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別離~忘れない思い出~

 

「うっ──。ここは──?」


 目が覚めると、オレは自分の家の布団で寝かされていた。

 体の節々が痛い。

 どうやら蹴られた時のダメージがまだ残っているようだ。

 顔をしかめる。


「くっ! こんなところで休んでいる場合じゃない。はやくセフィーを助けにいかないと──っ!」


 オレは痛みに耐えて、起き上がる。

 急いで自分の部屋から出るとリビングには父さんと母さんがいた。


「ユート。どこに行くつもりだ」


 父さんがオレに行き先を訪ねる。


「セフィーを拐ったカラマスのところへ行って連れ戻してくる」

「駄目だ」

「......なんでだよ! 父さんも母さんもセフィーが無理矢理連れていかれたのを聞いているんだろ!?」


 父さんの返答にオレは思わず怒鳴ってしまう。

 だが父さんは動じた様子なくオレに語りかけてくる。


「ああ、聞いている。だから駄目なんだ。戦士階級の人間に手を出したら。あの人達は私達とは住む世界が違うのだ」

「そんなの関係ない!」

「関係あるんだよ。お前は戦士階級の人間を甘く見ている。お前は自分の行動で誰が傷つくことになるのか、本当に理解しているのか?」


 父さんの言葉はオレにとって寝耳に水だった。

 呆然として呟く。


「オレの行動で誰かが傷つく......?」

「そうだ。お前が仮にセフィーちゃんを救うことができたとしよう。そしてこの村に帰って来ていつもの生活に戻る──。......そんな夢物語が本当に実現できると思っているのか?」

「......連れ戻したばかりの頃はカラマスも邪魔をしてくるかもしれないけど、その度に追い払えば──」

「その考えが戦士階級の人間を甘く見ているのだ。奴等はプライドが高い。この村の誰かを人質にとってでもお前に復讐してくるぞ! 人質ならまだいい。下手したらこの村から死人が出るかもしれない。お前はその時、殺された人の家族になんと言うつもりなのだ?」


 雷に打たれたかのように衝撃が走る。


「(馬鹿かオレは! あいつらは平気でシュウを人質に取ったじゃないか!)」


 自分の甘さ加減に反吐が出そうになる。

 14年この世界で生きてまだオレは平和ボケしているらしい。


「だったら.....どうすればいいんだよ! オレはセフィーを助けたい! でもセフィーを助けると村の人にまで迷惑がかかるなんて──」


 八方塞がりの状況に苛つく。

 セフィーを助けると村に迷惑がかかる。

 でもセフィーを助けないなんて選択肢はオレにはない。

 必死に何か、全てが解決する方法はないかと考え込む。

 そんなオレを見て父さんが笑う。


「なんだ。答えは出ているじゃないか」

「え──?」

「セフィーちゃんを救いたいんだろ? なら村に囚われるな。セフィーちゃんを救うのに村が邪魔なら切り捨てていけ」


 村を切り捨てる?

 オレはその言葉がどういう意味か考える。


 そしてある一つの答えに辿り着く。


()()()()()()......?」


 父さんは頷く。


「お前がセフィーちゃんを助けた後も村に帰ってこなければ村が被害を受けることもない。なんせ他の村の人とは一切関わりがない単独犯なんだから」


 確かにそれなら貴族が村にちょっかいをかける理由がなくなる。

 しかしそうすると二度と両親に会えないかもしれない。

 ここまで育ててくれた両親に親孝行することさえできなくなる。


「オレは......」


 まだ迷う。

 そんなオレの迷いに気づいた父さんはオレを叱る。


「甘ったれるなユート! お前はもう自分1人で生きていく術を身につけているのだろう? ならお前はまだ成人じゃなくても一人前だ。俺達がいなくても立派にやっていける。俺達のことなら気にするな! お前がいなくても仲良くやっていけるさ! なあ!」

「ええ、あなた。ユート、あなたは私達を心配してくれているのでしょうけれどあなたが本当に救いたいのは誰? 一時の感情で救いたいはずの彼女を見捨てていいの? 私はあなたをそんな子に育てた覚えはありませんよ! 男なら覚悟を決めなさい!」


 母さんの叱咤が飛ぶ。


「父さん──母さん──」


 二人は笑顔で頷く。

 オレは別れ際に言ったセフィーの笑顔と言葉を思い出す。


『信じています』


 オレは、覚悟を決めた。


「父さん、母さん。決めたよ。セフィーを助けに行く」


 父さんが笑顔になる。


「それでこそ、俺の息子だ! ......よし! こうしちゃいられない!」


 父さんは物置部屋に入っていく。


「母さん」


 母さんは泣いていた。


「こんな日がいつか来るとわかっていましたよ。あなたにはどこか、生まれついての気品が昔からありましたから。とても高貴な生まれなんじゃないか、いつかこの小さな村を出て大きなことを成すんじゃないかって」


 オレは確かに竜帝国の元王子だ。

 しかしそれはもう過ぎたことだ。

 今は2人の子供のユートだ。

 それ以外の肩書きなんていらない。


「オレはそんな凄い人間じゃ......。両親を放って村を出ていくような駄目な人間だ」

「そんなことありません。私達は世界一の幸せ者です。だって、あなたみたいな素晴らしい男の子を息子として育てることができたのですから」


 その言葉に涙が出てくる。

 むしろ幸せ者はこちらだ。

 ここまで健やかに育ててくれたのだから。


「さて、これからの門出のために今日は大盤振る舞いしないといけませんね! 腹が減っては戦は出来ないでしょう?」


 母さんは厨房に行く。

 オレは今の話、そしてこんなに素晴らしい両親がいたということは絶対に忘れない。

 そう、記憶に刻んだ。




 ◆




 オレは気合いの入って作られた晩御飯を食べた後、部屋を整理し袋に必要な物を入れる。

 この部屋ともお別れだと思うと寂しくなる。

 ここでよくセフィーと夜遅くまで話し込んだものだ。

 セフィーの寝相は悪いから寝ている間にこちらの布団に入り込んだりもしたっけ。

 オレは12年間住んでいた部屋の思い出を辿り、セフィーと過ごした時間が楽しかったのだと思い知らされる。


「だからこそ、あんな下衆にセフィーを渡すわけにはいかないよな......」


 荷物が入った袋を持ち上げ部屋を出る。

 オレは少し部屋を眺め、ゆっくりドアを閉める。


「行ってきます」


 オレはもう帰ってくることはないだろう自分の部屋に別れを告げる。




 ◆




 外はすでに夜だった。

 しかし今日は満月だ。

 月明かりのおかげでそんなに暗くはない。

 両親が村の入り口まで付き添ってくれる。


 このまま時間が止まればいいのに


 両親との時間が惜しくなり、そんなことを考えたが時間は待ってはくれず、村の入り口に到着する。


「俺達はここまでだ。ここからは自分の力で生きていくんだ」

「うん、分かってるよ父さん」

「そうか。ならこれは餞別だ。受け取れ」


 父さんは巻いていた布を取り、鞘に入っている、一本の剣を取り出した。


「これって......? なんで父さんが剣を?」

「まだ俺がガキだった頃に戦争に負けて、この村に逃げてきた戦士から貰ったんだよ。その戦士は結局戦争の傷が原因で死んじまったけど。俺は使えないがずっと手入れだけはして保管してたんだ。この剣も家で錆びついていくより、剣が扱えるお前と戦った方が喜ぶだろう」

「オレが剣を練習してたことを知ってたの?」


 父さんは笑う。


「息子のことだ。お前が隠れて武器の練習をしてたことなんて、とっくに知ってたさ」


 その言葉に笑う。

 父さんに礼を言い、貰った剣を腰に差す。

 2人に向き直る。


「父さん、母さん。長い間お世話になりました。行ってきます」

「ああ、頑張ってこい! お前は俺の自慢の息子だ。絶対にセフィーちゃんを救え。お前ならできる!」

「ちゃんとご飯を食べて歯も磨くのよ。セフィーちゃんはあなたが守ってやりなさいね!」


 オレは2人に抱きしめられ、オレも抱き返し最後の別れをして村の外に出る。

 少し後悔があるとするならみんなには内緒のままここを出ることだ。

 少し歩くと子供の頃よく遊んでいた草原に近づく。

 すると────


「おい、ユート! 水くせえぞ! 俺達を無視して勝手に出ていくんじゃねえ!」

「今回だけはシュウの言うとおりよ!」

「僕達は友達でしょ? 勝手に出ていくのは薄情なんじゃないかな?」


 草原にはシュウやリムリット、シャル、子供達、村長、村のみんなが集まってオレを待っていた。


「みんな......。どうして......」


 リムリットとシャルとシュウが前に出て言う。


「セフィーを心配しているのはあなただけじゃないの。セフィーは村の家族よ? みんなあの子爵様には怒っているわ」

「僕達はユートを見送ることしかできないけど、ユートがセフィーを助けてくれることを祈ってる」

「ユート。お前なら絶対にセフィーを助け出せる。だって、お前は俺がずっと尊敬してた、憧れの存在なんだから!」


 他のみんなも「頑張れ!」や「応援してる!」と語りかけてくれる。

 オレはつくづく幸せ者だと再確認した。

 最後に村長がオレに語りかける。


「この村から1時間ほど歩いた先に、以前の戦争で使われた城がある。セフィーは恐らくそこにいる。子爵様は見回りをしていると言っておった。今日中にその城から離れるということはないだろう」


 村長からありがたい情報を授かる。

 これで目的地も決まった。

 オレは集まった人々に感謝を述べる。


「みんな、村を出ていくオレのために集まってくれてありがとう。もう二度と帰ってくることはないかもしれないけど、オレはみんなのことを忘れない」


 その言葉に村の人々は口々にオレを励ます。


「なに言ってんだ! たとえ村を出ていったとしても、お前の故郷はずっとこの村だ!」

「ずっと俺達の家族だ!」

「いつか貴族様から許されたらセフィーちゃんと一緒にこの村に帰ってこい!」

「ユート! いつか帰って来て、その時私が嫁いでなかったらお嫁さんになってあげるわ!」

「リムリットったらこんな時まで。でも僕もリムリットと同じ気持ちだよ! 絶対に帰って来てね!」

「ユート! 俺とお前の決着はついてないんだ! 勝ち逃げは許さねーからな! だから絶対にいつか帰ってこい!」


 涙が溢れそうになるのを堪え、前を向く。

 オレは深呼吸をして、自分に発破をかける。


「『マールタ村のユート』、行ってきます!」


 もうこの村に帰ってこれないとしてもこの村の住人だということを忘れないために決意を込めてそう名乗った。


 その言葉を皮切りにオレはみんなを背に歩き出す。

 後ろに聞こえる声援を自分の活力にし、オレはセフィーの囚われている城に向かった。

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