30話:カフェで一話使ってしまった……
「かきんができればかいけつですのに」
「なんかそれはすごい世知辛いというかなんというか」
「楽より楽しく稼ぎたいっすね」
「生産」
「設備がないっすよ……」
「やっぱ狩りだよ!モンスターハンティーング!」
「プレイスタイルに会わないように思われます」
「恨を詰めてやるには時間ないしね」
それなら結局どうするか。
名案は出ず、私たちはまたケーキを食べる。
あれ。
つまりは例のカフェにて交流会。
自己紹介を終えて、話題はクランホームのことに。
どうやって用意するにしてもまず間違いなくお金が、それもかなりの額必要だろうということで、私たちはじゃあどうやって金策をしようかという話をしているのだった。
それもいまいちピンとくるものがなくて、結局ケーキが進む進む。
今日のケーキはチョコっぽいけどチョコじゃない限りなくチョコに近いビターなケーキ。他のみんなのを見た限り別に意図してる訳じゃないんだろうけど、私のやつは真っ白なケーキだ。しっとり滑らかな舌触りで、口に含むのも心地いい。
もくもくごくん。
お茶を一口。
少し苦めのそれはケーキの甘さを引き立たせるようで、ビターなケーキの苦みよりはむしろ甘みの方が好きな私としては、文句のつけようもないくらいにピッタリなお茶だった。流石はウェイトレスさん、お茶までおまかせにするという無茶振りをしてみたんだけど、快諾してくれてよかった。
とそこで、ふと思いつく。
「そういえば、冒険者っていうお仕事があるみたいだね」
「どういうおしごとなんですの?」
真っ先に反応したのはソフィ。
他のみんなも疑問符を浮かべていたから、私はウェイトレスさんに受けた説明を思い出して、まあだいたい冒険して依頼をこなすお仕事だよ、というのを伝えてみる。
「やろー!」
案の定というかなんというか、スズの反応がすごい早い。
身を乗り出すのはいいけどまた服……あ、もう食べてる。いつの間に。
「リコットはなにか知ってるっす?」
「初耳。気になる」
「なっちはどうかしら」
「少なくとも初心者向けと謳われるデータベースには載っていなかったと記憶しています」
色々調べていた組は、けどどうやら冒険者という仕事を知らないらしい。
初心者向けじゃないとか、知られてないとか?
でもウェイトレスさんの口振りからしてこの街にある組織みたいだし、普通に考えたらちょっとくらいは情報があってもいいと思うんだけど。
まあ知らないなら考えたって知れないから、そういうときは知っていそうな人に訊くのが一番だろう。
という訳で。
「マスターに言ってお暇をもらってきました」
「ごめんなさい、こんなわがまま聞いてもらって。ここどうぞ」
「ありがとうございます。まあ、どうせ暇ですし」
にっこり。
それはそれで構うんじゃなかろうかと。
ともあれ、冒険者という仕事についてもっと知るためにウェイトレスさんにお願いしてみたら、にっこり笑顔で快諾してくれたので、みんな揃って話を聞くことにした。
六人掛けでも割とギリギリなテーブル席だったけど、そこはそもそもきらりんと一緒に私を挟むように座っていたソフィがしれっと私の膝の上に乗ったことで解決した。まあソフィはちょっと重力に逆らってるんじゃないかっていうくらい軽いし、別に苦にならない。むしろなんか、あまり質がよくない感じの布越しとはいえソフィのふにぷにボディに触れられて幸せなくらい。
もちろんそんな体勢になれば私のことが大好きなみんなからの視線がすごいけど、まったく気にせずるんるん嬉しそうに身体を預けてくる辺りソフィは大物だろう。空いたスペース、つまりは嬉しいことに私の隣に座ったウェイトレスさんなんて、すごいオロオロしてるのに。
「さて、じゃあお話を聞く前に、自己紹介とかしてみませんか?ずっとウェイトレスさんって呼ぶのも、なんだか寂しいです」
「え、あ、はい。構いませんよ」
そんなウェイトレスさんも可愛かったけど、空気を変えるためにそんな提案をしてみる。
幸い否定的な意見はなかったから、やっぱり言い出しっぺからいくとしよう。
といっても、名前を言って挨拶するだけの簡単なものだから、特に問題なくササッと進んでいく。
そして巡り巡って、最後にウェイトレスさん。
「えっと、ここでウェイトレスをしています……って、これは言わなくてよかったですね。セレムです。今後ともどうぞご贔屓に」
「セレムちゃん、素敵な名前だね。もちろん、迷惑じゃなかったら常連になるよ」
「迷惑だなんてそんな、えっと、あ、ありがとうございます。……少し照れてしまいますね」
余裕綽々にっこり笑顔なセレムちゃんも素敵だけど、ほんのり頬を染める照れムちゃんもなかなかに趣深い。とはいえ延々と愛でている訳にもいかないから、みんなでよろしくと言葉を交わして本題に入る。
「冒険者について、でしたよね?」
「うん。実はちょっとお金を稼ぎたいなあと思ってて、この前色々お話してくれたでしょ?それでちょっと詳しく知りたくて」
「お金、ですか……もっと他のことじゃ駄目なんですか?冒険者さんはかなり大変らしいですよ?」
「いや、まあ冒険者にこだわってるっていう訳でもないんだけど、少しでも早くお家が欲しいんだよね。小さいのでいいんだけど」
「お家ですか……」
それは確かにお金がいりますね、と考え込む様子のセレムちゃん。
「お家って小さいのだといくらくらいするのかな?」
「そうですね……多分10万マニくらいは必要だと思いますよ?」
「じゅうまん」
10万……それは、なんというか、これまでの最高資産額ですら1万に届いてないのに。
「うーん……でも、そうなると確かに冒険者さんになるのが一番早いかもしれないですね。依頼によっては成功報酬だけで数万マニというものもあるらしいですし」
「そんなに!?」
「まあ、その分大変だとは思いますけど」
それはまたなんというか、夢の膨らむ話だ。
まあ流石にそんな稼げるような仕事は、それこそ命が幾つあっても足りない気がするけど。
「なんというか、がぜん惹かれつつあるんだけど、それなら冒険者ってやっぱりみんな憧れの仕事だったりするの?」
「それは微妙な気がしますね。やっぱり基本的には肉体労働ですし、命の危険がありますし」
「でも、稼ぎはいいよね?」
「それはそうですけど、別に命を賭けなくても街には仕事も普通にありますから。それに高額な依頼になると一日二日じゃどうにもならないようなものも多いらしいですし、旅の費用で赤字になっちゃう可能性もあるんですよ」
「なるほど」
確かに、亀のせいでそれまでの狩りの稼ぎがほとんどなくなったのは記憶に新しい。あれは主に装備だけど、もちろん長旅だったらそれだけじゃ済まない。食料なんかは要らないにしても、回復薬とかを揃えようと思うとそれなりの金額が必要になってくるだろう。
「とはいえそれでも、冒険者さんに憧れる人は一定数いるみたいですけど」
「というと?」
「色々とありますけど、例えば色々な大陸を冒険してみたいとかですね。よくは知りませんけど、冒険者として登録すると他の大陸に行けるようになるんですよ」
「え?」
なにそれ初耳。
というかむしろ、その口振りからして冒険者に登録しないと他の大陸に行けないみたいなのに、じゃあなんでプレイヤーには広まってないんだろう。
視線を巡らしてみるけど、思い当たることがあるのは誰もいないようだった。
「どういうこと?その、冒険者を運営してるみたいなところが管理してるとか?」
「どういうこともなにも……って、あ!」
お?
「もしかしてみなさん、来訪者さんなんですか!?」
「来訪者……?」
もしかしてもなにも初耳の単語なんだけど。
また視線を巡らしてみるけど、やっぱりみんなも知らない様子。
えっと、どういうことなんだろう。
「心当たりがないんだけど」
「え、で、でもみなさん『法律』を知らないんですよね?」
「法律?」
「そうです。来訪者さんでもなかったらそんなのありえませんよ?」
ありえないらしい。
けどまあ、当然思い当たるものはない訳で。
なにやら重要そうな情報だったから、その来訪者というやつのことを詳しく詳しく聞いてみた。
ら。
|異なる世界とこの世界を行き来する《ログイン&ログアウト》だの、|命を落としても光と共に戻ってくる《リスポーン》だの、|何もないところから物を出し入れする《インベントリ》だの、その他にも色々とどう考えてもプレイヤーのことを示しているとしか思えない特徴を、来訪者とやらは持っているようだった。
……うん。
「聞いた限りは、どうやら私たちはその来訪者っていうやつだと思う」
「やっぱり!このあいだリーンさんが剣を消してたのを見て、もしかしたらと思ってたんですよ!」
いやそれはもはや確信でよかったと思う。あのサイズを一体どうやって隠すというのか。
そんな思いを視線に込めると、こほん、と可愛らしく咳払いをひとつ。
見ればそんなセレムちゃんに生暖かい視線を向けている、おそらく常連さんなんだろうおじさんたちがいたから、密かに親指を立てあった。言葉にするまでもなく、通じ合える。
意外と天然なセレムちゃん、可愛い。
「でも、だったら納得ですね。法律なんて、来訪者さんにはあんまり関係ないですし」
「その法律って、結局なんなの?」
「えっと……絶対に破れないし破っちゃいけない約束、みたいなものですね。誰との約束なのかは分からないんですけど、例えば人からものを盗むのはダメとか、さっき言ったように冒険者以外は他の大陸に移動してはダメとか、色々あるんです」
「へー。でも、来訪者には関係ないってどういうこと?」
「それは言葉通りです。だから来訪者さんは、冒険者にならなくても他の大陸に行けるんですよ」
「なるほど」
それはつまり、来訪者は盗みを禁止されていないという風にも捉えられる話だった。
そしてそれは間違っていないと、セレムちゃんの目が言っている。
セレムちゃんからの信頼を感じて、かなり嬉しい。
だから私はそれを視線で伝えて、するとセレムちゃんははにかんだ。
うーむ。可愛い。
ん?ああ、みなさんもそう思いますよね?ですよね!まったく堂々たる看板娘です。え?いやいや、そりゃ当然、こんな可愛いセレムちゃんが悲しむようなことはしませんとも。セレムちゃん好きに悪いヤツはいない、これを標語にしましょう、はい。じゃあこんな素敵な セレムちゃんに乾杯ということで。カンパイ!
「なにしてるんですか?」
「え?いや、ちょっと」
間違いなく常連さんな集団から視線を戻せばセレムちゃんは振り向いたりしてそっちを確認するけど、その頃にはもうみんな各々の空間に戻っている。
結局異常は見つけられなかったらしい、セレムちゃんはしきりに首を傾げながらも話を戻す。
「まあなんにせよ……って、どうしたんですか?」
「ああ、気にしないで」
「はあ……」
可愛らしい嫉妬心から無言で向けられた大小様々な頭を撫でつつ、ついでにきらりんには出張なでなでしつつ、ソフィはお腹をくすぐってみたりして、一人大人な対応のナツキさんに視線で予約を入れられたりしながら、なんでもないと首を振る。
全然なんでもあるけど、まあ気にしない気にしない。
「……まあ、なんにせよ、みなさんが来訪者さんなら、冒険者というのはいい選択かもしれませんね」
「まあ、万が一がないから」
「それでも心配は心配ですけど」
「そっか」
その表情からは本気の心配がか伝わってきて、いけないなあと思いながらもつい頬が緩む。
するとセレムちゃんは途端にむっとして「ほんとに心配なんですよ!」なんて声を荒らげた。
まだ出会って間もないのにこんなに心配してくれるなんてセレムちゃんは優しいなあとか怒った顔も可愛いなあとか色々と思うところはあったけど、とりあえず私はなによりも、セレムちゃんが私のことを心配してくれているというのがひたすらに嬉しくて。
「分かってるよ。ありがとう」
「あ……」
手のひらに感じる温もりは、思えば単なるゲームのキャラクターでしかないセレムちゃんが、けどそれでもここに一つの命として存在していることを思わせる。
だから私は誠心誠意、私の全部で彼女に告げる。
「命を粗末になんてしないって、約束する」
私の言葉にセレムちゃんは僅かに瞳を揺らして、ほんの少しだけ俯いて、そしてまた私を見上げ……うっ。
「……約束です」
「っ……うん」
うるうる上目遣いというもはや古典的というか古代的ですらありながらも未だに最強の一角を成す一撃に危うく結んだ直後に約束を反故にしそうになりつつも、なんとか耐えて頷きを返す。いやあるいは死んだことに気がついていないだけ……?
まあ、うん、さておき。
そんなふうにしばらくセレムちゃんの頭の感触を堪能していたけど、残念なことにセレムちゃんの方から身体を離してしまった。
それを残念がる私へと、セレムちゃんはにっこり笑って言う。
「さて、じゃあそんなユアお姉さんには特別サービスをあげちゃいますね」
「特別サービス?」
「しばしお待ちを」
なにごとかと思いつつ、忙しなく手を動かしながら見ていると、セレムちゃんはマスターさんのところへ行ってなにやら言葉を交わしているようだった。それに対してマスターさんはこっちを向いて微笑みを浮かべると、なにやら裏の方に消えて、しばらくして戻ってくる。そしてなにかを手渡して、受け取ったセレムちゃんはそれを後ろ手に隠しながら戻ってくると、また私の隣に座った。
私がなにかを訊ねるより早く、そしてセレムちゃんは言う。
「来訪者さんが冒険者になるには、色々条件があるんですよ」
「そうなの?」
「はい。まあそうでなくても条件がない訳じゃないんですけど、冒険者って、やっぱり信用できる人じゃないとなにがあるか分からないじゃないですか。だから法律で縛られない分、独自のルールは少し厳しくなるらしいです」
「なるほど。それで?」
「そのひとつに、推薦状という制度があるんです。冒険者組合が指定した特定の誰かからの推薦状がないと登録できないというルールですね」
そこまで聞けば、なんとなくこの後の展開も分かるというものだった。
それを裏付けるように、セレムちゃんは分かりやすく隠していた一通の封筒を差し出してくる。
「どうぞ、ユアお姉さん。うちのマスター、実は意外とすごい人なんですよ」
「セレムちゃん……ありがとう」
当然そんな気持ちの篭もったプレゼントを受け取らない訳もなく、私は細心の注意を払って丁重に受け取った。
受け取ってから、聞いてみる。
「でも、いいの?私たち、特にソフィとなっちなんて今日が初めてなんだけど、そんな推薦状なんてくれる程に信用して」
「これでも人を見る目はあるんですよ?マスターも全然問題ないって言ってますし」
言われて視線を向ければ、しっかりと頷かれる。
うーむ。
いいんだろうか、ほんとに。
「貰っとけばいいんじゃないっすか?リーンとか完全に乗り気っすし、わたしも正直かなりわくわくっす」
「これはもう冒険者やるしかないよね!ね!?」
「僥倖」
「おねえさまへのせいとうなひょうかだわ」
「ユアは悪いことはできませんからね」
いや、みんなもセレムちゃんやマスターからしたら評価対象なんだけど、その自覚はあるんだろうか。まあ、みんなの中にそんな私利私欲のために人に迷惑をかけるような人間はいないけど。
よし。
「ありがとね、セレムちゃん。そういうことなら有難く貰っておくね」
「はいっ。頑張ってくださいね!」
ぐっ、と拳を握るセレムちゃんに、ふと思う。
……これ、いつの間にか冒険者になるのが決まってるよね?
いやまあ、別になんの問題もないけども。
■
《登場人物》
『柊綾』
・着々とセレムちゃんに攻略されつつある二十三歳。カトンボより容易く墜ちてたわ。セレムちゃんの魅力はあれだね、うん、すごいいい子。これに尽きる。なんかもう数世代古い感じすらするけど、なにげにあやの周りにはこういう子いなかったから仕方ない。そこまで特別にインパクトはなくても、なんならあやに関しては初対面の時点であやの愛想が良かった時点で終わってた感すらある。
『柳瀬鈴』
・冒険者という言葉の響きだけでテンション上がっちゃう二十三歳。異世界ファンタジーとかまだ存在するんかね。しそうだな。でも流行は宇宙的な。宇宙探索が進んでるからね。まったく関係ないや。
『島田輝里』
・冒険者ってことはやっぱランク制度なんすかね、とかちょっとそわそわしてる二十一歳。ランクとか目に見えて競える感じのがあるとテンション上がるらしい。ところで未だに自分から撫でてもらいにいくのは躊躇っているようだけど、きみきみ、そんなのじゃ会社で死ぬぜ……?
『小野寺杏』
・冒険者といえば受付嬢……とか今から若干警戒している十九歳。あるいは先輩冒険者という可能性もある。セレムちゃんに対しての雰囲気からしてNPC相手に割とガチっぽいから気をつけなければ。でもいざなんらかのイベントにあやが巻き込まれたとしても、そういう方面ではやっぱり口出ししない。そういうスタンス。でもちょっと思うところはある。人間だもの。
『沢口ソフィア』
・冒険者とかよく分からないけどあやの膝の上だからそれだけで勝ちな十一歳。体温+ふにふに+ドレスの包まれ心地に実は若干おねむ。でも眠ったらあやの上にいるという感覚を刻みつけれないから頑張ってる。でもでもお腹とかさすさすされたら興奮してちょっと目ぇ覚めた。おへそはよわいんですの……♡
『如月那月』
・冒険者とかよく分からないけど無法ってことはあやに【■■■自主規制■■■】で最後の最後にゴミのように捨てられても問題ないということでは……?とか真面目な顔して考えてる二十三歳。キャラが決まらなかったからもう沢口ファミリーはみんな変態になれ。あれだよあれ、色々闇とか病みとかのおかげでねじ曲がっちゃったんだよ。本来いない人だったんだから仕方ないじゃろ。おかげであやに鞭が使えるとかいう設定が追加されたしお前ほんとろくなことしねえな……。
ひとまず家をゲットしたら区切りのつもりです




