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15話:おはなばたけ(頭も)

 一体どんな会話をしているのかはちょっとよく分からなかったけど、なんだか話を終えたキラリちゃんは目を爛々と輝かせていて、アンズが困ったような表情をしていたのが印象的だった。


「あやさん!大好きっす!」


 なにごとかと訊ねるよりも前に、キラリちゃんはぐっと拳を握ってそんな宣言をしてきた。


「あ、えと、ありがと」

「でもまだ付き合うとかよく分からないんで親友ポジで宜しくするっす!」

「う、うん」


 えっと、なんだろう、なんだかよく分からないんだけど、私は今、告白をされたっていうことなんだろうか。


 戸惑っていると、キラリちゃんががばーと抱き着いてくる。


「なんかもーあれっす!とりあえずAW楽しむっす!」

「そう、だね。うん、いいと思う」


 誰か説明して欲しいんだけど、つまりこれはなんなんだろう。

 よく分からないけど、よく分からないなりに、嬉しい。

 キラリちゃんが、好きって言ってくれた。

 つまりキラリちゃんは私が好き、ということで、いいんだよね、多分。


 わ、どうしよう。


 私今、すごい幸せだ。


「き、キラリちゃん、えっと、キラリって呼んでいい?」

「で、できればその、り、リアルでもきらりんって呼んでほしいっす」

「分かった。えへへ、きらりん、好き」

「わ、わたしも好きっす!大好きっす!」


 やっぱり好きって言ってくれた。

 どうしよう、嬉しすぎて頬がふにゃふにゃしちゃうんだけど。


 とりあえず撫でてみよう。


「好きだよー」

「ぅ、あ」


 うわあ、髪さらっさら。ずっと撫でてたい。


 なんて思っていると、無情にもきらりんから引き剥がされる。


「調子に乗らない」

「ユア、わたしもわたしもー」


 ……ああ、そうだ、そういえば今ゲームしてるんだった。


 危ない危ない。きらりんに好きって言われて、ついつい舞い上がっちゃった。

 落ち着こう……よし。


「さて、じゃあなんかよく分からないけど、リコットときらりんのお話は終わったのかな?」

「……不本意だけど」

「バッチリっす!」

「にへへ」


 とりあえずスズの頭を撫でながら訊ねれば、対照的な反応が返ってくる。

 なんだろう、アンズはあんまりきらりんのこと好きじゃないのかな。


「アンズ、なにか嫌なことがあるなら、言ってほしいよ」

「……私も撫でてほしい」

「もちろん。おいで」

「ん」


 とてとてやってきたアンズの頭を撫でれば、擽ったそうに頬を緩めてくれる。

 もちろん仲間外れなんて嫌だから、きらりんも呼んでみんなの頭を撫でた。


 しばらくなでなで。


 そして英気を養って、さあ行こうというところで襲撃してきたモンスターを返り討ちにして、今度こそ出発。


 結局考えた結果、運び係は主にスズが担当することになった。まあ消去法だ。

 ただ、前抱きじゃなくてお姫様抱っこだけど。

 守られてるとはいえ私に前衛のポジションにいてほしくないからと、あとはあんまり抱き着くのは狡いからという理由らしい。みんなの表情からして多分後者が一番大きいんだろう。まあ運ばれてる側は文句を言わないけど。


 運ばれつつ、やっぱり気になったから訊いてみる。


「ところで、結局アンズときらりんはどんな話をしたの?」

「えっと」


 私の質問にアンズときらりんはちらっと視線を合わせて、それからきらりんが答えてくれる。


「あれっす。その、ユアさんが色んな人と恋人って話っす。プライベートな話を勝手に聞いちゃってごめんなさいっす」

「あ、言ってなかったっけ?別にいいけど、え?それだけなの?」

「それだけっす」

「そっか」


 その話からああいう展開になる意味がよく分からなかったけど、まあきらりんが言うならそれでいいや。


 そんなことより、AW。


 なんだかんだやりつつそこそこ歩いてると思うんだけど、なかなか面白いものがあったりしない。モンスターの様子もずっと同じだし、ほんとに進んでいるんだろうか。というか進むって、どこに進んでいるんだろう。


「北のフィールドだし、北に行けば進んでる、んだよね?」

「多分」

「変わり映えしないっすねー」

「んー、わたしもここら辺でずっと迷子だったからなー」


 そんなことを話しながら歩いていると。

 私たちは、同時にそれに気がついた。


「あれ、なんか光ってる?」

「ん。平地みたい」

「なんっすあれ?」

「とりあえずレッツゴー!」


 森の向こうの、光。

 淡く、気のせいかもしれないと思えるくらいのそれは、けれどどうやら気のせいじゃないらしい。


 好奇心の赴くままずだだー!と駆け出すスズに、遅れてきらりんとアンズが続く。


 木々の合間を抜けて、途中突出しすぎたところにモンスターがきてちょっとヒヤヒヤして、そこからは足並み揃えて突き進んで、光が近づいて、そして一気に視界が晴れて―――


「わあ」

「うおー!すごーい!」

「きれいっす!」

「ん。綺麗」


 それは、色とりどりの光に包まれた、幻想的な花園だった。


 花園。


 そう、その光は、咲き誇る花弁に灯る光だった。

 色も明るさも光り方も、そのどれもが全く違う花々が、視界を埋め尽くすくらいいっぱいに、遥か向こうまで咲き誇っている。


 そのとき少し強い風に巻き上げられた花弁が、夜空に虹を散らすみたいに踊った。


 そのあまりにも美しい光景に目を奪われていると、空のお裾分けみたいに舞い降りた、赤色の花弁が頬に触れる。

 手に取って、私はなんの気なしに『観察の目』を使ってみた。

 解説は、アイテムだから、待つことなく直ぐに現れる。


紅月(べにづき)の花弁』

・朝日に恥じらい月下に灯る紅色の花、その花弁。蕾が膨らむように丸く咲くその姿が、さながら紅く照る月のようだとその名がついた。淡く光る花弁は、淡い魔力を内包している。


 おお、なんだか綺麗な名前だ。

 この一輪一輪にそれぞれ名前があると、考えただけで感動してしまう。


「これ、紅月っていうらしいよ」

「いい名前」

「ぜ、全部名前あるんすかね……?」

「じゃあじゃあこれは!?」


 そう言って、スズは屈んで足元の花を指す。


 彼岸花みたいに、細い花弁を囲うように細いのが伸びる、青い花だ。これは雄しべなのか雌しべなのか、それとも全く違うものなのか、どうなんだろう。

 気になるけど、それはさておき花を見れば、また違った解説文が出てきた。


「えっと……え、『ブルーファイア』っていうらしいけど……」


 どうなんだろう、ブルーファイア。

 そのまま炎みたいだかららしいけど、さっきの紅月と比べるとなんか、凄い違和感がある。


 でも、どうやらスズには好評らしくて、目を輝かせる。


「なんだそれかっこいー!」

「かっこいいっすけど、紅月からのブルーファイアっすか……」

「多分、違う人が名前をつけた設定」

「あー」

「おお、なるほどっす」


 アンズの予想に、きらりんと揃って納得の声を上げる。

 なるほど、細かい。そこまでやる意味があるのかという話だけど、多分きっとそれがロマンというやつなんだろう。


「じゃーこれー!」

「はいはい、えっと……」


 それからしばらく、花の名前とか由来を、スズが満足するまで調べてあげる時間を過ごした。

 黄色や青のパンジーみたいな『月舞蝶』、光るたんぽぽの綿毛な『ふわふわ草』、一枚の花弁が螺旋を描く白い花『シーレンアンデ』、棘みたいに丸まった紫色の花弁がドームを作るようにいっぱい咲く『シャープルドーム』……などなど、バリエーション豊かすぎて中にはひどい名前のやつもある。シーレンアンデなんかは人の名前から取ったらしくて、なんか綺麗な音で素敵だなあ、どんな人だったのかなあ、とか妄想も膨らむんだけど、ふわふわ草って……いや、まあ分かりやすいし一般的に広まって定着したっていうのも納得だけど、シャープルドームって洒落じゃん……シャープなパープルのドームって、まんまだよ……お酒の席で決めたのこれ?


 さておき。


 そんなこんなで、ひとまず満足した辺りで、改めてこの場所について考えてみることにした。まず焦点は、そこそこ時間を使ったはずなのにモンスターが襲ってこなかったというところ。


「安全地帯なのかなこれ」

「……人がいないのが気になる」

「人?」

「確かにいないっす」


 言われて見渡してみるけど、まあ、確かに人はいない。


「そもそも森が夜に向かないから絶対数が少ないにしても、この平地でここまで人が見当たらないのは異常」

「んー、ぐーぜんじゃない?」

「可能性はある、けど、偶然じゃない可能性もある」

「偶然じゃない……」

「まあ、実りなさそうっすし」


 きらりんの言葉に、アンズはそっと目を細める。


「あるいは、割に合わない」

「割に?」

「合わない、っすか」

「どゆこと?」


 揃って首を傾げる私たちに、そしてアンズは続ける。


「ここには多分、なにかがいる」

「なにか、って、なに?」

「それともある、か。分からないけど、それくらいはないとおかしいと思う」

「あー、まあ、分からなくはないっす」

「というと?」


 なにか得心がいったらしいきらりんに視線を向けてみる。


「いや、こんな森の中に、ただ広いだけの花園とかある訳ないって話っす」

「……ああ、確かに、綺麗だけど、それだけっていうのは不思議かも」

「それだけでもない、けど、そういうこと」


 なるほどそれは、納得のいく話だった。

 けど、だとすると一体どうなるんだろう。


 そんなことを考え出したところで、スズが痺れを切らした。


「もーいーからとりあえず突撃しよーよ!」

「あ、ちょっと、」

「きらりん、運ぶ」

「りょ、りょーかいっす!」


 うおおー!と性懲りもなく駆け出したスズに、振り向けばきらりんがアンズを小脇に抱えて追従していた。


 流石にあれは見てられない。


「スズ、分かったから、せめて一緒に」

「分かったー!」


 急ブレーキ。

 地面を滑るその跡に、舞い上がる花弁が綺麗だった。


 後ろの二人はモロに浴びて大変そうだったけど。


 ともかく、さっきみたいなことにはならなくてよかったと一安心。


「ちょっと乱暴だったっす。ごめんなさいっす」

「ん。不快じゃなかった」

「よっしゃいこー!」

「……学習してほしい」

「だって暇なんだもん!」

「なら話そうよ……」


 ……まあ、そんなこんなで今度こそちゃんと足並み揃えて、どんどん進んでいく。

 そして、案外近いところに、それはあった。


 小高い山。


 山というか、むしろ小規模な丘という感じだろうか、遠くからだと花に紛れるくらいの、けど確かな盛り上がり。

 それがなんだか、群れを成すみたいにいくつもある。


 うーん。なんだろうこれ。


「おー!なんだこれー!」


 当然のように、スズが独走。

 今回は目的地が目に見えてるからやれやれと、呆れた様子でアンズもきらりんも特に焦ることなく。


 そんな油断を嘲笑うように。


「おおー!びみょー、お、おおおお!?」

「え」


 スズが頂上にたどり着いて飛び跳ねていると。


 それは突然に、立ち上がった(・・・・・・)


「っ!『観察の目』!」


 見下ろす、見つめる、そして見えたそれは、


『フローラルトー―――


「これモンスター!」

「なんとー!?」

「ユアさんっ!」

「逃げるっす!」


 アンズときらりんの悲痛な叫び。

 もちろん言われるまでもなく。


「うおおおー!?」


 次の瞬間スズが、悲鳴じみた絶叫と共にその背中(・・)から飛び降りる。着地の衝撃に顔を顰めるスズと一緒に距離をとって、みんなで揃って簡単の声を上げる。


「な、なんだあれー!?」

「亀……?」

「で、デカいっすよあれ!?」


 花園を背負う、甲羅。

 土に塗れて皺だらけの皮膚は、けどそれが気にならないほどに美しい、月光を弾く真白色。

 胴体を支える足は六本、首は異様に長く、あるのかないのか分からないほどに細い目が、私たちを睥睨する。


 それは、亀だった。


 小山がそのまま立ち上がったみたいな亀、その威容に三者三様に反応する中で。


「な、あ」


 遠ざかるその背中を見つめ続けて、着地してからも見続けていた私は、そして私の見うるその全てが開示された瞬間に、戦慄する。


『フローラルトータス』

【解析不能】


「な、名前しか分からない」

「おおぅ……」

「……やばめ」

「マジっすか……」


 私の抱いた戦慄を、即座に他のみんなは共有する。


 例えばスズ。

 スズのLVはこの中では圧倒的で、だからだと思うんだけど、私の目じゃ『LV』と『耐性』までしか見えなかった。

 それに対してあの亀……フローラルトータスは、名前しか分からない。

 それはつまりスズなんて目じゃない程のスペックを有しているということで。


 そしてそれが、多分群れを成しているということで。


「ど、どうしようこれ」


 スターが消えててよかった、なんだかよく分からないけど、亀は私たちを見つめるだけで今のところ敵対的な様子は―――


「ぐぅらぁぁあああぁああ――――――!!!」


 絶叫。

 怒気を含んだそれに理解する。

 ダメだこれ。

 ダメなやつだこれ。


「て、撤退だー!」

「……多分無理」

「ダメじゃないっすかね……」

「うん……」


 と言いつつ逃げてみるけど、鈍重なイメージのある亀とはいえあの巨体、兎なんて一歩で引き潰しそうな勢いで絶叫と共に、うわ、速いっ!?


「よこっ!よこっ!」

「のぉおおお!?」

「きらりんっ」

「分かってるっす!」


 咄嗟に脇に避ける私たちの真横を、壮絶な勢いで過ぎ去る亀。

 引きちぎられた風が飛び散って髪を揺らしていく。


「ちょ、ちょっとこれ、怖い」

「だ、だだ、だいじょぶぃ!」


 肝を冷やしながらも見れば、幸いなことに動き出しているのはこの一体だけらしい、ほかの小山に動く様子はない……んだけど、全然救いに思えないのはなんでだろう。


「た、多分これ逃げられないよね」

「や、やんのかこらー!」

「……やろう」

「腕が鳴るっすね……!」


 走りながら方向転換してこっちに向かってくる亀にビビってる私とスズに対して、アンズときらりんはむしろ戦意をたぎらせている。

 ゲーマー勢が頼りになりすぎる……あれ、きらりんはそうなんだっけ?


 いや、そんなことより。


 方向転換してきた亀をまた避けて、さてどうしようかと作戦会議。


 なんだけど、その中心になったアンズが、私とスズに……というか、私に視線を向けて言う。


「とりあえずユアさんは、上で」


 ……え?


 ■


《登場人物》

(ひいらぎ)(あや)

・きらりんに好意を伝えられてひゃっほーい!な二十三歳。恋人になれなかったにせよ好意を明言された時点でもうあやにとっては大切な人枠なので、今後きらりんに対する好意のタガが消失する。具体的には、好きという言葉を隙あらば口にしだす。いつから好きだったかと言われれば、まあ少なくとも登場時点では。


柳瀬(やなせ)(すず)

・あや運びを正式に任されて内心ひぃやっほぉおおいっ!!!な二十三歳。一回失いかけたものが戻ってくると喜びも一入。物珍しさとファンタジックに心を揺さぶられて好奇心が爆発、花の名前を無駄に知りたがったがもうとっくに覚えてやいないので正しく無駄。


島田(しまだ)輝里(きらり)

・好きな人がなんか色々ぶっ壊れてることを知ってきっと自分が正しい道に戻してあげなきゃと燃え上がることでついに照れを克己した二十一歳。ズレてるというかなんというか、まあ仮に成功したとしても多分別の壊れ方するだけだけど頑張ってくれ。そいつの周りヤンデレ率そこそこやぞ。あと、今まで出てきた中ではマミさんとか正統派に強いぞ。ただ、現状で既にすきすきモードなあやに照れとは別で素直にときめいちゃってる辺りもうダメなんじゃないかと筆者も思っている。なにせスズが失敗したくらいだし。どうなるんだろうほんと。


小野寺(おのでら)(あんず)

・きらりんの心を折ろうとあやのことを一切の脚色を加えず話したらなんかむしろ燃え上がられてドン引きしてる十九歳。現状知っている限りで恋人が六人いるだとか愛人枠すら確保してるだとかほぼほぼ毎日取っかえ引っ変え色々やってるだのを知ってどうしてそれでむしろ燃え上がれるのか本気で意味が分からないと頭を抱えるが、それお前が言えることじゃねえよっていう。その割にゲームではちゃんと頼ったりしてる辺りが、あああやの恋人なんだなあという感じ。


という訳で、亀戦です。

あやときらりんの関係については、まあひとまず置きに入りました。

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