)使った気がする。それはつまり久々にあやを抱っこしてないっていうことなんだよねっていう。
『島田輝里』
・一人で軍勢の真っ只中で暴れ回って頑張った挙句ミサイルを落とされた二十一歳。領域を囲まれたりしないようにとか結構気を使って働いてるんだけど、その見返りがこれとかそれブラックどころじゃないんやで。まあ後であやに存分になでなでされるがいいさ。一人孤立してるはずなのにスズよりセリフあるのは無意識な差別なんだろうかとか密かに思う今日この頃。ちなみにアダマンタイトは二時間殴り続けて砕いたらしい。なお某Aさんは一撃でかち割った模様。まあ過去の話ですね。
『小野寺杏』
・思い返してみると実は結構真っ当な後衛やってるんじゃないかと思えてくる十九歳。一応前衛技能においても結構比類なきレベルなんだけれど、思い返せば対モンスター戦のときって結構普通に遠距離で魔法撃ってるような気がする。今回もそうだし。まあ、あんまり近接技能を生かせるようなタイミングがないのも確かなのよね。ともおったら最近岩人形相手に無双してたわ。ごめん、やっぱお前はやべえやつだ。
『沢口ソフィア』
・待機中な十一歳。もう少し、もう少しだ……!でも使い所結構悩むな……オーバードスペル使いたがりそうだし……誰だそんなおもちゃこいつに渡したやつ!筆者でした。次の極振りアビはまだ先だし、そろそろ新魔法を覚えてもらうことにするか……多分そろそろINTだけでも条件満たせそうですし。まあ、雰囲気でやってるからその辺は完全に筆者の裁量ひとつなんでげすが。
『如月那月』
・矢の数が結構切迫してるからそろそろやばめな二十四歳。でも体感的に鎖付きなら普通にやれんことはなさそうだなあとか思ってる。スズの大剣があれば多分余裕。なにげにこの中で実質的に弾数に限りがあるのってナツキさんだけなんだよね。そこんところなんとか解消してほしいっていう要望を伝えてないけど、もちろんπちゃんは考慮してますよ。




