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41話:そろそろ本気

迷界編どこまで続けよう……?

『まあ君たちはランクも深度も共に低いから仕方がないさ。もっと大冒険をしたいというのならランクや深度を上げることだね。という訳でどうだろう、早いところランクを上げるためにも今挑戦できる最高難度の迷界にでも挑んでみたりしないかい?そうだね、ランク0なんていうものは所詮チュートリアルのようなものなんだから君たちが望めば一度の攻略でランクを上げても構わないけれど』


 そこまで言われてしまっては、まあ、挑戦せざるを得ない。実際さっきのは少し消化不良というか、拍子抜けな結末だった訳だし。


 ……なんだろう、ランクが上がったら、次はそれを試してみようという流れでもう一度になる気がする。まあ、依頼の討伐対象が迷界にも出てくるということが分かったし、別に駄目じゃないんだけど。


 そんなことを思いつつ、光に包まれて、浮遊感。

 そして……あれ、え、浮遊感がなくならないっていうかこれ落ち―――


「え」

「はっはー!」

「まじすか……」

「ユア姫っ……!」

「まあ」

「っ」


 晴れた視界は晴れ渡る青空。

 右を見て左を見て前を後ろを上をどこを下を見てもすべて青空。

 果てしなく続く青空が、地表との境目すらをも飲み込んでしまう程の高度。


 空。


 青空。


 私たちは空を、落ちている。


 落ちてる……落ち、え、いやうん、落ちてる……えぇ……。


「な、なにこれ!なにこれ!?」

「ふらーいはーい!」

「いやむしろ落ちてるっすよ!?」

「おちてますわね」

「なんでそんな平然としてるの……」


 なんか私も落ち着いてきたよ……まあ考えてみればこういうのも二度目だし、耐性がついたのかもしれない。

 ふう、と一つ呼吸を整えると、そんな私の目を真っ直ぐと見つめてアンズが囁く。


「地面がない」

「え?」

「そうですね。恐らくは間違いないと思います」


 心配してくっついてくれるアンズと、平然と落ちているナツキさんの言葉を受けて、改めて下に視線を向けてみる。


 ……確かに、なんというか、単に高すぎるから見えないという訳でもない気がするけど……。


「え、でも地面なかったら落ちないんじゃ……?」

「そこまで深く考える必要はないかと」

「ゲームだから」


 いやうん、まあ、そうか。

 やっぱりちょっと混乱している気がする。


「どうしてじめんがないとおちないんですの?」

「そーじゃないと上下が分からないからね!」

「まあ。ほんとうですわ」


 これはびっくり、と目を見開くソフィ。

 いやそうじゃない……けどまあ、いいや。そうじゃなくないかもしれないし。


「いやそんなほのぼのしてる場合じゃないと思うっすよ!?」

「はっ。そうだった」


 絶賛自由落下中。


 地面がないということはつまり同時にぐちゃっとならないということでもあるけど、もしかすると実は見えないだけで果てはあるのかもしれないんだから、あまり楽観視もしてられない。落下を楽観視してはいけないのだ……いやうん、ほんと混乱してる。


 かといってどうしようとか全然……ん?


「なんか向こうに……」


 んー……雲?

 いやあれは雲じゃなくて……ってうわ。


「ナツキさん」

「確認しました」

「敵?」

「うん。あの、向こうの白い塊……見える?」

「ん。見えた」

「……あー、なんか近づいてるっぽいアレっすか?」

「えー見えなーい!」

「おねえさま、あれはなんですの?」


 みんなも取り敢えず捕捉したらしい。

 すごい目を凝らさないと分からないけど、一言で言えばあれは―――


「鳥、かな。すごい沢山白いのが群れてる」

「軽く百は越えそうですね」


 ナツキさんの言う通り、その白い塊はほんとに数え切れない程の鳥で構成されている。ここからだとほぼ豆粒みたいなものだからというのもあるんだろうけど、だからこそそのすさまじさが分かるというものだ。近づいたらどれほどの規模になるかと、考えるだけでもゾッとする。


「あれ絶対こっち向かってるよね」

「思ってたよりなんでもありっすね」

「足場すらないからね」


 草原、洞窟、ときてからの大空とか、無秩序にも程がある。方向性が迷子すぎて、なるほどこれが迷界なのかと深く納得してしまうくらいだ。


「それで、どうしよっかあれ」

「どーしよーもなくない?」

「まあ逃げようにも逃げらんないっすし」

「迎え撃つ」

「やきはらえばいいのですわ♪」

「……悩むまでもないでしょう」


 それはそうだ。

 あれの中に核が紛れていようといなかろうと、この面子ならそう言うに決まってる。というかまあ、きらりんの言う通り逃げ場もないしね。


 それなら話は早いと、私たちは鳥の群れが攻撃の届く範囲に近づくまで待つ……んだけど、えぇ……。


「そ、想定外にでかいんだけどあれ」

「遠近感の妙ということでしょうか」

「うおー!おおー!?なんかすごー!」

「ひ、飛行機が群れてるっす……?」

「……多分、見掛け倒しだと……思う?」

「やきはらえませんわ……」


 いやうん、焼き払えないのは確かにそうだけどそこじゃない。

 なんだろう、なんというか、馬鹿じゃないかと。

 群れが近づいてきたことで、そのハンググライダーみたいな鳥の大まかな大きさを把握できるようにはなったんだけど、その鳥はほんと、きらりんの言う飛行機っていうのは流石に少し大袈裟だとしても、そう言いたくなるのも分かる程度には大きくて……しかもそれがナツキさんの目算にいわく百三十六はいるらしいんだから、もはやなんかもう絶望感すら覚えない。アンズの言う通りにあれが見掛け倒しじゃないなら、ちょっともう生きていられる気がしない。ソフィなんかだったら一呑みにされてしまうんじゃないだろうかあれ。


「えっと、迎え撃つ……?」

「あはは無理ゲーだー!」


 笑いごとじゃないんだよなあと。

 まあうん、気持ちはすごい分かるけど。


「やるっきゃないっす!」

「ユア姫はやらせない。■■■■」

「『わがいのりは―――」

「『フォースアロー』」


 遠距離部隊が先駆けて攻撃を始める。

 連射される光の槍が続け様に鳥を貫いて、尾を引く銀閃が群れを穿つ。

 たった一撃で身体に風穴を空けられた鳥達は、さながら風船のように膨れて破裂する。紙吹雪のように舞う白い羽毛がポリゴンに消えるのを見て、理解する。


 アンズの希望的観測は間違いじゃない、こいつらは明らかに見掛け倒しだ。


 ……あともうアンズはほんとにユア姫決定なんだ……。


「―――『やきこがすかえん』ですわ♪」


 喜悦に頬を歪めてソフィは詠う。

 集った火炎は揺らめいて、敵というかいっそ的くらいの強度しかないと分かった以上、次の光景なんてものは火を見るよりも明らかだった。


 ……いや、ちょっと目も当てられない感じだった。


「あぁっ♪すばらしいですわ♪」


 感極まったみたいに笑いながら炎で鳥を薙ぎ払うソフィ。

 鳥はなす術もなく焼き鳥……にはまあならないけど、破裂して消えてゆくだけ。


 その笑顔にときめきを覚える私は著しく間違っているんだろうなあと思いつつ、私とスズを除くみんなでこじ開けた空間を通って鳥の群れとすれ違う。何羽倒したのかは計上できないけど、なんだろう、見れば群れは半分くらいになっている気がする。密集度合いが酷かったというのもあるけど、ソフィの火炎と魔力弾に切り替えたアンズの弾幕が刺さり過ぎた。


「……残り七十八ですね」

「六十くらい削ったんだ……」


 これなら割と簡単に終わりそうだと思って見ていると、鳥の群れは大きな弧を描いて旋回、再びこっちに向かって飛んでくる。


 とそこで、そういえば観察の目を使っていなかったことを思い出す。

 すぐやられてしまうから一体を見続けるのも大変そうだけど、一応見ておこうかな。


「みんなはガンガンやってていいから。『観察の目』」

「ん」

「よっしゃー!」

「いやリーンはなんもやってないっすよね……?」

「りょうかいですわ♪『わがいのりは―――」

「了解しました。『フォースアロー』」


 途端、展開される弾幕。なるべく被害が届くのが遅れそうな個体に目をつけてじっと見る……うわ、思いのほかゆっくりだ……って死んじゃったし……あれ?


 おかしい、対象が変わってもウィンドウが変わらない。

 どういうことなんだろう。


 試しに次々に視線を転じてみるけど、観察の目はずっと同じウィンドウを表示してくる。

 つまり……なんだろう、群れで一つみたいなことなんだろうか。


 ともあれ、好都合。

 謎の性質のおかげで無事に判明したステータスがこちら。


『アンカウンタブル』

 LV:11

 耐性:無し

 弱点:無し


 ……うんまあ、そうだね、っていう感じ。

 名前からしてその数がウリなんだろうか。確かにみんな白いし背景青空だしですごい数えにくいけど、とりあえずナツキさんに数えられた訳だから既に名前負けしているというね。


 若干哀れにすら思いつつ、またすれ違う。

 またもや大きく数を減らした群れはもはや風前の灯火、私でも数え切れるくらいだ。


 ……いいんだろうか。


 この群れの中に本体が紛れてるとかそんなことを思っていたんだけど、これだけ数を減らしてもその気配はない。あるいはこの群れそのものが核というかボスみたいな感じで、倒せば終わるのかもしれないとも思ってたんだけど、それにしては弱すぎるし……。


 ……まあとりあえず、終わらせよう。


「ゾフィ」

「最後はお譲りしましょう」

「―――『やきこがすかえん』」


 魔力弾と矢に減らされ、最後に火炎で一気に焼却。

 もはや近接組の攻撃が届かないくらいの遠くで、鳥は全滅した。


「ちっ」

「おつかれー」

「がんばりましたわ♡」


 お膳立てされたことが面白くないらしい、魅力的な表情で舌打ちをするソフィをなでなですると、途端に表情は笑顔になる。そして、まあ当然のようにおねだりしてくるみんなをなでなで。


 戦う時間より撫でてる時間の方が長そうだなあとか、そんなことを思いつつ。


『やあやあ、早かったね。随分と余裕そうだ』

「……いやうん、まあ、余裕だったよ」


 結局鳥の群れは核でもあったようで、崩れ落ちる空というなんとも不可思議な光景を経て、私たちは戻ってきたのだった。

 正直期待外れにも程があるというか、なんというか。ドロップアイテムのひとつもないし。EXPの方は、まあ百近く貰えたけど。


『ははははははっ!』


 そんなことを伝えてみると、ミラさんは大笑いした。

 顔だけで笑うその姿に違和感を覚えまくるのは多分私だけじゃない。

 なんか、いっそホラーじみてる。


『いやはやまさかかの恐るべき存在を雑魚と言い切るとはね。所詮程度の低い迷界だとはいえ、君達は予想外に優秀みたいだ』

「普通に弱かったと思うんだけど」

『いや誇っていいとも。勘違いしているようだけれどあれは初心者がそう容易く攻略できる相手ではないんだよ。単に相性がどうという意味でもなくね。もちろん君達であればそれは必然レベルでの勝利なんだろうけれど。とくれば当然、昇格に否を突きつける意味など皆無というものさ』

「はあ」


 なんだかよく分からないけど、とりあえず納得しておく。なにがどうというのはよく分からないけど、少なくともあれを普通に攻略できたのはすごいことらしい。その賛辞を、別に拒む意味もないだろう。


 なんにせよこれを攻略すればランクアップという約束だった訳で、その約束通りにミラさんは私たちのランクを上げてくれた。


『おめでとう、昇格だ。深度も各々少しは増しているようだね』

「そうなの?」


 そんなことを言われたので、処理をしてもらったカードを確認してみる。

 ランクが1になっていたのは当然のこととして、深度が4になっていた。これがつまりどういうことなのかまったく分からなくて訊いてみたところ、その程度じゃ特に影響はないらしい。


 まあそれもそうか。


 ふーんと流すくらいの確認を終えて。

 そんな私たちを見計らって、ミラさんはニッコリと笑う。


『さて君達。折角だから昇格祝いに次なる迷界に挑んでみるのはどうかな。ランクが一つ上がるというのは一つ次元が変わるということさ。これまでの迷界がなんの面白みもないというのなら、それこそ挑戦した方がいいと思うんだけれど』

「難易度マシマシでお願いっす!」


 きらりんが早い。

 ミラさんは伺うような視線を私に向けてくるけど、とりあえず苦笑しつつ頷いておいた。

 迷界探索の続行は、まあ決まってたし。


『そうかい。了解したよ。とはいえ来訪者とはいえ死にたくはないだろうから、まあ適度な感じで選ばせてもらうさ。それとも他に要望はあるかい?』

「ううん。ありがと」

『君達に楽しんでもらうことが一番だからね』


 心憎いことを言ってくれる。


 そんなニッコリ顔に見送られて、私たちはもう一度、迷界を訪れるのだった。


 ■


 《登場人物》

(ひいらぎ)(あや)

・流石にパラシュートも命綱もなしに落下してたらちょっとテンパる二十三歳。理系畑の住人だけど理系的知識が特段優れている訳でもないので、インテリジェンスあやとか別に今後も出番はないです。不可さんがいとも容易く消されたのはこいつとナツキさんのせい。まあ主にナツキさんだけど。


柳瀬(やなせ)(すず)

・落ちながらもお姫様抱っこをキープし続けてるのって何気に凄いんじゃないだろうか……な二十三歳。やったことないから分からないです。どうして地面がないと落ちないのかという問に対して上下が分からないからという答えを用意したときはめっちゃスズっぽいこれ!と思いました。会心の出来です。……いやほら、会心って防御力貫通するだけだからさ……。


島田(しまだ)輝里(きらり)

・遠距離部隊が強すぎて今回あんまり役立てなかった二十一歳。適材適所ってやつだからね。仕方ないね。迷界がなんか全体的に残念な感じでフラストレーション溜まり中。でも安心してくれ。ランク0はチュートリアルだ。……にしても残念なの引いてるけど。


小野寺(おのでら)(あんず)

・新魔法覚えたのに使う機会なくてしょんぼりーぬな十九歳。魔力弾で落とせる相手にわざわざ槍ぶっぱするのもねえ。無詠唱だし。ちなみに魔力弾三発で素の光槍一発の威力超えるくらいなので、魔力弾幕が最強というもんでもないです。まあアンズの瞬間最大火力を生み出すために必須ではありますが。


沢口(さわぐち)ソフィア(そふぃあ)

・魔法で大量の敵を蹴散らせて大満足な十一歳。結局のところあの光景が生み出したくてINTに叩き込んでる訳だから、一つ夢が叶ってしまった感じ。いずれは普通のモンスターも一瞬で焼き尽くしてやりたい。小学生というか正気の考えじゃないですよねこれ……。


如月(きさらぎ)那月(なつき)

・なんだかんだ働けてちょっと嬉しい二十四歳。キルスコアは密かにソフィにほぼ並んでいる。フォースアローが三体ぐらい貫通するおかげ。もっとも今回の戦いで一番の功績は不可さんを数えてみせたというその部分だけれど。おねだりに唯一混ざらない大人の余裕風味を醸し出しているけど、後々二人きりになったときのための伏線である。当然のようにそれを理解しているあやは、心の奥底でナツキさん虐めたいゲージを着々と稼いでいたりいなかったり。


ご意見ご感想お待ちしております。

特に丁寧な批判や的を射た罵詈雑言なんかを下さると鳴いて喜びます。


『アンカウンタブル』に関しては、多分今度はもっと高いLVで出てくるのでそのときに詳しくやる……かも?

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