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月曜日の放課後、屋上に集合する。
「勝てなかったわね」
「うん。傷も負わせられなかった」
「アルコは……どうなったのかしら」
「分からない。でも、合体魔法らしきものは見えた」
「あれがそうだったの? 視界が明るくなったのは覚えてるんだけど、すぐに死んじゃったから」
バウニャンに足を吹き飛ばされたあと、成宮さんも絶命していたのか。確かにあれだけの出血では……。
「アルコに連絡とれるかしら? あの後のことを知りたい」
「うん……お?」
スマホにメッセージが届いていた。
アルコからだ。
『どこかで集まれませんか?』
「ちょうど連絡が入ってた。どこかで集まれないかって」
「じゃあ、前回と同じファストフードの店でいいんじゃないかしら」
「了解。返信っと」
少しして、アルコから連絡が届く。
『金欠になってきました』
『なるほど?』
『お金のかからない場所が』
お金のかからない場所か。
アルコの家の近くの公園がいいだろうか。
「そうね。確かに、外食が多くなりすぎてたわね。私もほしい参考書があったの思い出しちゃった」
「参考書……欲しがるものなんだ」
「んー、じゃあ、私の家はどうかしら。アルコの家からも近いから、電車賃もかからないわよ。こんなこと言ったら、アルコから怒られそうだけど。そこまでケチじゃねーよ! って」
「似てないね……アルコの口調」
「そ、そんなことねーよ!」
「やめときな。傷が深まる一方だから」
「なによその言い方。ふん、どうせ似合わないわよ」
「新鮮ではあるけどねー、照れが入ってるから似合わないのかな?」
「とにかく、私の家でいいかしら?」
「……うん」
「なによ、うつむいちゃって」
「えーと、女子の家に入るのがですね、照れくさいな、と思いまして」
「前に入ったでしょ」
「あの時はお見舞いだったから、不可抗力というか、必死だったから向こう見ずだったというか」
「ふふ、お見舞いありがとう。おばあちゃんもあなたのこと気に入ってたわよ。礼儀正しいお坊っちゃんだって」
「お坊っちゃん……」
「それじゃ、アルコに連絡おねがい」
アルコにチャットを送ると、了解の旨が返ってきた。
※
最寄り駅で合流し、成宮さんのを家に向かう。
アルコは普段通り、ラフなパーカー姿だ。
「な、なんだこりゃあ!?」
アルコが目をまんまるにして驚いている。
無理もない。初めて成宮さんの家を見たら、そのスケール感に圧倒されるだろう。
「ホントに入っていいのか? ガードマンにつまみ出されないか?」
「そんな人いません。今いるのはおばあちゃんと妹だけよ」
「へー、妹いたんだ?」
「病弱で、寝込んでるんだけどね」
「わり……」
「あ、ごめんなさい。気にしないで。余計なこと言った。さ、入って」
「今日は正面でいいんだ?」
「親たちはでかけてるから。それに、アルコがいるから、隠しだてする必要もないわ」
「へー、いつも来てるんだ?」
「ちょっと前にね。特訓してもらってた」
「特訓?」
家の門をくぐったアルコは、再び目をまんまるにして驚いている。
「はー、特訓ね! この道場なら、確かに特訓できそうだぜ」
この道場も、初めて見た人なら驚くだろう。
思えば、初めて訪れてから、だいぶ色々なことがあった気がする。
でも、その思い出は辛いものが多い。
気がつけば、悪夢が始まってから、現実の過ごし方がおろそかになっている。知らずのうちに、多くのものを失っているのかもしれない。
「早く終わらせたいわね」
僕の気持ちを読んだのか、偶然同じ気持ちになったのか、成宮さんが呟いた。




