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23話:πちゃんって比較的常識人かもしれない

 職人組合二階隅の談話スペース。

 そこで私とアンズは、πちゃんと向き合っていた。椅子的な問題できらりんとスズには立ってもらっているからまるでボディーガードみたいな感じになっていてこっち陣営はどことなく物々しい雰囲気だけど、πちゃんは全然そんなこと気にもしていない様子でどんどん喋っている。


「―――という訳よ!分かった!?」

「うん。だいたい分かったよ」


 かなり端折らせてもらうわ!という宣言からだいたい三十分くらいだろうか、耳に心地よくてあんまり時間覚えてないけど、ともかくそれくらい掛けて語られた話を総括するとつまりは、仲間が欲しい、ということだった。


 ここまでソロプレイでやってきて鍛治仕事に没頭していたけど、あまりにも面白い素材とか面白い依頼がなさすぎて、それならいっそ自分で面白い素材を集めてやる!となったけどさすがにそろそろソロプレイも難しくなってきて、なんやかんやありつつ彼女いわくのクソみたいなパーティを三つぐらい渡り歩いた結果その全てが全然しっくりこなくて、私みたいなお荷物を運んでるお人よしパーティなら便利に使えそうだと思って今こうして交渉をしているらしい。


 πちゃん素直可愛い。


 ぜひ一緒に行こうと、危うく途中で何度も提案しそうになったけど、さすがにあんまりAWができないこのパーティに加入させるのはちょっと気が引ける。それになんとなくアンズを始めとしてみんなとソリが合わなさそうだし、というか凄い排斥オーラを放ってるし、まあ、うん、残念だけどこの話を受けるのはなしになりそうだ……なりそうだ……むむぅ。


「でも、ごめんなさい。私たちAWやるのも不定期だし、そんなに長くできる訳じゃないから、πちゃんの要望には沿えないと思うんだ」

「そんなことはどうでもいいのよ!どうせ私は基本鍛治仕事をするんだもの!気が向いたら探索に付き合ってやってもいいけどね!つまりあなた達はこの私という最高の鍛冶師兼超優秀な魔法剣士様を素材を貢ぐだけで雇えるということよ!なんてお得なの!買ったわ!」


 下手な通販番組を見てる気分。すごい可愛い。

 それにまあ確かにお得もお得、私一人だったら脇目も振らず即座に購入決定なんだけど、みんながあからさまに嫌そうだし、やっぱりこの話はお断りかな……。


 でもこれ、どうやって断ろう。


 すっかり困ってしまう私を見かねて、アンズが口を開く


「……なぜ私たちにそこまでこだわる」

「はぁ?言ったでしょ、便利そうだからよ。それにあなた達強いじゃない。さっきあの忌々しい雲の道が騒がしかったの、タイミング的にあれあなた達でしょ?私も一回死にかけたことあるけど、あの中で一時間くらい戦い続けるとか普通じゃないわ!そんなクソみたいな初期装備なのに!てかほんと忌々しいわねそれ!そこの女も店売りじゃない!さっさと私に依頼を寄越しなさいよ!」

「ね、ねえ、死にかけたって、大丈夫なの?」

「当たり前でしょ!?この私が死ぬ訳ないじゃない!ほうほうの体で逃げ出したわよ!」

「そうなんだ」


 這う這うの体とか自分で言っちゃうの可愛いとか思いつつ、それはよかったと胸を撫で下ろすと、すごい怪訝な表情を向けられる。


「あなた頭おかしいんじゃないの?そこは普通、気づいてたのになんで助けなかったのかとか自分の無能を棚に上げてくっそ理不尽に怒るとこじゃないの?」

「え?だって一時間も心配してくれてたんじゃないの?」

「はあ!?いつ誰がそんなこと言ったのよ!ちょうど向こうに用があって分かれ道の向こうに行って、帰ってきた時まだやってたから知ってるだけよ!」

「そうなんだ……」

「な、なによあんた!気持ち悪いわね!」


 いやうん、そっかあ、心配して一時間も見ててくれた訳じゃないんだ……。


「……リー―――アさん―――骨にポン―――っすよ?」

「……多分―――ぼれ―――もう」

「はぁ!?」

「なにようっさいわね!」

「どうしたのきらりん?」

「なな、なんでもないっす!」


 なにかスズとコソコソ話していたと思ったら急に叫び出したきらりんに首を傾げると、わたわた誤魔化すみたいに手を振ってスズと向こうを向いてしまった。


「ちょ―――っす?そん―――だっ―――?」

「―――けど―――きオーラで―――し」


 うーむ。

 気になる。

 話すにつれてスズの機嫌が悪くなってるし気になるけど、聞こえない。

 聞こえないけどなんとなく、あれは嫉妬っぽい。


 やっぱり、πちゃんの参加は難しいかな。


 しょんぼりする私を尻目に……はしないで元気づけるように撫でながら、アンズは脱線し切った話を元に戻す。


「あなたが私たちを強いと言う理由は、まあ分かった。けどそれだけだと根拠が薄い。別に強いだけならいくらでもいるはず」

「いいえいないわ!……これは嘘ね。いないことはないけど、実際あなた達くらい弱いのに強いプレイヤーは稀だわ!」

「弱いのに強いって、どういうこと?」

「決まってるじゃない!ステータス低いのに強いって意味よ!」

「ああ、確かにリコッ」

「何故それが分かる」


 肯定しようとした言葉は、当のアンズの威圧的な言葉に遮られる。

 それを直接向けられたπちゃんは、けどなにを言っているのかと不思議そうに首を傾げて、それからなにかに気がついたようでぽんと手を打った。


「そういえば言ってなかったわね!私は『観察』のスキルを持っているのよ!」

「観察?」

「そのおかげで見ただけでなんとなく分かるというわけ!そこの女はズバ抜けてるけど完全に物理ビルドだし、他は全員ゴミね!普通に考えて雲に囲まれたら即MP切れでお陀仏だわ!」


 なるほどまあ、確かにそれはその通りだった。

 特にアンズがアンズじゃなかったら、今頃街に逆戻りだった可能性もある。


 にしても観察、つまり私の目のスキル版ということなんだろうか。私のはフィーチャーだったはずだし。主にスズの説明で特に意味のない区分だと思ってたけど、そんな違いみたいなものもあるんだ。


 ふむふむ納得する私に、πちゃんは続ける。


「だからこそ、その上たった四人であの雲とまともに戦えるあなた達に目をつけたって訳よ!ステータスなんてものは幾らでも誰でも同じように上がるわ!だけどプレイヤースキルには歴とした差が存在するのよ!そういう意味であなた達みたいなのを私は求めていたの!だって私はもっと先の素材が欲しいんだもの!ステータス頼りの雑魚じゃ絶対に届かないような至高の素材が欲しいのよ!」

「……なるほど」


 πちゃんの熱弁にアンズは深く頷いて、納得を示した。

 その様子にπちゃんはすぐに表情を輝かせて。


「じゃあ」

「でも、断る」

「はぁ!?」


 即座に裏切られた。

 うーむ、まあ、私としてはπちゃんのことをもっと知りたいんだけど、確かにこれじゃあアンズは無理だろうなあ。


 なにせ。


「あなたが私たちでなくてはいけない理由は納得した。けど、私達にとってあなたでなくてはいけない理由はない」

「この私を雇えるのよ!それ以上のことがあるっていうの!?」

「そもそも私達はあなたの実力なんて知らない」

「そんなもの見れば分かるわ!」


 そう言ってπちゃんは、腰に吊っていた鞘からしゃらんと剣を抜き出す。


 凛、と真っ直ぐに輝く、白刃。


 細身でありながらも、どこか威風堂々たる迫力を感じさせるその切っ先が、アンズへと向く。


 確かにそれは見ただけでなんとなく凄そうだと分かる代物で。


 そして視線は、感心する私へと。


「あなた、視れるんじゃない?なんとなくそんな気がするわ。勘だけど」

「……ユアさん」

「え、あ、うん。分かった」


 しばらく見惚れて、そんな私に気づいて悠然と微笑むπちゃんにまた見惚れたところをアンズの言葉で引き戻されて、観察の目を発動させる。


夜闇裂く陽光の聖剣サン・オブ・ジャスティス』(ヘπトス)

 ・基礎値

  重量:5

  耐久:100%

  ATK:61

 ・特殊効果

 特殊効果を少なくとも『3つ』有している

 ・追記

 〜それは遥かなる天より来る栄光。遍く暗闇を裂き世界に陽光に満たす使命に選ばれた光の勇者の携えし聖剣〜


 これはまた、なんというか。


「……すごい」

「ふっ、あなたにはどこまで見えるのかしら?」

「えっと、重量と耐久とATKまでですね。特殊効果は、最低三つみたいなところまでは……あと、なんか、解説文みたいなものも」

「……思ったより分かっちゃうのね。……まあいいわ!」


 どこか不満げに言ったと思ったら、すぐさま気を取り直して自信満々に笑う。


「あなた中々いい目を持っているわね!でもやっぱりこの私が作っただけあってそう簡単に全てを見通すことなどできはしないのよ!」

「うん。すごいよ」

「そうよ私は凄いのよ!気分がいいわ!特別にこの私のサンッ!オブッ!ジャスティスッッッ!の全てを見せてあげる!腰を抜かすんじゃないわよ!」


 ずばあん!と決めポーズらしきなにかをしながら、そしてπちゃんは私たちの方にウィンドウを差し出してくるから、みんなで覗き込んでみる。


夜闇裂く陽光の聖剣サン・オブ・ジャスティス』(ヘπトス)

 ・基礎値

  重量:5

  耐久:100%

  ATK:61

 ・特殊効果

  魔力充填(0/127)

  聖光属性(微)

  切れ味増強(微)

  耐久増強(微)

 ・追記

 〜それは遥かなる天より来る栄光の刃。遍く暗闇を裂き世界に陽光に満たす使命に選ばれた光の勇者の携えし聖剣〜


「うん、やっぱり凄いね」

「おおおおー!かっくいー!」

「聖剣なのに聖光(微)っすか……あ、これ誤字あるっすよ?」

「……名前負けも甚だしい」


 あれおかしい、まったく噛み合わない。

 スズには好評みたいなんだけど。


 もちろんそんな反応にπちゃんは納得がいかないらしく、ちゃんと一旦剣を収めて、それからばーん!とテーブルを叩く。


「なによあんた達!この素晴らしさが分からないっていうの!?」

「価値を決めるのはあなたではなく、あなたの武器を使う私たち」

「それならあなた達の目が節穴なのね!」

「あなたが盲目なだけ」

「なんですってぇ!」


 アンズの物言いにがるるると牙を剥き出して、それからπちゃんはキッと私を睨みつけてくる。


「ちょっとあなた!」

「あ、はい」

「あなたも言ってやりなさいよ!あなた私が欲しいんでしょう!?」

「う、うん。欲しい」

「ならほら!早くそこの分からず屋を叩きのめすのよ!」

「いやいや」


 叩きのめすだなんて、そんな物騒な。

 πちゃんは欲しいけど、さすがにアンズたちの意志を無視するのはなあ。


 うーむと視線を向けると、アンズは私をじっと見ていた。


 じっと。


「……ユアさんは、どうしてこんなのを凄いと思う?」

「こんなのってなによ!」

「え?だって、πちゃんがそう言ってるから」

「パイちゃんってなによ!」

「……そう」


 頷いて、アンズはそっと目を閉じた。


 と。


「もしかしてあなた達喧嘩売ってる!?」

「え、あ、ごめん。どうしたの?」

「どうしたのじゃないわよ!πちゃんってなんなのかって聞いてるの!」

「あー、えっと……」


 πちゃんの剣呑な視線にたじろぐ。


 しまった、全然気が付かなかった。

 こう、なんかノリでつい口をついて出てしまった。


 うーむ。


「か、可愛いかな?って」

「可愛いですって!」

「う、うん」

「ならいいわ!」

「いいんだ」


 うわあ、すごい好き……もう、なんかもう、好き……なんでゲームで出会っちゃったんだろう……ゲームでも出会えてよかった……。


 なんて悶々と思っていると、後ろからむぎゅりと抱き締められる。

 更に、後頭部に鼻先が埋められるみたいな生温い感覚。


「むぅー!むぅううう!」


 ぐりぐり。

 すんすん。

 はみはみ。


 いやはみはみって、流石に髪を食べるのはどうなんだろう。

 まあすぐ乾くしいいんだけど。


 まったくスズは。


「スズ」

「もふふもふふも!」 

「そうだなあ……じゃあ今日は、一緒に寝よっか」

「ふももふ!?」

「いいよ。ソフィとの約束も、そんなに朝早くじゃないし」

「ふもぉ……」


 うーむ。

 多分意思疎通はできたということなんだろう、凄い安らかな気配を感じる。チョロいなあとか思いつつ、でもそこが可愛いのは間違いない。


 それはさておき。


 スズを私の横に来るように移動させて、椅子を引いて、それからきらりんに視線を向ける。


「な、なんすか!?」


 そんなビクビクしなくてもいいのに。

 別にとって食べる訳じゃないんだから。


「きらりんも、おいで」

「な、なんでっす?」

「きらりんが欲しいから」

「ひぇう……う、りょーかいっす」


 顔を真っ赤にして、きらりんはそろそろと私に抱き着いてくる。

 やっぱりまだまだ私からグイグイいくと恥ずかしいらしい。会社で普通に胸とか揉んできてたはずなんだけど、やっぱり真剣味が違うからだろうか。


「きらりん、好きだよ」

「ぅ、わ、わたしもっす……」

「ねーねー私はー?」

「もちろん。好きだよ、スズ」

「うへへー」


 さてこうなったらアンズも一緒にと思って目を向けると、なにやらπちゃんと熱い交渉を繰り広げていた……いや主に熱いのはπちゃんだけだけども。

 というか、そうだった。

 危うくうっかり忘れてしまうところだった。

 いけないいけ「上等だわ!」


 ばんがらばぎゃーん!


「うわっ」


 唐突に聞こえた凄絶な音になにが起きたのかと意識を向けると、なんというか、どうやらπちゃんが椅子をはじき飛ばす勢いで机に手を突いて立ち上がったらしい、向こうに椅子が転がって、よく見ればπちゃんの手元にはヒビすら入っている。……石なのに。


 そしてそんな勢いのままに、πちゃんは吠える。


「そんなに言うなら勝負よ!私の力を見せてやろうじゃない!」


 ……うわあ、すっごいデジャブ。

 なんだろう、みんな考え方が戦国めいてないだろうか、いや戦国ってそうなのか知らないけど、勝つやつが正義みたいな風潮蔓延してるのはどうなんだろう。


「あなたも分かったわね!ってな、な、なにしてるのよこんなところで!ハレンチよ!」

「え?」


 私たちの方を見るなり顔を真っ赤にして吠えたπちゃんに、なにを言っているのかとスズときらりんを見るけど、特におかしなことをしている様子はない。もちろん私もおかしなことはしていないから、本格的に訳が分からなくて首を傾げる。


 とそこでアンズが寂しそうな表情をしているのに気がついたから、今度はきらりんを後ろに回してアンズ側を開ける。


「リコット、おいで」

「ん」


 すすと寄ってきて、きゅむと抱き着いてくる。

 見上げる頭をなでなで耳をふにふにして可愛がるとくすぐったそうに身を捩らせて、もっもっととぐいぐい。

 負けじとスズもぐいぐい。

 ついでにきらりんも控えめにぐいぐい。


 可愛いけど、なんか凄い疲れるけど、可愛い。


 っと、いけないいけない、また忘れるところだった。


「それで、なんだっけ?」

「……それ、あなた達のスタンダードなワケ?」

「え?うん」

「……みんな恋人」

「こいっ!?」

「わ、私は親友っすよ!」

「な、なによそれ……」


 これは、だって、あり?いやでも……なんて不明瞭なことをブツブツ呟いて俯くπちゃんは、しばらくして顔を上げる。


「まあいいわ!とりあえず約束よそこの魔法使い!私が勝ったらあなた達は私に素材を貢ぐのよ!いいわね!?」

「ん。二言はない」


 ばちばちと火花を散らす二人……って、いや、なにがなんだか。


「待ってくださいっすリコットさん、勝負って、一体なにするつもりなんっすか?」

「簡単なこと」


 そう言ってアンズが説明した内容は、至ってシンプル。

 私たちが渡す亀素材で装備を作って、その出来が満足のいくものだったらπちゃんの勝ちというものだ。


 その説明に、リーンは多分雰囲気だけでメラメラしてて、きらりんはなるほどなるほどとしきりに頷いていた。

 私としては、それはあまりにも私たちに、というかアンズに有利すぎると思うんだけど、πちゃんは全然気にしてない、どころか既に勝ちを確信しているくらいの気配はある。そんなのこっちのさじ加減でしかないと思うんだけど、それを覆すのは当然という自信に満ちているんだろう。まあ多分πちゃんならそれくらいできると思うけど―――


 とそこで、気がつく。


 そもそも、πちゃんを負かす気が果たしてアンズにあるのだろうか。

 考えてみれば、あの亀素材はかなりの苦労の果てに入手したもので、少なくとも進んでもう一度やろうとは……まあ、理由がない限りは思わない。時間も限られてるし。


 にも関わらず、それをπちゃんとの勝負のために犠牲にしようと、アンズが思うだろうか。


 どう考えても、それは否だ。


 ということは。


 もしかしてアンズはとっくにπちゃんの技能に関しては認めていて、この機会にノーコストで装備を整えようとしているんじゃないだろうか。


 だって別に、負けたところでそれは結局πちゃんを贔屓の職人にするだけの約束であって、私たちにデメリットがないし。


 思い当たった結論を確かめるようにアンズを見ると、アンズはそっと口角を上げた。


 ……うわあ、あくどい。

 どうなんだろう、それはなんというか、半ば詐欺めいている気がするんだけど。


 いやでもまあ、早速スズからインベントリ越しにアイテムを受け取ったπちゃんはすっごい嬉しそうにしているし、考え方によってはπちゃんもレアな素材の加工する機会……つまりはπちゃん本人が求めるものを得られているということにもなる訳だから、搾取的なことではないとも捉えられなくはないけど……それになんというか、これまでのπちゃんの感じからして、薄々は勘づいているという可能性もあるし。その上で、一種通過儀礼的な意味で、それとも機会を逃さないために、黙っている。思えば、最初の仲間になりたいみたいな内容と違って、素材を貢ぐということだけを報酬にしているのは、だからこそという風にも考えられるかもしれない。


 ……あー、つまり、なんだろう、みんな素直じゃないなあ、という感じだ。


 やれやれと思いつつみんなを撫でていると、アイテムの検分が一通り終わったらしい、πちゃんが「さて」と私たちに目を向ける。


「それじゃああなた達。早速決闘するわよ」


 ……え、あれ、なんでだろう、凄いデジャブが。


 ■


 《登場人物》

(ひいらぎ)(あや)

・突発的に好きに遭遇してぽんこつになっちゃう二十三歳。欲しいじゃねえよ。でも基本的に頭は悪くないからやり取りに秘されていた裏事情をほぼ真実に近いところまで理解できたりする。あと人を見る目は中々ある方で、有能かどうかは割と確信的に見極めることができる。ただし相手が人をおもちゃとしか思っていないくらいのクズだった場合でも全然普通に好きになったことがあって色々と大変なことになったりするので、危機回避的な意味では微塵も役に立たない。恋は盲目、クズだろうが好きになってしまうなら仕方がない。


柳瀬(やなせ)(すず)

・あやの好き好きオーラが気に食わなかったけど今日一緒に寝てくれると言われてどきどきが止まらない二十三歳。あやにふわふわされるだけでなんかもう堪らなくなって早く終わらないかなとソワソワ中。メラメラもそれのおかげで変なテンションになっているからというのが要因の一つ。もう一つは勝負ごとの時はそれだけでテンションが上がる気質のせい。


島田(しまだ)輝里(きらり)

・今回あんまり目立てなかった二十一歳。冗談めかしてならいいけどあやは全部が全部本気だから気を抜くとすぐ持ってかれる。やばいやばいと思いつつ、なんとか親友ポジを主張することで精神を保護している。ゲームじゃなかったら死んでたぜ。職場で100%好き好きモードのあやに可愛がられるとかきらりんに耐えられる訳ないじゃないですかそんなの。今のうちに慣れとけよ。


小野寺(おのでら)(あんず)

・なかなかえげつないことを考えやがる十九歳。そもそも初めからなんか嫌い以外に拒む理由はなく、それどころか将来性的に便利だとすら思っていた。ただやっぱり嫌いだからパーティには入って欲しくないと考えた結果今回のような落とし所を用意してみたが、なんやかんやあって無料で装備を揃える伝手ができて満足。最優先はあやの望み、次点で自分、次いでパーティの安定くらいには考えているので、優秀な職人を専属に持ち込めたのはでかい。


天宮司(てんぐうじ)天照(てらす)

・花園亀とかいう触れたことのない素材を好き勝手できるということで超ハッピーな二十二歳。AWにおける思考の中心が職人に寄りつつあるので、なにはなくとも面白い素材があれば満足しちゃう。だからこそアンズの提案になんだかんだ乗ってしまう。本格的にやっぱりパーティメンバーはやめとこうと思ったのはあやのハーレム的光景を目の当たりにしたから。あんな中に入り込もうとか思えないよなあと。それでも趣味は優先される辺り流石というべきか。そう、趣味はなによりも優先される……だから仕方ない……仕方ないんだ……だからどうか仕送り辞めんといて……。


モンスターよりプレイヤーの方が戦ってんな

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