61話:サクサク進めー
きらりんの思い出話は全カットです。
なぜかって?設定が混沌としてて纏まらなかったからだよ……!(無能)
ほんとすみません。
「〜♪」
「……楽しそうっすね」
「きらりんと手を繋げて嬉しいからね」
「恥ずかしいこと言わないでほしいっす……」
そうは言われても、事実なんだから仕方がない。
帰り道をきらりんと一緒にできるとか、しかも手を繋いでとか、そんなの幸福に決まってる。というかやろうと思えばこれから毎日デートできるってことだし、もうなんか、感無量っていう感じだ。
あー、きらりんの手はつべつべで気持ちいいなあ。
にぎにぎ。
「な、なんっす?」
「ううん。きらりんの手も好きだなって」
「そ、そうっすか……」
耳まで真っ赤にして、視線を逸らして、だけど手を握る力はぎゅっと強まって。
ああもう、好きだなあ……。
「きらりん」
呼びかければぴくっと震えて、おずおずと視線を向けてきて。
そんなきらりんに、私の思いの全部が伝わってほしいななんて思いながら。
自然に生まれた笑顔と一緒に、私は告げる。
「好きだよ、きらりん」
「っ……わ、私もっす……」
そういうのはちゃんと目を逸らさないで返してくれるのがほんと最高……。
ああ、好きだし、それに、好きなんだなあって分かる。
うず、と疼いた胸の奥を、だけどそっと窘めて。
少しだけ、きらりんに身を寄せた。
身長差が少しあるからあまり近づくと手が握り辛いけど、そのぎりぎりの、丁度いいところをまだ、見つけられない。
「今度、遊園地行こうね」
「……っす」
そっと、ほんの少しだけ寄ってきたきらりん。
まだ少し、遠い……けど、これ以上進んだら、きっと我慢できなくて。そしてきらりんはきっと、それをなんとなく感じていて、だからこの距離感なんだろうなと、思える。
触れるのは怖いんだろうか、恥ずかしがってるだけなのか、どっちにしても、ここから先はきっとまだ私のものじゃない。それは、まあ、少し寂しいけど。だけど、少しずつ、少しずつでいいから、いつかきらりんの全部を私にくれる時を待とう。
……それでも、できれば早くきらりんと恋人になりたいなあと、早くきらりんが素直になってくれないかなと、思ってはいるんだけど。
うーむ。
なんとなく考えていると、きゅ、と、手を握る力がまた強くなる。
不意にきらりんが立ち止まって、少しだけ、距離が離れた。
微細な腕の負担が、そっと流れて消える。
振り向けば、きらりんは真っ赤な顔で、だけど照れているだけじゃない、どこか躊躇うみたいな、迷ってるような、そんな表情をしていた。
「あ、あの、」
「……なに?」
「せんぱ……あ、あやさんは、その……」
きらりんが俯いて、表情が見えなくなる。
強引に上げても、それはそれで面白そうではあったけど、きらりんが自然にまた私を見てくれるのを待った。
待って。
「あやさんはっ、」
勢いよく顔を上げるきらりんが、私を見てたじろぐ。
どんな表情をしているんだろう、私のなにに驚いているんだろう。
分からないことが少しだけ怖くて、だけどじっと、きらりんの言葉を待つ。
私がいつまでも待つことを、きっと理解したんだろう、きらりんは痛いくらいに私の手を握りながら、口を開く。
「あやさんはっ……あやさんは、わたしがこんなんで、嫌じゃないんっすか……?」
「こんなん?」
「こんな、親友ポジとかっ!そんな、そんな中途半端なこと言って、好きって言ったのに、わたしこんなんで、だから……嫌じゃ、ないんっすか……」
その言葉に、ぱちくりと目を瞬かせる。
まさかきらりんも、同じようなことを考えてるなんて。
「っ……」
そんな私の様子になにを思ったか、きらりんは傷ついたような表情で俯いてしまう。
握る手から力が抜けて、するりと抜け落ちそうになって。
……いや、まあ、逃す訳なんて、ないけど。
「きらりん」
「っ……!」
むしろ強くきらりんの手を握りしめて、今度は強引に顔を上げさせる。
揺れて逃れようとする視線が許せなくて、私はきらりんに額を合わせて、逃れられないくらい近くからその瞳を覗く。
「きらりん、きらりん」
「あ、あや、さん……?」
ほんの僅かな恐れ。
そんな負の感情すら愛おしい。
だけど―――
「きらりんは、私と恋人になりたい?」
「……え」
「きらりんが望むなら―――」
顔を上げるために顎に掛けていた手を、肌に添わせるみたいに下ろしていく。
首筋、首と肩を繋ぐ筋、厚着の向こう、滑らかな鎖骨―――
「―――今すぐにでも、シテあげるよ?」
「ぁ、な、ぇ、」
私はきらりんが好きだ。
そしてきらりんも私が好き。
つまり両想いで、それなのにきらりんが私を好きでいることに負担や不安を感じているのは、とても許容できることじゃない。それでもきらりんが私を好きでいて、そして今より好きになってくれるためにそれが必要で、だからこそ苦しくても頑張っているというのなら、私はきらりんが望むままに、きらりんの好きにしてほしいと思う。
だけど。
だけどもし。
もしもきらりんが私を望めなくなったのなら―――
私は別に、きらりんを壊すくらい躊躇わないだろう。
だってそんなのおかしいから。
私が好きで、私を好きなのに、それを疑うだなんて、そんなのどうかしてる。
何度も言った。
好きだよって、何度も、何度も、今日一日だけで三十三回、隙あらば、好きあらばそれをちゃんと伝えた。
それでも伝わらないなら、それでも私の好きが疑わしいというのなら、もうその身体に、心に刻みつけるしかない。
きらりんがそれを望むなら。
私はきらりんになんだってする。
きらりんの不安がなくなるまで何度だって。
だから。
だからきらりん。
「私が欲しいなら、今すぐに言ってね?」
にこりと。
笑ってみせたはずなのに、きらりんの反応はあまりよくない。
顔は青ざめて、唇は震えて……そんなに私が怖いんだろうか。
うーむ。
ちょっと、いい空気じゃない、かな。
「私は、きらりんが好きだよ」
言って、きらりんを解放する。
きらりんは多分無意識に、私に握られていた手をさすって。
それでも距離を取ろうとしない辺り愛おしい……それとも、怖くて動けないだけなんだろうか。
まあそれも仕方ないかなと、苦笑する。
「好きだよ。だからもう、私の好きを疑わないでね。信じられないなら、何度だって教えるから」
……今日はもうおしまいかなあ……もう、デートっていう感じじゃないし―――
しょんぼりと、踵を返して一歩踏み出す。
特別に重い一歩。
ふと、なんとなく、いつもの私と違う気がして。
それがどうしてだろうと、疑問が明確になる前に。
「っ……あやさんっ!」
腕を、引かれた。
きらりんの声、意識的にも無意識的にも、私はそれに振り返らないなんてできな―――
「っ……!?」
え、あ、あれ、なん、え……?
「ぷぁ、はっ、はっ、はっ……ち、ちゃんと伝わってるっすから!」
それじゃっす!
と私の手を離して駆けだすきらりん。
その手を、咄嗟に掴む。
「ひぇ、あ、あの、ちょっ、ここは行かせてくれる場面じゃないっす!?」
「きらりんが悪い」
「ひぁっ」
ぐい、と引き寄せて、触れてしまいそうなほど近くから、きらりんを見つめる。
「きらりん」
「は、はひゃい」
「……待ってる」
「……っす」
うーむ。
反省しなきゃなあ。
きらりんのことなにも分かってなかったみたいだなあ、私。
きらりん、そこまで私を好きだったんだ。
■
光が晴れる。
すると、私は既にお姫様抱っこされていた……っていやなにその無駄な職人芸。え、練習してるの?世界一無駄な技術じゃんそんなの。
なんて思ってたら、どうやらやっぱり私は一番最後にしないと気が済まないらしいみんなはとっくに揃っていたんだけど、それどころかなんかすごい囲まれてる。なんだろう、こう、どことなく宗教めいててちょっと恥ずかしい。やけに普段より速いのは私が死んだ一件のせいなんだろうか、もしかしてこれからこんな感じに……まあ、うん、慕われてるのは嬉しいから、いいかな。きらりんちょっと顔合わせずらそうだけど、まあ頑張って慣れて。
さておき。
平日夜、仕事明け、夜ご飯を終えて眠るまでの二、三時間をAWでどう過ごそうかという話だけど、ともすれば死ぬ、がかもしれないじゃなくなってしまった場所をさらに探索しようっていうほどの胆力は私にはないし、どうやらみんなもそこそこ満足してるっぽいから、ひとまずこの場からは離れることにする。
離れて、それから始まりの街に帰還するかそのままπちゃんのところに行くかっていうので少し議論になりそうだなと思ってたんだけど、案外みんなπちゃんのところに行くっていう意見でまとまっていた。別れてから日を挟んだし戦うことになるかもしれないソフィとナツキさんも、なにやら各々で考えがあるみたいだし。……きらりんはまあ我慢。
私としては、正直セレムちゃんとお茶したいなあとかちょっと思ってるけど、言ったらまず間違いなく受け入れられちゃうから自重する。πちゃんとエースさんがどんな感じなのかもちょっと気になるし……気になるし……!
そんな訳で、移動後登山。
思えばソフィとナツキさんは初登山だけど、そうとは思えないほどにサクサクだった。まあナツキさんが山道に手間取るみたいな姿は微塵も想像できないけど、なんならスズの方が頼りなかったくらい。の割に乗り心地が遥かに改善してるのはどういうことなんだろうか。
そんな道中でπちゃんに連絡をとってみたけど、どうやらわりといいタイミングだったらしくて、催促メッセージが沢山送られてきてすごい嬉しい。こう、続けざまにメッセージが届いては流れていく感じ。ああ、πちゃんに束縛されてるなあっていう感じがいい。いつかリアルでもこんな風になりたいんだけど、どうやったらπちゃんは私を好きになってくれるんだろう……?
なんて考えてたら、あっという間に街に着いた。
えっと……ディラ、あー、そうそう、ディラート。あ、優しい石のポゴさんがこっちに旗振ってる。手はなくても振る文化があるんだなあ、というか明らかに私たち判別してるんだけどどういう感覚器官を持ってるんだろう……あれ、いや、でもそもそもなんで私はそれが私たちに向けてだって理解できるんだろう……?
……まあ、ゲームだし。
とりあえず手を振り返すだけで、πちゃんがイライラして待ってるだろう試験場に―――
「遅かったじゃない!」
「えへへ、お待たせ」
「撫でるんじゃないわよ!?」
扉を開いたらそこにいたπちゃんに、ついつい伸ばした手が振り払われる。
「ごめんね、つい」
ちょっとしょんぼりしつつ、ふと周囲を見渡す。
……エースさんはいないんだろうか、どうもそれっぽい人影はないみたいだけど。
「今日はいないわよ」
「あ、ふーん」
「……なんで嬉しそうなのよ」
「うーん」
そりゃあまあ、πちゃんが好きだからかなあ。
言わないけど。
言わないけど。
「な、なによ」
「ううん。それよりπちゃん、魔導具の方はどうなの?」
「よくぞ訊いてくれたわ!!」
うん、すごいチョロい。
戸惑いとかそういうのを一瞬で全部振り切る辺り、さすがπちゃん。
「この私にかかればあの程度の技術モノにするのは朝飯前よ!もちろんあなた達の新装備は魔導技術の粋を凝らしてやるわ!この私が作るのだからそれは最早最先端技術と言っても過言じゃないわね!もちろんあんなポンコツとは比べ物にならないハイセンスな逸品よ!?」
「わーい」
「でもその前に恒例のやつよ!そこの二人!どっちからでもいいわ!さっさとやるわよ!?」
ずびし、とナツキさんとソフィにチョキを向けるπちゃん。
さっさとやるっていう宣言もそうだけど、なんかすごい全身から『早くしなさいよね!?』的なオーラが滲み出てる。もう、今すぐにでも装備開発に取り掛かりたいんだろうにちゃんと戦闘はやるとことかほんと好き。
そんな訳で。
恒例っていうほど回を重ねてないけど、まあちゃんと事前に説明もしといたから、πちゃんの望み通りこのままササッと決闘をしちゃうとしよう。
……密かに、ソフィとナツキさんが対人戦やったらどうなるのかとか気になってたから、ちょっと楽しみ。
■
《登場人物》
『柊綾』
・成就の直後なものだからタガがゆるっゆるな二十三歳。AW内とリアルだとやっぱりかなり人格変わるっていうかもはやこのレベルは病気ですよね(今更)。基本的に好き合っていることが分かった時点から距離感が消失するけど、きらりんの場合はきらりん本人が一定の距離感を望んでるから控えめにしなきゃと一応思ってはいる。でもまあ自動車が自転車のブレーキで止まれる訳もないっていう。つまりまあなんやかんや言って、結局好きな人に好きって言われたのにスキンシップ少なすぎて欲求不満なだけ。別に肉体関係が全てとは微塵も思っちゃいないけれど、好きを感じるいちばん手っ取り早い方法だとは思ってる様子。特にきらりんはあやと恋人連中の絡みとかに忌避感みたいなのを感じてる場面がちょくちょくあったからそりゃ不安にもなるよねっていう。そしたら思ってたより全然好かれてたからひとまず安心。でも遊園地デートの後とかホテル予約しておきそうこの人。
『柳瀬鈴』
・あや抱き能力が徐々に成長中の二十三歳。あやの死を目前にしたのが効いたらしく、ひとつ上の次元になってる。ことあや運搬においてはアンズ並のプレイヤースキルを発揮する……かも?まあじきにお役御免ですけど(ネタバレ)。いや、だってもっと先のエリアとか流石にそんな舐めプできへんで?
『島田輝里』
・AWでそこそこ慣れたと思ったらリアルであやの新たな一面にちょっと触れちゃってふぇぇな二十一歳。いや、そこまで目新しくもないんじゃない?あやの根本理念を未だ理解してないからなんかこいつすごい怖い事言ってるやべぇと思ったけど、それ以前にあやの未だかつてないくらい寂しそうな背中を見て、少なくともあやが純粋に100%の好意を示していることは理解できたっぽい、かも。ここで理解すると、その日寝る時に色々思い出して、あれあやってほんとに私のこと好き過ぎ……?とか思って、そこから普段のあやの視線の熱量とかに気付いちゃうやつ。で、え、うわ、あやってもしかしてあの時からわたしのこと好き……?みたいな。そして意識しすぎるとリアルで顔合わせた時にあやの熱にやられて……とかいう必勝パターンに引っかかる寸前。でも残念、きらりんはダメです。もっと拗れろ……!ところで初キスですね。やったぜ。
『小野寺杏』
・分けたはいいものの書くことのない十九歳。あ、そろそろ連結魔法の新しいやつ覚えようかな……いや、忘れてたんじゃなくてあれっすよ、取得魔法の数とかそういうのが影響してくるやつなんっすよ多分。あとDEX低いのもちょっと影響してるかな……?そういうとこやっつってんねん。これだから無能はよォ!それもこれも最終到達点だけ想像してニヤニヤしてるせい。このままだとクソゲー化がみるみる進行していきそう(今更)。
『沢口ソフィア』
・決闘に向けて色々と画策してる十一歳。モンスター枠じゃない人間を燃やせるとあってはテンション上がらざるを得ないよねっていう。詳しくは次回。
『如月那月』
・正直こいつとマトモに戦える人類が想定しにくい二十四歳。ゲーム内で未だにリアルでできることまでしかできないのはコイツだけだと思う。一応ゲームセンスはあんまりないんだけど、一体どんな戦いになることやら。……本当に戦いになるのか……?だって対人戦やぞ……?首落としたら人って死ぬんだぞ……?
唐突に思いました。
VRのゲームの中だと生理痛とか更年期にもありがちなホルモンバランスの乱れどうたらとかいう不定愁訴ともおさらばできるから、寝込むよりいいじゃんって感じで実はVRゲーム全般で女性人口多い。
みたいな設定ぶち込めば、ここまで誰一人生理でダウンみたいな描写がなかったのを誤魔化せるのではないかと。
でも本編に書くのもアレかなと思ったんで後書きに置いとくだけにします。




