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56話:特にドラマもなく

書いてしまったものは仕方ない的な

「―――!」


 排斥力場の紫戦士が薙刀を振るう。

 直撃した敵は弾き飛ばされて後ろの数体を巻き添えに倒れるけど、さすがにレベルもそこそこな上に全身鎧で重量も増してるとなると余波だけではちょっと動きを止めるくらいが限度。そこを狙って攻撃を叩き込めるとはいえ、これまでみたいな圧倒的な足止め力は残念ながら望めない。対多数で囲まれているとなるとやっぱり押し潰されないように敵を速やかに排除、あるいは遠ざけるのが最重要事項だけど、一番の有効打を持つ紫戦士がそのざまだからかなり状況は切迫している。

 その上鎧が厄介だ。

 敵の全身じゃなくて鎧だけに注視するっていうやり方でどうやらいけるらしい、これ幸いと観察の目で色々見てみたけど、物理耐性やら魔法耐性やら中には反射装甲とかいうのまで色々持ってて困る。紋様である程度見分けはつくけど、さすがにこの混戦ともなると100%の精度で攻撃を分けれるのなんてアンズとナツキさんくらいのものだ。スズとかユズキちゃんなんかまとめてぶん殴ってるからちょくちょく反射装甲に吹き飛ばされてるし。


「のぉおお!?」

「おぼー!?」


 思ったそばから……いや、私が偉そうに言うのはおかしいけども。


「そろそろ矢が尽きます!」


 厳しそうな表情で、ナツキさんが声を上げる。

 うわぁ、いや、うん、そりゃあそうだろうけど、ついにきてしまった。

 兜の目の穴から眼孔を通して脳を貫いてるはずなのに一撃必殺にならないとかいう人型詐欺な敵のおかげでさっきからすごい消費量だったし、それも仕方ない。なにが悪いって、倒しても倒しても補填される無尽蔵の敵もそうだしやっぱりレベルが足りてない。レベルというか、ナツキさんはわりと色んなステータスに振ってるっぽいし、火力が足りてない。どれだけ弱点を狙えても、そもそも威力がなかったらキツい。


 だからといってどんな打開策もなくて、それからまもなく、ナツキさんは最後の一射で敵を一体仕留めた。


「きらりん様、短剣を」

「っす!……え、あ、短剣っす?」

「はい」

「りょ、了解っす!」


 即座に声を張り上げたナツキさんの元に、きらりんが戸惑いながらも短剣を投げる。

 それを空中で受け取ったナツキさんは後衛から前衛にチェンジ、しゅるりと敵の波を縫って遠距離攻撃してくる敵にピンポイトで近づくと、短剣の刃を首の隙間に差し込みくりっと手首を動かし、同時に首を捻る。


 いとも簡単に落ちる首。

 当然のように、一撃必殺。


 ……。


「すさまじい腕だな……!」


 びっくりする私の横で、どうやらほんのちょっと息を整えに戻ったらしい、のーたんさんが目を爛々と輝かせる。どうも刀を抜くと性格が変わるらしいのーたんさんは、居ても立ってもいられないとばかりに刀を携え敵の元に。関節の隙間を縫うような斬撃で四肢を切り落としてはにやにや笑うという若干危ない性格は一体どんな人生を経験したら生まれるのだろう、皆目見当もつかないけど、行動不能で置いておくと障害物になるから足止め能力は高いし、まあ気にしないことにしよう。ロールプレイロールプレイ。きっと。


「えむぴーぎれですわ」

「燃費悪すぎの産廃ですぅ。『付与(エンチャント)』―『魔力譲渡(マナギフト)』」

「かんしゃしますわ、がすすたんどさん♪『わがいのりは―――」

「ろくに戦果もあげてねぇのに囀るなですぅ」


 折を見て魔法をぶっぱなす役のソフィと、もっぱらユズキちゃんへのバフとソフィのMP補給係をやってるきょーりちゃん、役割柄交流も多い中で毎回似たようなやり取りをしているんだけど、こればっかりはもう多分どうしようもないんだろう……なんかこっちが申し訳なくなってくる。


 特にきょーりちゃんは割とみんなと馬が合わないみたいだし、かなり不本意だろうこの共闘状態を早々に解消した方が多分色々都合がいいんだろうけど……これ終わるんだろうか。一人倒したら一人補充くらいのリズムができてて微塵も減ってる気配がしないんだけど。


 かといってなにができるということもなく、その後も結局飲まれないようにと防戦一方。


 というか、なんだか徐々にこの下手したら飲まれてそのまま死ぬみたいな状況に慣れたきたかもしれない。なんかみんなも、半ば流れ作業的に効率化されて―――


 キンッ!


「ひ」


 頭の横で聞こえた金属音に飛び上がる。

 完全に気が抜けていた。

 咄嗟に向けた視線の先では、アンズの杖に弾かれて宙を舞う金属の矢が。


「あ、ありがとリコット」

「……厄介」


 アンズの睨む先、鎧の壁の向こうには、頭一つ大きな鎧の戦士。

 明らかにこれまでの雑兵とは違う風体なのに一体じゃないっていう……というかボウガン持ち何人いるんだろうあれ……うわ、しかも三方から来てるし……ってげんなりしてる暇な―――


「遠距離気をつけて!『撃ち落として!』」


 一斉射。

 狙いは散って、だからこそ対処を全体に向けると追いつかない。

 私にできることといえば、紫戦士任せで後衛組を狙う矢を落とすくらい……あ、あとスターもなにげに撃ち落としてる、すごい。


 いや、なんというか、もうこの際他力本願とか知ったこっちゃないでしょ。


 他のみんなは……うん、信じてはいたけどなんでそんな当然のように刀とか短剣とかで矢を落とせるんだろう。スズとか何本か刺さってるけど重症じゃなさそうだし、まあ、前衛組も特に大きな損害はなさそう、かな。


 ほんと、ひやひやさせるのはやめてほしい……ってまた番えてるし……!


「アンズは妨害メインで!ナツキさん足止め!」

「ん。■■■―――」

「かしこまりました。きらりん様」

「こいつを使え!」

「!感謝しますのーたん様」


 近くの敵を片っ端から仕留めていたアンズを遠距離持ちの敵の妨害にシフト、のーたんさんからスペアっぽい刀を拝借したナツキさんは逆にのーたんさんと同じように敵の足止めに。敵前衛の殲滅速度は落ちるけど足止め効率は上がるし、動かなくても狙えるアンズなら遠距離の妨害には最適だ。敵のサイズが増してかえって数が減ったくれたからというのも大きいけど。


 にしても、敵の様子が変わったっていうことは少しは状況が進行してくれていると思っていいんだろうか。どこまで進行すれば終わるのかも知りたいところなんだけど、こう、わかりやすいゲージとかないんだろうかこれ。


 なんて思ったところでどうにもならないことは間違いなくて、だからくたびれかける心をなんとか律して、きっともう一息だと言い聞かせる。


 というか、そうじゃなかったら流石にちょっと本気でやばいでしょこれ……。


 ■


「……お、おわ、た?」


 私の言葉に応える声はない。

 とりあえずみんな生きているけど、確証がないから応えられないんだろう。

 それでもきっと、全員が同じく終わってくれと思ってることは間違いない。そっちはもう確証があるくらい。


 結局、大きい鎧が出現してからまた十数分戦い続けるハメになった。

 一応今は敵が新しく出てくることもないんだけど、はてさてこれは無事終わっているのかどうなのか……一応領域は展開しっぱなしだけど、正直さっさと安心したい。


 さあどうしたものかとみんなでじりじりしていると、ふとアンズがなにやら操作をして、そしてポツリと呟く。


「……ログアウトできる」


 ログアウトできる。


 ……。


 …………。


 ………………。


 ……………………はっ、そうか。


 ログアウトできるっていうことは、それはつまり、少なくとも今現在戦闘状態とかそういうなんらかの渦中ではないということなのか。


 と、いうことは。


「終わったぁぁぁ……ん、ありがとリコット」

「ん」


 それを理解した途端にぐにゃりと力が抜けて、アンズに受け止められる。

 みんなも似たような感じで、張り詰めていた場がにわかに弛緩するのを体感する。


 やれやれ長い戦いだったと苦笑したり、みんなでいやーよかったよかったと笑い合ったりして。


 それからふと、気づく。


「それでこれ、えっと、ここからどうすればいいんだろう」


 私の言葉に、みんなの視線が角柱に向かう。

 どれだけ見つめたところで角柱は変わらず赤く光っていて、どう見ても使える感じではなさそう。


 次いで、周囲の扉に視線を向ける。

 開いたその向こうには普通に通路が続いていて、その向こうにまた見覚えのある扉が待っている。


 ……えっと。


「探索再開、かな?」

「……まあ、他に選択肢なさそうっすよね」

「ログアウトするのもなくはない」

「せっかくのチャンス逃せないだろー!」

「それならあなたがたはさっさといけばいいんですの♪」

「ぬ?」


 ソフィににこりと笑いかけられて、ノリノリなユズキちゃんは不思議そうに首を傾げる。そしてソフィをずっと見つめて、それからぽんと手を打った。


「それもそうだな!よっしゃいくぞー!」

「なっ、こらゆず」

「仕方ないですぅ」


 のーたんさんが止めるより早く、きょーりちゃんが追従する。

 困り切った様子ののーたんさんは、そして私たちに振り向くと、なんとも気まずそうに頭を下げた。


「あー、すまない。助けてもらって申し訳ないが、我々は行かせてもらう」

「いえいえ、お互い様ですよ。共闘して頂いて助かりました。お気をつけて下さいね」

「うむ。また機会があれば共に戦おう。……なっち殿とは、是非とも一度手合わせを願いたいところだが」

「申し訳ございませんが、私は武人ではありませんので」


 す、と細められた視線に、ナツキさんはしゃなりと優雅に頭を下げる。

 その反応は想像していなかったんだろうか、のーたんさんは目を見開いて、それから笑った。


「いや、こちらこそ非礼を詫びよう。では、失礼する」


 楽しそうに笑いながら、のーたんさんは二人を追って通路に向かう。

 全然待つつもりのないらしい二人が扉を開いたところで追いついて、そのまま扉の向こうに消える。


 ……。


「で、私に撫でてほしいのは誰?」

「はいはいはーい!」

「ん」

「じらさないでほしいですわ♡」

「……たまには少しハメをはずのも使用人の嗜みでしょうか」

「え、え、あ、えと、じゃ、じゃあ私も……え、いやこれなんの流れっす?」


 なんのってそりゃあ、なでなでの流れ以外のなにものでもないけど。


 ■


「じゃあそろそろ行こっか」

「うぃー」

「み、耳の中……!みみ……み、み……!」

「ん」

「ソフィはいいこなので、しょうがなくがまんしてさしあげますの♡」

「堪能させて頂きました」


 それはよかった。


 さておき、色々抑圧してたものとかを少しは解消できたっぽいみんなと、探索再開。

 とりあえず三人が選んだ以外の道から特に理由もなく選んでみて、オープンザドアー。


「お、おおー」


 開いた扉の向こうには、少し幅のある通路が続いていた。その左右にはなにやら人ひとりが余裕で入れるようなパイプが……合計18本天井から降りていて、その先端部通路側にはちょうど扉みたいな切れ込みが入っている。

 なんというか、十中八九これから出てきたんだろうなっていう装置だった。


 あれだけ沢山の敵が出てきた扉の向こうは一体どうなっているんだと少しドキドキしていたんだけど、なるほどこうなってたんだ。


「これ乗れないっすかね!?」


 わくわくきらりんが最寄りのパイプに近寄って叩いたり蹴ったりするけど、パイプはうんともすんとも言わない。むしろそれで起動したらどうするんだろう。どこに送られるか分かったものじゃないだろうに。


「きらりんホーム」

「い、犬っすか……」


 とか言いながらちょっと嬉しそうに、でも耳を抑えながら寄ってくるきらりん犬可愛い。別にそんなに警戒しなくても、みんながいるところでそんなおかしなことなんてしないのに。


 うりうり。


 とかなんとかやりつつ。

 とりあえずこの通路には特に使えそうなものとかもないから、次。

 通路の奥にある扉の先にさっさと進む。


 進んでみると。


 そこはなんというか、なんだろう、想定外というか、今きたかーという感じの、うん、えっと。


「牢獄きたぁぁぁーっすぅ!」


 あ、牢獄欲求はなくなってないんだ。

 いったいそのこだわりはどこから来るんだろう……謎だ。


 ■


 《登場人物》

(ひいらぎ)(あや)

・わりと難儀な思考回路持ってる恋人連中の需要を的確に満たせることに定評のある二十三歳。でも基本筆者も完全に理解してる訳じゃないです、というかこいつらほんと頭おかしいんじゃなかろうかとたまに思うくらいで、理由考えるの大変なんですよね。キャラが勝手に動くみたいな玄人的なことではなく、なんも考えずにノリで書いてるっていうだけだからこうなる。まあみんなが幸せそうならよしとしようかな(諦め)。


柳瀬(やなせ)(すず)

・ボウガンからの矢とか避けれる訳もない二十三歳。いや、普通撃ち落とせる方が絶対おかしいと思う。でも、なにげにあやを狙う軌道の矢とか身を呈して受け止めてたりしてる。気付かれてないし、実際それに意味があったかといえばそんなことは全くないんだけど、着々とフラグは建築してる模様。身を呈してっていうのが大きい。


島田(しまだ)輝里(きらり)

・よく分からないけどとりあえずなでなではほしい二十一歳。展開に着いていけなくても促されることなく撫でを享受する辺り徐々に調教されつつある気配。でも親友枠。いつ恋人を認めるのやら。とりあえずリアルでの交流増えたら少しずつでも動き始めてくれよきらりん。いや、いっそπちゃんを絡めるか……?考えときます。ちなみに耳はほしゅほしゅされただけです(ほしゅほしゅ)。


小野寺(おのでら)(あんず)

・ログアウトの件即座に思いついてなかった辺り結構疲労感あったっぽい十九歳。デート回で急にぶち込んだとおり人間がそもそも好きじゃない上に合わないやつとずっといるのって、精神的にやっぱりくるものがあると思うんですよね。考えてみればわりと長々と他人がいたりして、そういうのが強敵後ののんびりタイムと一緒にむずっときたのを見抜かれて嬉しい感じ。


沢口(さわぐち)ソフィア(そふぃあ)

・実は二回くらい布団に焦げ目を付けてやったりしてる十一歳。しかも気づかれてない。してやったり。そんなこんなで結構上機嫌だったから言い返してただけで、純粋に不機嫌なときとかだと最低限の話しかしない。いや最低限すらあやがいなかったらしなかったはず。悪感情というやつには千倍返しじゃ済まないけどあやの手前我慢してやってた。いなくなったらそりゃああやに責任取ってにゃんにゃんしてもらわなきゃ気がすまないよねっていう。


如月(きさらぎ)那月(なつき)

・たまには撫でも悪くないかなっていう二十四歳。基本堪え性のないやつばっかだから仕方ないね。ちなみにナツキさんが撫でを享受するのはほんとレア、のつもり。これで本編でもうやってたらどうしよう……まあ別にそこまでこだわってないし(適当)。まあナツキさんは飴より鞭の方が好きだし(真顔)。いや、別にナツキさんの性的な性癖とか今更隠す必要ないじゃないですか!?出会い関係の話書いててちょっとテンション上がってるなう。そういうシーンは書いてて楽しいのにどういう流れでこいつと知り合えるのか謎すぎて書き出しが書き出せないという罠。しばらく先になりそう。迷走し過ぎてバーでメロンソーダをショットグラスで飲んでたけどさすがにそれはないやん……。そういえばサラッと見せ場が……すまねぇ……。


大野(おおの)(おうぎ)

・剣道よりは剣術寄りな二十六歳。別に習った訳ではなく、ユズキちゃんやきょーりちゃんの付き合いで観ることがあるアニメで見たことのある動きを模倣してるという事実。刀を握ると性格が変わるというか、戦闘中はわりとゲームに没入できるからストレスが露出してる感じ。あとアニメの影響も若干。


水萌(みなも)双葉(ふたば)

・戦闘スタイルは軽装のスズな十四歳。大雑把というか、分かりやすい。物理耐性あろうがぶっ飛ばせばかんけぇねぇ!時間的にそこそこやり込んでるわりにアビリティはパッシブの強化系二個くらいっていう清々しさもあったりして。そこはきらりんめいてる。


大山(おおやま)藍月(あいな)

・完全支援型付与魔法使いな十六歳。でもユズキちゃん贔屓がそこそこ垣間見える。それがちゃんと効率いいと思ってる辺り依存度高めかもしれない。三人で動いてるときとか、のーたんさんがちょっと寂しがってたりして。


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