50話:これで終わりではないです
気が付けば50話目です。
考えてみれば50話やっといてこの情報量って酷すぎますよね。なるほどこれが文章力のなさというやつなのでしょうか。
何はともあれ今後も精進してゆきますので、どうぞよろしくお願い致します。
あいにくときらりんの黒歴史とやらは聞かせてくれなかったけど、そのPKについては色々と聞かせてくれた。
いわく、優れた装備を破壊することに執念を燃やす変態であると。
PK行為というやつはだからおまけのようなものでしかなく、なによりも最優先は装備の破壊。恐らく狙いはこじかちゃんの胸当てとπちゃんの細剣、どちらもπちゃん作だというのだから恐れ入るけど、つまりπちゃん作の装備を揃え……きれてないとはいえまあ使っている私たちは十分その変態PKの狙いになる可能性があるとか。そしてその変態PKは人数差とかそういうのを気に留めるタイプじゃないから、いずれにせよ警戒すべきらしい。ただ、勝利にせよ敗北にせよ一度狙い終われば諦めるという潔さもあるから、いっそ一度叩き潰しておいた方が安心できるとも。
……うーむ。
まあ、PKよりは多少質がいい、んだろうか。πちゃんの細剣を叩き折ったというその力量は恐るべきものだと思うけど、実際に遭遇したπちゃんたちやきらりんが言うには攻撃の多くが装備破壊に偏っていて、それが分かっていれば割とどうにかなりそうらしい。
まあだいたい、これくらいが現状そのエースさんというPKについてのすべてかな。
色々と話した結果、当然ながら私が狙われるのは許容できないアンズが主張を一転させて探してでもねじ伏せてやろうと言い出すのはまあ予定調和みたいなもので。スズは『わたしが守るー!』と意気揚々だし、装備に誘われたところをフクロにしてやろうというブラックπちゃんとミちゃん、諸共に焼き焦がしてやろうという意図の透けるソフィと障害を排除するになんら躊躇いのないナツキさん、とまあみんなかなりノリノリだ。若干一名こじかちゃんだけ空気に入り込めなくておろおろしているけど、普段の私を見てるみたいでちょっと頑張れっ、みたいな感じ。
かくいう私はといえばまあ、もちろんきらりん推しだ。
PK狩りムードの充満する中で、躊躇うような困ったような様子をみせるきらりん。
大丈夫だよ、と視線で伝え続けていれば、きっと気づいた訳ではないんだろうけど、しばらくしてきらりんはようやく声を上げる。
「あの、PKのことなんっすけど」
そりゃあ今PKのことしか話してないだろうと、そんな視線が集中して若干たじろぎながらも、きらりんは続ける。
「戦うの、私に任せてくれないっす?」
「お断りよ!」
即座に拒否したのはπちゃん。
ソフィは若干むすっとしているけど、私がそれを望んでいるからこそなにも言わないし、他のみんなはまあ、自分で仕留める積極的な理由もないからとりあえず話を聞いてみようといったところか。
「πちゃん、とりあえず話だけでも聞いてみない?」
「……ちっ、分かったわよ」
「ありがとね」
「ちょっ、ばっ、やめなさいよ!」
「あぅ、ごめんね……」
頭を撫でると、全力で手を払われる。どうやらまだまだ心は許してくれていないらしい。
殺気立つアンズとナツキさんを視線で黙らせて、それからきらりんに笑みを向ける。
「という訳できらりん、どうぞ」
「えぁ、い、いやー、別にそんな特にないっすけど……えー、一応知り合いっすから、きゅーかつとか叙する感じで……あ、あととりあえずここのメンツをもう襲わないようにとか説得してみる、っす?」
「やっつけたらもうこないんじゃないの?」
「装備変えたらノーカンっす」
「うわぁ」
それはまた厄介な。
というか、なんだ、別に壮大な意思とかはないんだ。
こう、あの日の決着をつける……!みたいな。
ともあれ。
「どうかな、πちゃん。きらりんの言う通りなら、今のうちに釘を刺してもらった方がいいと思うんだけど」
「私は物理的に釘で貫いてやりたいのよ……!」
「うわぁ」
と言って取り出したのは……もしかしてあれサン・オブ・ジャスティスの切っ先……?
砕けた刃で仇を討つとかさすがπちゃん、ドラマティックが好みらしい。
そんなπちゃんにきらりんは少し考える。
「……なら後で好き放題報復させてほしいって頼んでみるとかどうっす?多分聞き入れると思うっすけど」
「…………目を抉り出してもいいのかしら?」
「おっけーっす!是非やってやるっす!」
「ならいいわ!」
いいんだ。
というかきらりんそんなノリノリなんだ。仲悪いのかな……って、まあ、ここまでの口振りからしてそんなにいい思い出でもなさそうだったけど。
とまあ、そんなこんなで。
とりあえずみんなからも否定的な声は出ることなく、場合によってはみんなで潰すけど基本きらりん任せということで、PK狩りの開始を決定したのだった。
……どっちの方が悪質なんだろうこれ。
■
なにはともあれ件のPKと遭遇しなければならないと意気込んでみたものの、案外それは容易い願いだったらしい。
「はっはぁ!こいつぁ愉快!愉快じゃあねぃかよぅ!」
そんな高笑いが響いたのは、不意のこと……いやどうやらナツキさんは気付いていながら奇襲を誘っていたのか気付かないふりをしていたみたいだけど、私含め他のみんなは気付いていなくて。
そしてその桃色の髪を靡かせ私たちの目の前に着地してみせた、見覚えのありすぎる初期装備、つまりは布の服を纏いPKを示す赤い名前を冠する彼女は、あの高い建物の上から飛び降りたとは思えないほどに平然と、喜悦に満ち満ちた笑みを浮かべて私たちを―――
きらりんを、見る。
対するきらりんは苦々しげに、彼女へ向かって言葉を投げた。
「久しぶりっすね―――A」
「ずぅいぶんお行儀よくなりやがったなぁ―――†白ぎ「きらりんって名前が見えないんっすかアンタは!?てかダガーまで発音するんじゃないっすよ!」
彼女―――どうやらAでエースと読むらしいPKの言葉を遮って叫ぶきらりんに、エースさんはなんとも愉快そうにまた笑う。
「いやはや驚いたぜぇ白ぎぃん。久しぶりじゃあねぃかよぅ」
「だからきらりん……いや、やっぱいいっすもう」
「そんな邪険にするこたぁねぃだろぅがよぅ?」
なんというか、すごい苦手っぽいなあきらりん。
傍観してよっと。
「そんで白銀よぅ、てめぇその面ぁ見た感じよぅ、このオレ様を待ってたんだよなぁおいぃ?」
「……話が早いっすね、その通りっす。久々に話しがしたいってところっすかね」
「くはっ!の割にはこえぇこえぇお仲間さんまで揃えちまってよぅ、熱烈歓迎ってかぁ?」
「まあとりあえずはわたしとサシっすけど」
「昔ばなしでもしようってんならどんとこいだぜぇ」
「んな訳ねぇっすよ!?」
聞きたい。
なんなら後で時間をもらいたいくらいの勢いで。
「ほんと、変わってねーのは性癖だけじゃなかったっすね」
「ぶっ壊すのは生き甲斐だっつってんだろぅがよぅ。……そぅゆうてめぇはマジにずいぶんかわったじゃあねぃか、あ゛ぁ?」
「あれはロールプレイっす!もうやめたんっすよあーゆーのは!」
「そぅじゃねぃよぅ」
にやにやと、笑う視線は……まあ、うん、きらりんの胸に注がれていて。
割とゆったりした服装だけど、やっぱり分かる人は分かるんだなあと。
その視線にきらりんが気づいたところで、改めてエースさんは「ずいぶんとかわったじゃあねぃかよぅ、なぁ?」といたぶるように言った。
「な、なんのことか分からねえっすね」
「おっとぉ、自分じゃ気づかねぃもんかもなぁおい?くくっ、ずぅっとちぃせぇちぃせぇっつって文句垂れてやがったが、よかったじゃあねぃかよぅ、ちょぉぉっとは成長してんじゃあねぃかぁ?」
「……っせぇっすよ」
ああ、多分キャラメイクで盛ってることも気づいてるんだろうなあって。
それが分かるんだろう、きらりんはダメージエフェクトが発生するくらい拳を握り締めているけど、あいにくと相手はそれを見てもう舌なめずりせんばかりに喜悦を滲ませるタイプらしかった。
「いやしかしてめぃも奇特なやつだよなぁ白銀よぉ?オレ様なんざんなもん邪魔で邪魔で仕方なくてよぉ、ずぅぅっとてめぃは動きやすそうじゃあねぃかっつって思ってたんだぜぇ?なにせ揺れねぇしなぁおい。んでよぅ、実際やってみたらこいつぁ最高だぜぇ、なぁ?はっはぁ!マジに身体がかりぃかりぃ!あんな駄肉まで弄れるたぁ神ゲェだよなぁ、白銀よぉぉぉ?」
「そいつはよかったすねぇぇ……!」
耐えてる耐えてる。
あんまりこういうきらりんは見られないから、ちょっと新鮮だ。
「おっとぉ、いやわりぃなぁ白銀よぅ。つぅいたわいもねぇ馬鹿話に付き合わせちまったぜぇ」
「えぇえぇほんとっすよ、問答無用で滅ぼさなかったわたしを褒めてほしいっすねぇ……!」
「おいおいそう殺気立つなや白銀よぅ。このオレ様に用があるっつぅのはてめぃだろぅ?」
「ぐっ……なら単刀直入にいくっすよ!A、ここにいるメンツには手出しをしないでほしいっす!」
キリッとギリッの混ぜものくらいの表情で告げたきらりんを、エースさんは即座に笑い飛ばす。
「はっはぁ!そいつぁ無理な相談ってぇやつだぁぜぃ!どいつもこいつもさいっこぅにイカす装備してやがるじゃあねぃかよぅ!」
「当然よ!この私が作ったのだもの!」
おや、πちゃんが反応した。
それに驚くでもなく、エースさんはギロッと視線を向けて親指を立てる。
「いい腕してやがるなぁテメェ!」
「言われるまでもなくこの私は最高なのよ!?」
「くはっ!どぅやらそうみてぇだなぁ!」
あれ、なんか仲良さげ……?
おかしい、πちゃんは復讐に燃えているはずなのに。なんだろう、反りが合うんだろうか。
「……どうしてもっす?」
「ゆぅまでもねぃよなぁ」
そんな様子を横目にして若干気勢を削がれつつきらりんが訊ねると、エースさんは断言して、かと思えばニヤリと笑う。
「つってもよぅ、オレ様も鬼じゃあねぃんだぜぃ」
細められた目は、けど爛々と輝いて。
そこに闘争の意志を見出したのはきっと私だけじゃないんだろう、明確に変わった雰囲気に、私を守るようにアンズがそっと前に出る。
けどきっと、それにはなんの意味もない。
いま彼女の目には私などこれっぽっちも入ってなどいない。
ああ、彼女もきらりんを求めているのだなと。
分かるからこそ胸の内で、ゆるるかに芽吹く優越感。
つい頬が歪んで、そんな汚らしい自分が嫌になるけどそれでも、どうにも収まらない。
「条件次第じゃあよぅ、テメェの要求を大人しく呑んでやらねぇこともねぃよぅ」
「条件、っす?」
幸いなのは二人が私を見ていないこと、おかげでどこに水を差すでもなく、そしてエースさんは告げる。
「なぁに、そんな大したことじゃあねぇよぅ。てぇか、てめぇも願ったり叶ったりなんじゃあねぃかぁ?」
舌なめずりをするエースさんに、きらりんは目を細める。
「……なるほど、分かりやすいっすね」
「くはっ!話がはえぇじゃあねぃかよぅ!―――じゃあ遊ぼうぜぇ、はくぎぃぃぃんっ!」
ひぃやっはぁぁあああ―――!と心底楽しそうに歓声を上げ、一切の合図もなく駆け出すエースさん。
てっきり交渉の後に決闘でもするのかなと思っていたんだけど、考えてみれば彼女はPK、わざわざそんなルールに縛られる理由など皆無なんだろう。
「リーン」
「あ、おー!」
危険と判断したんだろう、アンズに押されるようにしてスズは下がる。
少しだけ遠ざかった視線の先で、飛び出したエースさんは拳を振り上げ―――
「言っとくっすけど」
「あ?」
その声はきらりんの言葉に対する反応なのかそれとも、天地が逆転したことへの驚きなのか。
それは分からないけど、それが分かるほどに言葉の続く間もなく。
言葉と共に前進、すれ違うようにして、振るわれた腕に左手を添え右手で肩を引き下げつつ地を蹴る足を蹴り上げ過剰な勢いでもって弾き飛ばし突貫の勢いを空転させる。
時間にすればほんの一瞬、まさに瞬きの隙間に差し込まれたような一連の動作によって飛び上がるよう縦に反転したエースさんの背に、そして蹴り足をその反作用で強引に引き戻し軸足と成した後ろ回し蹴りが叩き込まれた。
ゴギャァッッ!!
「ごぁがっ!?」
突貫、回転、その勢いを迎え撃つような一撃は当然のように凄絶な音を撒き散らし、エースさんはえげつないまでにくの字にへし折れ吹き飛び地を滑る。仮にリアルだとすれば脊椎損傷どころじゃ済まないだろうことは間違いがなく、そしてきっとゲームの中でも甚大なダメージが入っていることだろう。
そんな彼女を見下ろして、きらりんは言う。
「こっちの私はSTR足りてんで、あしからずっす」
……いやそれ、手遅れじゃないかなあ……?
■
《登場人物》
『柊綾』
・レアきらりんがいっぱい観れてご満悦な二十三歳。同時に少し羨ましいなあと胸の奥で思っていたりはするけれど、でも今現在きらりんの好きは自分にあるんだから少しずつ引き出していけばいいやと楽観的。ところで書いてて思ったんですけどきらりんの視界に入らないながらきらりんの表情は読み取れるような位置ってどんな位置関係なんでしょうね。とりあえずスズが壁になって都合よくいい感じとでも思っときます。あときらりんの視線がAさんに集中してたというのも理由かな。
『柳瀬鈴』
・もはやそこにいるだけの二十三歳。あやの抱き心地を堪能しながらぽけーっとしてるだけの人。もはや書くこと皆無。
『島田輝里』
・胸を盛っている二十一歳。敢えてもう一度明記してみました。その上コンプレックスの相手はむしろ縮めてるってんだからもうやってらんねぇよなあ。でも煽られても耐え切った辺り少しは成長している、身体以外は。エースさんとやり合ってたゲームにおいてはSTRとVITを投げ捨ててAGIで勝負する、でもなぜか魔法系能力も高めという謎のビルドしてた。魔法剣士って厨二病の憧れだと思う(偏見)。
『小野寺杏』
・なんでもいいから早く終われとか思ってる十九歳。なにが許せないってあやを独占してるのが許せない。今すっごい嬉しそうでなんかもうすごい複雑。
『沢口ソフィア』
・魔法ぶち込むタイミングを見計らっている十一歳。でもナツキさんに止められてる。ちなみにソフィ含む以下四人は後ろでひそひそお話ししてたりします。暇だからね。仕方ないね。あやも気づいてない訳じゃないけど、きらりん優先だから。
『如月那月』
・奇襲仕掛けてきたら容赦なく仕留められたのにとちょっと残念がってる二十四歳。自由落下の最中とか無防備の極みじゃないですか(真顔)。基本的に早く終わってほしいというのはアンズと同じく思っている。理由も同じ。ただ表に出ない分胸の奥底ですごい淀んでるけど。デート回、果たして書くタイミングはあるのだろうか……?
『天宮司天照』
・なにはともあれ造ったものを褒められて悪い気はしない二十二歳。なんならきらりんから話を聞いていた時点でちょっと嬉しかったくらい。ゲームの中とはいえ魂を込めて装備を造っているからへし折られたらキレるけども、取り返しがつくゲームだからこそといった感じ。とはいえそれはそれ、きちんと報いは受けてもらうつもりだけれど。
『小島かの子』
・なんかよく分からないから専ら後ろでおしゃべりしてる十六歳。そりゃあまあそうだよなあと。割と一方的で逃げるのがやっとだった相手を至って当然のように叩きのめしたきらりんの姿に密かに憧れのようなものを抱いてみる。
『織原美依沙』
・分かっててもどうでもいいから専ら後ろでおしゃべりしてる十六歳。そりゃあまあそうだよなあと。こじかちゃんがきらりんの実力に感動してるのを見てちょっと面白くないけど、まあそういうやつじゃないからとなんとか自分に言い聞かせ中。理性的でないことって怖いのよね。
『藤崎奏』
・人が手ずから造り出したものを破壊することに愉悦を見出す変態な二十三歳。A。特に意味もなくAと名付けたらいつの間にかエースと呼ばれるようになったらしいですよ。リアルで持て余した破壊衝動をぶつける先としてゲームを見出したとかいう闇は特に抱えてないです。リアルとゲーム内のキャラが二重人格かってくらい違うけど、それもそっちの方が楽しそうだからというだけのことで別になにひとつやばいものは抱えてないです。ゲームはゲーム、リアルはリアルというのを完全に理解できています。つまりひっくるめて完全にマトモな人類。あやみたいなのに惹かれたりもしない至って普通の人。つまり今作におけるこじかちゃんと同じレア枠。でもリアルでの出番があるか分からないからそれはきっと伝わらない。ちなみに苗字に関しては別に偶然とかうっかりとかではなく、温泉の人がさすがに作品内時間にして一年間も出番なしってのはあれかなあと思ったからせっかくなので繋いでみました。だからそういうところがガバの元なんだろうが……!まあ、彼女は完全に独り立ちしてるし特に仲がいいということもないのでその繋がりが露見する機会が果たしてあるのかどうかは不明ですが。




