提案~ケイの企み~
『ピチョン』
水滴が跳ねる音で目覚める。
目を開けるとそこは洞窟の中だった。
ここがどこなのか分からない。
オレは自分の体を見てみると裸にされていて、いたるところに布らしきものが巻かれていた。
すぐ隣を見ると刺さっていたと思われる矢が落ちていた。
パッと見10本くらいはある。
よくこれだけ刺さって生きてられたな、と自分でも感心する。
横に置いてあった剣を掴む。
立ち上がり、光のある場所へ歩いた。
洞窟を抜けると川が見える。
どうやら最後に倒れた場所の付近らしい。
「ユートさん! 気がつきましたか!」
横からアリーサさんの声がしたのでそちらを向く。
手には水で濡れている布を持っており、服はところどころ破けていた。
どうやらオレの体に巻いてある布はアリーサさんの服らしい。
オレは申し訳なく感じた。
「アリーサさん。すいません服を......」
「いいんですよ、服なんて。助けてもらったのですから。むしろこんな程度しかできなくて申し訳ないくらいです。傷口には薬草で作った軟膏を塗っていますが傷は痛みますか?」
「いえ、あんまり痛みませんね」
「それならよかったです。この軟膏はエリリク秘伝の薬なので良く効くのですよ」
「ええ。歩ける程度には元気があります。ところでオレってどのくらい寝てました?」
「今はもう日暮れですから、ざっと10時間は眠っていたかと」
オレはそれに仰天する。
確かに傷が傷だからそんなに眠っていてもおかしくないかもしれないが、このままだとまずい。
バンデッドがあの程度で諦めるとは思えないのだ。
もしかしたらこうしてる間にも村を襲ってるかも。
「急いで村に帰りましょう! はやく村の人に今回のことを伝えないと!」
「ええ。まだ傷で歩きづらいでしょうから私の肩を支えにしてください」
オレはアリーサさんの肩を貸してもらおうとする。
だがオレは足をもつれさせて躓く。
アリーサさんが慌ててオレを体で受け止めてくれた。
痛みは少なくても体は全く本調子ではないようだ。
「ありがとうございますアリーサさん」
「い、いえ......」
なんだか密着してるせいか雰囲気が気まずい。
心なしかアリーサさんの白い顔が赤くなってるような......。
いや、そんなことより村にさっさと急がないと!
オレはアリーサさんに肩を貸してもらいながらできるだけ急ぎ足で村に向かった。
◆
村はいつもより騒がしかった。
オレ達は村に近づいていく。
1人のエルフがこちらに気づいた。
「アリーサさんが帰ってきたぞ!」
男が叫んで他の村の人が集まってくる。
みな無事かどうか聞いてくる。
どうやらアリーサさんがいなくて大騒ぎになっていたようだ。
その中から1人飛び出してきた。
その飛び出した人物はアイシャであった。
アイシャがアリーサさんに抱きつく。
「ママぁ! 生きててよかったぁぁぁ! いつまでも帰ってこないかな何かあったんじゃないかって!」
「アイシャ......。心配かけてごめんなさい。私は大丈夫よ」
アイシャが涙を流してアリーサさんの無事を必死に確かめている。
アリーサさんは穏やかな顔でアイシャを慰めている。
オレは2人の邪魔をしないようにゆっくり離れた。
するとセフィーが近くに寄ってきた。
「あなたも災難でしたね。傷だらけじゃないですか。癒してあげますからじっとしててください」
「セフィーは心配してくれないのか?」
「心配しましたけど生きてることは分かっていましたし。以前言ったでしょう? 魂に目印つけたって。それであなたの魂がまだこの世にいることが分かっていましたから、みなさんほど心配はしていませんでした」
「そういえば以前言ってたな。うん? ならみんなに言ってオレ達を探すのもできたんじゃ......」
「魂を目印なんてどう説明すればいいんですか。それに私は自分の能力を見せて面倒ごとを背負い込みたくないので」
「冷たいなあ~」
「なんとでも言ってください。私はあなたみたいにお人好しじゃありませんので」
セフィーが回復魔法で傷を治してくれる。
体の調子がどんどん良くなってきているのを感じる。
こうして簡単に傷を治して体力を回復させるのを見ると魔法の強力さが分かる。
オレが治してもらっているとラバックさんがこちらにやってくる。
「村人全員を代表して礼を言う。体を張ってアリーサさんを助けてくれてありがとう。あんたには感謝してもしきれない」
他のみんなも口を揃えて礼を言ってくれる。
ちょっと気恥ずかしくなってきた。
「オレは当たり前のことをしただけですから......」
「謙遜するな。もしかして照れてるのか?」
照れてることに気づかれてみんなから笑われる。
オレはもっと恥ずかしくなって顔を赤くした。
◆
オレとアリーサさんは何が起きたのかを村のみんなに伝えた。
村のみんなは冷静に聞いていたが、話終えると烈火のごとく怒りを露にした。
「ふざけやがって!」
「黙ってやられてたまるか!」
「アリーサさん! 俺達も戦いましょう! このままだとあいつらまた攻撃してきます!」
「そんなことになる前に俺達から攻撃しよう!」
みんな攻撃的になっている。
当然だ。
黙っていたら自分達が攻撃されるのだから。
「アリーサさん......」
「もう止めることはできません。相手に攻撃する意志がある以上私達も武器を取らないと生き残れません」
アリーサさんも戦う決心をしているみたいだ。
ラバックさんがみんなの前に出る。
「俺達は誇り高きエリリクの民だ! ダークエルフの連中にこのままいいようにされっぱなしでいいのか!? あの世で先祖様達に顔向けできるか!? 俺はなにもしないでただ殺されるのはゴメンだ。俺は戦う。死ぬ時は誇り高く死に、あの世に行く。さあ、戦う者は武器を取れ! 奴等に誇り高き民族の勇姿を見せつけるのだ!」
ラバックさんが握り拳を天に突き上げる。
それに呼応するように村人全員が雄叫びをあげる。
オレはその光景に何も言えなかった。
彼らの決意はとても止められるようなものじゃない。
結局争いを止めることもできなくて顔を歪める。
オレとセフィーはその集まりからこっそり抜け出す。
「もう争いを止める方法はないんだろうか」
「ありません。私達は部外者です。こればかりは何も言う権利はありませんよ。彼らは自分の意思で戦う選択をしたのです」
「......くそっ!」
オレは苛立ち地面にある小石を蹴る。
小石が転がった先には人影があった。
そこにいたのは────
「......ケイ?」
「どうやら争いは止められなかったらしいな」
オレは苦い顔をする。
だが次のケイの言葉に驚く。
「......争いを止める方法ならある」
「......なんだって?」
「争いを止めたいのだろう? なら俺の提案を聞け」
オレはケイの言葉が信じられなかった。
だが藁にもすがる思いでケイの提案を聞いた。
「争いを止める方法って?」
ケイはゆっくり口を開く。
「今夜中に『バンデッド』を暗殺しろ」




