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村落~エリリクの民~

 

「......知らない天井だ」


 オレは目が覚める。

 目が覚めてまず目に飛び込んできたのは木の天井だった。


「ここは......? どこかの家か?」


 オレは体を起こす。

 少し胸が痛む。

 シャツを上げ、胸を見ると包帯が巻かれてあった。

 その傷で眠る前に起きたことを思い出した。


「オレはあの男に負けたのか」


 半裸の男になすすべなく完敗したことにオレは暗い気分になる。

 あそこまで何も出来ずにやられるとは思わなかったのだ。

 ダグザを倒した自分の力への自信を完膚なきまでに粉砕された。


「オレもまだまだだったってことか......。そういえばセフィーはどこだ?」


 オレはベッドから抜け出してゆっくり木の板を歩いていく。

 前方に下に降りる階段が見える。

 どうやらここは2階のようだ。

 オレは階段をゆっくり降りていく。

 すると良い匂いが漂ってくる。


「あ、起きましたか! 少し待っててくださいね。もうすぐできますから」


 長い金髪をまとめて肩にかけている、耳の尖ったエルフらしき女の人がいた。

 オレは困惑してその女の人に訪ねる。


「えっと、あなたは......?」


 エルフの女の人は作業している手を一旦止め、こちらに振り向く。


「私はエリリク村の村長、アリーサと言います。あなたはユートさんですよね?」

「なんでオレの名前を?」


 アリーサと名乗った女の人はふふっと笑う。

 その仕草はとても上品に見えた。


「セフィーさんから事情は伺っております」

「事情?」

「神様への供物を間違って食べてしまって、レックス様と戦われたとか」

「レックス?......あの半裸の男のことか」

「ええ。あの方は神様に仕える神聖な賢者様なのでとても怒ったことでしょう。しかしレックス様があなたをここまで運んできたので、あなたの罪は許しているのでしょう」


 半裸の男がオレをここまで運んだのか。

 この傷をつけたのはあの男なのだが、悪いことをしたのはオレなので今度会ったら謝罪と礼をしよう。


「ところでセフィーはどこです? ここにはいないみたいだけど」

「娘と出掛けましたよ。もうすぐ帰ってくると思うのですが......。あ、噂をすれば」


 玄関のドアが開く。

 そこにはセフィーとオレと同い年くらいの髪をサイドにくくったアリーサさんそっくりの女の子がいた。


「あ、やっと目が覚めましたか! あまり心配させないでください!」

「......すまない。ところでそっちの子は──」


 オレはアリーサさん似の子に話しかける。

 眉が上がってオレを睨みつけている。


「あなた、勝手に供物を食べたそうね! なんて罰当たりなやつ! その傷も自業自得だわ! 賢者様に謝りなさい!」


 いきなり罵倒された。

 いや、罵倒の内容は至って当然なので胸が痛い。


「アイシャ! お客様にいきなりなんて態度取るの! まずは自己紹介からでしょ!」


 アイシャと呼ばれた女の子はアリーサさんに怒られる。

 怒られた女の子は眉を下げてこちらに謝ってくる。


「......不本意だけど今のは謝るわ。私はアイシャ。よろしくする必要はないわよ」

「お、おう」

「こら、アイシャ!」


 またアイシャが怒られている。

 この子はどうやらオレが嫌いらしい。

 セフィーが話しかけてくる。


「私には普通でしたのにあなたには厳しいですね。やっぱりこれも普段の行いの差でしょうか」

「オレってそんなに普段の行い悪い?」

「悪いです。具体的には私の扱いが雑です。もっと敬いなさい」

「はいはい」


 アイシャはアリーサさんに怒られた後もオレへの態度は変わらなかった。




 ◆




 4人でアリーサさんが作ってくれた昼食を食べる。


「そういえばオレってどれくらい寝てました?」

「朝に運ばれてきたからそんなに寝てないですよ。大体4、5時間ってところです」


 レックスと戦ったのが早朝だったから起きるのは早かったらしい。


「そのレックスは今どこにいるんです?」

「様をつけなさいよ。レックス様ならもう村から出ていったわよ。あんたが台無しにした儀式の再開をするって言ってたわ」


 辛辣な言葉を放ったのはアイシャだ。

 やはり嫌われてるらしい。


「えっと、その儀式ってそんなに大切なもの?」


 これにはセフィーが答えてくれた。


「僧侶の儀式は大切ですよ。僧侶の役目は神に仕えることですから。神のために供物を捧げ、祈るというのはとても神聖な行為なのです。誰かがぶち壊しましたけど」


 オレは苦虫を潰したように呟く。


「だって、知らなかったし......」

「あんたそんなことも知らないの? それでよく旅なんてしてるわね」


 アイシャがオレに突っかかる。


「アイシャ、いい加減にしなさい。レックス様はもう許しているのです。私達が口を挟む権利はありません」

「でもママ......」

「でもじゃありません」


 オレはレックスという男のことが気になった。


「レックス......様は僧侶階級なんですよね? 僧侶階級の人はもっと大きな町にいるものなんじゃ? オレはそう習ったんですけど」

「レックス様は特別なのです。あの方はもう何百年も生きている賢者ですから。ずいぶん昔、人間界から去って森の奥に隠居したのです」


 オレは桁の違いに驚く。


「な、何百年!? あいつそんなに年上だったのか!?」

「あいつって何よ! レックス様は凄いのよ! 魔法だけじゃなく武芸も極めたお方なんだから! あんたが戦って生きてること自体が奇跡なのよ」


 武芸を極めた......。

 道理で歯が立たないわけだ。

 オレとは年季が違うということだろう。


「レックス様は昔からこの森に住んでいるのです。私達エリリクの民は何代も前からレックス様と交流があり、父親を早くに亡くしたアイシャにとってレックス様は父親のような存在なのです」

「ちょ、ちょっと余計なこと言わないでよママ!」


 オレはその言葉にアイシャがやたら突っかかる理由に気づいた。

 オレはからかうようにアイシャに話しかける。


「つまり、パパと戦ったオレが憎たらしかったというわけか、アイシャは。可愛いところがあるじゃないか」

「うっさい! 死ね!」


 からかったらきつい言葉が帰ってきた。

 美少女に死ねと言われるのはなかなか堪えるのでこのことでアイシャをからかわないようにしようと誓う。


「子供ですね~、どっちも」

「いや、さりげなく野菜をこっちの皿に入れようとするな」


 セフィーが嫌いな野菜をオレの皿に放り込もうとする。

 お前も子供だろ、とオレは思った。




 ◆




 昼食を食べ終わった後、オレはこの村はこの国のどこのあたりなのかアリーサさんに聞いてみた。


「私達は国とは関係ない少数部族なので王都の位置は分かりませんが、レックス様なら知っているのではないでしょうか」


 どうやら知らないらしい。

 仕方ない。

 次にこの村に来た時にレックスに聞くか。

 オレはアリーサさんに礼を言って外に出る。

 外には木で作られた家がいくつか建ってある。

 数はマールタ村よりかなり少ない。

 本当に少数民族みたいだ。


 周りの人を見てみるとみんな耳が尖っている。

 全員エルフだ。

 1人のエルフの男が近寄ってくる。


「あんた、アリーサさんのとこに居候してるナチュだろ?」


 ナチュとはナチュラルの略称だろうか?

 オレはその言葉に頷く。


「なら、今から人を集めて狩りに行くんだが一緒に来ないか? レックス様と戦ったんだろ? 多少は武器の心得あるんなら狩りの手伝いをしてくれ」


 オレはそれに頷く。

 しかし、意識が回復してから武器を探していないことに気づく。


「セフィーに荷物や武器は回収してあるか聞かないと」


 オレは肝心なことを忘れていたことに気づき、急いでアリーサさんの家にいるセフィーの元に向かった。

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