親子~村長の役目~
「オレと同じ──?」
「ああ、そうだ。名はバンデッドとか言ってたな」
「バンデッド......。何故別の人種のやつに従っているんだ? それも自分達の長を殺したやつに」
「そうするしかなかったんだ。俺達は元々食料もまともに確保できなくて飢え死にしかけていた。従えば食料をやつが用意してくれたんだ」
「だから従ったのか?」
こくりとケイは頷いた。
食料はどうやらダークエルフにもあるらしい。
これで食料を渡して穏便に済ますという手が使えなくなった。
「食料をそのバンデッドから奪うことはできかったのか?」
「無理だ。やつはどこに隠してるのか誰にも喋らないし、食料を探そうとしたやつはバンデッドに殺された。それ以降誰も食料は探さなくなった」
「戦わなかったのか? 聞く限り1人なんだろ?」
「......あいつは俺達の中で最強だった長をあっさり殺したんだ。更に長が持っていた魔法武具を手に入れてから誰も手がつけられなくなった。戦おうなんて気力自体湧かない」
「魔法武具か......」
以前セフィーに聞いたことがある。
確か魔力のこもった武具でそれがあれば魔力を持ってなくても魔法が使えるとか。
魔臓と呼ばれる魔物の魔力を作る器官を加工しないと造れないからかなりレアらしい。
ケイがこれまでのことを語ると今まで黙って聞いていたアイシャの罵声が飛ぶ。
「呆れた。死にたくないから嫌なやつにも従って命令されたら人も殺すってわけ? ふざけんじゃないわよ! あんた達は奴隷と何も変わりないわ! 戦う勇気もないあんた達は一生奴隷思考でいなさいよ! でもね、あんた達が次村の人を傷つけたらそいつらみんな私が皆殺しにしてやる!」
「アイシャ!」
アイシャは怒鳴り、足音を立てて外に出ていく。
アリーサさんはケイに頭を下げて謝り、アイシャを追いかけていった。
ケイは自嘲するような苦笑をする。
「ああ言われるのも仕方ないな。俺達はとっくに心折れてバンデッドの言いなりだ。それまでは最強の部族と自慢していたんだがな」
「......」
どんな言葉をかけても慰めにはならないだろう。
ケイはもうとっくに折れた人間なのだ。
他人がとやかく言っても仕方ない。
「オレはこれからあんた達の住居に行く。できれば正確な場所を教えてくれないか?」
「正気か?」
セフィーが急に立ち上がる。
オレはそちらに視線を移すと焦った顔でこちらを見ているセフィーがいた。
「そうですよ! こんなことに関わらずさっさとこの村を出ましょう! 絶対やばい案件ですよこれ!」
「でも見捨てられないだろ? セフィーも恩を受けたんだから手伝おうぜ」
「馬鹿ですかあなたは! 確かに恩はありますけどこれとそれとは別問題です! 最悪死にますよ!」
「別問題なもんか。オレは助けると決めたからな。放っておけるわけない」
「あ、あなたって人は......!」
セフィーが何を言おうとエリリクの村の人を見捨てる気はない。
まだ出会って間もないが皆いい人ばかりだ。
もしここで見捨てる程度の男ならオレの目的も世界を救う使命も達成できるわけない。
「で、どうなんだ? 場所は教えてくれるのか?」
「......本気みたいだな」
「当たり前だ。嘘でこんなこと言うか」
「別にいいがな。どうせ命令を失敗した俺は殺される。洗いざらいぶちまけてやる」
ケイはダークエルフの住居を正確に教えてくれた。
どうやら昼間シェカを狩った場所の更に奥の森林で暮らしているらしい。
オレは情報をくれたケイに感謝する。
「ありがとうな、詳しく教えてくれて」
「俺も1つ聞かせろ。何故お前は赤の他人にそこまでする? お前はそこのチビが言ったようにここから逃げることだってできるはずだ」
「チビ!?」
セフィーがなんだかショックを受けているが話が拗れそうなので無視する。
「言ったはずだ。知り合いを見捨てるなんてできるわけない」
「何の見返りもなくてもか?」
「ああ。見返りなんて求めてないからな。ただ助けたいと思ったから助ける。もし見捨てたらこの先きっと罪悪感を持ち続けると思う。そんなのは嫌だ。オレは自分に正直でありたい」
「自分に正直......」
ケイは考え込んでる。
気がつくとセフィーがオレをあんぐりと見上げていた。
「あなたはそんなこと考えていたのですか」
「オレだってやばいってくらい分かるさ。でもそれ以上にここで見捨てたらその先も逃げ続けることになりそうだと思ったんだ。そんな男が世界なんて救えると思うか?」
「......はあ。分かりました。あなたが使命に必要だと言うのなら私も手伝います。それに────私は悠斗のパートナーですしね」
「そうか......! ありがとなセフィー」
セフィーを説得することはできたみたいだ。
後は、出ていったアリーサさんが戻ってきて事情を話すだけだ。
◆
30分ほど経ったら2人は戻ってきた。
どうやらアイシャも落ち着いたようだ。
オレはアリーサさんにダークエルフの住居に向かうことを話す。
アリーサさんはそれに驚いている。
アイシャはオレに食ってかかってきた。
「あんた馬鹿なの? 死にに行くようなものよ」
「大丈夫さ。危なくなったらすぐ逃げる。足には自身があるんだ」
「......ふん! 別に私はあんたがどうなろうと知ったことじゃないけどさ!」
心配してくれたんだろうか?
相変わらず嫌われてるけど嬉しくなる。
「ユートさん、そこまでしてもらう必要はありません。これは私達が解決すべき問題です」
「アリーサさん......」
「ですがユートさんがそれでも関わると言うのなら止めはしません。私はユートさんに命令できる立場ではないので。その代わりお願いが1つあるのです」
「お願い──ですか? ええ、可能なことならば」
「私もダークエルフの住居に連れていってください」
これにオレは驚く。
村長自ら敵の本拠地に行くとは思わなかったのだ。
アイシャもこのアリーサさんの言葉に固まってる。
「お願いできますか?」
「何も村長自ら行かなくても」
「いえ、他の人では争いの種になってしまいます。村長である私自身が行き、争いを起こさせないように交渉しなければならないのです。これは私の役目です」
「......」
村長の固い決意を感じる。
オレがどう言おうと考えを変える気はなさそうだ。
仕方ない。
オレはアリーサさんを連れていくとにする。
「分かりました。しかし危ないと感じたらすぐ引き返しますよ?」
「構いません」
「ダメよママ!」
アイシャがアリーサさんに抱きついた。
どうやら引き止めようとしているみたいだ。
「ママが行く必要ない! 私が変わりに行くわ!」
「駄目よアイシャ。これはね、村長の役目なの。誰にも変わりは務まらない。分かって」
「そんなの関係ない! 私がバンデッドとかいう男を殺すわ! それで全て解決するんでしょ!?」
「そんな考えだからあなたはいつまでも子供なのよ。村長なら冷静に物事を見て判断しなければならないの。あなたには務まらないわ」
「なら、私が護衛するわ! そんな男よりも私の方が──」
「あなたよりユートさんの方が頼りになるわ。だからあなたは家で待ってなさい」
「なんでよ! なんでいつも私を認めてくれないの!? ママのバカ!」
アイシャは部屋を乱暴に開け中に閉じ籠ってしまった。
オレはアリーサさんにこれでいいのか聞く。
「いいのですよ。厳しくしないとアイシャはすぐに調子に乗ってしまうから。あの子の弓は本物なのだけど、心の方はまだ成熟していない子供のままです。私が駄目な母親だから......」
「そんなことないですよ。アリーサさんは立派な母親です」
「そうだといいのですけど」
アリーサさんはそう言って厨房に向かう。
今から晩御飯を作るのだろう。
オレとアリーサさんは明日の早朝ダークエルフの住居に向かう。
「明日は荒れそうだ」
確信めいた予感が頭から離れなかった。




