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約束~横暴な貴族~

 

 熊に似ている獣が前方から走って襲いかかってきている。

 オレは慌てず手に持つ弓に矢をつがえ、目の前にいる熊の目を狙う。

 矢は放たれ寸分の狂いもなく熊の目に突き刺さる。

 熊は痛みで咆哮する。

 その隙を逃さず腰に差している木剣を抜き、高く飛び上がり思いきり熊の頭に振り下ろす。

 

『バキッ!』


 頭蓋骨が割れる音がした。

 熊がゆっくり後ろに倒れる。

 そして二度と動かなくなった。



 

 ◆




 ナイフで熊を解体しているオレにセフィーが感心したように話しかけてきた。


「熊をあんなに簡単に倒すなんて昔、狼に苦戦していたとは思えない成長ぶりですね」


 それにオレは最初に会った時より低くなった声で答える。


「あの頃に比べたら成長しているさ。6年も前だぞ? オレの背もここ最近急に伸びて筋肉もついてきたし」


 今のオレはもう大人と遜色ないくらいまで背が伸びている。

 14歳としたらかなり高い方だろう。

 

「剣も弓も基礎は完全にマスターしましたし、教えることはもうありませんね。あとは実戦経験を積むくらいでしょうか?」


 オレも大分強くなった。

 最近は自分の修行の仕上がりを誰かに試したいと思うくらいだ。

 前世は喧嘩をよくしていたが、もしかしたらオレは戦闘狂なのかもしれない。


「それにしてもこの木剣は凄いな。熊の頭蓋骨を割ったのにヒビが入ってない。強化魔法って便利だな」


 オレは先ほど熊を殴った木剣を掴む。

 ナイフで掘った少し歪な形の手作りの木剣だ。


「武器は消耗品ですけどいざという時に武器が壊れたら大変でしょう? だから少しでも長く使えるようにしたまでです。折れる時は折れますけど」

「それでもありがたいさ。強化魔法ありがとな」

「別に感謝はいらないです。そのための魔法なのですから」


「了解。それくらいならいいよ。それにしても、熊を解体するのは大変だな。セフィーも手伝ってくれないか?」

「嫌です。熊に追いかけられたせいで私はくたくたなのです」


 熊と戦うはめになったのは実はこの女神が原因である。

 本人が言うには森の深くに蜂の巣があったので、なんとか取れないかと近くを彷徨いていたら、熊に遭遇したらしい。

 そして一目散にこちらに逃げてきた。

 似たようなことがこの6年間何度も起きたのでもう慣れっこだ

 オレはため息をつく。

 

「なら解体するから少し待っててくれ」

「はい。あ、近くの川で水浴びしてきていいですか? 汗を掻いたので少々べたついているのです」

「ああ、別にいいぞ。ただしあまり遠くには行くなよ?」

「分かっていますよ! 私は子供ですか!」


 セフィーがプンスカ怒って川に向かう。

 オレは一人寂しく解体作業に戻る。

 朝に始めた解体作業が終わったのは昼頃だった。




 ◆




 熊肉を火で炙り二人で食べた後、もう昼になるのでオレ達は村に帰ることにした。

 帰る途中に修練場に食いきれなかった熊肉を、セフィーが溶けない氷で凍らせて保存しておいた。

 森を抜け村が見える丘につく。


「何かあったんだろうか?」


 いつもより村がざわついている気配がある。

 オレ達は急いで村に近づく。


 そこには見慣れない甲冑を着た十数人の武装した集団。

 そして、馬に乗る一人の高そうな服を着た太った男がいた。

 その男が近くの村人に何か言っているようだ。

 その後、すぐ村の男は村長を連れてきた。

 オレは近くの茂みに入り耳を澄ませ声を拾う。


「私はこの年からこの地域を支配することになった、カラマス・マスクロイ子爵だ」

「子爵様ですか! これはとんだご無礼を! おもてなしをしますのでさあ、こちらに──」

「よいよい。そこまで時間をかける気はない。今回この辺鄙な村に来た理由は自己紹介と、ある娘を引き渡して欲しい」

「娘ですか......?」


 太った男が嬉しそうに頷く。


「そうだ! 今日、私達が見回りついでに森にある川に寄ったのだ。そこには天使のような美しい金髪の娘がいた。私はその娘に心を奪われた。娘は呼び掛ける前にどこかに行ってしまったが、この近くにはこの村しかないからここに住んでいることはすぐ分かった。私は決心した! あの娘と結婚すると!」


 今日川に行ったのはセフィーしかいない!

 オレはこの言葉の指してる娘にすぐ見当がついた。

  オレはどうやったら穏便に事を済ませられるか考える。


「金髪の娘といえば、この村にはシャルとセフィーだけです。ちょっと、シャルを呼んできなさい」


 村長が近くの人にシャルを呼ぶように言う。

 するとシャルがやってくる。


「あ、あの......話ってなんですか?」

「子爵様、彼女のことですか?」


 子爵は首を振る。


「私が見かけた子はもっと小さかった。その子も可愛らしいが、私が見かけた子はこの世のものとは思えない美しさだった」

「ならセフィーのことですかね。しかしセフィーは今はいないのですよ。多分いつものようにユートと一緒に森に入ってるのでしょうが」


「私のことですか!? 嫌ですよ、私は! 人間と結婚なんて!」


 この言葉にセフィーはやっと自分のことだったのかと気づいたようだ。

 セフィーは小さな声で怒るという器用なことをする。


「心配するな。お前を誰にも渡す気はない。約束する」

「え? ......あ、ありがとうございます」


 今度は静かになった。

 相変わらず感情の波が激しいことだ。

 オレは気にせず、村長とカラマス子爵の話に集中する。


「あの子はまだ帰ってきていないのか......。なら帰ってくるまで待つぞ」

「子爵様、あの子は妖精族ですから人間との結婚は......」

「それがどうした! 愛の前に種族は関係ないわ!」


 この分だと居座りそうだな。

 仕方ない。

 なんとか説得しにいくか。

 オレが出ていこうと考えたら誰かがカラマス子爵の前に立った。


「おい、お前! 勝手なことばかり言いやがって! お前なんかにセフィーは渡さないぞ!」


 シュウが子爵に啖呵を切った。

 子爵は興味なさ気にシュウを見ている。


「このガキはなんだ」

「ガキじゃねえ! 俺はシュウって名前があるんだ!」

「よさないか! 相手は貴族様だぞ!」

「貴族がなんだ! 家族が勝手にされて黙っていられるか!」


 するとカラマス子爵は後ろにいる甲冑を着た1人の男に指で合図する。

 オレは不味いと思い、急いで茂みから出てくる。

 セフィーが制止する声をあげるがオレは「ここにいろ!」と怒鳴り、シュウの元に向かう。

 しかし間に合わず甲冑の男はシュウを蹴り飛ばす。


「ギャッ!」

「平民ごときが私に口答えするんじゃない。これからは身の程を弁えて生きることだ」


 カラマスと後ろの甲冑の男どもが笑う。

 オレは怒りに感情を支配され、後先考えず殴ってやろうと思い一目散に駆け寄る。


「!?」


 カラマスはこちらを見て驚いていて動いていない。

 絶好の好機だった。

 オレはカラマスに殴りかかろうとする。

 しかし俺の前にシュウを蹴り飛ばした甲冑の男が立ち塞がる。


「邪魔だぁ!!」


 吠える。

 甲冑の男は右腕で殴ってくるビジョンが見えた。

 そのすぐ後、ビジョン通り右腕で殴りかかってくる。

 オレはその拳を左腕で払い、男の顔を思いっきり殴り飛そうとした。

 しかし甲冑の男はオレの拳を避け、足で蹴りかかる。

 オレはすぐに離れ、甲冑の男と距離を取る。


「なかなかやるな坊主。大した腕前だ。素手とはいえ、俺と互角とは。お前、平民か?」


 甲冑の男が話しかける。

 オレはそれを無視して再び殴りかかろうとする。


「そこまでだ! そこの平民動くな! 動くとこのガキを殺すぞ!」


 オレは咄嗟にシュウを見る。

 シュウは他の甲冑の男に捕まえられ、喉に剣がつきつけられている。

 オレはシュウを人質に取られて動けなくなった。


「ダグザ。私に殴りかかろうとしたその糞ガキを思う存分痛めつけるのだ」


 カラマスがダグザと呼ばれる、オレの目の前にいる男に命令する。


「......はいよ、ご当主様。」


 オレは何もできないまま腹を殴られる。

 男の拳は予想以上の痛みをもたらした。

 腹を押さえ倒れる。

 男は倒れたオレをその足で何度も蹴る。

 

「ッッッ......! ガッ......グッ......!」


 オレの意識はどんどん遠くなる。

 そこに誰かの制止の声が届く。


「やめてください! あなた達は私に用があるのでしょう? 私ならここにいます。だからその子は解放してください」

「(セフィー、出てきてしまったのか......。オレが不甲斐ないせいで......)」


 オレは自分の力の足りなさを呪う。


「美しい金髪の天使! 会いたかった!さあ、私と一緒に来るんだ! 来てくれたらこんなやつらすぐ解放するぞ!」

「──分かりました。あなたについていきます」


 セフィーはその要求に応える。

 セフィーはカラマスの馬に一緒に乗る。


「ま、待て......! セフィー......い、行くな......!」


 オレは必死にセフィーを呼び止めようとする。

 体を動かそうとするが、痛みで動かない。

 するとセフィーはオレに笑いかける。


「私は信じています。あなたの言葉を」


 オレは先ほど自分が言った言葉を思い出す。


「──ッ!(そうだ! オレはセフィーを誰にも渡さないと約束したんだ! 諦めないぞ! セフィーは絶対に助け出してやる!)」


 オレはセフィーを救う決意をして、セフィーを連れ去るカラマスの後ろ姿を意識を失うまで睨み続けた。

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