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悪夢の塔  作者: 相沢メタル
第二章
97/154

57

 夕飯の唐揚げとコロッケの組み合わせという胸焼けまっしぐらなメニューをぺろりと平らげ、気まぐれで唐揚げなんてもの買ってきてこっぴどく母親から叱られた父親を驚かせ、シャワーを浴びて髪を乾かしベッドに潜り込んだ。

 チャットで成宮さんとアルコと少しだけやりとりする。多くは語らず、互いの覚悟を確認。その後は目をつむり、できるだけ何も考えないようにして、そのうち眠りにつく。


 石の祭壇。

 二人が待っている。

 ロウソクは12本。残る命は4日しかない。

 案内人は何も言わない。祝福はないようだ。

 世界が歪み、悪夢の世界へ。


 バウニャンの息遣いが聞こえる。

 それと、湿った空気。

 二人が起き上がる気配。


「行こう」


 赤い扉を開け、滝の注ぎ落ちる広間へ。

 恐れず中央へ歩を進める。

 地響き。黒竜が足場を破壊する音。

 鳴り止む。

 水際へ。ただし、水鉄砲に注意しながら。

 激しい水音。黒竜が飛び出してくる。

 陸の中央に降り立つ。

 唸りながら、こちらを睨みつけてくる。


「ごめん。ちょっと試させてもらうわね。私を信じて、必死に逃げて」


 成宮さんがが矢を放つ。

 効果はない。けど、目元を狙う。目を突き刺すことはできなかった。

 黒竜は苛立ち、成宮さんをターゲットにしたのか首を向ける。

 そして、突進。

 散開して、避ける。

 さらに突進。逃げ回る。

 アルコが疲れたのか、逃げる速度が遅くなる。

 黒竜のターゲットがアルコへ――変わる前に、再び成宮さんの弓矢。

 黒竜の突進。

 成宮さんがすんでのところで避ける。


「グルァッ!」


 連続攻撃。

 尻尾が頭上から襲いかかる。

 成宮さんは必死に避ける。

 駆けつけようとするものの、成宮さんが手で制する。

 なぜ?

 尻尾と、黒竜の爪による波状攻撃。

 防戦一方だ。

 爪が触れたのか、成宮さんの太ももから流血。膝をつく。

 そこに尻尾が。

 成宮さんが側転する。

 間に合わない。胴体を貫通――

 前回の死のイメージがフラッシュバックする。

 怒りが、目の前が真っ白に――いや、これは、緑の光が。


「この光が、それってわけか」


 いつの間にか隣にいたアルコが物珍しそうに僕を見ている。


「そんな場合か! 成宮さんが……!」


 殺され――アルコの表情がおかしいことに気がつく。にやにやしている。意地の悪いあの表情。もしかして。

 成宮さんを見る。

 串刺しにされたはずが、立ち上がっている。

 無傷ではない。けど、致命傷ではなかったようだ。


「ヒカリなら、集中してりゃあれくらいの攻撃は避けられるさ。ゴブリンとの戦い、見てただろ?」

「そうだけど……なんでわざと身を危険に晒すような――」


 気がついた。この光のためか。

 アルコの笑みが深まる。


「悪いな。オマエと駅で別れたあと、ヒカリと作戦立てたんだ。人形の力を引き出すにはどうすりゃいいかってな」

「それが、殺されたフリ?」

「命がけだけどな。リアルじゃないと、引き出せないかもしれないだろ? 騙すような真似して悪かったよ」

「いいよ。無事なら」


 怒りは去ったものの、光は迸ったままだ。力が湧いてくるのも、前回と同じように感じる。


「成功したみたいね!」


 成宮さんがこちらに駆けてくる。

 黒竜が、後を追ってくる。


「二人共、僕の後ろへ!」


 盾を構え、突進に備える。

 ガツン!

 凄まじい衝撃。足を踏ん張り、耐える。

 尻尾による追撃。前回の二の舞にはならない。

 剣でいなす。

 切り落とすのには失敗したけど、深く傷を負わせる。

 黒竜が怒りの咆哮。


「こっちだって、トサカにきてんだぜ!」


 アルコの杖先から炎が吹き出す。

 圧倒的な熱量が、黒竜を包み込む。

 尻尾の痛みにより、今回は半身を避けるに失敗し、黒竜はたっぷりと焼かれるはめになる。

 炎が収まった後、黒竜は赤白く発光していた。


「今だ!」


 接近。

 黒竜は動けない。

 剣を叩きつける。

 緑の光の力をも合わさり、黒竜の右半身からウロコを根こそぎ打ち剥がす。

 皮膚を裂かれる痛みに黒竜が叫ぶ。

 爪による攻撃を前転で避け反対側へ。

 今度は左半身のウロコを破壊する。

 これでウロコは破壊した。

 再び咆哮。

 見れば、胴体に矢が刺さっている。

 成宮さんの矢だ。ウロコが剥がれたことで、貫けるようになったらしい。

 黒竜の体からはウロコが剥がれ、虹色の皮膚が露呈している。

 矢が刺さった箇所からは紫色の血が流れている。

 いける。

 そう思った時、黒竜の尻尾が迫る。

 咄嗟のことに盾で防ぐ。

 その隙に、黒竜が水中へと逃げ出す。


「くそっ! もう少しだったのによ!」

「水鉄砲が来る! 盾の後ろへ!」

「了解! 私たちは周囲を見るわ」


 盾を構える。

 静寂。二人が緊張しているのが分かる。

 水音。黒竜が顔を出す。

 そして、攻撃。

 ばしゅうっ。

 盾で防ぐ。弾かれない。

 ばしゅうっ。ばしゅうっ。

 何度も、様々な方向から水撃される。

 やられはしない。けど、膠着状態だ。


「光が……!」


 アルコの悲鳴が聞こえる。

 見ると、全身を覆う緑の光が弱まっていた。

 心なしか全身がだるい。


「もしかして……この力、心力を消費したんじゃ」


 成宮さんの推測は当たっていそうだった。

 頭がぼうっとする。

 瓶の水を飲むか?

 いや、アルコはファイアストームを撃っている。見ろ、今も苦しそうにしてるじゃないか。便の水はアルコに使うべきだ。


「アルコ……」

「こいつは、オマエが使うべきだ」


 ぐい、と瓶を手渡される。

 アルコの顔色は悪い。けど、目の奥は意志の炎が燃えていた。

 瓶を受け取ろうとする。

 水撃。盾を構えて防ぐ。

 くそ、隙がない。

 ひゅっ、耳元で風を切る音。

 成宮さんの矢。

 けど、黒竜に大したダメージが与えられるとも――直後、黒竜の叫び声。

 見れば、矢は黒竜の喉に突き刺さっていた。


「ナメクジの応用よ。どんな生き物でも、体の中は弱いもの。ご丁寧に、大口開けてくれてるし」


 怒り狂った黒竜が陸に上がってくる。

 突進、盾を構える――


「ダメ! 光が!」


 失敗した。

 光が、今この瞬間消え失せた。

 頭が痛む。

 黒竜が接近するのに、体に力が入らない。

 やられる?


「うわあああっ、ファイアストーム!」


 アルコが魔法を唱え、杖から炎が吹き出す。

 生身を晒した黒竜が、炎に包まれて絶叫する。

 必死に瓶を取り出し、水を飲む。

 体力と心力が回復する。

 僕とは反対に、アルコが崩れ落ちる。

 のたうち回る黒竜に接近、尻尾を叩き切る。

 黒竜の呪詛の叫び声。

 剣を突き刺し続ける。

 大量の血があたりに飛び散る。

 皮膚が焼け、肉が焼ける嫌な臭いを浴びせかけながら、黒竜が命を振り絞るように襲いかかってくる。

 尻尾が無くなり、むしろ身軽になったのか、これまでよりも素速く、激しい。

 盾と剣でいなすけど、反撃する隙がない。

 その時、黒竜の動きが止まる。

 そして絶叫。

 右目に、燃える矢が突き刺さっている。

 成宮さんがネックレスを付けていた。

 アルコは成宮さんの側で倒れている。

 消えていない。つまり、死んでいなかったのだ。

 体に力がみなぎる。

 これは、人形の力じゃない。

 希望の力だ。

 跳躍する。

 黒竜と目が合う。

 その眉間に、深々と、剣を突き刺した。

 目の光が失われ、倒れる。

 ついに、黒竜を倒した。

 


 へとへとになり、寝転がっている僕のもとに成宮さんとアルコがやってくる。


「やったわね」

「成宮さんとアルコのおかげだよ」

「ばーか。三人とも、だろ」

「そうだね、三人の力がなければ、勝てなかった」


 二人も寝転がる。

 滝の水音が聞こえる。

 どうやら、本当に黒竜を倒したらしい。

 安堵していると、体が光り始めた。


「これって……」

「前回の主の時とおんなじだ……」


 予想しなかったわけじゃないけど、僕と成宮さんは悲しげに目を閉じた。

 そして、目を開けると、そこは石の祭壇だった。

 案内人が言う。


「よくやったな。祝福してやろう」


 まだ、悪夢は続くようだ。

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