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脱出~剥奪された王位~

 

 オレが生まれて5ヶ月ほど経った。

 この5ヵ月で判明した重要なことと言えば、どうやらこの世界の言語や月日は元の世界と大して変わりはないようだ。

 全員日本語で喋っている。

 いちいち言葉を覚えなくていいのはありがたい。

 文字は違うようだからこれは覚えないといけないが。


 正直情報収集については上手くいっていない。

 赤子だから常にベッドにいる。

 たまに移動する時も両親かお付きの人がついてとても一人で動くこともできない。

 制限が大きすぎるのだ。

 これまでほとんど無駄に過ごしただけだった。


 オレの出自は薄々感づいてはいたのだがどうやら一国の王子らしい。

 それも直系の兄がいないので王位継承権第1位なのだと、父のルシウスは語ってくれた。

 この世界の王位継承は王の息子が、優先されるしきたりらしい。

 もし、王に息子が生まれなかった場合、親族の中から優秀な男を養子にする仕組みだとか。


 どうやら姉は両親が結婚してすぐ産まれた子供らしいが、それから9年間子供を身籠ることもなく、親族の優秀な男を養子になることがほぼ決定してたそうだ。


 しかしオレを身籠り、出産したことでその養子の話はなかったことになったらしい。

 つまり息子のオレだけが王の血を継ぐ正統な後継者だ。

 正直王とかかったるいと思ってるんだが、目的を考えたらこれ以上はない地位だろう。


 明日は竜帝国建国祭の日だ。

 どうやらこの祭りはかなり大きい祭りらしく、他国からも多くの人間がやってくるらしい。

 その日にオレのことを国民や他の国々に盛大に発表するのだ、と父さんは言っていた。


 今までのことを整理していると、母さんのマルグリットが部屋に入ってきた。

 

「さあ、私の愛しいユート。今日は明日の建国祭のために、遠いところからお出でくださった親族の皆様にご挨拶しにいきましょうね。リズ、ユートをお願いね」


 マルグリットの横にいたメイドが「分かりました」と言い、オレを抱き抱えた。


「まず叔父のアルフレッド様の所に行ってその次は妹のメアリージュン、次は──」


 そういえば、姉は留学先の学校の都合で帰ってこれないらしい。

 南無三。


「後は──ドゥシャーナの所にも行かなきゃね。王位を継ぐのに相応しいと誰にも認められ、夫を尊敬して私達の息子になることを夢見ていたのに、ユートが産まれたことでそれがなくなったから私達を恨んでいるのでしょうね......」


 ドゥシャーナ。

 メイド達がしていた会話で聞いたことある。

 オレの父である王ルシウスの亡くなった弟の息子。

 オレとは従兄弟の関係だ。

 オレが産まれなければ両親の養子になり、王位を継ぐはずだった人物。

 15歳という若さで戦場に出て数々の武勲を立てた類い稀な才能を持っており、人望もあるとのこと。

 

 正直気の毒だと思うが、オレはオレでやることがあるから譲るわけにはいかないのだ。

 だがとても良い人柄らしいし、今は無理だけどいつか普通の従兄弟同士仲良く話せたらいいなと思っている。


 オレは楽観的に考える。

 嘆くマルグリットにメイドのリズが慰める。


「大丈夫ですよ、王妃様。ドゥシャーナ様はとても強い方です。きっと今回の悲劇も吹っ切れています。噂では最近のドゥシャーナ様は晴れ晴れとしていると聞くではありませんか」


 リズの慰めにマルグリットも少し元気を取り戻す。


「そうですね、あの子は強い。それは幼い頃から知っている私が一番よく知っていることでした。ありがとう、リズ」


 リズは優しく微笑んだ。


「さて、叔父のアルフレッド様に会いに行きましょう。もう西の砦からこの城に着いて客間で休んでいるはずです」




 ◆




 何人もの親族と話をしてようやく最後の1人になった。

 オレが生まれなければ養子になっていたというドゥシャーナだ。

 オレ達はドゥシャーナがいる部屋の前に立つ。

 マルグリットがドアをノックする。


「ドゥシャーナ、いますか?」


 数秒後、ドアが開く。

 現れたのは金髪の美青年であった。


「王妃様? 何故ここに......あ、なるほど。挨拶周りとは、王妃様にご迷惑を。本来なら私が出向くべきなのに」


 ドゥシャーナは片膝をつき、頭を下げた。


「いえ、よいのです、ドゥシャーナ。これは私が好きでしていることですので。それにしてもしばらく見ない内に逞しくなりましたね。あなたに非道なことをした私が褒めるのは良い気分ではないのかもしれませんが......」


 ドゥシャーナが慌てたように立ち上がりその言葉を否定した。


「いえ、私は決して、あの出来事が間違っていたとは思いません。むしろ私のようなドラクリアの末裔が一時でも王の息子になり、王位を継ぐことを夢見たのが間違いだったのです。ですが本当に私のことを想ってくれるなら一つお願いがあるのです」

「ああ、ドゥシャーナ。そんな悲しいことを言わないで! 私達夫婦は本当にあなたのことを息子のことのように思っています。だから必要なことがあれば遠慮などせず、なんでもおっしゃってください」


 ドゥシャーナは笑ったような気がした。


()()()()()()()()()()()()()()()()()

「今夜は王の寝室に行く予定はありませんでしたが......。理由を聞いても?」

「今日は王に大切なお話があるのです。誰にも聞いてほしくありませんので」

「はあ......。そういうことでしたら、分かりました」

「よろしくお願いします。では私はこれからやらなければならないことがあるので」

「では私達はこれで」


 不穏な会話を最後にオレ達は部屋から退出した。

 オレは嫌な予感がしたが結局その予感の正体は分からなかった。




 ◆




 現在の時刻は恐らく深夜の12時を越えたあたり。

 もうほとんどの城の人間は眠りについている時間である。

 結局何もなかった。

 ただの思い過ごしだったのだ。

 そう思い、オレは少し安堵した。


 直後、部屋のドアが乱暴に開けられた。

 そこに現れたのは赤い鎧を纏った、この国の兵士であった。


 オレは混乱した。

 この部屋には家族以外は世話係のメイドしか入ってこれないはずだからである。


 だが兵士の次の言葉にオレは頭が真っ白になった。


「今から元王子を処刑する! ......可哀想だが悪く思うな。これも命令なのだ」


 オレの思考は停止した。

 まず頭に浮かんだのは疑問だった。

「なんで?」「どうして?」

 ただ疑問だけが頭を埋め尽くす。

 そう考えてる間に先頭にいた兵士がナイフを取り出す。

 オレは怖くなって目を閉じる。

 

 しかしいつまで経っても刺された感覚が来ずオレは目を開けた。

 するとそこには黒衣を纏った人物がいた。

 二本の短剣を持ち、兵士達と対峙している。


「こいつは殺させない」


 顔を隠しているのか、声がくぐもって聞こえる。

 しかし、何故だろう。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()


「なんだ貴様は! この城に無断で入るのは重罪だぞ!」

「ごたくはいい。さっさとかかってこい」

「貴様ァ!」


 兵士が黒衣の人物に剣を振る。

 しかし勝負は一瞬でついた。

 兵士の喉はいつの間にか断たれており、手首から先が切り落とされていた。

 

「(す、すげェ!)」


 あの一瞬でこの二断ちをやってのけたのか、この人物は。

 兵士は何が起こったのかわからないのか、喉が断たれたために苦しみの声も出せないようだ。

 そして次の瞬間首が切り飛ばされた。

 これには後ろにいた数人の兵士も絶句していた。


「お前達は来ないのか? ならば、こちらからいかせてもらおう」


 それからは一瞬だった。

 兵士達は抵抗しようとしたのだろうが、あっさり首を断ち切られていき、剣を取り出す暇もなかったのだ。

 しかしオレを一番驚嘆させたのは全員の命を奪った後でさえ短剣に血がついておらず、使用する前と同じ綺麗なままだった。

 当然、本人に返り血は一切ついていない。

 

 なんだかよく分からないが、助かったのだろうか?

 今更ながらこの人物がいなければ死んでいたということを思い出し、恐怖が湧いてきた。


 誰か知らないが助けてくれてありがとう!


 オレは心の中で黒衣の人物に感謝を述べた。

 傍目にはバブバフとしか言ってないだろうが。

 その黒衣の男はオレを持ち上げてきた。

 ここで初めてその人物が仮面を被っていたことに気がついた。

 その仮面は真っ白で何も模様がなく、右目しか開いていなかった。

 その右目から覗く瞳は金色だった。

 

「さっさとここから出るぞ。追っ手が来たら面倒だ」


 男はそう言い放った。

 オレは拒否権なく連れ去られた。

 外に出るとオレの部屋の外で待機していた近衛兵は事切れていた。

 武装もしていないことから先ほどの兵士に不意討ちされたのだろう。


 何がなんだか分からない。

 情報がほしい。


 そんな思いが伝わったのか、オレを連れて走っている男は話始めた。


「事の発端は2時間前のことだ。ドゥシャーナは王が秘密裏に麻薬の密売を支援していたことを発見し、昨晩王を王の寝室で問い詰めた。しかし王は問い詰めたドゥシャーナを剣で切り捨てようとした。ドゥシャーナはそれに反抗し、逆に王を切り殺した」


 オレはショックが大きかった。

 あの潔白そうな父さんが麻薬の密売をしていたこと、そして父さんが死んだこと。


「近衛兵が大きな音に気付いて王の寝室に入ったところ、そこにいたのは泣き崩れたドゥシャーナと亡骸となった王がいた。近衛兵は王の殺害者としてドゥシャーナを捕まえたがドゥシャーナは洗いざらい喋って、持ち込んでいた王の不正の証明を見つけドゥシャーナは無実とされたらしい」


 父さんが不正をしていたのは理解した。

 だがそれでオレが殺される理由が分からない。


 男は続きを語った。


「だが、ここまでの話は全てドゥシャーナの作り話だ。ドゥシャーナは無実の王を寝室で油断していたところを切り捨てたのだ。証明とやらもドゥシャーナが作り出した偽物だ」


 男は更に衝撃の真実を語る。


「ドゥシャーナが許されたのはこの国の大部分の貴族がドゥシャーナの陰謀に関わっているからだろうな。貴族どもは平民を優遇して自分達を冷遇するのが気に食わなかったらしい。この国の貴族どもはとっくに腐ってたんだよ。だから王の暗殺にも手を貸した。でなければこんなあっさり事が運ぶわけがない」


 男はそれを語った後、部屋の前に足を止めた。


「この部屋だ。この部屋から隠し通路で外に出られる。代々王にしか伝わることがない場所だから追っ手が来ることもあるまい」


 そうして男は部屋に入った。

 その部屋はたくさんの書物が棚に置いてある書斎だった。

 男は敷かれているカーペットを払い、地面を三回踏むとガコッと音がして、奥に隠し通路が現れた。

 そしてオレ達は奥の隠し通路に入った。

 隠し通路は灯りもなく、真っ暗だった。

 男は道具を取り出すと、その道具に火が点いた。

 火によってあたりが見渡せるようになり、オレは下に続く階段があることに気がついた。


「ここの垂れている縄を二回引けばこの通路は閉じる」


 そう言った男は壁にかかっていた縄を二回引くと先ほどまで開いていた部屋は閉じていく。

 そしてオレ達はゆっくり階段を降りていく。


 それにしても、この男はさっきからオレに理解させるように話しているみたいだ。

 オレが本物の赤子だったら理解できるはずないのだが。

 正直赤子に話しかける様は、格好も含めてただの不審者だ。


「どうやら、まだ気付いていないようだがお前の考えていることは伝わっている。当然、お前がただの赤子じゃないことも」


 オレは驚愕する。

 考えていたことは全て漏れていたらしい。

 考えていることが分かるなんてエスパーかなにかだろうか。

 何故分かるのか、という疑問を考える。


()()()()()()()()()()。話を戻すぞ」


 オレの驚きを無視して話始める。


「ドゥシャーナはお前が邪魔だったんだろう。いくら不正をした王といってもその息子だ。継承権は残っている。ドゥシャーナの目的が王になることだから、お前は消しておかないといけなかったのさ。いくら大部分の貴族がドゥシャーナについても親族、とりわけ軍神アルフレッドは親王派だ。確実に今回のことに疑いを持ち、王の息子であるお前を保護して手を出せないようにするだろう。だからお前を今日中には抹殺したかったのさ」


 とりあえずオレはあの気さくなアルフレッドが敵じゃないことに安堵する。

 だが分からない。

 ドゥシャーナはとても人徳のある人物と聞いていたのだが、今回のことはまるで別人だ。


「あいつは噂ではさぞ高潔な男らしいが実際は欲望だらけの男だ。王になれるという最大の欲望を邪魔した王と王妃、そしてお前には計り知れない憎しみがあったのだろう。それが今回の凶行の原因だ。皆油断している竜帝国建国祭の前日はドゥシャーナにとって復讐を果たす最大の好機だったわけだ」


 ちょっと待て!

 王妃も恨んでるだって!?

 それじゃ、母さんはオレみたいに危ないんじゃないのか!?

 オレみたいに助かってて欲しいと願った。

 しかし、男は無慈悲に事実を言う。


「最初に殺されたよ。犯行は貴族の誰か。駆けつけた時は亡骸を兵士達に犯されていた。その兵士達は全員殺したが、どの貴族がやったのかまでは分からなかった」


 なんてことだ!

 オレは泣き出しそうだった。

 逞しかった父さんは無実の罪で殺され、優しく美しい母さんは殺されただけじゃなく、心ない連中に汚された。

 胸が苦しくてどうにかなってしまいそうだ。

 オレはドゥシャーナとこの国の貴族どもに深い憎悪を抱いた。


「さて、そろそろ出口だ。これからお前を別の国に逃がす」


 別の国?

 アルフレッドのところに送ってくれれば大丈夫なんじゃ?


 オレは当然の疑問を考える。

 その瞬間、初めてこの男に恐怖した。


「それは困る。お前には()()なってもらわなければならないのだから」


 口は仮面に隠れて見えないが、笑っているように見える。

 異様な雰囲気だった。

 味方だと決めつけていた男は、もしかしたらドゥシャーナ達より危ないのかもしれない。

 そう思わせるほどのプレッシャーを感じる。


「お前はこれから数々の試練と立ち向かう。もう助けてくれるやつもいない。1人で試練に立ち向かうのだ。だがこれだけは覚えておけ。この世界の誰よりも強くなったら、いつか会いに来い」


 それを言った後、男の手が光りオレの意識はなくなっていく。






 







 ああ、なんて()()()()のだろう。





 

 








 

 男が放つ美しい光にそんな感想を最後に考えた。

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