34話:あやが働いてる……?
『姫的な彼女のゲームの話』においてやっつけた強敵についてまとめたやつを第一部として投稿しました。
まあオマケ程度によろしければどうぞ。別に読まなくてもいいです。
ステータスを確認する暇はない。
私がなにをできるようになったのかなんてどうでもいい。
ただ直感的に私はそれをできると理解して、実際にできているんだからそれ以上のことは必要ない。
ただひたすらに、私は命じる。
「『ボールと盾さん守って!』」
「―――」
その瞬間、殺到した黒の奔流が霊戦士とボールの障壁に阻まれる。
押し込むような圧力に、だけど守護者は屈しない。
なぜなら私がそう命じたから。
私を守れと命じたから。
果たして守護者は見事に領域を守りきって、押し寄せる波から淀み蠢く澱へと変わったそれはうぞうぞと形を変えて―――
「『リコット、ゾフィ、蹴散らして!』」
「―――『やきこがすかえん』」
「■■■■■■」
立ち上がり組み上がり形を成すその瞬間に、ナニカに殺到する灼炎と爆ぜる光。
幾度となくそれを浴びたナニカは、まるでそれに適応してしまったかのように、ぶわっと広がってその闇の向こうに灼炎を飲み込み、光を喰らう。
それでも確かに効いている。
私がそうやって命じたから、それくらいはやれるに決まってる。
距離をとるのはその証、だけどもちろん逃さない。
「『なっち!射ち抜いて!』」
「『フォースアロー』」
その一閃は銀の尾を引いて。
距離をとって形を変えるナニカのど真ん中を、さも当然のように、まるで雲を散らすように大きな風穴を空けて貫通する。
それくらいはやれると知っている、だから命じた。
だけどナニカはそのまま形を変えて、奇妙な異形へと姿を成す。
八本の足は歪に不揃い、腕は一本しかないのに頭は三つも生えている。
どういう意味なのかなにを意図しているのか全く分からないそれは、そして八本の足を不気味に器用に扱って、瞬く間に距離を詰めて拳を振るう。
「『リーン、きらりん!迎え撃って!』」
「ぃよっしゃきたぁあああ――――――!!!」
「ここっす!」
迎え撃つは二つの拳。
大剣はまた壊したくないらしいリーンと、同じ攻撃方法なら負けたくないといってやる気満々なきらりんの振るう拳が、きらりんのアジャストもあって完全に同時にナニカの拳と激突する。
衝撃。
空気をねじ伏せて迫っていたナニカの腕は、二人の拳に打ちのめされて爆ぜるように飛び散る。途端にナニカは形を歪めて、また恐れるように飛び退いていく。
まあそれくらいはできる。
多分きっと、命じるまでもなく二人なら。
「どうだおらー!」
「なんか案外余裕っすね!」
「でも一応、『みんな今のうちに休んでね』」
ここまでの流れはきらりんの言う通りに案外余裕すら感じさせるものだ。
私ができるようになったことも多分少しは影響しているんだけど、それがなくても割とどうにかなっていたのかもしれないと思えるほどには。
だけどそれで安心するのはまだ早い。
なにせ相手は正体不明の敵なんだ、一体どんな技を隠し持っているか分かったものじゃない。今のところは単純に体当たりとか直接的な攻撃だけど、遠距離からの魔法攻撃とかしてきたら最悪だ。いやほんと、ソフィやアンズの攻撃を見てると本気でそう思う。
―――なんて思ったのがいけないんだろうか。
次の瞬間ナニカは、ぐるぐると渦を巻いて形を変える。
それはみるみる意味を成して。
最終的にナニカは、円環となった。
内部に幾何学的な模様と文字を持つ、円環。
どこか見覚えのあるそれは、というか明らかに魔法陣で……え、うわ、うわ!?
「ま、『守って!頑張って!』」
私の言葉に応えて、立ち塞がる霊戦士とボールたち。
そしてその瞬間、ナニカが形成した魔法陣から、純黒の炎が迸る―――!
「う、わっ」
目前で広がる炎にたじろいだところを、そっとナツキさんに支えられる。
障壁を迂回して届く熱気は、ソフィのものと比べても遜色ないどころか、普通に上回っているくらいの勢いで。なんなら障壁越しなのにLPがじりじり減っているくらいだから、多分呑まれたら私なんて一瞬で消し炭になる。
「まねっこですわ」
そんな炎の影響を、多分私より受けているはずのソフィは、どこか面白くなさそうに言う。案外……いや印象通りに負けず嫌いなタイプだから、威力が上回っているっぽいのが気に食わないんだろう。そりゃあこんな明らかな強敵の攻撃と一プレイヤーの攻撃を、それも始めたての初心者のそれを並列に語ることなんて馬鹿げている。
けど同時に、その言葉は的を射ているようだった。
確かにあれは真似っ子だ。色と規模こそ違うけど、逆に言えばそれ以外は瓜二つ。規模だって、単にナニカの魔法陣のサイズに合わせて大きくなっているというだけで、形状みたいなのは特に変わりないし。
……いや正確には、ソフィの魔法は魔法陣が出ないから単なる紛い物なのか。
魔方陣というならアンズだ、もしかするとそっちも真似してくるんじゃ……。
なんて思いに応えるように。
不意に炎が消失して、かと思えばナニカは、ちぎれるように分裂した。
計六つ。六等分。
嫌な予感以外のなにを感じればいいんだろう、そしてそれぞれが魔方陣となって、まるで六角形を作るように並ぶ。
……うわあ。
「まずい。■■■■■■」
僅かに顔を険しくしながら、アンズは即座に六発の光の槍を放つ。
見た限り連結魔法も使ってない上に私の命令も乗らないそれらは、それでも真っ直ぐと飛来して―――
直後、ナニカから放たれた闇の槍がその尽くをねじ伏せて、収束するように到来する。
なんとなくピンポイントで私目がけて飛んできている気がするそれに対して、立ち塞がるのは霊戦士とボールたち。さっきの命令が継続してるはずだからきっと大丈夫だろう。
なんて。
私の甘い考えごと、叩きのめすみたいに。
ィィンッ―――!
甲高い音と共に砕ける障壁。
衝撃を真っ向から受けた霊戦士なんてその盾すらも砕け散っているし、ボールたちも弾き飛ばされて形を歪めている。その周囲に纏う障壁は、きっと消し飛ばされているんだろう。
「まじすかっ」
きらりんの驚愕が耳を通り過ぎる。
それでもどうやらまだ守護者たちがやられてしまった訳ではないという安堵すら置き去りに、思考は切迫してゆく。
今この瞬間、多分対魔法における防御の最強の一角が完全に抜かれてしまったということで、立て直すまではどれだけ時間がかかるのか分からない。
それなのに、それなのにナニカはまだ魔法陣の形をしているのだ。
嘲笑うようにくるくる回って。
私たちへとその照準を定めている。
どうする。
スズ一人で受けきる?でも耐えられるか分からない、というか耐えられる望みは薄いと思う。なにせスズは清々しいほどに物理特化だ。鎧も肉体も優秀だけどそれは果たして、霊戦士とボールたちをたった一度で叩きのめした攻撃を耐えられる程のものなんだろうか。
もし。
もしも耐えられなかったら……?
―――砕ける鎧を幻視する。
―――千切れる身体を幻視する。
―――スズが死ぬ、その光景を幻視する。
きっともう時間なんてないはずなのに、恐れが迷いを私に押し付ける。
どうすればいい、どうすればいい。スズを信じる?スズ本人すら決死の表情をしているのに?スズが命に替えて私たちを守ったところで、そのなにを嬉しがればいいというのか。だけど今どうにかできる手段はない。アンズとソフィの魔法で威力を減衰させる?でも相手は連結の乗っていなかったとはいえそこそこ威力があるアンズの光槍を一瞬で掻き消すくらいの威力を持っている、それにあの様子からしてこれは別に大技なんかじゃなくて、単なる普通の魔法攻撃、つまりこの次だって普通に存在するはずで、とすればそれはいつまで続けられる……?
明確な死の予感。
視界を烟らす死の幻視。
スズがきらりんがアンズがソフィがナツキさんが、闇に呑まれて貫かれて砕かれてへし折られて潰されてそして死ぬ。
吐き気がする程の苦痛が心臓を締め付ける。
死んでほしくない。
でも私になにができる?
私の命令なんてものはこの圧倒的な力の前には紙くず同然で。
泣きそうになる私を弄ぶみたいに、ナニカは動く。
僅かに角度を変える、魔法陣。
それはほんの僅かな差。
だけど明確に、霊戦士と入れ替わって立つスズ一人を、狙い済ましている。
私の絶望をより克明に。
それだけじゃない。
するり、と。
並ぶ魔法陣は、まるでスライドするみたいに回転する。
元あった場所に瓜二つのコピーを残して回転する。
六角形が、十二角形に。
単純計算で、二倍。
もはやそんなもの、減衰したところで耐えられる訳が―――
「ユア」
呼ばれる。
見れば、静かな闘志に燃えた視線が私を捉えている。
「……リコット」
「ん」
アンズはそっと杖を構えて、スズの隣に並び立つ。
その背はやっぱり揺るぎなく、確かな自信に支えられている。
―――ああ、きっとあれが何倍になったとしてもアンズなら大丈夫だろう。
そう確信させる姿だった。
そんなアンズの姿に、モンスターながらに怯みでもしたのだろうか、ナニカは揺らいで、そして恐れるようにまた魔法陣の数を増やす。
「う、そぉ!?」
「こ、これやばくないっす……?」
「おねえさま……」
「これは……」
絶望的な声を上げながら、それでも立ちはだかるスズ。
なんなら私より防御力がないから余波だけでも吹き飛ぶかもしれない、じりじり後ずさるきらりん。
大人びていても小学生は小学生ということなのか、不安そうに縋り付くソフィ。
険しい表情で、一応仕えているはずのソフィはいいんだろうか、私を守るように寄り添うナツキさん。
十二が分かれ、二重に回る二十四。
二十四が開き、四重交わる四十八。
そして四十八が回り、八重の図形が円を成す。
九十六。
空間を埋め尽くす程の魔法陣が立ち並んで一点を指す。
普通に考えればそんなものが放たれれば一溜りもない。
どう足掻いたところで飲み込まれて終わりだろう。
果たして魔法はそこに顕現する。
嬲るように緩やかに、闇が集いて槍となる。
形成して、恐怖を煽るように回転を始めたそれはそして、静寂を引き裂くように、一斉に放たれる。
まるで絶望を見せつけるみたいに高速で飛来する闇。
もはや壁と見まごう程の絶大な物量。
それが収束した一撃なんて、もはや耐える耐えないの話じゃなくて。
だけど。
「『リコット」
だけど私には奇妙な確信があった。
アンズなら大丈夫だという確信があった。
だから私はみんなの不安を断ち切るように、告げる。
「―――ねじ伏せろ』」
私の命令に、アンズは即座に動く。
紡ぐは旋律。
アンズの周囲を取り囲むように咲き誇る魔法陣。
足並み揃えて放たれるそれは、飛来する闇の槍を迎え撃つように一点に集中して。
もちろんアンズはそれじゃ終わらない。
私はねじ伏せろと言ったのだ。
圧倒的な力を見せろと命じたのだ。
同時、重なる魔法にさらに重ねて、数え切れない数の光の弾が乱舞する。
なんとなく久しぶりに見た魔力弾、その数は十数個に収まる領域じゃなくて、ともすれば三桁にすら届くのではないかと思えるほど。塵も積もればなんとやら、一撃の威力が低くとも、それだけ集えば威力は絶大。
そしてその全てが、飛来した闇に殺到して―――
いとも容易く、私の望むままに、圧倒的な力でもってねじ伏せた。
そのまま光弾はナニカにすら届いて、いくつかの魔法陣をめちゃくちゃに乱して通り過ぎた。
「まじかー……!」
みんなの驚愕の視線の先、堪らずに揺らめいて、魔法陣としての体裁を失って集まるナニカ。
役目を終え、ふらりと倒れるアンズを抱き留める。
表情は少し辛そうで、だけどそれでも確かな満足に包まれて。
それもそのはずだろう。
魔法陣を連発させながら、同時に意識だけで魔力弾をほぼ時差なしで連射したんだから。毎度毎度、なにも言わずに撃っているなあとは思っていたけど、まさかあんな連射までしてしまうとは。多分杖に込めてた魔力を全部解放したんだと思うけど、一体どれだけ脳を酷使したんだろう、さすがにもう少し労わってあげた方がいいんじゃないかと思えてくる。
だから私はアンズの頭を撫でながら、微笑みを向けた。
「お疲れさま。ありがとう。少し休んでいて」
「ん」
私の言葉に命ぜられるままに、アンズはそっと目を閉じた。
さすがにそこまで私の言葉も万能ではないようだけど、幸い自発的に寝られないほど辛いという訳でもないらしい。AWの中で眠れることはスズが実証済みだから、多分寝たら少しは気分もよくなるだろう。
さて。
「じゃあアンズが寝てる間に頑張ろっか」
またあんな攻撃をされたら流石に辛い。
そう思ってみんなに視線を向けると……ああ、うん。
「負けないぞー!」
「いつもいいとこ取られっぱなしじゃ悔しいっすからね!」
「わたしだってまほうをつかえますの」
「戦車よりは温いでしょう」
自然、笑みが浮かぶ。
今ならきっと、いける気がする。
……ところでナツキさん、まさか戦車と戦ったことが……?
■
《登場人物》
『柊綾』
・ようやく分かりやすく役目ができた二十三歳。実質座っているだけの役目からみんなを鼓舞する応援係に昇格した。別にもったいぶってる訳じゃないけど、能力の詳細は戦闘後になりそうな気配。万能だけどなんでも好き勝手という程じゃない感じの微妙なところを狙おうとしているけどそこそこ。共通項として『思ったよりもすごくはない』というのがあるけど、あやのやつはその解釈の仕方が割と都合いい感じ。ゲーム内だとしてもみんなが死んだりすることに対して常軌を逸した反応をするのは今まで通り、だけど少しずつ慣れてきている気配。
『柳瀬鈴』
・重戦士なのにメインウェポン:拳な二十三歳。考えてみれば大剣は新調してないからあのレベルの敵の攻撃を受け止めるとぶち壊される可能性が……。やっぱりπちゃん最強ですわ。とはいえ防具の篭手と武器の篭手にはステータス的に明確な差があるからやっぱり武器の篭手ほど威力は出ない。でも物理的影響だけ見ればあんまり差はないから、スズのSTRがあればまあそこそこ。
『島田輝里』
・スズが拳使いだして危機感を抱く二十一歳。単純STRがまだ足りないから威力負けてるんだよなあ。そこは技術で差をつけろ、いいか、体重を乗せるんじゃない、体重に乗せるんだ(キリッ。言ってみただけ。いや、一撃限定でやるなら体重移動を、こう、どうこうして、全力で頭から転ぶように打つと意外と威力出たりするよ。漏れなく転ぶし狙い定まらないけど。
『小野寺杏』
・またお前やりやがったなこのやろうほんとマジアンズさんマジおいこらぁ……な十九歳。杖に充填した分まで含めるとおよそ九百くらいのMPを一瞬で消費し尽くしたことになるんだけど、脳の回路何本か焼き切れてんじゃないのあなた。拡散ジャベリンをタイミング合わせれる最大数ぶち込んだ上に、密かに思考のみで発動できたけど今まで牽制的な役割しか与えられていなかった魔力弾を残りのMP分連射した。口を動かす必要すらないなら口を動かすより早く連射できるよねっていう。実質それは単に連続で思考発動したというよりは、連続で発動する思考を想定したみたいなちょっと遠回しな発動で、ゲームの中で操作する対象には思考すら含めてるよというやべえやつ以外の何者でもない。もしかしてあなたが主人公さんですか……?いや、亀といい雲といい今回といい強敵との戦いでアンズさんが光りすぎじゃないかと……。
『沢口ソフィア』
・モンスターにはパクられるわアンズには圧倒的なパワー見せられるわでフラストレーション溜まりがちな十一歳。威力を、もっと威力を……!なにせこの子破壊力ありそうというだけの理由で火炎属性選んでるからそりゃあ威力では一番にならなきゃ気がすまないだろうなあと。一発撃てるだけあればそれ以上のMPなど不要……!みたいなノリになりそうで怖い。INTに注ぎ込む姿が目に浮かぶようだ。
『如月那月』
・そろそろ影が薄くなりつつある二十四歳。あんさんが光るんはまだちょおと先なんよ。そもそもこう、他のみんなみたいに分かりやすく凄いみたいな感じでもないしなあ……。ちなみに回復薬係は継続。ボールも回復薬飲めるんだぜ……。なお戦車に関しては過去編でも絶対書かない。そうあれは、彼女がソフィと出会う前……みたいな回想は存在しないのだ。考えてみたらそれ十代の頃なんじゃ……?まあ多分あれです、使用人ジョーク使用人ジョーク。




