寿三の年越しアドベンチャー ~プロローグ~
テレビの前でみかんを貪りながら、リアルタイムで紅白と年末恒例のお笑い番組を行き来する。そう、大晦日である。
今年は何をしただろうかと一年を振り返りつつ、ドラマで有名になったダンスを踊っている画面の向こうのタレントたちを眺めた。
今年は色々なことがあった。味噌汁作りには失敗し、孫に各国の宗教について語って聞かせ、富山さんからは増えすぎた猫を二匹も貰ってしまった。孫は大喜び、娘夫婦は子供じゃないんだからと呆れていた。名前はネコ太郎と林檎である。我ながらよい名前を付けたと思う。
懐かしく一年を振り返っていると、テレビではもうカウントダウンが始まっていた。
もうそんな時間か。思い出の中から意識を戻し、画面を見つめる。
――五、四、三、二、一……!
わっと盛り上がると思っていたテレビが沈黙した。
おかしいと思って横を見ると、一緒にテレビを見ていたはずの孫たちの姿がどこにもない。
嘘だろう、そんなはずはない。
確かにここには娘の旦那の膝に乗った孫がいた。そして娘もその隣で一緒に年明けを楽しみにしていたのだ。
そう、楽しみに家族で待っていたはずなのだ。それなのに周りにはその家族はおろか、家具も壁も、何もない。真っ白な世界が広がっているだけである。
そして、その不可思議な空間には、一つだけ色彩を持った物体が鎮座していた。
それを視認した寿三は、思わず身構える。
――あれは最凶の兵器、一度入ったら二度と出られなくなるという――
その威力を寿三は嫌というほど知っている。何度そこで寝落ちして妻や娘の雷を喰らったことか。
真っ白な空間はとても寒いというほどではないが暖かいというわけでもない、いわばとても微妙な温度であった。
あれに入ってしまいたい、あれに入れば楽になれる――
寿三の頭の中は、その思いで満ちていた。いや、満たされたのである。
意図はわからないが、何者かが寿三をそこに入れたいことは明白であった。
寿三はどうなってしまうのか。とぅーびーこんてぃにゅー。
なんかもういろいろごめんなさい。適当すぎィ。