36話:戦闘後のリザルトがなあ……
なんとかかんとかできました。
別に急いだから薄い訳じゃないです。実力です(泣)。
そしてしばらく毎日更新できないと思います。
本当にすいません。
なんというか、思えば亀といい雲といい今回の最怖さんといい、私たちはどこかのエリアを探索しようと思ったら必ず強敵と遭遇する運命にあるんだろうか。いやまあ雲は比較的そうでないにしても、実に三分の二という頭のおかしい確率で遭遇しているのはどうなんだろう。しかも今回は一歩目からこれだ。やってられない。
などなど、まあ色々不満はあったけど。
それでもなんだかんだ勝利して、その結果色々と得たものはあった訳だからよしとしよう。特にソフィとナツキさんなんて、元々が低かった分伸び幅がすごい。とはいえまあ、能力値ばかりで新しいアビリティとかは取っていないようだけど。というかアビリティを取ったのはアンズと、まあ見方によっては私もといったところか。他はめぼしいものもなくて能力値を割り振ったらしい。アンズもとりあえず取ってなかったうちの二重展開を取っただけだから、実質新しいという点では私だけか。
そんな所で、自分に目を向けてみる。
今回はEXPを消費する以外の方法でアビリティを取得したから、能力値をまた上げられて、基礎INTとMINがそれぞれ30になった。なにも考えずに振れるからすごい楽。それでも一応キリのいいところで止めて、残りは領域魔法に注ぎ込んでみたけど、まあ新しい魔法は覚えなかった。残念。
さておき、件のアビリティ……いや、まずは初めてアビリティを使うと同時に取得した称号からにしよう。その名も『ユア姫』。
ユア姫。
……システムからすら姫認定されてもはや逃げ場を失った感すらあるけどまあ、うん、これは仕方ない。なにげに私の名前がそのまま入ってる辺りを見るとユニーク称号とかいうやつっぽいけど、なにひとつ嬉しくない不思議。いや不思議でもなんでもないんだよなあ……。
そしてさらに追い打ちをかけるように、アビリティの方も『U:ユア姫様のわがまま』とかいうこれまた酷いやつ。これまでSとかFとかは見たことあるんだけど、このUはなんだろうと思って詳細を見てみると、ユニークのUだったらしい。まあこれも名前入ってるし……うん……。
微妙な感情のままに説明文を読めばそれもまた微妙、すごい漠然としていたけど、つまり私の感覚も踏まえて言えば、中々特殊な補助系のアビリティだ。最怖さんとの戦いでも随分濫用したけど、私の命令に合った効果が命令の対象者に付与される。ただしこれは絶対的じゃなくて、例えば『倒せ』と言ったからどんな敵も倒せるようになったりはしない。それに私の守護者か領域内にいるパーティメンバーにしか効果は発生しないという制限もあって、まあ腰を据えて戦うようなときに便利、くらいのものだろう。
というか、そんな効果的な話よりも重要なこととして、システムにすら姫とかわがまとか言われてるんだけどこれ、ほんとどうすればいいんだろう。みんなに相談したらなんか乗り気だし、もっとわがまま言ってほしいとか命令してほしいとか言ってくるしで、なんというか、あんまりみんなが悪ノリすると、下手したら猥褻行為でアバター削除とか警察の厄介になるとかなってもおかしくないからほんとちゃんとみんなが自重をしてほしい。応えちゃうから、いやほんとに。
さておき……まあ、さておき。
あとはドロップアイテムとして、なにやら『世界で最も恐るべき宝珠』とかいう頭の悪い名前の真っ黒な球を拾った。覗き込むと自分がもっとも恐れるものが映るらしいけど、怖いもの見たさでやってみたところ普通になにも映らなかったから、まあ、うん、ゴミかな……?とりあえずπちゃんに渡してみよう、といったところだ。
とまあそんなこんなを確認しつつ私の快気祝い(?)的な感じでひたすらイチャついてたけど、流石にずっとそうしている訳にもいかないから、私たちは改めて塔の探索を始めることにした。みんならからすれば私にはすぐにでもログアウトして休んでほしかったみたいだけど、さすがにそこまでするのは申し訳ない。
その代わり、もう二度と無理はしないで姫に甘んじると誓わされてしまったけど。
……いや、姫関係なくない?
まあ気にしたら負け。多分。
とりあえず、最怖さんを倒したからだろう、なかったはずの入口が後ろにできていたから、若干警戒しつつそれを潜る。
またしても、ほんの少しの浮遊感。
そして開けた視界に飛び込んできたのは、石で構築された通路……え。
「え、なにこれ」
「おあー」
「なんっすかこれ……?」
「……内部?」
「やっかいですのね」
顔を顰めるソフィの言う通り、アンズの言葉が正しいとするならこれはまた厄介というか、なんだろう、少なくとも正規の入口からじゃないのは間違いない訳で、ものすごい強敵揃いの場所とかだったらかなり笑いごとじゃないんだけど。
一体ここは、どこなんだろう。
「……恐らくですが」
キョロキョロしていると、さっきからなにやら壁に触れたり叩いたりしていたナツキさんが、なにか判明したようで口を開く。
「石材の質感からして、ここは塔の内部ではないですね」
「……えっと」
それはつまりまったく別のどこかに飛ばされてしまったのか、それともあるいは―――
「入った後に変わったんっすかね」
「かもしれないね。『観察の目』」
壁を見てみると、ああ、やっぱり。
「『迷宮の石壁』だって。やっぱり便利だなあこれ」
「……それなら、まだ入口に近い可能性もある」
どうなんだろう、少なくともエントランスという雰囲気ではないようだけど。まあこの通路は右も左も曲がり角に突き当たっているから一概に違うとも言えないし、そうだといいなあくらいだろうか。
というか。
「なんかよく分かんないけどとりあえず行こー!」
うん、もうスズがそわそわしちゃってるから、どっちみちずっと考えてるっていうのも無理っぽい気配だ。まあ実際考えてたって埒が明かないから、別に積極的に否定する意味なんてないんだけど。
みんなと目配せし合って、よし。
「じゃあ、とりあえず行こっか。警戒はしてね」
「よっしゃー!」
意気揚々と、でも着実な成長を示すみたいにみんなと揃って歩き出すスズ。少し感慨深いものを覚えつつ、特に道標のようなものもないので適当にてくてく。通路は壁に掛けられた松明の揺らめく炎に照らされて薄暗い程度のものだったけど、スターは絶やさない。まあそもそも攻撃用だし、なんだか激戦を乗り越えた仲間的な感じでちょっとないと落ち着かない。それにもしかすると使い続けることで強化されるかもしれないから、発動しといて損はないだろう。
そういえばスターにも命令の効果は及ぶんだろうか。
思い返してみてもそんな様子はなかった気がするけど、名指しした訳でもないから確かでもない。感覚的には、なんだか通じない気がするんだけど同時に通じなくもない気もするという微妙なところだ。なんだろう、すごい、こう、おしい感じ。そういう点でも、もしかすると使い続けることでなにか変化があるかもしれない。
試しに、手を伸ばしてスターに触れてみる。
……なんだろう、触れてるのは分かるんだけど実体がない感じ。懐中電灯の光とか割と感じる方なんだけど、それが手を包んでるような。くすぐったそうに揺れるから、触れてはいるんだろうけど。
しばらく弄んでいると、ふと視界に何かが入った。
「ちょっとストップ」
「少しよろしいでしょうか」
私とナツキさんの声が重なる。
目を見合わせてみると、なんとなく同じことを思っていそうだった。
頷きを交わして、代表して私が口を開く。
「あれ、普通じゃないと思う」
言って、観察の目を発動。
指で示す先、私たちの進行方向に伸びる影を見る。
松明の真横にいるというのに伸びる、そのありえない影を―――
『シャド
「―――ッ!」
「うわっ」
「■■■」
「―――ッ!?」
「あぁー」
私が観察の目を発動した途端に、無音という音を撒き散らしながら襲い掛かってきた三つの影が、アンズのカースバレットに滅多打ちされて吹き飛んでゆく。多分能力値低下が発動したんだろう、闇に包まれた影というなんとも不可解なそれは、そしてポリゴンに消えた。
視界の端に、冒険者組合で受けた依頼の目標の一つ、『影系モンスター討伐』をカウントするポップアップが出て消える。シャドなんちゃらはどうやら、というか見た目通りに影系のモンスターだったらしいということだけ判明した。
……なんというか、南無三。
初戦闘からなんとも呆気ないものだ。戦闘というか、処理とでも言う方が近い。これを二十匹で2000マニとはまたなんとも割のいい仕事と言えるだろう。多分最怖さんのせいでアンズが過保護になっているというのは一つ大きな理由だろうけど、それだけじゃなくて、敵の強さがそこまででもないというのもある気がする。
とりあえず一安心と考えるべきか、折角の新エリアなのに手応えがなさすぎると考えるか。まあ影として潜むという隠密能力がウリのモンスターなんだろうから、見つけてしまえば雑魚というのも納得いかなくはないけど。
さておき。
「また厄介な感じっすね」
「ぐぬぬ」
「さすがおねえさまですわ♡」
「ここに現れるモンスターは、暴かれることをあまり好まないようですね」
「そうだね。ちょっと慎重に行こうか」
「ん。ユア姫の安全第一」
さっきから私の身体をぺたぺた触って確かめるアンズは、さすがに少し慎重が過ぎるとも思うけど。というかそのユア姫はもうアンズの中で決定なんだろうか……まあなんにせよ、なんとなく違和感があったときはちゃんと警告してから見るようにした方がいいだろう。たとえ背後からの奇襲でも、みんななら普通に対処しそうではあるけど。
そんな訳で、警戒しつつまた進む。
通路は全て石造り、壁には等間隔に並べられた松明、行けども往けども入り組んで。曲がり角を超えれば丁字路に当たり、それを過ぎればY字路に迎えられ、さらに歩めば十字路……なんとまあ、呆れるほどに分かれ道が続く。古典的なまでに使い古された、こう、古代迷宮感溢れる古代迷宮ですらない、言葉の雰囲気的には迷路の方が近いような場所だ。どうやら罠のようなものは存在していないようできらりんなんかは密かにガッカリしているようだけど、私としては平和でいい。
まあ平和といってもよくよく見ると影の中に潜んでいたり、あるいは光の中に紛れていたりするモンスターはちょくちょくいるんだけど、見つけ次第主にアンズが叩き潰してしまう。なんでも闇呪属性の新魔法をいい加減覚えておきたいとのことだけど、それにしてもレスポンスが早すぎてさすがにモンスターが可哀想になってくるくらいだ。どうやら発見自体は私が一番早いらしくて、たまにナツキさんが並ぶ感じなんだけど、アンズはそんな私の視線を見ているらしい、私が怪しげな気配に視線を向けた瞬間即座に攻撃が殺到するという、この、なんだろう、いっそ狂気すら感じられて少しゾクゾクする感覚。
ユア姫とか言われるのも、ここまで示されるならやぶさかでない気分になるから不思議だ。
うーむ。まずい、自重しなきゃ『自称姫(二十三歳)』とかいう酷すぎるプロフィールになってしまう。もうそろそろ二十四歳、干支も三週目に入ろうかというくらいなのにお姫様とか痛いどころじゃない、気を引き締めなければ。
なければ……!
まあ、かといってなにが変わるという訳でもないんだけど。
強いて言うなら少しだけ毅然とした大人びた空気感を醸し出してみたくらい。こう、私はお姉さんなんだぞ、というのをみんなに示すつもりで―――
「ユア姫、凛々しい」
なんでアンズはそんな嬉しそうなんだろう……、いや、それどころかみんななんかちょっと心なしか嬉しそうだ。
訳が分からない。
みんなこういうの好きなんだろうか。そういうのは二人きりのときにやってくれたらいくらでも応えられるんだけど。それともあるいは私をちやほやするのが嬉しいだけだったり……うーむ、だったりしそうなのがなあ。
そんなやり取りを経つつ。
いやほんとに、迷宮探索とみんなで仲良しのどっちがメインなのか全く分からないくらいのほのぼのとした空気でジェノサイドを続けていた私たちは、しばらくしてそれをみつけた。
それ。
まあもったいぶるものでもない、それは階段だった。
階段。
闇に通ずる階段。
果てがあるのかないのか、酷く不安を煽ってくる。
そんな中。
「レッツゴー!」
「いやいやいや!?待つっすよ!?」
躊躇いなく進もうとするスズをきらりんが止めてくれるいつものパターン。
まあどうやら不安を煽られてるのは私くらいで、みんなもそう怖がってる様子はないんだけど。
「えー!でも行くでしょー!?」
だからその言葉に、大して否定意見は出なくて……いやなんかアンズが私に心配オーラを向けてきてるな。
うーむ。
よし。
「リコット」
「……ん」
「私を守れ」
「んっ、当然」
満足げに頷いて杖を握り直すアンズ……え、あれ、もしかして言わされたんだろうかこれ。というかなんかみんなも期待の視線を向けてくるんだけど……むぐぅ……。
あー。
まあ、うん、ロールプレイロールプレイ。
……着々と落とし込まれている気配……?
■
《登場人物》
『柊綾』
・システムからも認められた姫(二十三歳)。戦犯はすっちん。でもクラブさんも割と乗り気。クラブさんそういうの好きなんだよ。呼ばれたい側だけど。今度またあったら素クラブでニヤリと笑いながら呼ぶつもり。そして本人も少しずつ姫ムーブを強いられる。姫……?むしろ妃的な雰囲気……?そもそもなんで姫なんだろう……〇〇サーの姫的なイメージから最初きた気がする……。時たま女王様。でも本編ではやらない。番外編でもやらない。ノクターン入りしちゃうからね……。
『柳瀬鈴』
・相変わらず大きな変化のない二十三歳。違うんだ、進む道が茨すぎるだけなんだ。もう少しだと思う……いや忘れてる訳じゃないのよ?ほんとなのよ?まだ考えてないとかそんなことはないのよ?スズの食指が動くようなアビリティがないのは確か。キーワード:あやを守る。そのためには……そのためにはなんだろ……。
『島田輝里』
・スズストッパーの役割も板についてきた二十一歳。でも実はそんなたくさんやってる訳でもない気がする。確認してないから分かんないや。どうしようきらりんについて書くことない……まあいいや。
『小野寺杏』
・本格的にユア姫呼ばわりが気に入ってきた十九歳。傅きたい……ってこの流れデジャビュ?今回あやがシステムからすら姫認定されて有頂天。でも心配。結果なんかよく分かんないことになってるけどまとめるとあやがユア姫でやっぱりハッピー。そこら辺の安全機能についてはかなり信用を置いているというのもある。でも心配。もう闇覚えてもいいよなあとは思うんだけど、なんか光ってしこたま使ったイメージあってまだっぽい気も……今回出しとけばよかった。
『沢口ソフィア』
・INTが既にあやを超えている十一歳。獲得EXPは四の五の言わずにINTに注ぎ込んだ。その後アビリティ一覧を見てみたけど、火力上がるアビリティ意外となくてやっぱりいんてりじぇんすですわとか思ってる。頑張れ、もうちょっとだ。
『如月那月』
・とりあえず能力値を上げてリアルに近づくのが目標な二十四歳。大分馴染んできた。今なら素手でスズを完封できると思う。いやまあ勝てないけど。硬すぎて。リアルでやべぇ実力を持つ人間はVR内でもすごいけど空気読んで遠距離を選んだからそれはあんまり発揮されない。今回の探索に期待。




