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悪夢の塔  作者: 相沢メタル
第二章
92/154

52

 月曜日の放課後、屋上に集合する。


「勝てなかったわね」

「うん。傷も負わせられなかった」

「アルコは……どうなったのかしら」

「分からない。でも、合体魔法らしきものは見えた」

「あれがそうだったの? 視界が明るくなったのは覚えてるんだけど、すぐに死んじゃったから」


 バウニャンに足を吹き飛ばされたあと、成宮さんも絶命していたのか。確かにあれだけの出血では……。


「アルコに連絡とれるかしら? あの後のことを知りたい」

「うん……お?」


 スマホにメッセージが届いていた。

 アルコからだ。


『どこかで集まれませんか?』


「ちょうど連絡が入ってた。どこかで集まれないかって」

「じゃあ、前回と同じファストフードの店でいいんじゃないかしら」

「了解。返信っと」


 少しして、アルコから連絡が届く。


『金欠になってきました』

『なるほど?』

『お金のかからない場所が』


 お金のかからない場所か。

 アルコの家の近くの公園がいいだろうか。


「そうね。確かに、外食が多くなりすぎてたわね。私もほしい参考書があったの思い出しちゃった」

「参考書……欲しがるものなんだ」

「んー、じゃあ、私の家はどうかしら。アルコの家からも近いから、電車賃もかからないわよ。こんなこと言ったら、アルコから怒られそうだけど。そこまでケチじゃねーよ! って」

「似てないね……アルコの口調」

「そ、そんなことねーよ!」

「やめときな。傷が深まる一方だから」

「なによその言い方。ふん、どうせ似合わないわよ」

「新鮮ではあるけどねー、照れが入ってるから似合わないのかな?」

「とにかく、私の家でいいかしら?」

「……うん」

「なによ、うつむいちゃって」

「えーと、女子の家に入るのがですね、照れくさいな、と思いまして」

「前に入ったでしょ」

「あの時はお見舞いだったから、不可抗力というか、必死だったから向こう見ずだったというか」

「ふふ、お見舞いありがとう。おばあちゃんもあなたのこと気に入ってたわよ。礼儀正しいお坊っちゃんだって」

「お坊っちゃん……」

「それじゃ、アルコに連絡おねがい」


 アルコにチャットを送ると、了解の旨が返ってきた。



 最寄り駅で合流し、成宮さんのを家に向かう。

 アルコは普段通り、ラフなパーカー姿だ。


「な、なんだこりゃあ!?」


 アルコが目をまんまるにして驚いている。

 無理もない。初めて成宮さんの家を見たら、そのスケール感に圧倒されるだろう。


「ホントに入っていいのか? ガードマンにつまみ出されないか?」

「そんな人いません。今いるのはおばあちゃんと妹だけよ」

「へー、妹いたんだ?」

「病弱で、寝込んでるんだけどね」

「わり……」

「あ、ごめんなさい。気にしないで。余計なこと言った。さ、入って」

「今日は正面でいいんだ?」

「親たちはでかけてるから。それに、アルコがいるから、隠しだてする必要もないわ」

「へー、いつも来てるんだ?」

「ちょっと前にね。特訓してもらってた」

「特訓?」


 家の門をくぐったアルコは、再び目をまんまるにして驚いている。


「はー、特訓ね! この道場なら、確かに特訓できそうだぜ」


 この道場も、初めて見た人なら驚くだろう。

 思えば、初めて訪れてから、だいぶ色々なことがあった気がする。

 でも、その思い出は辛いものが多い。

 気がつけば、悪夢が始まってから、現実の過ごし方がおろそかになっている。知らずのうちに、多くのものを失っているのかもしれない。


「早く終わらせたいわね」


 僕の気持ちを読んだのか、偶然同じ気持ちになったのか、成宮さんが呟いた。

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