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潜入~意外な待ち伏せ~

 

 村から出たオレはまず修練場に行き木剣、弓、矢をありったけ入れた矢筒を装備し朝に取った氷付けの熊肉を荷物入れに放り込む。

 カラマス達は明日には城を出ていくかもしれないので夜の間が勝負だ。

 今は午後11時くらいだろう。

 カラマスがいると思われる城につくのが大体午前0時。

 この世界の常識ではすでに眠りについていてもおかしくないが絶対じゃない。

 もし途中で見つかれば戦うことになる。

 戦いなら自信はあるが、数で来られたら厳しいのでできるだけ見つからないよう作戦を立てなければならない。


 作戦を立てるにはまず城の情報を手に入れなければ。

 オレは急いで城の下へ向かうことにする。


「その前にこの修練場にも感謝しないとな。オレにとっては第2の家みたいなものだし」


 修練場に向かってお礼をする。

 数秒頭を下げた後、オレは走って道に戻る。




 ◆




 休憩を入れながら、走っていると前方に城らしきものが見えた。

 オレは見張りがいることを考え、近くの茂みに入り、隠れながら進んだ。

 少し進むと前方に木製の門があり、その門の近くで座っている1人の男がいることが分かった。


 城の大きさはそれほどでもない。

 オレは安心した。

 あまりに大きいとセフィーを探すのに手間がかかるからだ。


 見張りをどうするか考える。

 見張りは鎧を着ておらず、地面に座っている怠けた男であった。


 ここに誘きだして気絶させるか?

 印象では大して強くなさそうだ。


 やることを決めたオレは荷物を降ろす。

 そしてわざと音を起てた。

 それに反応する見張り。

 警戒もせずこちらに近づいてくる。

 数メートルまで近づいたところでオレは茂みから身を出し、踏み出した足をバネに一瞬で見張りの顔前に移動する。

 見張りは驚きで身動きが取れていないのか、隙だらけであった。

 オレはがら空きの腹に強烈な拳をくれてやる。


 見張りは声も出せず、力を失い倒れる。

 オレは見張りを受け止め近くの木に体を預けさせる。

 オレはすぐに門の近くに寄り、門に耳を当てる。


 音は聞こえない。

 とりあえず中に入ってみる。

 オレは門をゆっくり開ける。


『ギギッ』


 木が擦れる音がした。

 ドキッとする。

 オレは慎重に門の中の様子を確認して、今の音に気づいた人はいないことに安堵した。


 城の中は灯りもついていない。

 オレは門の近くの階段を上る。

 階段を上った先には廊下があり、窓から月明かりが入りその全貌を映し出した。

 部屋が複数あり、更にその先には上へ続く階段があるようだ。


 こんなに部屋があったらどれにセフィーがいるか分からない。

 どうする?


 セフィーのいる部屋を探す方法を考える。

 すると前方から歩いてくる音が聞こえる。

 慌てて近くの隅に隠れる。


 腰に差してある木剣を握る。

 近づいてきたら一瞬で気絶させてやる。


 オレは息を殺して様子を伺う。

 すると話し声が聞こえてくる。


「それにしてもカラマス様は羨ましいねえ。出会ってすぐの女の子と結婚できるんだから。俺だって可愛い平民の子を嫁に貰いたいよ」

「言うな。爵位持ちは俺達一兵卒とは住む世界が違うんだよ」

「俺だって貴族に生まれたのに家を継げない4男だからって一兵卒からだもんな。それに比べてカラマス様は家を継ぐ長男だからってこれまで苦労したことないらしいぜ」

「ははっ確かに戦士のはずなのに、あのだらしのない肉体は俺達みたいな苦労を知らなそうだな」

「俺もカラマス様みたいになりたかったよ。そういえば平民の子は今晩カラマス様の部屋に呼ばれてるんだってさ」

「あんな小さな子を寝室に呼ぶなんてよっぽど溜まってるんだろう。俺も王都に帰って娼館で発散させたいよ」

「全くだ!」


 兵士らしき人物達はそのまま一つの部屋に入っていった。

 今の会話からセフィーの居場所を知る。


「(セフィーはどうやらカラマスの寝室にいるみたいだな)」


 急がないとセフィーが危ない。

 音を立てず、できるだけ速く廊下を進んだ。




 ◆




 廊下の先にある階段を上っていく。

 数分かけて上った階段は最上階についたらしく、もう上はなかった。

 どうやらこの先にカラマスの寝室がありそうだ。

 この階だけ部屋がなく、長い廊下が続くのみだった。

 壁にはカラマスの肖像画が飾られている。

 それもいくつも。

 かなり悪趣味だ。


 薄気味悪さを感じながら廊下を進む。

 進んだ先に装飾が施されたドアを見つけた。

 オレはドアに足を進めようとする。


「待ちな」


 だが進めなかった。

 ドアの前に誰かいたからだ。

 月が雲に隠れているからか、月明かりは入らず男の顔は見えない。

 次第に雲が移動して隠れていた月が窓から明かりを入れる。


「お前は!?」


 そこにいたのは昼間シュウを蹴り飛ばし、オレを散々痛めつけたダグザと呼ばれていた男だった。


「よう、遅かったな。ずっとここで待っていたんだぜ? いい加減欠伸が出て来てよ」

「オレが来ることが分かっていたのか?」

「当たり前だろ。去り際のお前の瞳はまだ諦めちゃいなかった。貴族を何の戸惑いもなく殴ろうとしたやつだ。()()()()()()()()()()()と、俺は確信していたのさ」


 どうやらこの男にはバレバレだったらしい。

 だが腑に落ちないことがある。


「なぜオレが来ることを兵士達に知らせなかった? わざわざこんなところで待つ理由が分からない。あらかじめ知らせておけばオレを捕らえるのなんて容易だったはずだ」


 ダグザが笑って答える。


「なぜ、か。強いて理由をあげるなら戦士としての本能だな」


 戦士としての本能?

 予想していなかった意外な答えに呆然とする。


「ああ。昼間にお前と戦ったあの一瞬の攻防、楽しかったぜ。その時確信したのさ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。 俺と互角に戦えるやつはそうはいねえ。しかも間合いの取り方が明らかに戦い慣れしている者のそれだ。久しぶりの極上の獲物だと思ったから、こうして一人でお前を待ったいたのさ」


 ただオレと戦いたいから仲間には伝えずここで待っていた。

 普通に考えればおかしい思考だ。

 だがその言葉に妙に納得してしまった。

 元々オレは戦うために修行をしていた。

 時にはどれだけ強くなれたか試したくなることもあった。

 結局のところただ強い相手と戦いたい、そして勝ちたい。

 この男の行動原理はそれだけなのだろう。

 オレは口を開く。


「なら、無駄な話しをさせてしまったな」

「気にするな。しかし俺が待っていた理由に納得しているあたり、俺達は案外似た者同士なのかもな」


 ダグザは笑う。

 それにつられるようにオレも笑ってしまう。

 助けるのに少し時間がかかるかもしれない。

 セフィーには心の中で謝っておく。


「さて、お前は嬢ちゃんを助けに来たんだ。無駄話はここまでにしてさっそく始めるか」

「その前に聞きたい。昼間の甲冑はどうした?」


 この男は甲冑を着ていなかった。

 あれを着ていると何の防具もないオレより有利だったはずだ。


「俺は互角の条件でお前に勝ちたいんだ。それにあんな暑苦しいものは俺の性に合わん」

「そうか。ならそれを負けた時の言い訳にはするなよ」


 憎まれ口を叩く。

 昼間より威圧的な雰囲気からダグザが言った言葉に嘘はなさそうだ。

 つまり()()()()()()()()()()()()()ということだ。

 オレは弓矢と木剣を隅に放り投げ、腰に差してある父さんから貰った剣を抜く。

 木剣ではなく真剣を抜いたのはダグザへの敬意でもあった。

 そしてこの男には手加減なしの本気じゃないと勝てないと悟っての行動でもあった。

 初めて握る真剣の重さが、今は心地が良い。

 オレの行動を見たダグザは手に持つ剣を構える。


「武器は戦士の魂だ。戦士のつもりなら武器は丁寧に扱うことだな」

「余計なお世話ってやつだぜ。こちとら平民だ。戦士の作法なんか知るか」


 オレは吐き捨てる。


「それもいいだろう。だが一人前の戦士のつもりなら決闘の際の作法は守ってもらう。戦士は決闘の際、名乗り合うものだ。坊主、名を名乗れ」


 ダグザはオレを一人の戦士と扱ってくれるらしい。

 オレは自分の名に自信を持って答える。


「俺は『ユート』だ」

「『ユート』か。良い名だ。俺の名も伝えよう。我が名は『ダグザ・アルバスター』! アルバスター家の戦士である! かかってこい、ユートよ!」


 ダグザ・アルバスターか。

 オレはニヤッと笑う。


「なら行くぞッ!ダグザッ!」


 こうして2人の決闘が始まった。

 この決闘を見届けるのは空に浮かぶ満月だけだった。

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