53話:そして探索
すみません、色々設定とかまとめるために次回1回おやすみさせていただきます……多分。
もしかすると普通に更新するかもしれませんけど。
とりあえず、πちゃんの流れに乗った忠誠の儀的ななにかは一旦置き。
各々文言を考えてくるらしいけど、うん、正直やめてほしい。やめてほしいけどちょっと嬉しいのがまたなんかこう……いや、なんだろう、まあ、うん、とりあえず、考えるのを止めた。
それはさておき探索探索。
とはいえ、城とかいうあからさまに中枢的な場所が安全地帯に設定されてるのに、一体どこを探索すればいいのかという感じだ。きらりんなんかは牢獄を探すっすー!ってノリノリだけど、ちょっとよく分からない。いやまあ、考えてみればこの規模の国にその類の施設がないっていうのはおかしなことかもしれないけど、牢獄ってそんな……。
なんて思ってたら。
「あったぁーっ!っす!」
「……あるんだ、っていうか落ちないでねー!」
建物の屋根に登ったきらりんがぴょんぴょこ飛び跳ねるから心臓に悪い。
河童の川流れ、いやこういうときは猿も木から落ちるの方が近いかもしれないけど、どっちにしても万が一があるから、ほんとはやめてほしいんだけどなぁ……ちょっと格好いいところ見せたいみたいな可愛い意地にころっとやられてしまった……。
だけどまあ、許せるのはここまでだ。
「ゆっくり降りてきてねー!」
「…………りょーかいーっすー!」
あのディレイはやっぱり飛び降りる気だったなきらりん。
まったく、私には散々言う割に、自分は勝手なんだから。
柔らかさで言えば同じなのに。
……まあ、それはそれとして方針が決まったのは確かだから、とりあえずレッツゴー。
きらりんの先導に従って、遅い来る人々をなぎ倒して、ぐんぐん進む。
途中行き止まったりしつつもくねくねと、進み進むこと数十分。
ただでさえ広い上に隅っこにあるものだからなかなか大変だったけど、なんとかかんとかたどり着く。
「……これ?」
「っす!」
……そうは言われても、これ、なんだろう、なにをもってして牢獄認定したんだろう。
「おとうふみたいですわ」
「おおー!それだー!とーふとーふ!」
「ん。こういうのを豆腐建築という」
「なにそれ建築用語……?」
まあ確かに、その豆腐っていうのもうなずけるほどにそれは、なんというか、牢獄っぽくない……というか一体どんな中身だったら似つかわしいのかよく分からない、白くて平たい直方体だった。
白くて平たい直方体。
それだけ。
やけに重厚そうな両開きの金属扉は、まあ確かに牢獄と呼べそうな仰々しさではあるけども。
「えっと、なんでこれが牢獄って?」
「ぽくないっす!?」
「ぽい」
えっと、ぽいんだろうか。
まぁ、うーん、この殺風景さは確かに、普通の建物っぽくはないけど。
なんてはたから眺めてるだけじゃ意味もないから、ぐいぐい進むきらりんに引っ張られて、その建物の目の前まで。
「オーブンザドアー!」
いえーい!とやけに楽しそうなきらりんが扉を押し開ける。
ぎぎぃ、とひずんだような音を立てる割にスムーズに開いたそれは見た目の仰々しさに負けず劣らずの厚さで、ああ今ゲームっぽいと、なんかよく分からないけどすごい思った。
扉を開いた向こうに広がっていたのは、なんだろう、すごい案の定な感じだけど、見事になにもない殺風景な空間だった。床は正方形で、テニスコート一つなら設置出来そうな感じの広さ。天井に埋め込まれた明かりに照らされて隅々まで見通せるけど、見通せたところで、なんだろう、四方に扉があるとか、中央のところに光線巡る金属の角柱みたいなものが生えてるくらいしか目に付くことはない。
「……牢獄?」
「いやこれはあれっす!絶対なんかギミックあるやつっす!」
なぜかむしろ目をキラキラさせるその精神はちょっとよく分からないけど、その意見に関してはアンズも同意するみたいだった。まああからさまになんか、こう、それっぽいのはあるけども。
そんな訳で、ちょっとだけ警戒しつつ、中央の角柱に近づいてみる。
ちょうど今の私でてっぺんに手が届きやすいくらいの高さなそれは、黒光りする金属に冒険者カードや迷界カードを思わせるような光線が巡っていてと、なんとも古典的SFチックな見た目をしている。そのてっぺん中央には光の集まった円があって、なんだろう、巡る光線が全部ここから流れ出しているみたいな、そんな雰囲気を感じさせる。
「せいっ!」
「あ」
「むぅ」
あからさまにこれを触るんだろうなあと、思った時には既にきらりんが触れていた。
どうやら触りたかったらしい、ソフィが可愛らしく不満の声を漏らすけど、そもそもおんぶの状態だと触るのは大変だろうから仕方ない。それともその小さな足でふみっとするつもりだったのかもしれないけども。
なんてちょっと幸せな幻想に浸りつつ、待ってみるものの変化はなし。
「あれ?おかしいっすね」
「はんのうしませんの?」
てしてし叩くきらりんに、ここぞとばかりにソフィが反応。
ぴくっとつい反応しつつ眺めていると、普通にナツキさんが屈んで、ソフィはぐーっ、と手を伸ばして触れた。
まあ、さすがに少女センサーが搭載されていたりはしないらしい、反応はなし。
はてさてこれはどういうことなのかと。
みんなで考えてみるという流れがやってくるよりも、前に。
ぎぎぃ、と、扉が開く。
それも四方の扉が一斉に開くものだから、歪んだ四重奏が酷く耳障りだった。
そしてその向こうから、スーツ姿の彼ら彼女らがなだれ込んできて。
ズラッと並ぶその姿はなんとなく壮観で。
ほへーと感心していると、私たちの姿を確認した彼ら彼女らは武器を抜いて……うん。
「リーン下ろして。『観察の目』」
「お、おおー!」
下ろしてもらいつつざっと確認すると……よし、レベルは特に変わってないかな。
「外のと同じっぽい」
とするとまあ、時間稼ぎよりは殲滅でいいだろうか。結局迫ってくるのはこの中の半分な訳だし、さっさとケリをつけよう。
「『領域指定』―『円環』」
なんて詠うのに反応するみたいに、人々は動き出す。
あるものは武器を携え突貫し、あるものは光の軌跡で魔法を描く。
けどもちろん、みんなだって見てるだけじゃない。
白く輝く鎧を纏ってないスズが大剣を振るえば、数人まとめて砕け飛び。
ひとたびきらりんがその両腕を振るえば、その度に屍が転がり。
一切の気負いなくアンズが杖を振るえば、飛来した魔力弾が人々の頭に叩き込まれ。
いち早く詠唱を始めていたソフィが最後の祝詞を口にすれば、灼熱の火炎が人々を焼き焦がし。
普段通りのナツキさんがしゅんしゅん矢を放てば、眼孔から矢を生やす前衛芸術が生まれ。
……なんだろう、もしかして私魔法使う必要ない……?
とか思いつつ、それでも詠いきる。
今回は戦力強化のバトルフィールドを使ってみたけど、なにげに霊戦士との組み合わせは初めてだったりする。
さあてどんなのが出てくるかなと眺めていると、形を為したそれは、全身にバチバチとスパークを纏う赤色の戦士。
湾曲した二本角、他と比べて心なしか太い気がする腕。
そしてその両手にはトゲ付きメイスを一本ずつ構えて。
「―――ッ!」
咆哮を上げた赤戦士は、そして獲物がなくなる前にと人々の群れに突貫していった。
もはや状況的には残党狩りみたいな感じだけど、まあ、「『頑張れー』」。
そんなこんなで。
それから程なくして敵は全滅して、室内に平穏が訪れる。
……だからどうしたんだとがっかりしかけたけど、それより先にナツキさんがそれを見つけた。
「うおー!っす!」
しゅだーっ、と取りに行ったきらりんが、目を輝かせて戻ってくる。
興奮気味に掲げたそれは……なんだろう、なにかのエンブレムだった。
十字と渦巻きを重ねた感じだろうか、一体どんな意味があるのやら分からない。というかきらりんがなんでそんなに興奮しているのかも分からない。
「こーゆーのはこうっすよ!」
言ってきらりんは、嬉々としてそれを角柱のてっぺんにかざす。
ゔぉん、と音がして、光の色が黄色に変わる。
「あー」
なるほど、と頷いた刹那。
ごがんっ。
と、足元が揺れる。
「わ」
ごごごと揺れて、がごがごとなにかいろんなものが動く音が聞こえる。
それを聞いたきらりんが、ぱぁっ!と表情を華やがせる。
「ほらきたぁっす!」
「な、え、なに?」
「ヘヤベーター」
「へやべ……え」
ヘヤベーター。
……それはつまりそういうことなのかと、訊ねるよりも前に。
ぐごんっ!と、一際大きな揺れ。
そしてぐぐん、と、内臓がふわりと浮かぶような、不思議な、だけどあまりにも身に覚えのある感覚。
部屋ベーター。
どうやらつまり、そういうことらしい。
「うおー!動いたー!」
「なかなかおもしろいからくりですわね」
「旦那様のお耳に入れてはなさいませんよ」
耳に入ったらどうなるんだろう……まさかリアルで……?
■
ごぅんごぅんと、降りること数十秒。
部屋ベーターというアンズの言葉はなるほど間違いなくその通りで、建物諸共に地中に沈んでいくという未だかつてない経験に少しだけ胸踊ってしまうところにきらりんの牢獄という言葉が脳裏を掠めてしまってちょっと緊張しつつ。
ちーん、とか音が鳴るでもなく。
不意にごぉん、と揺れて、足元に落ち着きが戻ってくる。
「っしゃいくっす!」
即座にきらりんが、ばぁん!と扉を開け放つ。
もはやここまでくると微笑ましいくらいのテンションの上がりよう、『ドアの前で待ってるっす!』と言ってくるくらいなんだから、そりゃあ楽しみなんだろうなあ。
と、そんなぽんやりしたことを思っていた私の視界に飛び込んできたのは、なんだろう、SFというかファンタジーというか、パニックホラーな光景だった。
パニックホラー。
こう、怪物がー、とかゾンビがー、とかそういう。
具体的に示すとするならまず、地下というのを感じさせない明るい廊下。
その両脇は、ガラスにしては光沢のない透明の壁。
で、その向こう。
……なんだろう、怪物、でいいんだろうか。
怪しいというか、気持ち悪いとかおぞましいとかそういう類のもっとマイナスな感じ。
こう、CEROのZ指定入りそうな。
それは例えば、お店で売ってるような肉の塊をたくさん混ぜたような。
それは例えば、色々な生き物の色々な部位を金属片で継ぎ接ぎしたような。
それは例えば、腕や足の形をした機械をゼリーに突き立てたような。
それは例えば、八割機械十二割人間で強引に一人を作ったような。
そんなのが、ぐちゅぐちゅ、ごろごろ、うぞうぞ、うじゃうじゃ。
もはやどの擬音を使うべきかちょっと分からないほどにめちゃくちゃに。
いるとかあるとか、そんな言葉すらつかえないくらいてんやわんやで。
……液体燃料でも撒き散らして焼き尽くしたいとか、そんなことを思うのはきっとセン―――
「むぎゅ」
「だめー」
顔を腕に押し付けられて、ふと思い出しかけた顔が思い出せないまま朧に消える。
上目遣いに覗いてみれば、スズは、まるで幼子に向けるかのような慈愛の視線を向けてきていて。
なにを思い出しかけていたのかもすっかり忘れてしまったと、そうやって思う、ことにした。
「ユア姫……?」
「んー、あんまりこういう感じのはねー、ユアひめ得意じゃないからー」
「……そう」
「まあ、そうなんですの♪かわいらしいですわ♡」
「可愛いかな……?」
謎の感性で表情を綻ばせるソフィは可愛いだけだからさておき。可愛い。
誤魔化しだと分かってて、それでもなにも言わないでくれるアンズとナツキさんに、少しでも安心してほしくて視線を向ける。
分かってると、伝えてくれることに少し申し訳なくなった。
苦笑する私に、振り向いていたきらりんがぽやっと言う。
「ユア姫にも苦手なものとかあるんっすねー」
「きらりんは私をなんだと思ってるの」
「いや変な意味じゃなくてっす!なんかこー、そーゆーのなさそうだなとか勝手に思ってたっすから……」
「私そんな感じ……?」
見渡すと、え、うそ、私そんな感じ……?
全然普通に好き嫌い苦手トラウマ色々あるんだけど。というか、未だに多分直接攻撃するのとかあれだし。もはやなにが基準なのか分からないけど……まあそんな感じで。
「私、むしろ弱点多いと思うんだけどなあ」
「じょーくがにがてというのはじゃくてんにはいりませんわおねえさま」
「自分のことほど見えていないものですから」
なんだろう、ソフィとナツキさんがさらっと酷い。
うーむ。
「分かった。じゃあきらりん、今度二人で遊園地とか行こっか」
「ひぇっ!?」
「弱点とか色々知ってもらうにはそれが一番だと思う、うん」
あそこはだいたい揃ってるし。
まあ、行ったことあるはずのスズとソフィとナツキさんが同意してくれないところを見ると、微妙だけど……って、あれ?
「ひぁ、お、えぁ!?」
お、おお、なんだろう、てれりんどころじゃない。
……あ。
「いや、違うよきらりん、大丈夫、別にデートとか、そういうんじゃないよ」
ただ、友達と遊びにいくようなものだから。
なんて自分で言っといて悲しくなりつつ。
そんな私の言葉に、きらりんは目を見開いて、目を伏せて、不器用に笑って、ふるふると頭を振って、最終的にへにゃっと困ったように笑う。
「い、いやー、ごめんなさいっす。急だったからちょっとビックリしちゃっただけっす、大丈夫っす、親友と遊園地いくのとか全然普通っすもんね!」
「う、うん」
……どうしてか少し、苛立つように胸がざわめいた。
それを悟られないようにと、きっとそうやって下手に動くのは逆効果なんだと分かっていつつも、ひとつ咳払い。
「さ、さあて、じゃああれだね、こんなところで話し込んでるのもあれだし、探索していこっか。牢獄じゃないけど、なんかもっとすごそうだよ」
……いやうん、大丈夫。
大丈夫だから、みんなそんないっぱい見ないで……。
■
《登場人物》
『柊綾』
・きらりんの様子に微妙ななにかを感じてるらしい二十三歳。きらりんみたいなパターンはなにげにこれまでなかったから戸惑い気味。まあ、他の恋人連中に同じようなのがいたかといえばまったく全然そんなことはない訳ですが。なお、今回ちょっと名前が出かかった人は完全に過去の人なので本編に出ることはないです。出ることはないですけど自己満足的に軽く紹介すると、スプラッターとかグロとかパニックホラーとかが好きな小動物系ゆるふわ少女センリさん。兎がポリゴンに散るとかその程度じゃ思い出せない程度には趣味が飛び抜けてるし、あやにとってはほんとかなり昔の人。腹部にでかい手術痕があるという設定。出ないけども。時期的にはアンズよりも前、ここにいるメンツだと知ってるのはスズだけでしょうか。ちょっとナツキさんとの出会いの時期とか実は未だに固まってないのであれですけど、まあ今回知らない風にしたのでそんな感じの時期になりそうです。まあどのみちそれ関連の話は本編で語られやしないんですけどね。書くとするなら『懺悔の話』とかそんな感じの公開滲むタイトルにしよう。
『柳瀬鈴』
・久々に戦った気がするけど相変わらず鎧は着ない二十三歳。ほんとそろそろ鎧が泣くぞ。そっちがその気なら運び屋の役を解任させてやるからな覚悟しろ。πちゃんの読み違いというよりは、πちゃんはあくまで最善を押し付けてるのであって、しかもそれは対強敵みたいな場合に限局される最善だから、まあ、雑魚相手には仕方ない。でも解任してやる。どうせもっと先でそんな舐めプしてたらあやとか巻き添えで普通に死ぬし。……死んでも花園がある限り蘇るとか考えたけどなんか回数重ねる毎に周りの人達が闇堕ちしそうだからなしで。
『島田輝里』
・あやにストライクゾーンぶち抜かれて死にかけた二十一歳。遊園地憧れてるんですよこの人。自分で親友ポジって言って、まだ恋人とかそういう関係になるのはやっぱ怖いしデートとかそんなだいそれた感じ出されるのもうぼぁ……だけどあやに否定されると否定させてしまったことが悲しいし否定されたことが悲しいし残念にだって思うという至極面倒くさい子。それを口にすれば変わるんだけども、みんないるからなぁ。でも遊園地デート絶対やるから覚悟してろよきらりん。
『小野寺杏』
・スズの本妻的側面を見せられてちょっとむぐぅ、な十九歳。きらりんもあやから見たことない反応引き出してるし。あやが幸せで、たまにそれを二人きりで分け与えてくれればそれで満足できる人。だけどその満足は必ずしも最大の幸福とイコールじゃなくて、ああ自分は少し嫉妬深いんだなあと、自覚したくはないんだけどせざるを得ない。それでもやっぱり、本編の内になにか関係に変化が訪れたりは、まあ、しませんが。内面は、少し変わるかも。
『沢口ソフィア』
・リアルでそれとなくパパにおねだりしようと画策してる十一歳。部屋ベーターとかかっこええじゃないっすか。まあ作ったところで満足するタイプだけどねこの子。しかしさすがにパパもそこまで……いやなんかしそう……?おねえさまをおどろかせてみたいのですわとか言ったら即落ちしそう……。
『如月那月』
・こんなのの割に遊園地とか行っちゃう二十四歳。いや、別に行っちゃダメとか場違いとかそんなことは微塵も思っちゃいないけど、ナツキさんがジェットコースターとか乗るのちょっと面白くないですか。ないですか……。ちなみにナツキさんは密かに高いところとかジェットコースターとかお化け系とか苦手です。コーヒーカップも人に回されるの嫌。観覧車揺らすんじゃねえよ。こう、傍から見てるとあんま分からないけど若干口数が減る感じ。自分で飛行機操縦するとかは全然余裕なんだけど、自分で動かせないとちょっと怖い。恋人モードあやなら普通に気づけるので、遊園地では沢山ジェットコースターとか乗りました(矛盾でない)。
前書きにもあるように次回は多分お休みです。
なので次は恐らく4/4ですね。




