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成宮さんの部屋でお茶とせんべいと漬物を食べる。
ぽりぽり。
きゅうりを噛み砕くと、じんわりと塩気のある水分が口の中に広がる。
おいしい。ごはんが欲しくなる。
「祝福って言ってもさあ……むしろ呪いだっての」
「言い得て妙ね。私たちが受けて受難は呪いと呼ぶのが相応しいわ」
呪い……か。
この悪夢の原因が呪いだとしたら、僕らのうちの誰かが、あるいは全員が過去に何らかの悪行を積んだのか。見知らぬ誰かの恨みを買うようなマネをしたのだろうか。
「ヒカリの家にさ、井戸ってないか?」
「よく知ってるわね。あるわよ、井戸。もう干上がってて水は汲めないけど……」
「それだ。死体が眠ってるんだよ。そんで、助けてくれって訴えかけてるんだ。あんまり気が付かないもんだから、業を煮やして悪霊になっちまったんだな。なんだよー、とばっちりかよー」
「あのね。非科学的なこと、言わないで」
「えー、今の状況がすでに非科学的だろー。そもそも三人ともが同じ夢を見続けてるなんてオカルトだぜ」
「ありえないわ」
「とはいえ、原因はあると考えたほうが気は楽かもね。このまま案内人の言うことを聞きつけても終わりがないかもしれない」
「そうだよ、アイツなんにも案内人しないし、完全に詐欺師だよ。アタシたちは集団で騙されてるってわけだ」
グチグチとアルコの呪詛の言葉が続く。
それこそ、誰かを呪っているかの如くだ。
無理はない。
命を賭して黒竜を倒したにも関わらず、案内人からは祝福を授けられただけだったのだから。
祝福を与えるということは、悪夢の継続と同じ、これからも辛い日々が続くことを意味する。
「祝福、僕が受け取ってよかったのかな?」
「次の悪夢がどういうものか予測できないし……これまでの経験から、戦闘では剣による攻撃が基本的には有効だから、心力を消費せずとも戦えるあなたに授けるのがベターだと思う」
「盾で守ってもらえるしな」
「心得た。拙者の盾でお守り申す」
「なんだそりゃ」
強敵との戦いは望まないけど……せっかく授かった祝福だ、できるだけ効率的に鍛えよう。
「と、こうやってヒカリのうちでダベってるけどよ、特に対策っつーか作戦ってないよな?」
「残念ながら」
「集まる意味ってあったのか?」
「皆の顔を見て無事を確認できたわ。それに……」
「それに?」
「おばあちゃんが、また連れてきなさいって言ってて。お漬物、若い人に振る舞いたかったらしいの」
「なるほどな。美味しく頂いてますよ、ほれこの通り」
僕とアルコとでぱくぱく食べ進めたせいで、漬物の皿は空になっていた。
「あら、ほんと。おかわり、いる?」
僕とアルコが同時に手を挙げる。
「ふふ。おばあちゃん、喜ぶわ。待ってて、取りに行ってくる。あ、お茶のおかわりも」
成宮さんが席を立ち、アルコと二人、部屋に残される。
「……よくできた娘さんですなあ」
「成宮さんのこと?」
「他に誰かいるよ。アタシとは雲泥の差。作戦立案適切な判断なんでもござれだ。おまけに顔もスタイルもいい。完璧ってやつだね」
「アルコは違う?」
「違うさ。スクールカーストに敗北して、今じゃ立派な引きこもり、社会ヒエラルキーの底辺だね」
成宮さんが去った扉を睨みつけながら、憎々しげに呟き続ける。
「でも、僕らにとってかけがえのない存在だ」
驚いたように振り返る。
「……そう思うか?」
「思うよ。かけがえのない仲間だ」
「……仲間」
「バウニャンの時、励ましてもらったよね。僕ら三人でなきゃ、この苦難は乗り越えられ――いてっ」
スコッと頭に衝撃。
アルコのチョップだ。
「分かってるよ、アタシが言った言葉だ。ったく、逆に励まされるとはな」
言葉とは裏腹に、アルコは元通り。いつものように何かを企んでいるかのような笑顔を浮かべていた。
※
成宮さんのおばあさんからお土産の漬物までもらって、僕は帰宅した。
夕飯の食卓には小皿に漬物が並べられ、家族全員がその美味しさに舌鼓を打った。
母親はしきりに成宮さんの家に電話をかけたがったけど、僕の出入りが向こうの家族に伝わるのはまずいと止めさせた。
「いつまでも内緒にってわけにも行かないわよ。節度を保ったお付き合いをしてね」
なにを勘違いしてるんだか。
風呂に入り、少し漫画を読んで、全く楽しめないことに気がついて、そのままベッドに横になる。




