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昭和の思い出話

昭和の終わり頃の思い出を語る

作者: メイビ

秋冬温まる話企画参加作品です。



 高校を卒業して二年半たった秋の日、女子高時代の友人から電話がかかって来た。


 この時代の電話とは固定電話を指す。一部の営業職のオジサン達がポケベルを持ち始めた、くらいの時代だった様に思う。


「お久~、元気~?」


 たかちゃんの明るい声が受話器の向こうから突き抜けて来た。


「お久って、この間カラオケ行ったばかりじゃん。どした?」


 世の中、カラオケボックスや若者向けの居酒屋が流行っていた様に思う。うん、この手のお店のTVCMも結構やってたな。その手のコマーシャル、今ではすっかり見かけなくなってしまった。(TVを見てるより、ネットを眺めてる時間の方が長くなったせいかもしれないけど)


「大晦日から元旦にかけて、初詣に行こうって話が出てるんだけど」


「おっ、良いねぇ! 誰が来るの?」


「えーとね、まっつぃと、うーにゃんと、ミヨと、つーみーとクラ、それからきーみゃでしょ、やままとカミ……」


「待て待て待て、えっ? 何人?」


「ここにビービと私で十人」


「ほぇっ! 十人!? ……で、何処いくの?」


 ビービとは私のアダ名だ。とあるアニキャラに私が似ているらしく、そのキャラ名をもじったものであった。


「明治神宮」


「……遠くね?」


 私達は関東の東側に住んでいた。電話の相手のたかちゃんとは高校に入ってから知り合ったけど、同じ市内に住んでいた。


「どうやって集まるの?」


「つーみーとクラはSのコンサートが終わってから合流だから、他の皆で原宿駅まで一緒に行こうよ」


 この頃、毎年Sというバンドが年越しライブをしていた。場所までは覚えて無いけど……。


「私、電車疎いんだけど」


「私もだよ。まー、何とかなるっしょ!?」


 携帯電話がでかくてお高い時代である。スマホなんぞ勿論無い。駅でくれる路線図と時刻表を誰もが財布に入れていたと思う。……つまり世間知らずの小娘達には、この初詣はちょっとした冒険を意味する。私は不安と期待に胸を踊らせた。


 不安なのは外出することだけでは無かった。うちの父は昔気質な考えの持ち主で、若い娘が夜フラフラと外を出回るのを良しとしなかった。それが例えバイトであろうとも。


 なので、このビッグイベントにどう親を説得するか、それが第一の関門だった。


 ある日の夕飯のとき、父の機嫌を伺いながら話してみた。


「今年の初詣は大晦日の夜から友達と明治神宮に行く」


「そうか」


 ……あれ? 思ったより簡単だったぞ。


「帰りは元旦の朝になる」


「分かった」


 ……。拍子抜けしたのを覚えている。恐かった父からすんなりオーケーが出たのが不思議だった。今にしたら、二十歳になったから多少は認めてくれたのかもしれない。このときは不気味に思ったけど。


 思い起こせばこの頃の東京はイメージが悪かった。女の子一人で夜出歩いていたら恐ろしい目に合わされる、という様な話を学校の先生方もよく話されていたものだ。(そういう目に合わない為にキチンとした服装をして毅然としていなさい。むやみやたらと知らない人の甘い言葉に乗らない様に……、という話をする先生が多かった。女性が悲しい目に合うのは隙を与えてる女性側が悪い、とされていた時代だった。今では考えられない事だろうと思う)




 当日夜十時半頃だったかな、最寄り駅の伝言板前でたかちゃんと落ち合った。伝言板……、スマホが世の中に浸透してからというもの、どこの駅からも撤去されてしまった様だ。昔は待ち合わせというものに欠かせない物であった。駅に着いてから何か用事が出来てしまって、相手に会う前に用事を済ませなくてはならないとき等に伝言板に書いておくのだ。すると後から来た相手に書いた人の事情が分かる、というもの。あるアニメ化された漫画を真似て、メッセージを書いて遊ぶこともあった(ちゃんと消しましたけどね)。


 そんな時間から出かけたことの無かった私は、テンションがおかしかったと思う。


「紅白見た?」


 彼女に訊かれた。無論紅白歌合戦のことである。近年視聴率が低迷しているらしいが、この時代は誰もが見ていたのではなかろうか。


「見た見た、T、格好良かったーーっ」


 彼女と私はTというバンドのファンで、一緒にコンサートに行く仲だ(勿論コンサートに行くのは、父に嫌味をさんざん言われながらである)。私のヘッドフォンステレオからイヤホンの片方を彼女に渡し、二人でTを聴きながら話をした。


「後は? 何処で待ち合わせてるの?」


「A駅でうーにゃん、B駅でミヨが乗って来る。最後尾の車両に来てって言っておいた」


「えっ、大丈夫なの、それ」


「大丈夫っしょ、この時間のダイヤ、そんなに多くないもん」


 何度も言うがスマホの無い時代である。待ち合わせとはそんな感じであった。よくすれ違わずにすんだものだ。


 最後尾の車両に乗り込んだ。列車が発車し、見慣れた駅前の景色がゆっくりと遠ざかる。私は電車で出かけると、自分が出かけるのに生まれ育った町に置いて行かれる様な気分になる。少し寂しい様な、物悲しい様な気分だ。……実は電車では未だにこの気持ちになる。もうとっくに大人なんだけどね。


 都会へ向かう電車は、そんな時間だというのに意外と混んでいた様な気がする。……いや正確には覚えていないな、流石に。


 たかちゃんの言った駅で、うーにゃんとミヨが其々合流して来た。互いの近況報告的な話を延々としていた。


 途中で乗り換えがあり、更に友人達と合流する。全員としょっちゅう会ってた訳では無かったので、制服姿では無いお化粧を覚えた綺麗な笑顔が、女同士だけどくすぐったかった。


「おーーっ、久し振りぃーー!」


 興奮して叫ぶ。……人が多くて、大きな声じゃないと聞こえないのもあるけど。 


「元気だったあ?」、「今、何してんの?」、「やーーっ、懐かしーーいっ!」等の声が飛び交う。あの夜、あの場に居合わせた皆様、煩くてごめんなさいっ。

 

 そこから原宿駅へ向かった。電車はどんどん混み合って行ったが、私達のおしゃべりは遠慮がちではあるが、止むことは無かった。

 

 原宿駅に着くと見渡す限り、人、人、人……であった。電車も混んでいたが、ホームもすし詰め状態だったのだ。


 ……それでも続くおしゃべり。……良くあんなに話すことがあったなぁ、あの頃。


 まだ切符を駅員さんに渡すシステムの頃だったんじゃないかな。人波に押されながらチマチマ歩き、改札を抜けた。


 私はあまり都内へ遊びに行くことが無かったので、原宿駅はこっそりとドキドキしていた。


 Sのコンサートへ行ってた二人と合流し、やっと明治神宮へ向かう。ここでも「久し振りぃーー!」、「元気ぃーー?」の会話は勿論繰り広げられた。


 ホームでのすし詰め状態は、そのまま明治神宮へと続いていった。十人で固まっていては進めない。二・三人ずつに別れて、いや押し流されて離されながら進んだ。


 ときどき皆の位置を確認すると、一ヶ所人混みの少ない場所が目に入って来た。その中心にいた人物達は、パンクロックの服装をしていた。そこだけ強烈な印象でよく覚えている。パンクロックな服装というのは、黒革にシルバーのトゲがたくさん付いている服を来ていて、髪の毛をカチカチに固めあちこちの方向に尖らせている人が主流であった。アクセサリーもシルバーのネックレスとか、シルバーのドクロや蛇を模した指環をしていたように思う。


「あの人達のすぐ後ろに行こうよ。空いてて歩き易そう」と、誰か言った様な、言わなかった様な。「えーっ? 恐くない? 」と、話した様な、話さなかった様な。


 途中に広場があり、甘酒や他にもいろいろ売られていた。立ち寄ることにする。寒さと緊張で、ガチガチの体と心がほっこりとした。それまで甘酒は好きでは無かった。甘酒の美味しさに気付いた瞬間だった。


 それからまた人波に戻りチマチマと神社に向かった。やっとこさお(まい)りを済ませ、矢印の順路に従い神社を後にした。


「これからどーするー?」、「まだ電車動いて無いよねー」、「取りあえず歩こう」そんな会話を交わした。


 原宿方面に詳しい子がいて先頭になって貰い十人で町を闊歩した。やっと手足を伸ばして歩けたのだった。それにチマチマ歩いていたら凍えてしまう。空気はキンと冷えていたが、心はホカホカしていた。


 途中、磯辺巻きを売ってるおじさんがいた。一つ二百円だったかな。今にしてみれば「高いっ!」と思うが、寒かったので買って食べた。温かくて柔らかかった。お醤油の香ばしさが口に広がり、お腹も満たされた。が、一度体が冷えていることに気づくと寒くてたまらない。自動販売機で缶コーヒーを買った。


 それからオールナイトでやってる映画館を見つけ、入ることにした。上映されていたのは『3人のゴースト』という映画だった。小説『クリスマス・キャロル』の設定を当時のニューヨークでの現代版として作られた映画で、主演は『ゴーストバスターズ』の博士役を演じた俳優さんだった。


 映画館は空いていて、殆ど貸切状態だった。席に着くなり寝始める友人達……。私も眠かったけどお金が勿体無いので頑張って見ていた。とても良い映画だったが、一番話が盛り上がるところ辺りで気付けば眠っていたのだった。エンディングロールで目覚め、非常に悔しい思いをした。


 さて、映画が終わってもまだまだ始発の時間では無かった。館内の入り口に戻ると見取り図があった。するとボーリング場があることが示されていた。


「ボーリングやろうよ!」、「マジか!」、「まだ眠いよー」、「やりたい子だけやれば良いんじゃない?」、「そだね、どうせ電車無いから帰れないし」、ってな話でボーリングとは名ばかりのガーター掃除をした。……三ゲームも。眠くて眠くてヘロヘロだった。バカみたいにずっと、ずっと笑ってた。甘酒一杯しか飲んで無いのに全員酔っ払いみたいだった。


 ボーリングを終えて建物を出ると、日が昇っていた。皆で「あけましておめでとうございます」を言い合う。朝の冷たい澄んだ空気の中、駅へ向かって歩いた。


 一人ずつ、それぞれの家の方向に向かう電車へ乗り換えの為に降りていった。


「また会おうね」、「バイバーイ」、「来年、っていうか今年の大晦日にまた来ようよ」、呪文の様に繰り返される言葉。「そだねー」、「また連絡するよ」、「面白かったね」、「今度は旅行に行こうよ」、&etc。


 自宅には午前八時頃に着いた様に思う。そこから爆睡したと言いたいが、我が家は日曜でも家族揃って八時に朝ご飯を食べる家庭だった。お正月だけは十時頃だったけど。なので、一時間くらいだけ集中して寝たのだった。


 


 ちなみに、この年のゴールデンウィークに、このときのメンバー+αの更に膨れた人数で旅行に行ったという……。でも、初詣は一度きりで終わっちゃったな。


 皆様も今年の大晦日、友人達と初詣に行かれてはいかがです? テンションおかしくなりますよ。……私? 体力的にもう無理です! (笑)




『秋冬温まる話企画』参加作品の冬ばーじょん! です。

って、思い出話ですけど。


フィクションとノンフィクションが混ざってます。

年代的に、うろ覚えな部分があるんです。


私と近い年齢の方には懐かしくて楽しめる話だと思うのですが、お若い方にはつまらなかったかもしれませんね。



『秋冬温まる話企画』と検索して頂けますと、他ユーザー様の作品が読めますので是非読んでみて下さい。よろしくお願い致します。m(_ _)m

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― 新着の感想 ―
[良い点] ふと日曜日の仕事のまどろみの中、読ませていただきました。 ああ、と。自分の青春時代と重ね合わせつつ懐かしく思いました。初詣って夜中に出かけられる口実だったし、夜の街とはこういうものなんだ…
[一言] 昭和末期~平成初期ってとこでしょうか、懐かしいものです。 今と比較するといろいろ不便な面もあるけど、機械ではなく人を介してのやり取りが普通だったので、人の温かさがあったのかもしれません。あの…
[良い点] 時代を感じるいい作品でした 私は平成生まれなので昭和のことは分からないのですが周りの人は楽しそうに昔の話をします 今には今の、昔には昔の良さがあるもんだなと実感しました 初詣、そういえば…
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