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仲間~居候の女神~

 

 オレはあたりが暗くなってきていることに気がついた。


「もう日も落ちてきたし、帰らないとな。セフィーはどうする? 変える場所がないなら一緒に来るか?」

「はい」

「そっか。ならちょっと急ぐか。仕留めた狼は......。持って帰ることも埋めてあげる時間もないし、可哀想だけど後日埋葬してやるか」


 


 ◆




 家についた頃はすっかり暗くなっていた。

 いつもより遅い時間だ。

 母さん怒ってるだろうな~。

 オレはセフィーを家の前に待たせて先に家に入る。

 

「ただいまー」

「こら、ユート! あんたどこ行ってたのよ! 暗くなる前に帰ってこいと、いつもあれほど言っているのに!」


 帰ってくるなり母さんに怒られる。

 オレにも言い分はあるのだが、ここは甘んじて怒られよう。


「まあまあ母さん。そんなに怒ったらユートが可哀想だ。男の子なんだから、少しヤンチャするくらいがちょうどいいさ。なぁ?」


 父さんが庇ってくれる。

 父さんはいつもオレの味方だ。


「はあ。分かりました。もう怒りません。でも次からはキチンと時間を考えて遊ぶように。いいですね?」

「はぁい。あ、父さん母さん。ちょっとお願いがあるんだ」

「お願い? ユートがお願いなんて初めてのことじゃないか? 言ってみなさい」


 オレは部屋の外にいるセフィーを呼ぶ。

 一拍おいてセフィーが入ってくる。


「紹介するね。この子はセフィリアっていうんだ。実は妖精族の子なんだけど群れから離れたらしくて、迷ってたところを助けたんだ。でも帰る場所がなくて、少しの間でいいからここに泊めさせてあげないかな?」


 事前にセフィーと相談して作った話をする。

 こういうことにしないと家に置いてもらえなさそうだからだ。


「私の名はセフィリアと言います。先ほど悠斗が話してくれたように、群れと離れて帰る場所がないのです。少しの間だけで構わないので、ここに居候させてもらえないでしょうか?」


 セフィーが目に涙を溜め、涙声で言う。

 演技だと分かっているはずなのだが、オレもうっかり騙されそうになるくらいの名演技だ。

 この演技に騙された父さんと母さんは神妙に頷き、セフィーに優しく話しかけた。


「群れと離れたなんて可哀想に。ここにいくらでもいなさい。いいだろう、母さん?」

「ええ、そうね。困った時はお互い様よ」


 やった!

 騙しているので少し心苦しいがこれからのことを考えるとセフィーと一緒にいた方が良いだろう。

 父さんと母さんには悪いと思うのだが仕方ないことだ。


「でもこの家にはもう部屋はないわねぇ......。そうだわ! ユートの部屋で寝るといいわ。まだスペースあるし、布団もまだあるわ。今から用意しなくちゃ!」


 母さんはそう言って物置部屋に向かった。


「おいユート。セフィリアちゃんがいくら可愛くても襲っちゃ駄目だぞ?」

「(8才の子供になにいってんだよ!)襲う? なんのこと?」


 オレは8才のフリをしてすっとぼける。

 面倒な絡みの時はこの手が使えるから幼い体は便利だ。


「おっと、ユートにはまだ大人の話は早かったかな? はっはっはっ」




 ◆

 



 晩飯を食い終えたオレとセフィーは、オレの部屋に入った。

 そこでオレはふと、疑問に思ったことを口にした。


「そういえばよくオレがここにいるって分かったな。小国の中の更に小さい辺境の村なのに」


 布団の上に綺麗な姿勢で座っているセフィーにオレは自分をよく見つけられたな、と聞いてみる。


「あなたの魂を追ってきたのです。転生させる時に目印をつけたので。だからあっさり見つけることができました」

「魂? そんなものが分かるのか?」

「私は神ですからね! ......まあ、今はその力もないので、目印をしていたからあなたを探せただけなのですが」

「うん? それならなんで8年も会うのにかかったんだ?」


 オレは疑問を漏らす。

 するとセフィーが不思議そうな顔をする。


「転生する時間があなたと私でズレていたのです。私が妖精族として生まれたのは1年ほど前です。まさか実際に会うまで時間のズレがあったとは思わなかったのですが......。これも不完全な顕現が原因だからでしょうか?」


 セフィーがうんうん唸ってる。

 だがオレはセフィーのことより妖精族という知らない単語が気になった。

 オレは妖精族についてセフィーに聞いてみる。


「妖精族ってどういう種族なんだ?」


 この質問でセフィーは考え込むのをやめ、オレの質問に答えてくれた。


「まず妖精族は人間ではありません。体内で生成される魔力で活動しています。魔物の一種ですね」

「魔物?」

「魔物とは体内に魔力を生み出す器官を持ち、それを糧に生きている生物のことです。いろいろいますが、特に有名なのは竜ですね」


 魔力を糧にか。

 そこでオレは新たな疑問が生まれた。


「魔力を糧にしているってことは魔物って食料とかいらないのか?」

「生きるだけならいりません。食事も趣味みたいなものです」

「妖精も?」

「ええ、そうですよ。私は食事が好きですが」


 魔物は便利だな、と思った。

 魔法も使える上に食事もいらないとは。

 オレも妖精あたりに転生したかったなぁ。


「私のことは良いのです。それよりこれからのことを考えましょう」

「そうだな。正直目下の課題は戦闘力なんだよ」


 これが一番の問題だった。

 武器の使い方の基礎も教わっていないから、修行も行き詰まっている。


「武器の使い方を教えてくれる師匠がいればなー」

「私が教えましょうか?」


 ......なんだかセフィーが聞き捨てならない言葉が飛び出してきた。

 セフィーが武器を扱えるのならば師匠不足の問題が解決する。

 オレはセフィーに頼み込む。


「セフィー師匠! どうかこの未熟な弟子にどうかご教授のほどを! よろしくお願いします!」

「まあ、あなたが未熟だと私が困りますし、武器の扱い方をご教授してあげましょう。ですがあくまで基礎なので達人になれるほど教えられるというわけではないのでそこは注意してください」

「構わないさ。基礎すらできていないんだからな」


 セフィーが思いついたかのように質問する。


「そういえば、あなたの身分は平民ですけどどうするのです? 平民だとまず戦うこともできないのですが......」

「それなんだよな......。平民が武器を持って戦うなんて許されないし。オレが実は王族だとバラすか?」


 あまり使いたくない手だがやむを得ない場合は竜帝国の王家、ドラクリアに連なる人物だとバラすのも手かもしれない。


「王族? あなた王族だったのですか?」

「あ、そういえば言ってなかったな。オレは8年前までは、ここからずっと離れた竜帝国の王子だったんだ。まあ、いろいろあって暗殺されかけたからここまで逃がされたんだが」


 オレは今でも苦い記憶となっているあの頃を思い出す。

 オレを産んでくれた父さんと母さんの顔は記憶も朧気になっているが優しい家族だったことは覚えている。


「逃がされたって誰にです?」

「さあ? 黒衣を纏って顔は仮面で隠してたし一切分からん。魔法を使ってたし、僧侶階級の誰かだということくらいかな」


 しかし武器を使い始めた今だからこそ、あの男の武器を扱う技量が凄まじく高いことが分かる。

 あの男は一体誰だったのだろうか。


「なるほど。そういう事情があったのですか。その男のことはひとまず置いておいて、家名を名乗るのはまずいです」

「理由を聞いても?」

「まずあなたは8年前も現れなかったのです。すでに死亡扱いにされているでしょう。どうせ偽物扱いが関の山です。それに生まれたばかりなら知名度も低い。とても身分の保証にはなりません。下手したら勝手に王家の名前を騙った偽物として処刑されます。だから絶対に明かさないでください。誰にも」

「......分かった」

「それでいいのです。では話を戻しますよ。身分については戦士階級に入ることを目標としましょう。まず認めてもらえる身分がないと平和にするために戦うなんてことも不可能ですから」

「戦士には平民でもなれるのか?」

「普通は無理です。しかし旅の途中で見つけた方法があります。その方法は時が来れば伝えます。ですがその手を使うためには、まずあなたには強くなってもらわないとなりません。少なくともこの国で最強くらいにはならないと」


 戦士階級に戻れる方法がある?

 とても全うな手段ではないだろう。

 しかしそもそもオレの境遇が全うではないのだ。

 それなら多少危ない橋を渡ったところで問題ない。

 それで目的が果たせるなら。


「なんにしても、まず強くならないとな。狼なんかに苦戦しているようじゃ、この国で成り上がるなんて夢のまた夢だ」

「そういうことです! ではそろそろ寝ましょう。今日はいろいろありましたし、私も眠たいです」


 セフィーが布団に入る。

 オレも眠くなってきたし、そろそろ寝るか。

 照明の蝋燭の火を消し、布団に入る。


「お休みセフィー」

「ええ、お休みなさい悠斗」




 ◆




 次の日の朝、両親が村のみんなにセフィーを紹介してくれた。

 みんなは快く受け入れてくれた。

 特にセフィーがとんでもない美少女なのもあって大人と男の子達には大人気だった。

 朝はセフィーへの質問攻めや子供達との交流でセフィーは大変だった。


 オレとセフィーは早々に昼食を食べ、子供達に気付かれない内に森に急いだ。

 オレはまず昨日殺めた狼を埋葬することにした。

 セフィーと再会した場所につくと狼の亡骸はまだ残っていた。


「穴を掘るからセフィーも手伝ってくれ」

「分かりました。襲ってきた相手ですから微妙な気分ですが、亡くなった者は誰であれ罪は浄化されるのです。昨日のことは許してあげましょう」


 セフィーは狼に祈る。

 日光がセフィーを照らしてその黄金の髪をキラキラが光っている。

 その姿の神聖さは女神と言われても納得できるものだった。

 その後、オレ達は一時間かけて穴を掘り、狼の亡骸を入れて埋めてあげた。

 

「さて、修練場に向かうか。剣術と弓術を教えてくれるんだっけ」

「ええ。教えるといっても基礎だけですが」

「それでいいや。基礎があるのとないのとではかなり違う。修行も行き詰まってたしな」

「ではさっさと向かいましょう。時間は待ってくれません」


 狼の墓を後にしてオレ達は修練場に向かった。




 ◆




 この日からオレの修行が本格的に始まった。

 セフィーの指導のもと剣術を習い、弓術は構え方から見直され、構えの基礎をみっちりしごかれた。

 修行がない日は子供達と遊んだり、たまに村の工事や物資の運搬作業を手伝って筋トレの一環にしている。

 夜にはセフィーと次の訓練内容やその日の出来事を話し合い、最後にはセフィーのおやすみなさいで締めくくる。





 この生活を続けていると、気がつけば6年の月日が流れていた。

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