悪夢
目覚めると、祭壇の前だった。
ロウソクが、風もないのに揺れている。
その数は……42本。3人で分ければ14日の命だ。その日数が短いのか長いのかも分からない。
いつものように、成宮さんとアルコが待機している。
僕が到着すると、祭壇の上に座していた案内人が声を投げかけてくる。
「新しい悪夢の始まりだ。覚悟はできているか?」
「覚悟もクソもあるかよ。こっちは必死こいて抗うだけだっての」
「その心意気やよし。せっかく祝福を授けたんだ。無様に死ぬなよ?」
僕らの憮然とした表情を満足気に眺めた後、案内人の手元が光ったかと思うと、視界が歪み、僕らは悪夢へと飛ばされた。
※
──森だった。
目の前に広がるのは、屹立した樹木が生い茂る、紛うこと無き森。
これまでのダンジョンや洞窟と違い、風が吹付け、湿気を含んだ土の匂いが鼻腔をくすぐる。
そして、夜だった。
頭上高く立ち並ぶ樹木は空を覆い隠していたけど、隙間から漏れる月明かりがかろうじて周囲の様子を映し出していた。
長き月日を感じさせる年老いて肥え太った樹木の太さ。僕ら3人が手をつなぎ合って、それでもようやく一周できるかというほどの木々が乱立し、天然の障害物となって視界を遮っている。
僕らが目を覚ました場所はそうでもなかったけど、木々の隙間には腰よりも高く育った得体のしれぬ雑草が行く手を塞いでいた。
「日本……じゃねえよな」
「どうかしら。都内在住の身からは判別できないけど、日本にだってこれくらいの森は存在するかもしれない」
「今までの場所が場所だけに、地球上のどこかというのも怪しいけどね……」
それもそうだと3人ともに頷く。
よく見ると、目覚めた場所だけ拓けているのは偶然ではないようだ。
バリケードのように乱立した木々と草むらの中に、一筋の獣道が伸びている。
「道なりに進むべきかしら……」
「この草と木の中じゃ、すぐに道に迷っちまうぜ。何より、オマエらの格好じゃ、草に皮膚を裂かれちまうんじゃねーの?」
「確かに、なかなかに鋭そうな草だね……成宮さん、まだ何もかもが不明だし、ひとまずは道なりに進んでみない」
「異論はないわ。注意して進みましょう。ありがたいことに、月明かりが照らしてくれているしね」
細い獣道を、僕、アルコ、成宮さんの順で進む。
湿った土を踏む感触が伝わってくる。ダンジョンや洞窟の床とは異なる柔らかさは、足元が不確かな不安を感じさせた。
木々の影から見知らぬ獣が飛び出さないかと怯えつつ、しばらく進むと、拓けた場所にたどり着いた。
「これは……」
月明かりに照らされた、少女の石像がこちらを見ていた。




