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救出~二人の旅の始まり~

 

「ハァッ!」


 オレはまずダグザの頭めがけて両手で握った剣を振る。

 ダグザもそれを予測していたのか剣でガードする。

 互いに剣の間合いに入った。


 時間をかけたら疲労のあるオレが不利だ。

 勝負をするなら速攻だ!


 オレは息を止め、ダグザを切りつける。

 ダグザもそれに応えるように無呼吸になり、オレの攻撃を受け流そうとする。

 常に別方向から攻撃をしかけるオレに対し、ダグザは自分から攻撃せず待ちの姿勢だった。


 守りが堅くて突破できない。 

 無呼吸も厳しくなってきた。

 一旦下がるしか──ッ!?


 オレは呼吸をしようと一歩下がろうとする。

 しかしダグザはそれを待っていたのか一瞬でオレに詰め寄る。


「こなくそッ!」


 ダグザが剣を振る。

 オレはなんとかそれを防ぐ。

 しかし、追撃の蹴りは避けることができなかった。


「(蹴り!?)がはッ!」


 オレは後ろに飛ばされる。

 なんとか倒れないように踏ん張るが、ダグザは待ってくれず更なる追撃の手を止めない。

 オレは必死に応戦するが次から次へと出てくる体術を混ぜた予想できない手に、オレは反撃出来ず防戦一方になる。

 剣を振ると思ったら体術を、体術を使うと身構えたら剣を。

 そうして少しずつではあるが傷は増えていく。


 このままだと負ける!

 なんとか状況を挽回しないと!


 オレはダグザの剣にありったけの力で剣をぶつける。

 金属がぶつかる鈍い音がして手が痺れる。

 ダグザの動きが一瞬止まった。


「ッ! オラッ!」


 オレはその隙を逃さず、最初に貰った蹴りのお礼として腹に蹴り返してやった。

 ダグザは顔を歪め、少し後退する。

 ここでダグザが戦いが始まって以来初めて喋る。


「どうやら戦ってみたところ、お前は圧倒的に経験が足りてないな。剣筋も素直だし搦め手には対処しきれていない。次の動作も簡単に読める。一方でお前は俺の動きが読めず、常に後手に回っていた」


 オレは返す言葉もない。

 ダグザの言っていることは全て事実であり、ここに来てオレは自分の経験のなさを嘆いた。


「悪かったな経験不足で。こちとらこれが初実戦だよ」

「やはりな。つまり有利な条件があるからこそ俺はここまで常にお前の一歩上の戦いを可能としている。しかし()()()()()だ。どれだけ、裏をかいたと思っても、どれだけお前の一歩上をいってもほとんどが直前で反応され防がれている。むしろ先ほど見せた蹴りのように少しずつ強くなっているのを嫌でも感じる。まるで()()()()()()()()()()()()


 そうなのか......?

 あの蹴りも意趣返しでやっただけなのだが。

 反応できたのは超能力のおかげなのでもしこれがなかったらもっと早くケリがついてた。

 未来視の能力には感謝しかない。


「嫌になってくるぜ。これが天才というやつか? お前、年齢は?」

「? 今年で14だが」


 ダグザは驚いた顔をする。

 そして笑う。


「はっはっはっはっ! なるほど! 顔立ちが幼いと思ったらまだ成人すらしていないのか! これは本物の天才だな!」

「......で、笑っているのはいいがもう続けていいか? オレには時間がないんだ」


 セフィーを助ける目的がある以上長引かせるわけにはいかない。


「いや、悪いな。ここまで才能の違いを見せつけられるといっそ清々しくてな。さて、続けようか。たとえ才能はお前が上でも今は俺が上だ。経験という才能では埋められない差がある以上、お前に勝ち目はないぞ」


 ダグザの言うとおりだ。

 このままでは勝ち目は薄いだろう。

 だからなんだ。

 諦めるなんて選択肢はオレにはない。


「それがどうした? お前こそそんなに余裕かましていて足下を掬われないように注意するんだな! オレの潜在能力舐めんなよ!」

「よく吠えた! ならばかかってこい! お前の全力を完膚なきまでに叩き潰してやる!」


 それは最初の構図と同じだった。

 オレは一気にダグザに近づく。

 ダグザはオレの攻撃を待っている。


 このままだとさっきと同じだ。

 相手の裏をかかないと勝ち目はない!


 咄嗟に秘策を思い付く。

 オレはここで剣をダグザに投げつけた!


「なッ!?」


 ダグザはオレの行動に驚いた声を上げた。

 しかしダグザはすぐに反応してその剣を弾いた。


「がら空きだぜッ!」


 オレはダグザの懐に飛び込む。

 ダグザは剣をすぐに構え、オレを真っ二つにしようとする。

 しかし、その剣筋は咄嗟だったためか正直すぎた。

 オレはそれを最小限の身動きで回避するのと同時に拳を握りしめる。


「昼間痛めつけてくれたお礼だッ! たっぷり受け取りやがれッ!」


 オレはカウンターの要領で思いきり、ダグザの顔面を殴り飛ばす。

 ダグザもこれには堪えたのか、後ろに飛ばされ倒れる。

 オレはその隙を逃さず剣を握っているダグザの手を蹴り飛ばし、剣を遠くにやる。

 オレはダグザに跨がり、その顔を殴りつける。


「ッッッ!!」


 ダグザもこれには焦ったのか必死に暴れる。

 オレはダグザが暴れるのを気にせず、顔面を殴り続ける。


「調子にぃ、乗るなぁ!」


 ダグザがオレの背中に膝蹴りしてきた。

 痛みで息が止まる。

 その隙にダグザはオレを突き飛ばし、剣を拾いにいく。

 オレもすぐに剣を拾いにいく。

 互いに剣を拾ったオレ達は睨み合う。

 ここでまたダグザが話しかけてくる。


「まさか剣を投げつけてくるとは。お前にはつくづく驚かされる。普通の戦士は自分の命とも言える武器を投げつけたりはしないんだがな」


 オレは笑ってそれに答える。


「オレは()()とは程遠い存在だからな」

「そうかい。確かに平民が戦士やるんだ。常識に囚われてはいけないということか。それにしてもお前の拳は効いたよ。何本か歯も折れた。お前はただ一度だけの俺の隙をつき、劣勢を挽回した。感心する。お前は成長すれば間違いなく、俺より強くなるだろう」

「そりゃどうも」

「今の俺のダメージとお前のこれまでの疲労を見るに互いに次の攻防が最後になるだろう。俺の全力、受け止めて見せろ。ユート!」


 ダグザが吠える!

 奇しくも、最初と立ち位置が逆転した状況になった。

 ダグザに応えるようにオレも吠える!


「かかって来い、ダグザッ!」


 ダグザが踏み込んでくる。

 オレはダグザの狙いを読み、ダグザに突撃する。

 互いに剣がぶつかりあい、火花が散る。

 オレとダグザは一心不乱に剣を振る。

 体術を一切使わない、搦め手なしの剣術だけの勝負だった。


 剣術はセフィーに散々仕込まれたんだ!

 負けるわけにはいかない!


 オレはセフィーに習った剣の型を思い出しながらダグザに応戦し続ける。


「ぐっ!」


 次第に押されてきたダグザは呻く。

 剣術の技量は僅かにオレが上回っていたようだ。

 そこでオレの脳裏にダグザが大振りの攻撃をしてくる姿が映った。


「くっそおおおおおおおおおおお!!」

「ッ! ここだッ!!」


 ダグザが焦ったのか思いきり剣を振り上げた。

 オレは予め読んでいたその大振りの振り下ろしをステップで避け、すかさずその剣目掛けて全力で振りかぶる。

 ダグザの剣はオレの剣により、弾き飛ばされた。


 この決闘に勝ったのはオレだった。

 オレはダグザの首に剣をかける。


「──お前の勝ちだ。殺れ」


 オレはその言葉に従わず、剣を下ろす。


「何故だ? 何故殺さない? 俺はお前の知り合いを蹴り飛ばし、お前を散々痛めつけたんだぞ? 憎くないのか?」


 オレは不思議なことを漏らすダグザに答える。


「でもお前は誰も殺していないだろう? ならば命を奪う理由はない。それにお前は根っからの悪いやつじゃなさそうだ。剣を交えてなんとなく分かった。だから恨みもない」


 この男の剣筋はあまりに綺麗だった。

 自己流のアレンジは入っているが基礎がしっかりしており、身につくまで必死に練習したことがうかがえる。

 オレも同じく基礎をしっかり叩き込まれたから分かるのだ。

 ひた向きに努力できる男が悪いやつとは思えない。

 最後の攻防で搦め手を混ぜなかったのは、純粋に努力した剣術でオレに勝ちたかったからだろう。


「剣を交えてって......。いや、もういいか。負けは負けだ。敗者は大人しく勝者に従うのが世の理だ。俺もまだまだ未熟だと分かったし、また強くなれる機会を与えてくれたことに感謝するか」


 ダグザが溜め息をついて笑う。

 それは今まで見た中で一番穏やかな笑顔だったのだ。

 そんな顔も出来るのか、と少し驚くのと同時にやはり根っからの悪人ではないのだと、オレに確信させる笑顔だった。

 オレはセフィーの待っている部屋に向かうとする。

 流石に時間をかけすぎた。

 無事だといいのだが。


「さて、オレはカラマスの部屋に入らせてもらう。じゃあな」


 隅にある弓矢と木剣を装備し、部屋に向かう。




 ◆




「大丈夫か、セフィー!」


 オレは思いきりドアを蹴り飛ばし、ぶち開ける。

 そこには────


「遅いですよ悠斗!」


 床にピンク色のパジャマ姿で気絶しているカラマスと、ベッドに腰掛けプンスカ怒ってる小さい女神がいた。

 オレは事情が呑み込めず、思わず聞く。


「えっと、一体なにが......?」

「この男が私の体に触れようとしてきたので気絶させてやったんです」


 つまり襲ってきたから撃退したということか。

 オレはなんでカラマスが気絶しているのか納得した。


「ところで力はなくなったんじゃないのか?」


 前に攻撃魔法が使えないと言っていたことを思い出した。


「戦闘できるほどの力はありませんよ。けど、この変態を気絶させたようにスタンガン程度の電撃なら出せるというわけです。まあ、それも直に触れないと駄目ですか」

「ああ、そう。まあ、何にせよ無事でよかったよ」


 オレはセフィーを抱き上げる。

 それにセフィーがびっくりする。


「キャッ! いきなり危ないじゃないですか! 私の体は繊細なんですから、もっと優しく抱いてください!」

「はいはい。とりあえずここを出たら文句は聞くよ」


 オレはセフィーを抱え、部屋を出ようとする。

 そこでふと思いとどまり振り返る。

 カラマスはムカつくやつだが、正直今のヤツの姿は哀れだ。

 疲労もあるしカラマスは放っておこう。

 ......いや、やっぱりムカつくからテーブルに置いてある高そうな宝石を奪っておく。

 これで少しは反省してくれると、世のためになるのだが。

 オレは今度こそ部屋を出る。




 ◆




 部屋を出るとダグザが壁に背中をつけて待っていた。


「よう。嬢ちゃんは無事だったのか?」

「ああ、無事だったよ」


「それはよかった。せっかく助けに来たのに遅かったってなるのは目覚めが良くないだろうしな」

「邪魔したお前が言うことか?」


 オレはダグザの言い分に呆れる。

 ダグザは「それもそうだな」と愉快げに笑っている。


「ところで、なんでオレ達を待っていたんだ? 何か用があるのか?」

「お前に言っておきたいことがあってな。

「言っておきたいこと?」

「ああ」


 ダグザの髭面の顔から笑いが消える。


「──これは俺の一方的な宣言だ。俺はお前との戦いで自分の未熟さを知った。俺は王都に戻り、自分を鍛え直す。そしてお前ともう一度戦い、今度こそ勝利する。それが今の俺の目標だ」


 ダグザがニヤッと笑う。

 オレもその宣言に、挑発的な笑みで返す。


「その年で伸び代があるのか?」

「馬鹿にするな。俺はまだ20歳だ」


 驚いた。

 更け顔だからもっと年を経ているのかと。

 オレはダグザの宣言にワクワクする。


「ならまた戦えるのを楽しみにしているよ。今回の戦いでオレはオレに足りないものが分かった。オレも強くなるから、その時は差をつけられていないように気を抜かず修行しろよな」

「へ、言ってくれるぜ。安心しろ。次会った時はお前より強くなっておいてやる」


 オレ達は互いに拳をぶつけ合い男臭い笑みを浮かべる。

 こういうのが男の友情というのだろうか。

 悪くない気分だ。

 そうしてオレ達は別れ、来た道を戻る。

 幸いまだ夜中なので、兵士にはバレず安全に外に出れた。

 隠してあった荷物を回収してオレ達は城から離れる。

 オレはこれからどうするか、セフィーに聞く。


「え? どうするって、村に帰るのでは?」

「あ、村からは追放されたから。オレもセフィーも」


 セフィーが固まる。

 数秒経ったあと、叫ぶ。


「な、な、な、なんでですかあああああああああああああ!!」

「あそこにいたら村の人々に迷惑がかかるからな。いいじゃないか。どうせいつかは旅に出るつもりだったんだろ?」


 セフィーはまだショックから立ち直れてないものの、答えてくれる。


「私の計画ではまだ1年はあの村にいるつもりだったんです......。私、みんなにお別れも言ってないんですよ......?」

「まあまあ、過去より未来を向こうじゃないか。で、これからどうする?」

「これからのことなんて急に言われても、考えているわけありませんよぉ......」


 セフィーが泣き出しそうになってる。

 オレはセフィーを励ますように言う。


「なら風の向くまま、気の向くまま進もうぜ。とりあえず目的地はこの道の先の村か町だ!」


 オレはセフィーを抱き、カラマスの城の先を進む。


「気の向くままって......。あなた、自分の使命覚えているのですか?」

「うーん、使命なんて言われてもオレには実感ないしな~」


 それにオレは今回のことで一つ目標が出来たのだ。

 世界を平和にするのはそのついででいいだろう。

 それをセフィーに伝える。


 セフィーが不思議そうに尋ねる。


「目標ってなんですか?」


 オレは自信満々に答える。


「男子なら一度は考える夢。そう、()()()()()()になることさ!」


 セフィーが瞼をぱちくりさせる。

 そして呆れたように言う。


「世界最強って......子供ですか」

「まだ肉体年齢的には子供だからいいんだよ! これからダグザみたいな強いやつと出会うのかと思うとワクワクしてくるんだ。こんな気持ち初めてだ」


 以前から思っていたがオレは戦闘狂の素質があるのかもしれない。

 前世で喧嘩していた時も楽しいという感情があったのは否定できない。


「よ~し、やるぞ! まずはこの国一番になってやる!」

「そんな子供みたいなこと言ってないで、私と一緒にこれから先どうするかをちゃんと考えてください!」

「ま、何にせよこれからは二人で旅をするんだ。楽しくやっていこうぜ!」


 満月に照らされている夜道を歩く。

 セフィーはこれからのことを必死に考えているようだが、オレは気楽だった。

 この先、カラマスの時とは比較にならないほど大変になるとは知らずに。

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