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59話:ディレクターズカットでくれよ

大変長らくお待たせ致しました。

色々と言い訳はありますが、なんというか、ひたすら書けませんでした。なんであんなに書けなかったのかほんと全く分からないんですが、びっくりするくらい筆が進まないのなんの。


なんとか書き上げてはみたものの、ようやくやってきたゲーム内での正月休み最終日の帰省イベントとか結局サブイベントにすらなれなかったっていう……。


なんかほんとすみません。

でも多分後で書き直しても展開は変えません。

 スズを撫でるときは、まず頭のてっぺんから側頭部に撫で下ろすようにしつつ、中指の先を髪にもぐらせて頭皮をくすぐる。それからスズがもぞっと身動ぎをした辺りで、今度は後頭部に移行、特にこう、生え際の辺りをなぞって、そのまま背筋に指を添わせるみたいに背を撫でる。頭から背にかけて大きく撫でると、少しずつ猫背になって最終的には膝の上に落ち着くのが特徴と言える。そこまで念入りに撫でるのはそこそこ稀なことだけど、今に至ってはもう寝かせるくらいの勢いでなでりなでり。


 きらりんを撫でるときは、ちょっと手探り。どうも耳の後ろをかりかりしたりくすぐる感じにするのが好きみたいだけど、その前にまずは頭頂の部分をぽんぽんなでなでして身体の強ばりみたいなものを解きほぐす必要がある。他のみんなとは違ってどうもまだ身体を預けきってくれないのは少し残念でもあるけど、すぐにリラックスしてくれるからまああとは慣れだろう。いつか私を完全に受け入れてくれるようにと、丹精に丹念にかりなでり。


 アンズを撫でるときは、頭を撫でるというよりはむしろ髪を梳くようにして指を通す。神経が通っている訳でもないはずなのに、特に毛先なんかを弄ぶと心地よさそうに目を細めてくれるから、気分的にはアンズの初雪みたいに柔らかな髪を好き放題に堪能するみたいにするのがいい。私が楽しんでいるという事実のほうがアンズにとって重要みたいなところもあるし。だから一番気を使わなくてもいいといえばそうなんだけど、だからこそ細心の注意を払って、優しく柔らかくしゅらしゅらり。


 ソフィを撫でるときは、まず『撫』という概念を捨て去る必要がある。撫でるというよりは、むしろ愛撫に近いものがある。私の手にほしい場所を積極的に押し付けてくるから、求められるままにほっぺをもちもちしたり耳をふにふにするのがスタンダード。基本受け身でいいんだけど、時折積極的に顎の下をころころしたりしてあげるといっぱい喜んでくれる。ただ興に乗ってくるとあまりよろしくないところまで欲っしてくるから、ちゃんとそういうときは自重しつつもちふにころり。


 ナツキさんは、今回はまあ私が撫でられる側。かなり珍しいことに後ろからぎゅっと抱き着いて肩の上に頭を乗せる甘えんぼスタイルだから、指を絡ませて弄んだり、視線が私以外に向かないようにほっぺたを顎のラインに沿ってなぞるくらい。たまに脇腹とかを捻ってあげると熱っぽい息を漏らすから、そういうふうに焦らすのもありといえばあり。あんまりやりすぎると、今度またいつリアルで会えるのかも分からないから可哀想ではあるけど、限界にキてるナツキはそれはそれで可愛いからつい手を出してしまう。いけないいけないと思いつつ、自分を落ち着かせるみたいにきゅっするり。


 そんなふうにみんなで身を寄せ合うこと、かれこれ一時間近く。


 一旦みんな落ち着いてこようということで各自夕食がてらログアウト。私たちの方は、まあちょっと情緒不安定だったスズをあの手この手で慰めて、久々にスズの手料理とか食べてみたりして、駄々をこねるスズを宥めつつログイン。結局機材を移動して私のベッドの上で手を繋いだままログインとかいう意味の分からないことになったけど、特に変な警告が出たりもせず。


 そんなこんなで、私殺しの件について話し合う前にちょっと変な空気になってるのを緩和しようと始まったはずのなでなでタイム。

 とりあえずみんなが満足するまでと思っていたら、みんな随分な欲しがりさんなものだから全然満足する気配はない。もう一時間近くやってるんだから終わりにしてもいいかなと思わないでもないんだけど、同時に撫で足りなさがあるのがなんというか……やっぱりなんだかんだ、どんな形だろうとどんなタイミングだろうと改めて示されると嬉しくもある訳で、だから仕方ないところもあるにせよ、ちゃんと話し合いはしておいた方がいいと思うしなあ……いやまあ、話し合うようなことがそう沢山残っているのかといえばそんなことはないような気もするんだけど。思いつく限りでは一つくらいだろうか、話し合うというか釘を刺しておくに近いから、こう、ほんわかした空気にしてしまったのが悔やまれるかもしれない。


 うーむ。


 まあ、いいや。

 私の言葉なら、どんな状態でもちゃんと聴いてくれるだろうし。


「……私は」


 そう思って口を開こうとする私に先んじて、アンズが口を開く。

 視線を向ければ、揺るぎなく私を見る瞳……いや、まあ、それはさっきからずっと向けられてたし、痛いほどその思いは伝わってきてた訳だけど。


「私は何度でも、同じことをする」


 それでもやっぱり改めて言葉にされると、説得の言葉が封殺されるような絶対的な決意みたいなものを感じる。そんなものに対して、そこまで強い願いでもないような私のわがままをぶつけてもいいのかなと少し悩んで、まあアンズだからいいかなと即決。


「やだ」

「分かった」


 うん、絶対分かってない。


「次は絶対にやらせま、……せん」


 おっと、つい無意識的に。今のは別にアンズに視線向いててもよかったのに。まあナツキさんが嬉しそうだから別にいいけど……あー、はいはいスズも膨れない、いや待ってソフィさすがにそこはシステム的にまずいからストップ、おや、きらりんは鎖骨がいいのかな……っていや話終わっちゃうよ、待て待て。


「あのね、私としては折角ならゲームを楽しみたいし、だからどんなときも諦めずに最後まで頑張りたいなあってそう思う訳なんだけど」

「分かった」

「……もうダメっていうときは集団自決も辞さない」

「……分かった」


 ここまで言って渋々かあ。まったく、ほんとアンズは愛おしいったらありゃしない。みんな、というかソフィとナツキさんもなんか微妙な気配あるし、そんなに私を殺したいならどこかでみんなに平等に機会をあげるべきだろうか……なんか宗教じみててやだな。


 まあ、それは後で考えるとして。


 とりあえず、反論がでないところを見るにこの話はこれくらいで終わりにしてもよさそうだ。内々に秘めたる決意みたいなものまであえて聞き出す必要もないだろうし。


 ……ところで結局、一体いつまでなでなでタイムは続くんだろう。いや別に、嫌だなんてことはないんだけど。


 ■


 ガタンゴトンと、映画で聞いたことのあるようなあの音が私は好きなんだけど、リニモはあまりに静かでもの足りない。実際の音を一度くらいは聞いてみたかったと思ったところで、今どき田舎にだってあんなものはない……んだろうか、案外探してみたらあったりして。そこまでの積極性がある訳でもないから、こう、ちょうど端末を弄ってるときとかに思い出さないと絶対調べようともしないっていう。


 さておき。


 結局なでなでタイムに終わった昨日、今日はこうして遠出する用事があったから探索なり帰還なりしておきたかったところなんだけど、まあ過ぎてしまったものは仕方がない。みんなの絶望的な表情が見るに耐えなくて危うく予定表を破り捨てたくもなったけど、一応事前に言っておいたはずだからそうもいかない。


 さすがに、今日は逃せないし。


「ふんふふ〜♪」


 るんるんと、膝の上でスズが鼻歌を歌う。

 個室だから別に誰に見咎められるでもないけど、あんまり動くと腿が死ぬからやめてほしい。


 ……って、さっきも言ったんだけどね。


「まったく」

「はにゅ。えへへ……」


 後ろから抱いて、ぎゅうと身体を抑え込む。

 スズなりのおねだり、下手すればついホテルとかに駆け込みたくなってしまうからあまり甘やかさないようにしようと思っているのに、私の気も知らないで甘えてくる……くぅ、同じシャンプー使ってるのになんでこんなに、こう、心臓にくるんだろう。


 あーあ。


「もうほんとスズはほんと」

「あうあうあ〜」


 うりうりとスズを弄ぶ。

 実家に帰る電車の中でこんなにイチャイチャするのもなんだかなあっていう思いは、もういいや、この際見ないふり。

 思えば去年もその前も、結局流されてしまったような気がする。

 なんだろう、やっぱり二人旅っていうシチュエーションが否応なくデート感を想起させるんだろうか、それとも気が付かないだけで思い出というやつに影響を受けているのか。どっちもそれっぽくて、どっちにしてもなんだかスズに申し訳ない気がして、ああだから、罪悪感っていうのも、あるのかもしれない。


「……スズ」

「んにー?」

「……なんでもない」


 まあ、いいや。

 スズが気にしていないなら、きっとこの思いは杞憂だろう。

 それがスズの優しさだとするなら、それに甘えたってバチは当たらないはずだ。


 結局そんなこんなで甘やかして、それはもう、遮音設備が搭載されていてよかったって思う程度に……といっても流石に監視カメラ下でできる程度のことではあるけど、なんにせよまあ二人きりの個室というものを十分に満喫して。


 一息ついていると、私たちの目的地に到着したことを知らせるアナウンスが聞こえた。

 危うく聞き逃すところだったとヒヤッとしつつ、手早く荷物を片付けて下車準備。まだちょっとぽやぽやしてるスズを引っ張って、駅のホームへと。


 出てみれば、プラスチック張りの天井の向こう、雲の漂う空に迎えられる。


 空が近い。


 故郷の空。


 だからなんていうことも、まあ、今更ある訳でもない……いやそれでも少し、寂寥感みたいななにかは覚えているみたいだけど。


 空調に希釈された思い出を、吸い込むみたいに深呼吸。


「さて、行こっか」

「うにー」


 ■


 久々に食べる家庭の味の美味しさ。

 スズなんかは私のご飯の方が美味しいとか言い切ってたけど、私としてはやっぱりどうしても勝てないなあとか思っちゃう訳で。セナさんとかマミさんの手料理にしてもそうだけど、やっぱり気持ちとか心の問題なんだろうか……まあトトさんは多分朝から、それともなんなら昨日からじっくり仕込んでただろうガチ勢だから普通に美味しいんだろうけども。いや、ミチさんも負けず劣らずだったからやっぱり気持ちの問題か……まあいいや。どっちにしても、美味しかったっていうことで。


 というか、食後のお茶すら並々ならない美味しさなのはどういうことなんだろう……年々腕あげてないだろうか二人とも……?


「ところであーちゃん」


 お茶を飲み飲み戦慄していると、ミチさんが酷く真剣な表情で口を開く。

 絶対くだらないこと考えてるなあという確信を抱きつつ、万が一まともな内容だったときは本気で大事なことだから、一応耳を傾け―――


「お布団はひとつでよかったのよね?」

「たまにはトトさんと寝たいからね」

「親を寝取るつもり!?」

「浮気ものー!」


 いやその発想はなかった。というかある訳ない。どういう思考回路してるんだほんとこの二人は。というかそれはそれとして発想が被ってるのが気に食わないからミチさんはほんとにソファとかで寝ればいいのに。


「馬鹿なこと言ってないでちゃんと二人分用意してよ」

「えー」

「えー」


 うわうざい。

 トトさんもニコニコしてないで助けてくれればいいのに。


「ちゃんと防水シーツも新しいの買っといたのよー?」


 そんなミチさんの言葉に、トトさんもこくこくと頷く。

 年に一、二回しか来ないのにわざわざ毎回新調するのはやめろとあれほど……。


「しょーぶ下着きてきたー!」


 呆れていると、負けじとスズが胸を張ってくるけど、今着ててもお風呂入るんだから意味ない……っていやそもそも親がいる実家で事に及ぼうとかそもそもその時点でおかしいから。


 バカ言ってないでと口に出す気力すらないで黙っていると、二人の視線がトトさんに向く。

 じぃっ、と向けられる視線をはてな?と見返していたトトさんは、瞬き三つくらいでようやく気がついたらしく、困った表情を浮かべる。


「あ、ああ、そうですね、では、私は淫靡な気分になるお香をお部屋に焚き染めておきましょうか」

「トトさんも乗らないでいいから」


 あ。


 なんか今、すごい帰ってきた感。

 なんでだろう、もうちょっとこう、なんか……いや、まあ、らしいといえばらしいけど。


「分かったわ、ならまずは枕の個数から話し合おうじゃない」

「いやなにも分かってない」


 ……まあだいたい、こんな感じの帰省だった。


 ■


 《登場人物》

(ひいらぎ)(あや)

 ・両親に対する口調とかすごい悩んだ二十三歳。まだ触りを書いてから一筆も進みやしないけど設定だけは独断専行しまくっている過去編のあやがなんかすごい酷すぎて結局どういう関係に落ち着くのかもうよく分かんなかったです。けれどまあ、最終的にはあやにとって自然体というか、完全に力を抜ける日常の一つかなあと。そこに存在を差し込めるスズはやっぱりあやにとって特別で、普段辛辣なのも家族相手と同じようなものなんだと考えるとスズの特別枠にも納得いけるかなあとか。

柳瀬(やなせ)(すず)

 ・当然のようにあやの帰省に付き添ってる二十三歳。いつもいつでもニュートラル。あやの故郷ということはつまりスズの故郷でもあるんですが、そっちは全カット。理由はまあ気にしないでください。色々考えたんですが、なんかもう過去編に全投げすることにしました。いつ書けるんだよ過去編よォ……。


島田(しまだ)輝里(きらり)

 ・あやの撫で殺し能力の高さに密かに戦慄を覚えつつも抗うことのできない撫で力にただほにゃるのみな二十一歳。リアルでサシで撫でられたらすぐ陥落しそう。


小野寺(おのでら)(あんず)

 ・本当はもっとがしがしとかしてほしいけど今も最高に気持ちいからなあ、な十九歳。慈しんでくれているというのを感じられるのがポイント高い。虚弱とかじゃないけど身体強い方じゃないっていうのもあるのよ。


沢口(さわぐち)ソフィア(そふぃあ)

 ・隙あらばセクハラしてくる十一歳。ハラスメント警告出るぞ気をつけろ。会う機会割りと少ないから仕方ないね。アンズに対して色々思うところはあるけど、まあ、はなから普通に嫌ってるから。


如月(きさらぎ)那月(なつき)

 ・奉仕するのが至高の喜びな二十四歳。撫でられるより撫でたい。その上で独占欲を発揮されたらもうこれ以上のことはない。他のみんなが撫でられてる中一人撫でてるっていう特別感も中々。


(ひいらぎ)美散(みちる)人魚(めいど)

 ・あやの両親な四十七歳と三十九歳。ミチさん・トトさん。つまりあやってトトさんが十六のときの……?ちなみにどちらも女性です。どちらも女性です(迫真)。夢が広がりますね。なんか色々考えようとして考えた結果考えるのをやめてご覧の有様。なら最初から考えるんじゃなかった。いや、別に考えてたからこんな遅くなった訳ではないのですが。スズと波長が合うミチさんとキラキラネームなのを心底嫌ってて本名呼ぶと本気で殺意を向けてくるけど普段は穏やかほんわか系な元ヤントトさんのカップル。特に劇的なことがあった訳でもない普通の円満カップル。ヤンキー?知ったこちゃねぇ抱かせろ。まあ子供産んでからが大変でした。産んだのはミチさん。さすがに高校生孕ませねぇよなぁ。ちなみに人魚でめいどっていうのはマーメイドから来てるけどマーメイドって海の(マー)女性(メイド)だからメイドだけ取ったらマーメイド要素絶無っていう。そりゃグレるわ。大人しくアリエルとかにしとけよ……。


次回、きらりんパート開始。

またの名を正月休み明け。

もう夏になりますね……。

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