誕生~生まれた先は王族~
今日は2時間置きに連続投稿します。
なんだか体全体が温かい。
まるで温泉に浸かっているようだ。
しかし気が付けば全身を被っていた温かさはなくなり、急に全身から痛みが発した。
「オギャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「──ま────のか!」
「お──び────様!元──男の子──す!」
誰かの声が耳を刺激するが、完全に聞き取れない。
だがオレはそれどころではなかった。
あまりの痛みに、口から漏れ出る泣き声を止められなかった。
「元気────子だ。この──将来凄い──になるぞ!」
痛みにようやく慣れてきて、耳が周囲の音を拾えるようになってきた。
低く威圧感のある声が耳に響く。
体に伝わる感触から、どうやら誰かに持ち上げられてるらしい。
赤子の体でも分かるくらい、ゴツゴツした大きな手だ。
ようやく目が見えるようになってきた。
目を開いてみるとそこには―――――――――
「おお、よしよし! すぐに泣き止むとは素晴らしい才気を感じさせる子だ。賢者様の言った通りだな! 流石、我が息子である!」
東洋人のような黒い長髪と瞳がオレを見つめていた。
オレは今まで異世界の髪は金髪や赤毛が主流だと、漫画やアニメ知識で思っていたので親近感を覚えた。
日本人に似ているなあ。
異世界というからもっとファンタジーな見た目なのかと思ってたけど。
ていうか日本語を喋っている?
「マルグリットよ、お主も抱いてみよ。とても可愛らしい赤子だ。顔は私に似ているが、このアメジストの瞳は間違いなくマルグリット似だろう」
「ふふふ、ルシウス様ったらそんなにはしゃいで子供みたいですよ? ほらおいで私の可愛い子」
ルシウスと呼ばれた男はマルグリットと呼んだ黒髪の女の人に、オレをそっと渡した。
「あら、本当に目の色は私にそっくりなのね。それ以外はルシウス様にそっくりですけど」
マルグリットと呼ばれた女の人は優しく笑った。
この女の人に抱かれていると、安らぐのは何故だろう。
母親だからだろうか?
なんだか無性に眠たく────
◆
目が覚める。
自分の状態を確認する。
オレは大きなベッドに寝かされていた。
先ほどの二人のことを考える。
恐らく今世の自分の父親と母親なのだろう。
とりあえず、これからどうするか考える。
戦争を止めることが目的だがこんな状態で出来ることなんてほとんどないよな。
とりあえず赤子の頃はこの世界の情報収集に勤しもう!
方針を決めたオレは周囲を観察する。
周りには誰もいないようだ。
この部屋はなんだか豪邸を思わせるような部屋だった。
オレが寝ているベッドの周りには色とりどりの花が飾られており、壁には何枚もの高級そうな絵がある。
その中でも特に目を引く、きな絵があった。
大きな竜とそれに相対する一人の剣を持つ剣士。
何故か、その絵にとても惹かれるのをオレは感じた。
その絵を見つめているとドアが開く音がした。
目を向けるとそこにいたのは先ほどの父親と思われる人物と、小さい黒髪の女の子だった。
「キャー! カワイイわ! 赤ちゃんってなんて愛らしいんでしょう! お父様とお母様だけ先に抱いたのだからずるいわ!」
「ははは、最初に赤子を抱けるのは親の特権だよ。マリアも大きくなったら同じことができるさ」
「それでもずるいったらずるいの!」
そんな会話をしながら近づいてくる二人。
今の会話から、このマリアと呼ばれた女の子は自分の姉なのだろうか?
マリアはオレを抱いてこう言った。
「初めましてね、私の可愛い弟くん!私の名前はマリアンヌよ! 年は今年で10才なの!」
マリアはマリアンヌの愛称みたいだ。
そしてオレより10歳も年上なのが驚いた。
オレとはかなり年が離れてるけど、子供ができにくい夫婦もいるか
オレはあまり深く考えなかった。
「ねえねえ、お父様? 私の弟くんのお名前はもう決まったの? 決まってないなら私につけさせて? マリアがとっても可愛い名前をつけてあげるから! アナとかアンジェとかもういっぱい考えたんだから!」
どうやらオレの名前の話らしい。
だが可愛らしい名前は勘弁だ。
出来れば男らしい名前をつけてほしい。
父のルシウスがマリアに優しく語りかける。
「子供の名前は親がつけるものなんだよ」
オレはその言葉に安堵した。
大人ならきっとまともな名前をつけてくれるだろう。
「ならもうお名前は決まったの?」
「ああ、もうお母様と話し合って決めてあるんだよ」
今世のオレの名前が決まるのか。
前世は青崎悠斗だったが、今更違う呼び名になるのは少し違和感を感じる。
「この子の名は────
ユートだよ」
その瞬間、オレの思考は停止した。
あまりの驚きに頭が真っ白になったのだ。
「ユート? どこかで聞いた名前ね」
マリアが聞き捨てならない言葉を吐いた。
どこかで聞いた?
この世界ではユートという名前はごくあり触れているのだろうか。
「マリアも聞いたことはあるはずだよ。この竜帝国に古くから伝わるお伽噺を」
「お伽噺? ......あっ! 竜と国を救った戦士の物語ね!」
「そうだよ。この竜帝国の初代王であり、ドラゴンスレイヤーを成し遂げた英雄戦士ユートの冒険譚さ。あそこにある大きな絵を見てごらん」
そう言ってルシウスは、先ほどオレが惹かれた大きな竜と戦士の絵を指差した。
「あれは英雄ユートの冒険譚、最終章のドラゴンと対決した場面を絵にしたものだ。父さんはあの話が大好きなんだ。だから、ユートも英雄ユートのようにこの国を救う偉大な戦士になって欲しいという願いで同じ名前を名付けたんだ」
これがオレにユートと名付けた理由か。
ルシウスは憧れで名付けただけだろうが、オレはかつてないほどの衝撃を受けた。
偶然というには出来すぎている。
なんだか薄気味悪さを感じた。
「なら、あなたはこれからユートね! 私の可愛いユート! 大きくなったらお姉ちゃんと一緒に遊びましょうね~!」
「ははは、マリアはすっかりユートに骨抜きだな」
「だってこのお城には私よりお年がお上の方しかいないのだもの! 私より年が下なのはユートだけだわ! だから、お姉ちゃんとしてたくさん可愛がっちゃう!」
「初めての弟だものね。そういえばマリアは大人になるために次の月から学校に入学するのだろう?」
「うん! でも、学校に行くためにはシャロット王国に留学しなくちゃいけないの。だから私が大きくなって帰って来た時は、ユートも私のこと忘れちゃってるかも」
マリアは少し悲しそうに語った。
大丈夫だマリア。
オレの意識は覚醒しているから忘れることはないぞ。
「ユートは賢い子だからすぐお姉ちゃんだと分かるさ」
「ふふ、お父様ったら。でもそうね。ユートならきっと私のことも一目でお姉ちゃんだと分かってくれるわ!」
なんだかやけに信頼されてて、転生しているのがバレてるんじゃと、不安になってくるオレ。
そんな会話をした2人は部屋から出ていくのだった。
先ほどの会話から出てきた情報を頭で整理する。
まだまだ情報は不足している。
この調子だと先が思いやられるが地道にやるしかない。
これからのことを考えながらオレは眠りについた。