46話:どうしてこうなった
かといって、特におかしな空気になるということもなく。
まあきらりんはなんとなく困惑を引きずってるみたいだけど、さすがにここでじっくり話し合う機会を作る訳にもいかないし、なによりそれはきらりん自身が望んでいなさそうだったから、それはさておき先に進む。
先といっても別に建物を進んでいくという訳ではなくて、街の探索を進めようという方針だ。そんなことをしていたらいくら時間がかかるか分からないし、とりあえずまずはリスポーン地点更新を目指すのを第一目標ということにした。
そんな道中。
というか、なんならエレベーターから第二陣がやってきたこともあって、件の魔剣(仮)を検分する機会は早々にやってきた。
魔剣(仮)。
正確には『量産型魔導具【○○】』というらしい。○○には短剣長剣片手斧棍棒長杖などなど色々な武器種が入って、今のところ防具の方はひとつも見当たらないけど、まあ文言からして多分このなんらかの記号が刻まれた薄ぼんやり光る道具全般のことを『魔導具』と呼ぶんだろう。武器だけという名前にしてはちょっと広すぎると思うし。
もちろん、そんな大層な名前を持っていて薄ぼんやり光るだけということはない。
さすがにそんなゴミみたいなもののために無駄にリソースを使う意味も分からないだろう。
とはいえ、観察の目で見られた情報はそう多くない。所有者が死んでしまうと持ち物も消えるという忌々しいシステムのために散々手こずりながらも何個も何個も見た上で、分かったことといえば魔導具が刻まれた記号によって様々な効果を持っていること、MPを消費してそれを発動すること、あとは恐らく再現できるかもしれない、ということくらい。
その法則とか実際どうやって作るのかとかも分かればπちゃんが喜びそうだったけど、流石に観察の目といってもそこまで万能じゃなかった。わざわざ命令まで使って無理してみたのにそれなんだから、もはやそれ以上はどうしようもない。
ちなみに今のところ遭遇したものとしては、魔力的なものを纏う、重くなる、振動する、打撃と同時に衝撃が出る、刃が射出される、なんか熱くなる、なんか魔法が出る、弓を放つと加速する……くらいかな、うん。そこそこバリエーションが豊かでちょっと面白い。重複もあるけど新規もちょくちょく目にしているという感じだから、まだまだ他にもありそうな気もするし。
もちろん全部、効果の内容は画像を添えてπちゃんに送信済みだ。即座に無言の返信がきたけど、文面を考えてる余裕がないくらい喜んでくれたんだろうという解釈をしている。多分そこまで間違ってない気がするけど、真偽の程は定かじゃない。
あとそのとき初めてスクショ機能を触ってみたけど、専用のウィンドウを重ねて倍率だけ弄ればあとは何枚でもワンタップで保存できるからすごい便利だった。まあ、実際やったのはちょくちょく私のスクショを撮っているらしいアンズなんだけど。
……うん。
なんかこう、『ユア姫で撮り慣れてるから』とかすごいサラッと言われたけど、もちろん初耳だ。ほんと全然気づかなかった。
別にそんな盗撮みたいなことしなくたって幾らでも撮っていいと言ったら、完全に自然体な私が欲しいとか言われたし。そのくせユア姫とか一番率先して言ってるとかもはやそれ矛盾の域だと思うんだけど、それはまた別らしい。流石にそれはちょっと理解できない。
まあ、それはさておき。
「……新規はありませんね」
「……うぃっす」
「ん」
曲がり角から現れてきた敵の魔導具をナツキさんが確認して、重複のみと分かったら即座に魔力弾と鞭と矢がピンポイントで頭を撃って打って射って。
さほど時間もかからず、それで戦闘が終了してしまう。
アンズとナツキさんの狙撃力は言わずもがななんだけど、なにげにきらりんの鞭使いがかなり上達して鞭先を弾丸のように叩き込んでいるのがすごい。もはやそれ鞭の使い方としてどうなんだろうっていうくらいだ。いや別に、鞭について深い造詣を有している訳でもないんだけど。
「にしてもさっきからすごい来るね」
「ん」
なんて言ってる間に今度は窓から弓でこっちを狙ってるのが……あ、ナツキさんに射抜かれて落ちて……ぐしゃる前に消えてくれてよかった。
「むー、うっとーしー!」
スズがイライラするのも分からないでもない。
さっきから歩いてるとすぐ路地とか窓とか扉からとか敵が現れてくる。あまりにも大変だから大通りを避けて比較的細い道を選んでるんだけど、お構いなしだ。監視されてるんじゃないかと思えてくる。路地の向こうとか建物の中とかからちょくちょく戦闘音みたいなのも聞こえるし、なんならさっき正しく戦闘場面にも遭遇したし、多分私たちだけじゃないんだろうけど。
「こーなったら屋根の上に行くかー!」
「……落ちそう」
「ユア姫はわたしが運ぶよ!」
……うん。
とりあえず敵の襲撃があったら怖いという理由をつけて却下しよう。
ちょうど窓を突き破って敵がきたし……ってあれプレイヤー、それも見たことあ―――
「あ」
「え」
目が合う。
驚き目を見開く青髪の彼女はなんとも見覚えのある軽戦士風な装いで、その腕には、こちらも見覚えのある神官服と翠髪。
が。
三階くらいの高さから真っ直ぐこっちに落ちてきて。
「わ、あぇ!?」
「あーれー」
……あれ、なんだろう、もしかしてビックリしてバランス崩した……?
「っ!リーンッ!」
「おおお!?」
「ん」
せいっ、とスズの腕から転がり落ちたところをアンズにキャッチしてもらって、そして腕の空いたスズがその高いステータスによって―――
「ぎゃふん!?」
「わぶっ!」
「ぐぇー」
……あれぇ?
もっとこう、ちゃんと受け止めれると思ったらなんか全然そんなことなかった。全然潰されてるし……。
ま、まあ、みんな生きてるっぽいからセーフ。
「ありがとリコット」
「ん」
「あれ……えっと、ありがと」
「ん」
「……うん」
どうやらお姫様抱っこは継続したいらしい。
まあちょっとくらいなら別にいいけども。
さておき。
「みんな大丈夫?」
「むぐくぐむぅ!」
「きゅう……」
「……だいじょぶでーす」
若干二名大丈夫じゃないけどまあ一番ひ弱っぽいミちゃんが大丈夫だからまあ大丈夫ということにしよう。よしよし。
とりあえず、スズの肩が鳩尾に叩き込まれてぐふぅとなっているこじかちゃんと、サンドイッチになっているミちゃんが復帰してから、話を聞いてみることに。
「久しぶり、っていう程でもないのかな。奇遇ではあるけど」
「えっと、はい、こんばんわ。助けていただいてありがとうございます」
「おねーさんありがとねー」
「みんなを代表して受け取っておくね」
私なにもしてないけど、多分それが一番当たり障りないし……相変わらずアンズが不穏だなあ……っと。
「そういえばゾフィとなっちは初めてだよね?えっと、ゾフィと、なっち。どっちもリアルの知り合いなんだ」
「いごおみしりおきを、ですわ」
「初めまして。ユア様とはパーティを組ませていただいております」
「さ、様……?」
「ははー、金持ちのお嬢とメイドみたいだねー」
「ちょっとみっちゃん!」
へらへら冗談めかしてこじかちゃんに小突かれるミちゃんだけど、ほとんど間違ってないのを多分理解してる気がする。まあ別にだからなんだっていう感じではあるけど。
「いいよいいよこじかちゃん」
「すいませんほんとすいません!……って!すいませんわたしも自己紹介しますね!わたしこじ……か!こじかっていいます!こっちの失礼なのが、」
「……ミ、と申します。そちらのユア様とはこのゲームを通じてお会いしましたの」
慌ただしくて可愛いこじかちゃんと打って変わって、落ち着き払ってしゃらんと優雅に頭を下げるミちゃんの姿に、こじかちゃんがぎょっとする。
「え、みっちゃんきもちわるい……」
「たいこーしてみたー」
言って視線が向く先にはナツキさん……というよりはどちらかというとソフィの方だろうか。確かにまあ、ミちゃんがやると神秘性というかそういうものの後押しですごい高貴な雰囲気が出なくもないけど。
それに対してソフィは、にっこり笑ってアンズに視線を向ける。
すると当然のように二人は目が合って、頷き合う。
それからソフィはまたミちゃんに視線を戻して、笑みを崩さずに言い放った。
「ソフィはあなたがきらいみたいですわ♪」
うわあい……。
「やだなーなにもしてないですよー」
「どのくちがいうんですの?」
「これ以外に口が見えるんですかー?」
笑えるくらい不仲なんだけどこれ。
……分からないでもないのがなあ、とアンズに視線を向けると、しれっと顔を背けられた。色々認めたくないんだろうけど、まあ、果てしなく手遅れだった。
「……はっ!ちょ、ちょっとみっちゃん!」
「えー、わたし別になにも」
「み゛っちゃん!」
「……ごめんねー」
おお、ミちゃんが大人しく謝った。
なんて、他人ごとじゃないか。
「ゾフィも」
「おねえさまにいわれたらしかたありませんわ♡ひれいをわびますの」
「謝罪を受けいれまーす」
……うんまあ、和解和解。
どうしてこんなに相性が悪いんだか。
まあ、さておき話を戻すとしよう。
「それで、二人ともどうしたの……ってまあ訊くまでもなさそうだけど」
なにせ窓から落ちてきたのは二人だけじゃない。窓という小さな出口に集中してたおかげでナツキさんとアンズの手によって瞬殺されていたけど、どうやら二人は敵に追われていたみたいだし。
「……えっと」
「PKが出たんですよねー」
けど事態はそうシンプルなものでもなかったらしい、なんとも微妙な表情を浮かべるこじかちゃんに代わって、ミちゃんが言う。
PK……あー……なんだっけ……。
「プレイヤーキラーのPKっす?」
「そのPKっすー」
ああそうそう、プレイヤーキラーでPK。
その呼び名の通りプレイヤーをキルするプレイヤーのことだって、そういえばスズが最初に言ってた気がする。
って。
「え、なら大変なんじゃないの?」
そんな危ないのがいるなら、こんな所でのんびりしてる暇なんてないんじゃないだろうか。
そんな不安を抱いてみるけど、一回襲われたはずのミちゃんの方が平然としている。
「多いからだいじょーぶだとおもー」
「その、相手も二人だったんです。だからなんとか逃げ切れたんですよ」
「なるほど」
だからそんなに……いや、こじかちゃんはそれでもちょっと落ち着かないみたいだし、ミちゃんはいつもこんな感じな気もする。
まあなんにせよ、流石に二人で八人もいる私たちを狙うということはないだろう。
とはいえ、それとこれとはちょっと話が合ってないかな。
「そこから、どうしてあんな追われることに?」
「あ、はい、すいません。えっと……武器がですね」
「武器……?」
どういうことかと首を傾げて、ふと気がつく。
そういえばこじかちゃん、この前は腰に提げてたはずの剣がなくなってる……?
私が気がついたことに気がついて、こじかちゃんは苦笑する。
「PKの人に壊されちゃって」
「多分そーゆーアビ持ってますねーあれ。っていうかうぇぽんぶれいくー、とか叫んでましたしー」
「あからさまだね……どんまい」
「不甲斐ないです……」
ちらりとミちゃんに視線を向けて、しょんぽり落ち込むこじかちゃんだけど、ミちゃんは気づいてない。まあフリだろうけど。口角ちょっと上がってるし。
にしても、なるほど。
確かに武器がなくてあの人数相手となると確かに大変そうだ。そりゃあ窓から飛び下りてでも逃げるというものだろう。
「でも、ということはもう探索続けるのは大変そうだね」
「はい。逃げ切れましたし、またPKに会いたくもないのでログアウトするつもりです」
「うぇー、まだやるのにー」
「仕方ないでしょ」
ぶーぶー文句を言うミちゃんとそれを窘めるこじかちゃんのやり取りを見ていると、なんだろう、恋人というよりはむしろ姉妹くらいに見えてきて、ちょっとほっこり。
だからという訳でもないけど、みんなに視線で確認を取ってから、私は言う。
「ここで会ったのもなにかの縁だし、送ってくよ」
「そんな!大丈夫ですから」
「えー、お言葉に甘えよーよー」
「だ、だめでしょ!」
こじかちゃんはちょっと過剰反応し過ぎだと思うなあ。
んー。
「ほら、ここで別れちゃうと私たちも不安だしさ」
「うっ」
「そーだよーこじこじー」
「みっちゃんのセリフじゃないから!」
まったくもー、とぷりぷり怒って、それからハッとして、しゅん。
百面相っていうのはこういうことなんだろうなあって、納得してみた。
「えっと、それならその、お言葉に甘えても……?」
「うん、もちろん。よろしくね」
つい握手のために手を差し出しそうになるけど、なんとか気取られないように抑えて微笑む。「やっぱりおねーさんですねー」なんて声だけにこにこするミちゃんの様子からして、どうやらお気に召したらしい。
さて、そうと決まれば―――
「その契約、ちょぉっと待ったーっ!」
……うわすっごいデジャビュ。
振り返れば、そこにいたのはまったく想像に違いなく。
「待たせたわね!私よっ!?」
「うん、待ってた」
「待ってないでしょ嘘言うんじゃないわよ!」
酷い理不尽をギャンギャン吠えるπちゃんは、そしてなにごともなかったかのようにポーズを決めて、こじかちゃんへと指を向ける。
「さあこじか!この私に折れた剣を寄越しなさい!この私の新っ!発っ!明っ!の実験台にしてやるわ!」
……なんか、さすがπちゃん横暴だなあとか発明ってそれあれじゃないのかなあとか、まあ色々言いたいことあるんだけど、え。
もしかして、お知り合いかな?
■
《登場人物》
『柊綾』
・ずっと魔導具眺めてたからだいたい見ただけで効果分かるようになってきた二十三歳。ただしナツキさんが完璧だから役目はない。こじミペアに遭遇してちょっとテンション上がってる上にπちゃんの合流とかあやさん大勝利。なお筆者。
『柳瀬鈴』
・起き上がったらすぐ抱っこ係を代わってた二十三歳。受け止めようとしたけどあいにくスズは至って一般人なので咄嗟にそんなことできない。むしろ受け止めなかった方がダメージ少なかったすらある。でも密かによしよしされてたから本人的には大勝利。こじかちゃんに一回謝っといた方がいいと思う。
『島田輝里』
・最近鞭しか使わない二十一歳。でも今回魔導具の設定が出てきたしそろそろ武器増えます。まあそんなに特殊な未だかつてない感じだったりはしないんですが。というかそろそろっていつになるんだろう……当初の予定、というか想像では、もうここら辺で一章分くらい終わってるはずなんだけどなあ……。
『小野寺杏』
・相手が人だろうが顔面消し飛ばすのになんら躊躇いのない十九歳。いや魔力弾だと消し飛ばないけど。密かに敵の魔法系能力値高いんだけど、魔力弾は魔法の分類じゃないから特に問題ないのだった。魔力を固めて殴る感じなので、INT参照でもあくまでも物理的ダメージなのよ。
『沢口ソフィア』
・カットされたけど出番はあった十一歳。検分してる間に詠唱してぶっぱなす感じ。人でも焼くのに躊躇いはないが、それはアンズとかと違って多分ゲームだからじゃない。でもリアルで実際どうなのかとかが分かる機会はない。そりゃあねえよ。ミちゃんのことを嫌いな理由はアンズとは少し違うけど、まあそれでも多分こいつも嫌いだなあと分かる程度の共通項はあると自覚している模様。
『如月那月』
・パズルゲームはそんなに得意じゃない二十四歳。だから魔導具の法則性とかはちょっとよく分からない。まあ得意じゃないっていってもみんなでぷよぷよやったら二位くらいにはなれそうだけど。……報酬があや繋がりなら三位かな。
『天宮司天照』
・メッセ受け取って即座に駆け出した二十二歳。ちなみにこの子はπちゃんです、一応。道中でスクショと詳細を見比べて魔導具の基礎をだいたい把握した辺りは好きこそ物の上手なれということの体現だよなあと。好きでもできないもんはできねぇよこの女郎……!さておき魔導具という存在を知った以上創作意欲が大爆発中、より深く知るために実物を見てやろうとやってきて、未だかつて本編で使われたことのない、近くのフレンドの位置を把握する機能を使って合流した。
『小島かの子』
・当初の予定にはなかったのになぜか窓を突き破って現れた十六歳。そろそろPKとかと遭遇したいなあと思ってたらなんか勝手に追われていた。おかげでπちゃんも合流しちゃったし……許せねぇ……登場人物欄九人やぞこの野郎おらぁ!?
『織原美依沙』
・πちゃんの紹介文がつまり全てな十六歳。フレンドはフレンドの位置が分かる、そしてもちろんミちゃんは知ってた。なんならかなり前から知ってた。合流するつもりはなかったけど、都合よくPKと遭遇したから避難所に使うことにした。その機に乗じてお姫様抱っこ狙ってみたけど前抱きなんだもんなあ……それはそれでドキドキを捩じ伏せるのが大変だったけど。そう、この子ちゃんとドキドキするんですよ。ミちゃん本人もちょっとびっくり。だからこそ、危うく嫉妬しかけたのをあやが気を利かせてくれて一安心。
どうして登場人物が9人もいるのでしょうね……




