64話:鶴の一声てきなね
お待たせしました。
待たせるならせめてクオリティ上げたいなぁ……。
多分πちゃんは篭って作業をしてるんだろうなあと分かっててもなんとなくドキドキしながら、山を昇ること十数分。多分最短だろうというルートを最速で駆け昇る道中には、まあ特になにか面白いことがあるでもなく。相変わらず隙間の向こうにギュウギュウ詰めな雲を見ないフリして、過ぎれば例の分かれ道。
『←安全 危険→』
改めて見るとほんとアホみたいな二択だよなあと。いやまあ、それもこれも観察の目様々なんだけども。
そんなことを思いつつ、まあ一応確認したということで、ちゃんと危険ルートへと足を踏み入れる。
と。
なぜだろう、別にその一歩はそう大したものでもなくて、境界線があるみたいに空間が仕切られてる訳でもないんだけど、なんとなく雰囲気が変わったみたいな、そんな気がした。多分システム的ななにかじゃない、ただの気分なんだろうけども。
それでも、もちろん警戒はする。
未知の場所で深入りしすぎて全滅というわかりやすいパターンにはまったのはつい最近のこと、突然なにかヤバいのが襲ってきた場合でもちゃんと逃げられるように周囲をきちんと警戒しておかなきゃ、不安で前に進めない……いや、まあ普段通り進んでるのは私じゃないんだけど。こう、意識的なね。まあいいや。
そんなこんなで進んでいくと、何度も分かれ道に遭遇した。分かれ道どころか曲がったり回ったり上がったり下がったりのくねくね道、その上徐々に道が岩でゴツゴツしていくっていう。
ゴツゴツっていうことは、まあこれは多分山道と同じ感じなんだなあと思いつつ一際大きい岩に観察の目を向けてみると案の定ロックドットで、そして例によってアンズの魔法を叩き込まれて砕け散った。その間僅かコンマ数秒、私の反応から判断してるんだと思うけど、なんなら観察の目よりよっぽど凄まじい観察眼だった。
祝、初回戦闘。
それがこれでいいんだろうかと若干思うけど、まあ所詮は入口入りたて、そこまでいきなり激戦が降って湧いたりしないだろうと、警戒は解かずに進んでいく。
進めば進むほど、地形が更にがたがたになってきてロックドットの判別が効きづらくなる。だからって見落としてもまあ特に問題はないんだけど、なにも働かないのはちょっと気分的によくないから見落としがないように徹底的にさらけ出してやろう。
なんて思ってたら。
「おや」
「……ん、私がやる」
ふとナツキさんが天井に視線を向けて、それに少し遅れてなにか気づいたらしいアンズがなんの変哲もない天井に魔力弾を放って―――
「#**#=);(+#*#=%*=@!?」
途端天井を破って現れた謎のなにかが、光弾に撃たれて悶えて転がる。
飛来するような勢いを失って、そして地面に墜落したそれは、どちゃりと飛沫を上げて広がる液体。水のようにさらさらしていない、かといって粘度が高いっていうことでもなくて、例えば水銀みたいなあの、なんというか、纏まりのある灰色の流体。
疑問符を浮かべる前にまず観察の目を向けると、結構あっさりとその正体は明らかになる。
『ストーンリキッド』
LV:9
耐性:物・風雷
弱点:なし
見た目通りすぎて捻りのない石の液体。
水銀のようなと表現したのはさして間違ったことでもなかったらしい、方向性としては似たようなものなんだろう、多分。水銀ならぬ水石……そもそも石って色んなものの混ぜものな訳でなんとなく微妙な表現かもしれないけど、まあ、感覚的にはそんな感じ。進んで行ったら銀バージョンとかも出るんだろうか。ちょっと気になる。
そんな疑問を抱く頃には、アンズの連打によってぼこぼこ……というか撒き散らされた水石は、粒子になって消えた……って、えぇ……。
「……これドロップアイテムなんすかね」
「多分……?」
「ただのむくろですわ」
ソフィの言う通り、水石の消えた後に残ったのは、なんだろう、なんというか、うん、ほんとそのまま、さっき襲ってきた水石そのものみたいなのが地面に広がるという光景だった。蠢く様子も見えないし、多分これはドロップ……またこれかぁ。
なんだっけ、西エリアの黒いやつも似たような感じだったなあこれ。
どうしてこう、容器に入れるということをしてくれないんだろう。
そんなことを思いつつインベントリにしまって、そんなことより気になることをアンズに聞く。
「なっちとリコットは、なんであんな天井から出てくるの分かったの?」
「振動」
「しん……え、」
「僅かではありますが、地中を進む振動を感じましたので」
出たよ、二人のこの超人的感覚。
いやだってそんな、さすがにそれは洒落でしょ。というか天井……いや、えぇ……
そんな馬鹿なとは思いつつ、負けじと今度は天井にまで目を向けて目を凝らして……あ、それとそれとあと向こうの四つもロックドット。で、あとは……あ、あの壁からちょっとだけ出てるのもロックドットの先っちょで……あ、ああー。
「あれ?」
「恐らくは」
「ユア姫すてき」
指さした先、ナツキさんはよくできましたとでも言いたげな表情で頷いて、アンズはすごい嬉しそうに笑う。
さすがに振動は感じ取れないけども、振動で土がぱらぱら崩れるのは私にも見えた。その点は多分アンズに優ってて、だからきっとアンズは嬉しいんだろう。
まあ今度は壁だったし見やすかったって言うのもあるけど、これで面目躍如かな。
なんて満足していると、後ろの方できらりんがぽつり。
「……私たちには理解できない戦いっすね」
「ユアはすごいからねー!」
「いまさらすぎますわ」
「いや、まあ、そうなんっすけど……」
そんなにびっくりされても。
「別に……いや、まあ多少はすごいと思うけど、少なくともリコットとなっちがいるからそこまでじゃないと思うよ?」
「いやいやいやいやいや、比較対象どうなってんっす?」
「それにきらりんだってすごい動きできるでしょ?私は目がいいだけだし、まあ、だれにでもなにか一つくらいはいい所があるっていうことなんだよ、多分。もちろんきらりんのいいところは一つじゃすまないけどね」
「ぇ、な、なんでそういう話になるっす……?」
それはきらりんが大好きだからだよ。
そんな思いを視線で伝えれば、きらりんはじわじわと顔を赤くする。
どうやら伝わっているらしい、てれりん可愛いなぁ。
さておき。
出てきたストーンリキッドは片手間に潰されていて、ついでに見つけたロックドットもささっと片付けて。
さらにずんずん、進んでいく。
進んで曲ってうねって登って降りて進む。
もはやルートを覚えるとかそんな次元じゃ……いや、まあ私の頭の中だとどんなルートで来たのかとか絶対覚えられないくらいの道のり、その上ほんと至る所に隠れてるロックドットと徐々に数を増すストーンリキッドが結構うざい。ときたま敵が少ない場所があるのは他のプレイヤーの名残なのか、まあこんな入り組んでたらそうそう遭遇もしないかな。
そんな道のりの中、ちょっと変わったことがおきた。
「お、なんっす?」
「どしたの?」
「いや、これっすこれ」
言って渡してきたのは、石なんだけど石っぽくない、というかなんか明らかに何かしらの鉱石っぽい気配を感じさせる石。
とりあえず観察の目。
『ロクト鉱石』
・丈夫な金属ロクトの含まれた鉱石。地中深くにて見つかることが多い。
「おおー、なんか、ロクトっていうやつの鉱石なんだって。πちゃんがこの前言ってたね」
「言ってたっす?」
「リーンと戦った時に」
「あ、うっす」
反応薄いなあ。
なんか、その『あ、わたしには分からないやつっすね』みたいな反応ちょっと傷つくなあ。
さておき、それも大事だけど、それよりロックドットがこんな鉱石を落としたっていうのが気になる。進んだからなのか、それともすごいレアなのか。もし前者なら、もっと進めばπちゃんのお眼鏡に叶う金属もあるかもしれない。もちろん、当初の目的の金目のものも。
そう考えると、俄然やる気が出てくるというもので。
期待に胸を膨らませつつもじゃんじゃん進んで、現れた敵の群れを早速検証とばかりに殲滅。
すると嬉しいことに、ロックドットはやっぱりロクト鉱石を落として死んだ。
というか何体かそれっぽいのがちょっと覗いてるようなのもあったくらいで、なんなら壁にすらちょっと散見されるっていうね。
つまり、ロックドットは地形によって落し物が変わる……んだろうか。
とするとやっぱり、進めば進むほどいいものを落とすっていう可能性は結構高いように思える。
いっそ私たちが狩れる限界を目指してみようかなんて、ちょっとワクワク。
いや、まあ、死にたくないから安牌はとっていきたいところだけども。
ともあれ、まあだからなんだっていうこともなく、じゃんじゃか進む。
道中、さまよってるっぽい他のパーティに安定の驚きを提供してるのが、もはや恥ずかしくすら思えないのは穢れてしまったからなんだろうかなんて、そんなことを思いつつ。
それから、三十分ほど経過した。
最初に結構移動とかしてたから終わりの時間もそこそこ近づいてきてはいるけど、その分色んな種類の鉱石を発見できた。といっても、みんなπちゃんの口から聞いたことのある鉱石で、多分あんまりレアな感じじゃないと思うけど。
だから、せめてなにか成果が欲しいなあと。
そんなことを思ったのがいけなかったんだろうか。
「あれ、行き止まりだ」
私たちは、行き止まりにたどり着いた。
「って、うわ、あれもしかして全部……?」
近づいてみて、驚く。
そこには、なんというか、馬鹿みたいにロックドットが生えていた。
天井から壁から地面から、それはもううじゃうじゃと。
見た感じ、結構色んな種類の鉱石が入り混じってるし……って、見たことないのまである?
「なんだろあれ、なんか、レアっぽい……?」
それは、今まで見たことのない、なんだろう、透き通ったような鉱石の埋め込まれた岩。多分ロックドットな気がするんだけど、乱立する岩が、なんとなく、それを守っているようにも見えなく……なくない?感じ。
「高そー!」
「でも罠っぽくないっすかあれ」
「食い破る」
「いつぶしてさしあげますの」
みんな血気盛んだなあと、そんなことを思いつつ、ぎりぎりのところから観察の目を発動。
目標は、やっぱりそのレアっぽいやつ……あれ?
『ルナライト鉱石』
・月光が集まり形を成したと言われる宝石ルナライトを含む鉱石。どこにでも有り得るが、希少性は高い。
「なんか、ロックドットじゃないっぽい?少なくともあのレアっぽいのは。ルナライトって宝石らしいよ。希少性高いって書いてある」
「ほーせき!?高そー!」
「ラッキー……ってことなんっすかね?」
どうなんだろう。
ちなみに周りのは……うん、ロックドットだ。レベルは、まあ、これまでよりちょっと高めの12くらいだけど、まあ別にどうとでもなると思う。
「レアだからロックドットに守られてる、って感じなのかな」
「どちらにせよやることはかわりませんの」
「念の為、お嬢様は攻撃をお控えなさいませ」
ニコニコ笑うソフィに、ナツキさんが釘を刺す。
「……そこまでわがままではありませんの」
言いつつ、結構不服そうではあるけど。
まあ、なんにせよ、全員一致で採っていく方向らしいから……あ、そうだ、πちゃんにスクリーンショット撮ってあげよっと。観察の目のウィンドウも一緒に写して、と。
「よし、じゃあとりあえず邪魔なのを片しちゃおっか」
「っす」
「ん」
「御意に」
敵の数は、結構多い。
けどまあ、今更その程度が問題になることもなく、戦闘終了。
ストーンリキッドもいなかったし、むしろ楽勝なくらい。密集してるおかげで、アンズの拡散魔法連打が面白いくらい刺さってたし。それでもムーンライト鉱石に一切攻撃を当てないのはさすがと言ったところか、後に残ったのはぽつりと屹立するムーンライト鉱石の出っ張り。果たしてこれにどれだけムーンライトが入っているのやら、ロックドットと比べると一回り小さいし、そこまで期待はできなさそうだけど。
「そういえば、ツルハシとかってないよね?」
「あー、とりあえず鞭でこう、べべんってやるっす?」
「気をつけてね」
「もちろんっす」
ひゅひゅっ、と素振りをして、それからきらりんは、地面から生える鉱石のその根元へと攻撃を仕掛けて。
バシッ!
と。
とてもいい音を立てて、鞭は当たった。
それは、岩が崩れたりえぐれたりする音を伴わない、とてもいい音。
反射的にナツキさんが私に視線をちらっと向けてしまうくらいには。
いい音、なんだけど。
それはつまり、なんというか、まあ、これまでロックドットを仕留めてきた一撃が、全く通用しなかったということで。
あ、これはもしかして。
そんなふうに、なにかを察するよりも早く。
地面が、揺れる。
ぐらぐらと。
地面に亀裂が走る。
咄嗟に、誰が言うでもなく、全員がその場を離れようとして―――
「っ、ストップ!」
私の声に、全員が従う。
その静寂を切り裂くみたいに、亀裂が足元を駆け巡って。
「あ」
「ぬぉ!?」
「っすよねー」
「ん」
「またですの」
「ありがちではありますが」
そして私たちは、崩れた足場と一緒に奈落へと落ちる。
なんか結構みんな余裕だなあとか思うと同時に、どうしようもなく罪悪感。
みんなが、どうして呼び止めたのかと視線を向けてくるのが、堪らなく申し訳ない。
いや、だって、その……。
πちゃんから欲しいってきたから……?
■
《登場人物》
『柊綾』
・その場にいなくてもぽんこつが滲み出る二十三歳。πちゃんからのおねがいメッセを確認してしまったがために崩落に巻き込まれることとなる。そもそも崩落に飲まれてただ全滅するみたいなことを想定してない時点で圧倒的戦犯。これで全滅とかなったらそりゃあみんなからおしおきルートですが、さて。少なくともただ死ぬということは、まあないけども。観察の目に対する若干の過信が透けて見えておりますよ。
『柳瀬鈴』
・色々考慮するとAWで一番出番ないのこいつだなと思った二十三歳。いつもいるけどいつも戦闘する訳でもないし探索系能力絶無だし。あやを抱くスキルが日夜進化しているとはいえ、ゲームで役に立たないし……?
『島田輝里』
・ロックドット処理が最適化されつつある二十一歳。鞭がつえぇ。先端くい込ませて放り投げてぶち当てるとかもできるし。しかしながらその戦闘シーンは全カットなのである。リキッドさんは基本アンズ任せ。というか気づく前にアンズが攻撃仕掛けてるっていう。いや、普通分かんねぇよ。
『小野寺杏』
・そろそろほんと魔法覚えさせてやりたい十九歳。いや、考えてはいます。そこは大丈夫なんですけど、今までの習得までを見るともうちょっと先のような気もするっていう。連結魔法に関しては、多分やっぱりDEXが足りねぇ。そろそろアンズも、なんかこれ多分ステータスのやつだなと気づき始めてると思うけれど。
『沢口ソフィア』
・どうせなら諸共ぶちかましてやればよかったと思ってる十一歳。まあソフィの最大火力でも無駄は無駄だけれど。極振りアビリティのその一を習得したことで次の魔法の目処が立ったし、次は結構さくっと覚えそうだなあと、アンズのことを考えてて思いました。正直その一とその二って逆かもしれないとか密かに思ってる筆者ですが、読者にとってはなんのこっちゃなので色々考えておきます。
『如月那月』
・結構出番なさそうに見えて案外働き者だったりする二十四歳。こう、貫通力って高ければ高いほど攻撃力上がるわけじゃないじゃないですか。物凄い斬れる日本刀より錆びたノコギリの方がえぐいことになりそう、みたいな。石を穿つぎりぎりの矢で射抜くことでそこを中心にヒビを発生させて二射目で割るっていう頭おかしいことをやってます。ロックドットの弱点である身体のどこかにある点に未だ気づかないというケアレスミスを、さてこいつらは挽回できるのだろうか。
ルナライトがルナライトである意味は別になかったんですけど、まあπちゃんが太陽好きそうだしっていう安直な理由でルナライトになりました。




