賢者~半裸の男~
「あ~、腹減ったぁ~」
「喋ってないで足を動かしてください。私だって何も食べないのは辛いのですから」
オレ達は森の中をひたすら歩く。
村を出た日からもう1週間だ。
最初は道を沿っていけばどこかの村に着くかと思っていたが、一向に人里がいる場所に辿り着けず、いつの間にか道は森の中に繋がっており、道も途中で切れた。
つまり現在森の中で迷っているのである。
保存していた肉が尽きてもう2日。
幸い水はセフィーが魔法で出してくれるので問題ない。
しかし問題は食料なのである。
獣を狩ろうにも一向に見当たらなく、仕方なく草や虫を食料にしている状態だ。
とても、元現代人のオレには耐えられない。
セフィーも食べなくても問題ないとはいえ、何も食べないという状態は辛いのだろう。
この2日は元気がない。
今は国のどこにいるのかも分からないが歩き続けて流石に疲れている。
正直体力の限界だ。
その時遠くで煙が上がっているのが見える
「うん? 向こうの方に煙が上がってる」
「え? あ、本当ですね。火事ではなさそうですが......」
「誰がいるのかも。もしかしたらここが何処なのか分かるかもしれないし、行ってみようぜ」
オレはセフィーを抱え、余った体力で森を走り抜ける。
煙が上がっていた場所はスペースが広く、野宿には最適の場所だった。
「誰もいないみたいだな......それにしても」
オレの目の前には現在も火で炙られている、猪らしき獣の丸焼きがあった。
オレはその匂いを嗅いで思わず、腹が鳴り息が荒くなる。
「誰かいませんかー?」
セフィーが人を探す。
オレはゆっくり猪の丸焼きに近づく。
「ちょ、ちょっと! なにするつもりですか!」
「誰もいないみたいだし、ちょっとくらいつまんでも」
「駄目ですよ! 泥棒じゃないですか!」
「ちょっとだけだって! 誰か帰ってきたらお金を渡すさ!」
オレは両親から渡されたお金をセフィーに見せる。
こちらの世界の通貨は価値が低い順に銅貨、銀貨、金貨とある。
銅貨10枚で銀貨1枚、銀貨10枚で金貨1枚と同等の価値があるようだ。
銅貨は100円、銀貨は1000円、金貨は10000円という感じで覚えてる。
ちなみに今のオレの所持金は、両親がありったけ持たせてくれたので金貨10枚ある。
これだけあれば多少の問題も大丈夫だろう。
「そういうことだ。早速食べよう! いただきまーす!」
「はぁ、本当に大丈夫なんでしょうか?」
◆
10分後。
オレは猪の丸焼きを半分食べて満腹になった。
「誰も帰ってこなかったな。荷物もないし、ここから出ていったのかもな」
「出ていったら焼いてなんていないでしょう。帰ってきたらまずは謝るのですよ? 勝手に人の物を食べたのですから」
「大丈夫だよ。穏便に済ませるようにするさ」
そんな話をしていると、オレ達が来た方向とは反対方向から誰かがやってくる。
そこに現れたのは上半身裸で、下は獣の皮を巻いた原始人みたいな人物だった。
「(でけぇ! オレより二回りでかいぞ! 身長は2メートルあるんじゃねえの......?)」
オレはその男の大きさに驚く。
男が口を開く。
「お主達か? 供物を食ったのは?」
「供物......? あ、あの丸焼きのことですか? ごめんなさい! オレが食いました! お金なら払いますので──」
「お主、下界の金ごときで私に許しを乞うつもりか?」
半裸の男の声は怒りで震えていた。
オレは直感的に不味いと思い、木剣を掴む。
「神聖な供物を食した時点で許す気はなかったが、今の言葉で完全に私を怒らせたな。死ね」
男はその言葉を終えるやいなや、こちらに殴りかかってきた。
オレは木剣でその拳を防いだ。
しかし木剣はその拳を受け止めきれず破壊される。
「な!?」
オレは強化されている木剣が破壊されたことに驚く。
男の拳は勢いは落ちたがそれでもオレを殴り飛ばす威力はあった。
「悠斗!」
セフィーの心配する声が聞こえる。
「ぐっ!」
殴られた痛みに耐えて、オレは倒れずに踏み止まる。
「苦痛を与えず一撃で殺してやろうと慈悲を与えたのだが、生き延びたか」
オレはこの男はやばいと考え、剣を抜く。
「ほう、武器を扱うか。では戦士ならせめて戦士らしく殺してやろう」
半裸の男はどこから取り出しのか、巨大な薙刀を持っていた。
「待ってくれ! あんたの供物を食べたのは本当に悪いと思ってる! だから気を沈めてくれ!」
「問答無用!」
男が薙刀を振り下ろしてくる。
オレは横に飛び回避する。
薙刀が地面にぶつかり、爆発したように砂塵が舞う。
その威力に冷や汗が流れる。
「話を聞いてくれないなら仕方ない......! 少し痛い目を見てもらう!」
オレは剣を構える。
「ふん!」
薙刀を再度振るってくる。
薙刀の威力は半端ではないが、あれだけの長物だ。
剣の間合いにさえ入ればこちらが有利!
オレは覚悟を決めて薙刀の動きをよく見る。
半裸の男は薙刀でこちらを真っ二つにするために振り下ろそうとしていた。
振り下ろすタイミングをよく見極め、オレは横にステップして、その一撃を避ける。
貰った!
オレは勝ったと思った。
しかし、突如嫌な予感が頭をよぎる。
「甘いわあああああああああああ!!」
半裸の男は振り下ろしたはずの薙刀を、オレが懐に入るより速く方向を変え、切っ先をこちらに向けて振る。
オレは咄嗟に剣でガードしたが剣は弾かれ、オレの胸を切り裂いた──。
「ガッッッ────!?」
オレは胸に大きな傷みを感じ、倒れる。
なんとか意識を保っているが、かなり深手なようだ。
剣で防がなかったら確実に即死だった。
男が近づき語りかけてくる。
「才能は感じたがまだまだ修練不足だったな。では、さらばだ」
男が薙刀を振り上げる。
「待ちなさい!」
セフィーがオレの前に立ち、両手を広げてオレを守る。
「に、逃げろ......!」
「嫌です! あなたを置いて逃げるなんてできません!」
セフィーはオレの言葉を聞かず、半裸の男を睨みつける。
「小娘、お主も死にたいのか?」
「私は死ぬつもりはありません。私を殺したらあなたは一生後悔しますよ?」
半裸の男は怪訝な顔をする。
「何を言っている? 何故小娘1人殺したくらいで私が後悔するのだ?」
「私はあなた達、僧侶が信仰している神だからです。私を殺すとあなたは一生の罪を背負うことになりますよ」
僧侶?
この半裸の男は僧侶だったのか。
いや、それよりセフィーのこの言葉はハッタリなのだろう。
足が震えている。
セフィーも怖いのだ。
守ってやりたいが、痛みで意識が飛ぶのを耐えるので必死だ。
「神だと? ......いや、ちょっと待て。その顔には見覚えがある。お主、名は?」
「私の名はセフィリアです」
男が考え込む。
「お主がセフィリアだと? ......そういうことか。ならば、その小僧が予言の器か」
なんだ?
何を言っているんだ?
「気が変わった。供物のことは許してやる」
向こうは勝手に納得していた。
半裸の男が持っていた薙刀が消える。
事情は全く分からないが助かったようだ。
「くっ!」
オレは痛みで呻く。
やばい、意識が飛ぶ。
「! 今、回復魔法をかけてあげますから......!」
「私も手伝ってやろう。ここで死なれても困る」
もう男に攻撃されることもないと安心して耐えていた意識を手放し眠る。




