第9話 『僕はひとまず逃げ回る』
帰り際に降り始めた雨は、家に着く頃には本降りになっていた。
特訓の汚れと雨で冷えた体をシャワーで洗い流した後、母親の文句を聞き流しながら夕食を胃に流し込む。
ベッドにたどり着いたとき、時刻は8時5分前だった。
成宮さんはどうしているたろうか。
そんな事を考えながら横になった。
※
――ぴちゃ。
水滴がはじける音がする。
雨漏りでもしているのだろうか。
目を開ける。
薄暗い、牢屋のような部屋。
いつもの悪夢の始まりだ。
――ガチャリ。
扉が開く。
そして、鎧の男が入ってきた。
「ぐむ?」
くぐもった声から、戸惑いが伝わってくる。
想定した相手――成宮さんじゃないからだろう。
だからと言って、相手のやることが変わるわけじゃない。
ただ、順番が違うだけ。
鎧の男はゆっくりと扉の鍵を閉めると、剣をかまえてこちらに向き直った。
どこまでやれる?
特訓の成果はあるのか?
「むおん」
ずしん、と金属を軋ませながら、鎧の男が襲いかかってくる。
横に跳び、剣を避ける。
当たり損なった剣が地面にぶち当たり、火花を散らす。
「ぐ?」
鎧の男は少し不思議そうに硬直した後に、今度は横なぎに剣を払う。
それをしゃがみ込んでかわす。
少し遅れたら胴体が真っ二つになるか、首が飛んでいた。
「確かに遅いかも……!」
特訓の成果は確かに出ている。
けど、成宮さんの剣に比べ、鎧の男は動きがめちゃくちゃで、予想しづらい。
動き始めをしっかり目視しないと、軌道が分からない。
「む、ぐ、は!」
鎧の男はでたらめに剣を振り回しながらも、着実に僕を疲労させていく。
このままじゃ、殺されるのも時間の問題だ。
「ぐぬぁっ!」
鎧の男が、両腕を振り上げ剣を大きく構える。
そのまま、渾身の力で跳びかかり、一気に間合いを詰めてくる。
無我夢中で避ける。
――ずがっ!
壁が大きく削られ、破片が飛び散る。
あれを喰らっていたら今頃――そう思った時、破片が顔へ吹き飛んできた。
「うっ!?」
目が、片目が見えない!
うろたえ、顔を押さえる。
ダメだ、目に、刺さってる。
――ずしり。
金属の音。
指の隙間から覗くと、鎧の男が静かに剣を構えていた。
「ぬん」
そのまま、僕の体に叩きつけた。




