65話:モザイクアート
長らくお待たせ致しまして、大変申し訳ありません。
少し色々あって筆を取れておりませんでしたが、とりあえず峠は超えたのでやっとこさ投稿できるようになりました。
ところで、気がつけばブックマークが100件を超えていました!
つまり少なくとも100人が僕の投稿を待って下さっていると自惚れてもいいのでしょうか、こりゃあタラタラしてられねぇぜと背筋が伸びる思いであります。
更新が遅くなろうとも途中で放り投げるつもりは毛頭ありませんので、どうか今後とも『姫的な彼女のゲームの話』をよろしくお願い致します。
諸々の話をなにか書きたいな……。
二度目の自由落下。
なんだろう、塔の罠の落とし穴が長すぎたおかげで結構慣れてしまったらしい、今更特にこの浮遊感になにを思うでもなく。強いて言えば一緒に落ちてる瓦礫がちょっと危ないかもなあ、くらいだ。
とはいえ今回はさすがに落下対策を取らなきゃ普通に死んでしまいそうだから、そうどこまでも余裕でいられる訳でもない。というか、ほんと私とかソフィなんかはちょっとした衝撃ですぐ死んじゃいそうだし、どうにか上手いこと落下の衝撃を抑えるように頑張ってもらいたい。
例によって例のごとく、私に出来ることは応援くらいしかないのだった。
「頑張れー」
「だめかもー!?」
スズの叫びが木霊する。
頼りないとは、まあ、思える訳もなく。というか正直多分あと数秒でお陀仏とかいう状況で落下の衝撃をなくす方法とか結構無茶があるよなあと、密かに思ってるのは多分きらりん以外にはバレてるんだろうけど、みんなが……特にアンズが諦めてないあたりを見るになんとかなるんだろうか。ちょっと想像できないんだけど。
なんて思ってると。
「ユア姫をこちらに」
「へぁ!?」
するり、と。
当事者である私が気づけないほど軽やかに、ナツキさんが問答無用でスズから私を奪い取る。驚愕の声を上げたスズは、だけど抗議は視線だけに留めて、即座に白く輝く鎧を纏う。あれは完全に諦めたんだろう。
見上げれば、至福とばかりに頬を緩ませたナツキさん。ついでに酷い嫉妬の視線を、ナツキさんでなく私に向けるソフィ。多分図らずもナツキさんのお姫様抱っこということになって、結構ドキドキとか嬉しさとかが滲んじゃってるんだろうなあとか、まあ、うん、一応自覚は、ね。
「大丈夫なんっす!?」
結局のところ状況はなに一つ変わっていないと、そんなふうに思ったのかきらりんが悲鳴じみた声を上げる。
それに対してナツキさん、問題ありません、とその表情で雄弁に語るけど、多分それきらりんには通じてない。
とはいえ、それを告げる間もなく、戸惑いと嫉妬と屈辱とその他色々な感情のひしめく一団は、そして地上へと落下する。
特に対策っぽい対策をしてないけど大丈夫なんだろうか。
そんな心配は、まあ、なんというか、ナツキさんの前には杞憂でしかなく。
しゅたぁっ。
と、ナツキさんは至って普通に着地した。
結構膝を曲げているとはいえその着地姿勢は、『飛び降りるにはちょっと勇気がいるけど飛んでしまえば別になんともないよね』っていう程度の段差から飛び降りたくらいのものでしかなく。
ナツキさんは、まるでなんの気負いもなく、私を見下ろして……いや、終始私を見つめ続けてたけど、ともかく改めて私の様子を伺う。
「お怪我はありませんか?」
「あ、うん、大丈夫です……」
ほんとどういう物理法則に生きてるんだろう。
片や凄絶な音ともに地面にめり込んだスズとか、瓦礫を利用して勢いを殺したアンズやきらりんとは、なにやら住んでいる次元が違うらしい。
さすがはナツキさんだなあ、と。
感心を言葉にするよりも前に。
「ちょ、上っすうえ!止まってる余裕ないっすよ!?」
きらりんの悲鳴、なにごとかとナツキさんの表情から視線を外す―――
上からめっちゃ岩降ってきてた。
「なっち!上!うえ!」
「ええ、存じ上げております」
言うなり、ナツキさんはすすっと動き出す。
ずどんずどんと、落下してくる岩の隙間を縫って、淀みない足取り。
微塵も揺れとかを感じさせない素晴らしい抱かれ心地はもちろんのこと、視線が一瞬も私から外れてないのに普通に落ちてくる岩を避けてる辺りがやっぱりスズとの違いか。わざわざ、そんな比べるようなことを口にするつもりはないけど。
ちなみにスズ、もう諦めて岩石に打たれ放題だったりする。
さすがπちゃん謹製なだけあって鎧の性能がいいらしい、雄叫びを上げながらのっしのっし進むスズの勢いは衰える様子を見せないけど、もうちょっとこう、なんとかならないんだろうか。
まあ、ともあれ。
ひいこら言いながら天井の穴から距離を取って、どう考えても崩落だけじゃ辻褄が合わない量の岩山となった落石を見上げる。
どうやらこの場所は広場になっているらしくて、明らかに決戦場的な趣を感じさせるんだけど、目の前の岩山はその五分の一くらいを埋めているんじゃないかっていう程度に大きい。少なくとも、多分私の運動神経じゃ登りきれないだろう。まあ、それでも規模的には森の亀より随分劣ってる感じだけど、あれは比較対象が悪いか。
ところで。
「ここからどうなると思……あー、ごめんやっぱいいや」
口にした問を即座に引っ込める。
見上げるその先、山の頂上の、そのまた上空。
なるほど月光の集まったと表現されるだけあって柔らかな光を湛えて、暗闇の中にあってはその名に恥じないそれが、岩山目掛けて一直線。
どちらかというとこれ流れ星的な感じだよなあとロマンチックの欠片もない感想を抱きつつ。
眺める先で、流星墜つ。
岩山の中に光が消える。
脈動。
沸き立つように奮い立つように、岩山を構成する岩々の全てが立ち上がる。
即座に発動した観察の目で、その異常を見極めんと……あー、それでもまだまだ遅いけど、とりあえず名前からして敵のことはほとんど分かったかな。
『ロックドッツ』
L―――
すっごい分かりやすいことに、つまりあれはロックドットの集合体らしい。
ドット絵的なことなんだろうか、まあ果てしなく山でしかないんだけど……お?
蠢く岩山が形を変える。
ドットのひとつひとつが動いて、組み合わさってパーツになって。
四肢、胴体、頭、尾、形作られてゆくそれらは、岩々の形の違いを活かしているのかもしれない、ごつごつと境目が分かりながらもとても自然で、そうあるものなんだろうと思えてくるようなクオリティ。
このタイミングで攻撃を仕掛けないのはせめてもの良心というかゲームを楽しもうという姿勢の表れと見るか、それとも私が結構楽しんでるから静観してるのか……まあ、みんなそれぞれの思いを心中に抱きつつ。
なんにせよなんの妨害もなく変形を果たしたそれは、元の岩山とは似ても似つかない巨大な獣の像となった。
獣。
具体的な似てるやつはちょっと思い浮かばないけど、牙に爪にたてがみ、背中には山脈のように連なるトゲが生えて、よく見れば尻尾の端っこにはトゲ付きの鈍器みたいな塊がついているという、なんだろう、とりあえず強そうな部分を色々集めてみたっていうような雰囲気を感じさせる獣。
原型が謎すぎて結局クオリティが高いのか低いのかもう訳分かんないけど、こう、今にも動き出しそうなリアリティとか臨場感がすごい。
なんて呑気に思っていると。
形を成した岩の獣は、その眼球どころか瞼までをも再現した目で私たちを見やり、なんとも表情豊かに睨みつけてくる。ぐるるる、と唸り声こそ聞こえないものの、むしろそっちの方が違和感のあるくらいの細やかな動作まで再現……再現?して、そして生きてるかのごとくスムーズな動作で臨戦態勢に……うん、まあ、ね。
そりゃあ、戦闘になるのは分かりきってたし、そこは別になんの問題でもないんだけど、えっと、大きくて速そうって、もしかしてこれ、私なんも働けないやつかな……?
■
案の定というか、働けないどころかむしろ足でまといでしかないっていう現状、一言物申そうにも所詮足でまといの分際だしなによりみんなのモチベーションがかえって上がってる感すらあるっていう事実がちょっと心地よくてなんかもう、ほんとどうしようもないな私。
そんなふうに自分を卑下するくらいしかほんとやることがない。
いや、応援とか敵の観察とか応援とか応援とか一応役目はあるんだけどさあ、こう、違うよねっていう。
なにが悪いって、いや私のプレイスタイルというかπちゃんの言うところの生き様が悪いんだけど、それは棚に置いた上で言わせてもらうなら相性が絶望的に悪すぎる。
なにせ相手は小山を築く程の岩石によって構成された100/1スケールと言われて納得できる獣像な訳で、その巨躯からくる圧倒的なストロークによる高速移動と言わずもがなの超大質量を考えれば単純な破壊力はトラックだのダンプカーだのそんなちゃちな次元じゃない。気分的には隕石と正面衝突するくらいのもので、亀の頭突き一発を食い止めるのに全力を尽くした私たちが、多少は成長したとはいえ迎え撃つような体制をとれる訳もなく。
とすればもちろん、戦法はヒットアンドアウェイという形しかとれやしない。
するとどうだろう、自力では逃げ切ることすらできずかといって迎え撃つ力もなく、隠れられる場所もなにもない現状にあっては正しくお荷物でナツキさんに抱かれるがままという結果に甘んじるしかなく。なんだかんだスターが結構勤勉で、ちょっと劣等感とか抱かないでもなかったり。
だからまあ、つまり結局、みんな頑張れっていうことで。
ちなみに戦闘シーンはこんな感じ。
「ぅおらっす!」
跳躍、捻転。
回し蹴りのように振るわれる足の勢いと身体の捻りでもって回転しながらの刺突。遠心力と腕力とによって突き出された大剣が、疾駆する岩の獣を構成するその点の隙間を凄絶な破砕音とともに穿つ。
突き刺さったのは、だけど切っ先からほんの数センチまで。
そもそも隙間なんてあってないようなもので、意思持つ岩で構築されるそれを無理やりこじ開けるのはきっと単なる岩壁に突き刺すのと遜色ない。
「かーらーのーっす!」
とはいえそんなことは百も承知、きらりんは突き刺さった大剣を支柱に獣の胴体を蹴飛ばし、その勢いのまま突き刺さる大剣の腹を勢いよく蹴り飛ばす。
理系でなくとも知っている、その原理の名を梃子という。
バゴッ!
と、獣を構成する点のいくつかが纏まって剥がれ吹き飛ぶ。集団としてのまとまりを失ったそれらは空中で分解、個々のロックドットとなって飛んでゆく。
待ち受けるは、アンズ。
身体的ステータスの低さ故にある程度距離はとっているけど、アンズにとってそれは大した問題じゃない。
「■■■■■」
寸前まで獣の一部として移動していたその慣性力と吹き飛ばされる勢いによって結構な速度で飛散する岩々へと、アンズの魔法が殺到する。アンズから標的までの距離、到達時間を当然のように計算に入れられた偏差射撃、凝縮された闇の槍が、寸分の狂いなく岩々を穿ってゆく。
そして砕けた岩が、光の粒子に散ってゆく。
ロックドッツはその名の通りロックドットの集合体で、だから全体から分離させるとロックドットに戻るんだけど、そのロックドットは結構脆い。レベルは14くらいとロックドッツと比べて低いんだけど、それにしてもちょっと脆すぎるくらいに。纏まってるときには逆に硬くなってるっぽいから、その反動なんだろうか。
とまあ、そんな風にさっきから結構な数のロックドットを剥がしては倒しているんだけど、全然減った気がしない。きらりんが剥がしてアンズかナツキさんとソフィのペアがやっつけるというのを、結構繰り返してると思うんだけど。
「ほいっす!」
「―――『やきこがすかえん』」
きらりんが剥がして、ソフィが焼き焦がす。威力の不足を補うように放たれた矢は当然のようにロックドットを貫いて、また光の粒子に消える。
岩獣は突進したり尻尾を振り回したり噛み付こうとしたり前足を振るってくるけど、極端に距離をとる私とスズはもちろんみんなに届く訳もなく。
最初こそ、まあ結構不安ではあったけど、今やかなりの余裕を持って見ていられる。
半ば作業めいた流れ、これはやっぱり応援くらいしか出番はなさそうだなあとか、このままあっさり終わっちゃうのかなあとか。
もちろん、そんな訳もなく。
その程度の相手にあのπちゃんがやられる訳がない。
こんなものは所詮小手調べ、ロックドッツの本領はこの程度じゃ済まない。
そんなことを、知らしめるように。
――――――!!!
ただひたすら暴れ回っていた獣が、ついに立ち止まり雄叫びをあげる。
もちろん声帯などある訳もなく、だからそれには実質的な音はなく。
だけど響き渡るそれは明確にこの空間を揺らして。
刹那、静寂が訪れる。
■
《登場人物》
『柊綾』
・今更落下ごときじゃ動じない二十三歳。さすがに上から岩降ってきたらビビるけれど。久々に書いてたら今のあやの設定と昔の設定でごっちゃになって人格が右往左往したりしたけど多分なんとか収まったと思います。いや、時間かけて書くっていうのはあったけど書くというそれ自体に一切触れないっていうのはなかなかなかったんですよ。だからこれは仕方ないのだ……。これここに書くことじゃないっすね、分かってるんですよ、分かってるんですけどね。
『柳瀬鈴』
・実は結構LP危なかったりする二十三歳。下手したら一人だけ死んでてもおかしくなかった。鎧がなかったら即死だった、とはまあ、言わないけれど。あやをナツキさんに奪われて、だけどまあ役割とかプレイヤースキル的に結局やっぱスズだよなあということで返り咲き。突撃→撥ねられて吹き飛ぶという未来しか見えないのは僕のせいじゃないはず。自覚はしているようで、実はきらりんに大剣を貸してる。やる気なさすぎやろお前。
『島田輝里』
・相変わらずキモイ挙動してる二十一歳。壁に大剣を突き立ててぶら下がりーの剣を支点に回転、そこから蹴りをぶち込むという一連の流れ、それを駆け巡る獣の胴体でやってるとかこいつ異世界転生でもしたことあるん?しかもその後空中で体制立て直したり大剣回収したりしつつぶん回されてる尻尾が通り過ぎるのを避けながらの着地とかさすがに無理がありすぎだろおい。でもいいの。だって誰もそんなことしたことないから実際難しいかとか分かる訳ないし。やってみたら案外簡単なんだよきっと。
『小野寺杏』
・魔法の便利さを再確認してる十九歳。風の影響とか重力の影響をガン無視できるって凄い便利。もちろん射程も一律だし速度や威力の減衰もないとくれば、別に偏差射撃とかそんなんヌルゲーに決まってんだよなあ。と本人は思っているけれど、結構な速度で飛来する上に奥行バラバラでともすれば重なって届かない瞬間もあるくらいの密集具合の的をひとつ残らず射抜くとか普通できないから。なんだろうね、分かんないんだけど、多分こういうすごい奴らはセルフでクロノスタシス的なことを起こせるんだと思うんですよ。筆者もかつてできるようになるために結構練習したんですけど、無理でした。やはり人外か。
『沢口ソフィア』
・例の新技を披露する機会がなさそうでムスッとしてる十一歳。そんな心配しなくてもええで。いや、まあ、ぶっちゃけ微妙だけれど。そもそも岩相手に炎とか相性悪すぎんだろと思わないでもないけれど、実は別に耐性とかついてなかったりする。ただ、耐性があることと火に強いことは実は別枠だったりするから、まあどっちでもいいといえばどっちでもいい。ダメージと影響は違うんやで。例えばINT上がっても主に上がるのは威力で火力はあんま変わらないとか、そんな感じ。少なくとも威力に比例はしない。そんな枠をぶっちぎってる辺りもオーバードスペルを初めとした極振リティの特殊なところなのだろうか(無計画)。
『如月那月』
・本作屈指の人外キャラだよなとかしみじみ思う二十四歳。まあ、既にリアルよりスペックもちょっと高くなってるし?だからあれくらい余裕だし?きらりんやアンズはゲームでやってることをリアルでとか絶対できないタイプなんだけど、ナツキさんはなあ……もう……なあ……。この人だけ世界線が異能バトルものなんですよ。だが僕は自重しないっ!困ったときはいつでもナツキさんにキラーパスを放ってやるんだっ!まあでも、そのおかげであやをお姫様抱っことかいう役得にありつけた訳なので、ナツキさん本人からすればめっちゃ嬉しいのだろうけれど。




