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29話:ようやく合流した……

πちゃん絶好調

無垢なる花園の姫(プリンセスガーデン)(セット)』(ヘπトス)

・セット

『純情の花冠』

『純潔の肌衣』

『純朴の礼服』

『純粋の手套』

『純真の革靴』

・特殊効果(総計)

 MP:+150

 INT:+25

 MIN:+35

 消費MP:-10%

 魔法性能:+20%

 LP回復速度:+50%

 MP回復速度:+50%

 物理耐性(中)

 魔法耐性(中)

 状態異常耐性(中)

・セット効果

《以下の効果は自分含むパーティメンバーにのみ発生する》

 LP:+120

 VIT:+10

 補助効果:+25%

 戦闘時LP自然回復:1.5%

 戦闘時MP自然回復:1.5%

・追記

 〜白き花園にて笑う無垢なる姫。純情なる心を宿し、純潔なる身を守り、純朴なる想いに従い、純粋なる行いによって、純真なる道を歩む〜


 ―――πちゃんが私のために用意してくれた装備は、そこに込められた効果ももちろん素敵で、πちゃんの気持ちがいっぱい伝わってきたけど、なによりもその見た目があまりにも私には嬉しかった。


 花冠を模したような、植物のつると柔らかく咲く花びらを象ったティアラ。花香るようにふわりと風に舞う楚々としたドレス。そっと手を包む滑らかな手袋。足に馴染むハイヒールの革靴。更には肌を覆う肌着に至るまで。


 それらは全て、光を弾く純白で。


 それはそう、まるでウェディングドレスのような。


 ウェディングドレス。


 それに対してなにか深い憧れがあるかと言われれば、実はそんなこともない。私はどちらかといえば白無垢の方が好みだし、なにより誰かと結婚式を挙げたいなどと思ったこともない。いや、新婚生活はしてみたいけど、それはなんというか、わざわざ式を挙げる必要があるかと言われれば別にそうでもないし、それに結婚してないのに私がしたいから結婚式を挙げようっていうのは、なんとなくして不誠実な気がするし。まあ相手からしてほしいと言われれば結婚式も、なんなら結婚だってもちろん吝かではないというか、むしろ喜んで受け入れる所存ではあるけど、それは私がウェディングドレスを着たいというのではなくて、相手の想いと晴れ姿にこそ惹かれる訳で。


 けど、そこに想いなんてないのに、それをπちゃんがくれたというのは、私にとって大きな衝撃だった。


 πちゃんからすればそんな意図は全くなくて、私をお姫様と呼ぶからドレスを仕立ててやろうという、ついでに亀が白いしみんなの装備も白いから色は白で統一しようというそれだけのことなんだと、流石に分かる。


 けど、ああ、なんだろう、そんな理性なんてどうでもよくなるほどに、πちゃんが私を好きじゃないなんて気にならないほどに、好きな人から贈られて、もうどうしようもなく、なんていえばいいんだろう、そうじゃなくて、別に婚約とか、プロポーズとかそういう意味はまったくなくて、でもそれはどこまでも結婚という個人個人の特別な関係を示す一つの象徴みたいで、だから、いや、不意打ちだったし、なんというか、分からないけど、どうしようもなく好きが溢れて。


 ぐちゃぐちゃになった私は、気がつけば泣いていて。


 πちゃんに引かれてしまうとか、せっかく貰ったドレスが汚れてしまうとか、そんなことには思い至らない程に、私は泣いた。

 いや、泣きじゃくった訳じゃなくて、涙がぽろぽろ零れるだけで、きっとすぐ止むんだけど。


「いやほんとうに泣かれると困るわよ!?」

「うん、ごめん、ごめんね、素敵で、感動しちゃった」

「涙脆すぎだわ!そんなので今後この私の装備を使い続けようと思ったらあなた感動死するわよ!エモ死するわよ!?」


 エモ死とは。


 ……結局は、どうなんだろう、もしかするとそのドレスを貰ったということよりも、πちゃんが手ずから作ったものを身に着けているという、それは感動だったのかもしれない。

 それって実質πちゃんに包まれてるのと同じだし。

 うーむ。

 そう考えるとなんだか、すごい、こう、くるものがある。


 まあ、うん、さておき。


 みんなによしよしされて、気を取り直したところで。


「それで、πちゃん。この装備はどんな風に工夫してくれたの?」

「ああ、そうね、そうだわ……そうよ!それを語らねばなるまいわね!」


 どうやら少し動揺していたらしいけど、流石は気を取り直すのが早い。


「その装備のモチーフはあれよ!ドレスに亀なんていうのも気に食わないから花園要素をぴっかうとしたわ!もちろん素材は亀だけどね!名前は『無垢なる花園の姫(プリンセスガーデン)』!花園の姫と姫の花園の二つの意味を込めたわ!その名の通り全体的に花モチーフね!頭は花冠、身体は花弁、手は蕾、靴はブーケを意識してるわ!肌着も花柄よ!見えないところも手を抜かないのがこの私っ!そうヘπトス!素材の布は正直かなり大変だったわ!ええ!甲羅を溶かした染色液の調合にかなりの時間を使ったせいね!正直量も時間もギリギリだったわよ!でもおかげで耐衝撃性能は中々のものになったわ!もはや訳が分からないけどそこはゲームよ!今更だわ!裁縫糸まで染色糸よ!もちろん頑張りは布部分だけじゃないわ!そのティアラもかなり時間をかけてるわよ!なにせ旗印だもの!プラホワだけじゃなく鱗まで使ったわ!花弁とかは割と鱗よ!少し透けているでしょう!?おかげで耐久性度外視よ!まあそれでも普通の鉄なんかよりよっぽど丈夫だけど気をつけなさい!本当はべっ甲を使いたかったのだけどそれ用の亀がいるらしいわね!?亀ならなんでもいいと思ってたわ!せっかくべっ甲細工初体験だと思ったのに期待外れよ!白べっ甲なんて最高の素材だと思ったのに!まあないものねだりしても仕方ないわ!それでも私の作り上げたプリンセスガーデンは最高のできよ!どんなところでも目立つこと間違いなしだわ!当然性能もよ!防御・耐久方面のリソースを最低限にした代わりに魔法方面の特殊効果をこれでもかとつけてやったわ!なにげに一番材料をつぎ込んだから当然ね!魔法系ステータス増加はもちろん自然回復速度も上がるし物理魔法状態異常耐性も付いてるわ!おまけにセット効果まで付いたのよ!?私も初めて見たわよ!多分なにかしらの条件がいるのね!お姫様含めたパーティ全体に効果が及ぶわよ!LPとVITが上がる上に補助魔法とかの効果が上がってその上戦闘中自然回復までつくとかいうぶっ壊れ性能よ!正直この私の素晴らしさじゃないシステムのおかげね!だってなにも選択できなかったもの!釈然としないわ!もちろんそのシステムに到達したこの私はそれだけで素晴らしいけどね!さあ褒めなさい!称えなさい!でも撫ではなしよ!あと泣くのもなしよ!言葉で!表情で!身体で!この私への感謝を余すところなく表現しなさい!」

「えい」


 とりあえず抱きついてみた。


「そういう意味じゃないわよ!?」


 ずばっと引き剥がされた。

 無情だ。


 しかたがないので、抱き着いてくるスズをあやして、アンズを撫でて、きらりんを弄びながら、とりあえず心を尽くして言葉を尽くしてπちゃんを褒めたたえておいた。なんだかみんなの褒め言葉がπちゃんというよりむしろ私中心に集中していた気がして落ち着かなかったけど、まあうん、πちゃんが高笑いするくらい嬉しかったみたいでよかった。


 さておき。


 ひとしきり褒めたたえて、さあそろそろお開きにして始まりの街に戻ろう、というところで。


「これでひとまず今回は終わりね!どう!?これはもはや完全に勝利で間違いないわ!」


 勝利?


「ん。負けを認める」


 いったいなんのことやらと首を傾げていると、アンズがそれを肯定する……ああ、そうか、そういえばそんなやり取りもあったっけ。πちゃんが勝ったら私たちは今後πちゃんに素材を貢ぐみたいな。そもそももう専属っていうイメージがあったから全然意識してなかった。


「やっぱり私が負けるなんてありえなかったわね!今後は私のために最高の素材を集めることよ!分かった!?」


 当然拒む理由なんてない訳で。


 そんなこんなで正式にπちゃんの専属化が決まって、そういえばまだやっていなかったフレンド登録をしたところで、私たちは始まりの街に戻ることにした。その帰り際に餞別と言って、πちゃんは私以外の服をささっと白染めしてくれた。亀染料ではないほんとにただ白いだけの染料らしいけど、まあおかげで統一感がでたんじゃないだろうか。全員が全身白の集団というのは、なかなかこう、すごい絵面だけど。


 それから、道中私とスズは、きらりんとアンズから件の『クラン』というシステムのことについて聞いた。 

 思えばスズが私を抱っこしてきらりんがアンズをおんぶするという最速での移動を目指した状態だと、またしても無能組と有能組が分かれている形になるんだけど、まあ、深く考えるのはよそう。

 そんなことより、クラン。


 それは、まあパーティを大きくしたみたいなシステムだ。

 最低六人から結成することができて、結成するとパーティチャットとは別のクランチャットや、それぞれのとは別口で共有のインベントリが使えるようになったりする。あとクランメンバーでパーティを組むと経験値の所得がちょっと増えたりとか、色々細かな特典がある。

 けどまあ一番大きなシステムとしては、クランホームというものが設定できるようになることだろう。

 クランホームとは、その名前の通りにクランの家だ。リスポーン地点にできるような安全地帯の内部で、なんでもいいから一定以上の広さをもっていて、そしてクランメンバーのいずれかに所有権がある場合に限って、所有者の認証の下そこをホームとして設定することができる。ホームを設定することによって、二つ目のリスポーン地点として設定できたり、特定のアビリティやアイテムを使うことで無制限ではないにせよ転移してくることができたり、ホーム内での生産行為になんらかのプラスが付くようになったりするらしい。

 すごく便利。

 なんならホームのためにクランを結成するくらいの勢いで便利。

 けどきらりんもアンズもどうやら、増えるのは仕方ないけど進んで増やしたくはないというスタンスだったらしくて、あえて目を逸らしていたとか。それが今回ソフィ達が加わるということで、まあ仕方ないから恩恵を享受しよう、という話に纏まった。いや、仕方ないからっていうのは基本私以外の認識だけども。


 とはいえ、そう簡単にホームといっても、もちろんそのためにはなんらかの……まあ基本は普通に物件が必要となる訳で。

 そのためにはもちろん、金策をする必要がある訳で。


 モンスターを狩るだけじゃ辛そうだ、でもじゃあどうしよう、と話している間に、私たちは街に到着するのだった。


 まあそれは後で考えるということにして、ソフィやナツキさんと待ち合わせている広場に向かう私達なんだけど、なんというか、凄い視線を集めている。朝だからというのもあるんだろうけど、まあみんな真っ白の集団とか、そりゃあ目立つよなあと。アンズはもう降りてるけど、私なんて普通にお姫様抱っこだし。というか、そうだ、私今お姫様的服装をしている訳で、うわ、これ、意識したらすごい恥ずかしい……。


「むっふっふ、みんな見てるね!」

「恥ずかしい……」

「ゅ、ユアさん、どーどーと、っすよ!うっす!」

「ん。あれは全部芋」


 石が動く前例があるからなあ……。


 なんて羞恥心と戦闘を繰り広げながら広場にやってくると、やっぱり私たちは目立つようで、直ぐに近寄ってくる二人のプレイヤー。


 ……なぜか白づくめ。


「こんばんは♪すてきなどれすですわ、おねえさま♡」


 そう言って蕩けるように笑うのは、どう見てもソフィな『ゾフィ』という名前のプレイヤー。まあソフィだ。ゾフィって、確か同じソフィアの愛称だったはずだし。

 その服装は、なんだろう、ミちゃんなんかを彷彿とさせるような、でもあれよりよっぽど質素な法衣だった。補助系と言っていたし、多分そういう魔法使いなんだろうとは思うんだけど、その腰に提げているのは杖じゃなくて本だ。本で戦うんだろうか。気になる。


「皆さん、どうもこんばんは。これからよろしくお願いします」


 括りとしてはプライベートなのか使用人モードよりは砕けた口調で言う『なっち(「・ω・)「』は……え、あ、うん、ナツキ、え、え?いや、え?なっちはまあ分かるけど、その後の、えっと、なにあの、がおー、みたいなの……なんだろう、あれかな、取っ付き難いと言われることが多いらしいナツキさんのことだし、こう、少しでも柔らかい印象を付けるためにとかそういう感じだろうか……なんかそう考えたらそれ以外思いつかないや。


 ……可愛い。


 髪を烏の濡れ羽な漆黒色から軽めの茶髪にしたのも多分そういうことなんだろう。なにげに目の色も茶色だ。


 すごい可愛い。


 身に着けてるのは白系統の服に金属の胸当て。なんとなく、色を優先して鎧を避けた感じがする。腕にバックラーを装備して腰に剣を提げているところを見るに、こっちはイメージ通りに堅実な戦士タイプなんだろう。

 可愛すぎる。


「こんばんは、ゾフィと……なっちでいい?後ろのって発音する?」

「なっちで結構です」

「そっか。じゃあこんばんはなっち」

「こ、んばんはー?」

「こ、こんばんはっす」

「……こんばんは」

「……」


 明らかに戸惑う三人に、表情を変えずに消沈するナツキさんの頭をよしよし撫でる。


「面白くて、可愛い名前だよ」

「……ユアに褒められたのでよしとしましょう」


 照れてる。

 可愛い。


 と思ったら、ナツキさんはソフィを持ち上げて私の前に掲げる。

 ソフィは体勢なんて気にせずにっこり笑って、可愛らしく小首を傾げた。


「わたしはかわいいですの?」

「もちろん、可愛いよ。ゾフィっていうのも可愛いね。現実でもたまに呼んでみよっかな」

「よびなといっしょにかんけいもかえてみたいものですわ♪」

「今度なりきりごっこでもしようか」

「おいしゃさんごっこがいいですわ♡」


 お医者さんごっこ……お医者さんならセーフ……?

 いやうん、アウトアウト。


 なんてやりとりをしていると、ソフィは地面に下ろされた。


 なんて忙しい主従なんだろう。


「さて、じゃあ新メンバーも追加したことだし、あれだね」

「あれー?」

「ああ、いいっすね!」

「ん。恒例の」

「あれ、ですの?」

「なんでしょう」


 あれっていったら、そりゃあもちろん、あれだ。


 ……もちろんあれなんだけど、なんで五分の三首を傾げるのかなあ……。


 ■


 《登場人物》

(ひいらぎ)(あや)

・πちゃんとの甘々新婚生活から老衰で一緒に死ぬところまで思い描いてみた二十三歳。この度ついに姫的な彼女は姫的な彼女になりましたとさ。ほぼ完成系な装備だよこれ。どうすんだよ次……それもこれもそこそこ高レベルな亀を討伐しやがったお前らが悪いんじゃ。赤髪に白いドレスってなんか想像すれば想像するほど好きな組み合わせなんだけど何故だろう。でも見た目クール系だからちょっと微妙。


柳瀬(やなせ)(すず)

・今回全然出番なかった三分の一な二十三歳。メインがあやの装備お披露目でサブが二人の加入なんだから仕方ない。お姫様なあやを抱くのが嬉しすぎて嬉しすぎてもう終始にっやにやしてるし人に見られたら誇らしくてたまらない。早く鎧着てあやを守りたいなあとか思ってる。


島田(しまだ)輝里(きらり)

・今回全然出番なかった三分の一な二十一歳。あやのドレス姿にしばしぽーっとしてぶっちゃけ街でも微妙にドキマギしてるくらいなんだから仕方ない。お姫様なあやと小高い丘にある素敵な白いお家に住んでずっと傅いて暮らしてご褒美に鞭……とか危ない思考を一瞬しかけた。ピンヒールじゃないことにわずかに満ち足りないこの気持ちは……?


小野寺(おのでら)(あんず)

・今回全然出番なかった三分の一な十九歳。結婚してみようかなとか割と真剣に考えてるくらいなんだから仕方ない。πちゃんに今回大人しく負けを認めたので、今度なにかしらの形で勝利しておこうと密かに思い中。


天宮司(てんぐうじ)天照(てらす)

・ピックアップは英語で意味違うから意味的に合ってるピックアウト使って賢ぶってるけど和製英語とかくらいしかろくに発音できない二十二歳。プリンセスガーデンが想像よりすごい性能になってちょっとビビってるのは内緒。フレンドリストに初めて一人追加されて別れたあとちょっとリスト眺めてによによしてたのも内緒。でも泣かれるのは普通に不気味。クランホームができたら工房を移そうかなとか一人で勝手に考え中。


沢口(さわぐち)ソフィア(そふぃあ)

・今日のみんなで通話した時に白い白いという話を聞いていたので合わせてみた十一歳。そしたらなんかもうすごい素敵な感じ(主観)のあやが来て内心狂喜乱舞。一緒にドレスを着て首を絞めあって貪るように交わりながら死にたいとか考えてる。ナツキの過ちをログイン前の時点で知ってたけど見過ごした。あいにくあやはそれでも気に入ったようだけど。


如月(きさらぎ)那月(なつき)

・(「・ω・)「 ニジュウヨンサイー。(「・ω・)「 フレンドリー。よく取っつきにくいとか言われるのを、本人は気にしていないけど取っ付きにくい人と一緒にはいたくないだろうと気を使っている。でも空回り。そんなところがあやにウケるから満更でもない。

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